78 条件【Side.ビニール仮面】
コーヒーまみれになったキャサリンは、どれでも好きな物を上から下まで一式選ぶように言って、カウンターの奥へと消えた。
「気前がいいな!入り口の鎧にしようかな!いや、この衣も大魔道士みたいで惹かれるなぁ。うお!マントも良いな!ドラキュラ伯爵〜ってな!」
映画や、漫画でしか見た事のない防具に興奮する。
漆黒の兜、獣皮の籠手、黄金に輝く盾、目にする物全てが欲しくなる。しかし物色中のアスカの肩から、突如キュウが飛び降りカウンターに駆け登った。
『キュウ!』
「どうした?ん?何だそれ?」
カウンターの隅に飾られている片手サイズのアクセサリーを咥えて、アスカに見せるように顔を上げた。
それは、何かの白い枝を曲げてリング状にしたもので、中には細く白い紐で美しい幾何学模様が結ばれている。
そしてリングの外側下端には、白い羽根が3枚下がっている。
まるでドリームキャッチャーを彷彿させる、白一色の美しいアイテムだった。
「綺麗だな!」
「ありがとう!」
キャサリンが、コーヒーで汚れたタンクトップから、肩を露出した服に着替えて出てきた。
「お前じゃないよ!!おい!肩を出すな!チューブトップは鎖骨が綺麗な女性が着るから良いんだよ!」
「これはベアトップよ〜ん」
「どっちでもいいよ!なんでもかんでも熊に寄せんな!」
『キュ〜』
「あらら〜。それは装備した者のステータスを隠す認識阻害アイテム、『隠者の循環』よん」
キャサリンの言葉に背筋を凍らせた。
「ま、まさかステータスは他人に見られるのか?」
「知らなかったの?鑑定スキルとかぁ、マジックアイテムを使えばぁ、見れるわよぉ」
「はぁ〜〜!?」
(知らなかった!まずいぞ!誰かに俺のステータスを見られたら、死ぬんじゃぁないのか?)
「じゃあ!これを装備すれば見られないのか?」
「そうよ。ステータスを認識出来なくするの。要は鑑定を強制的にレジストするって。こ。と」
「レジスト?抵抗するって事か?」
「正解よん」
「これをくれ!是非欲しい!1万ギャリーでどうだ?」
「残念だけど、これは1万ギャリーじゃ売れないわ。この店の上位に入る高額商品よん」
「何ぃ〜嘘だろ!幾らするんだ?」
「ごめんねぇ。お金じゃ売らないの。今決めたわ」
「どういう事だ?物々交換か?それなら、りんごがあるぞ!頼むどうしても欲しいんだ」
「りんごは要らないわ。私が欲しいものはもう決めてるの。それが条件よん」
キャサリンはアスカを上から下まで舐め回すように視線を送った。
アスカは嫌な予感がして後退りをした。
悪寒が止まらず両手で自分を抱き締めたが、凍った背筋が全身まで行き届き、体中が固まった。
「ゴクリ……ま、まさか……」
「そうよ。そのまさか。貴方の……」
「それだけは勘弁してくれ!」
嫌な予感が的中!
キャサリンに全てを言われる前に拒否した。
「でもそれ以外は今、どうでもいいの。欲しくないの」
お色直しをしたキャサリンの顔面が、アスカの目と鼻の先に迫る。荒い鼻息を受けて気絶しそうになる。
「今欲しいのは貴方の、その珍しい服一式。それとなら交換しても良いわ」
「嫌だぁ〜!それだけは許してくれ!俺の服だけわ〜〜……え?服?この服でいいのか?」
「そう!一式よ!靴もね!悪い話じゃないと思うわよん。貴方はこれが欲しい、私は貴方の服。これで貴方と私はベアベアの関係でしょ?」
「WINーWINみたいに言うな!」
アスカは自分の服装とキャサリンを交互に見て疑問に思ったが、気が変わらないうちに交渉を進めることにした。
「オッケー良いよ!でも本当に良いのか?」
「私は珍しい防具が好きなの。着替えが無いなら私がテイマー用の服を見立てて、あ。げ。る。チュ♡」
「ギャ〜〜!」
キャサリンは投げキッスという名の即死スキルを、至近距離で口から飛ばすと、店の中を素早く回り両手に服を抱えて戻ってきた。
即死スキルを紙一重でかわしたアスカは、後頭部を地面に強打して、ブリッジの状態で固まっていた。
「そこの更衣室を使って着替えてね。この場で着替えても良いけど」
アスカは服を受け取り、勿論、更衣室で着替えた。
絶対覗くなよ、と付け加えて。
〜〜〜
「似合ってるわよん。それとこれもどうぞ。首に下げれるように紐を付けておいたわよ。サービスだから気にしないでね。ちゃんと服の下に隠すのよ。レアアイテムなの、狙われるかもだから」
「サンキュー!じゃあこれ、少し濡れてるけど本当に良いのか?」
「良いの良いの!キャ〜!何の素材で出来てるのかしら?」
キャサリンは虫眼鏡のような物で、アスカの服を舐めるように観察し始めた。
「チキュウの服?チキュウってなにかしら?聞いた事ないわね」
(どうして分かるんだ?あれがマジックアイテムってやつか?あれで俺を見たらステータスも分かったのか?)
「危ねぇ……」
「チキュウのズボン?ん〜ムズムズするわねぇ。今日はこれを愛でながら晩酌ね」
キャサリンは頬を染めて悶え始めた。
「じゃ、じゃあ俺は行くよ。いろいろありがとな!助かったよ!」
アスカは素早く出口へと向かったがUターンして、忘れてたと告げ、握りしめていた1万ギャリーをキャサリンに投げつけた。
「毎度あり〜。クマった時にはまた来てねん」
キャサリンがバチンと片目を閉じると、アスカは身の危険を感じ取り、無言で半身になり即死スキルを最小の動作でかわした。
逃げるように店を出たアスカは振り向かない。
悪夢を見ていたのだと自分に言い聞かせ、熊男の呪いを祓うため、脇目も触れず教会へと急いだ。
『幸か不幸か認識阻害アイテムを手に入れたアスカ。キャサリンズ♡ベアから、逃げるように飛び出し教会を目指す。
振り向くなアスカ!愛の名の下に!
次回予告
シスター』
「即死攻撃の連続だったぞ。もしかして、キャサリンがボスキャラなんじゃ……」