77 再会【Side.ビニール仮面】
『琥珀の渡鳥』に無料で泊まる事になったアスカは、ジーナの手料理を堪能した。キュウとミミの食事まで頂き、更には同じ部屋に泊まる許可まで貰った。
部屋に案内されると濡れた服を脱ぎ捨て、久々のベッドに潜り込んだ。キュウとミミもアスカの足元で丸まり、寝息を立て始めた。
〜〜〜
次の日、窓から入る朝日に起こされアスカはベッドの上で呟いた。
「晴れてるな……良かった……」
大きく欠伸をして立ち上がり、おもむろに着替え始める。しかし服はしっとり濡れていた。
「服が欲しいな……」
部屋を出て階下に降りると、エレノアが元気よく挨拶をしてアスカに駆け寄った。
「よく眠れましたか?」
「ああ。ぐっすり!」
「朝食の支度ができてます」
アスカは、カウンター近くの椅子に腰掛けた。
「今日はどこに行くか予定は決まってるのかい?」
ジーナが、パンに肉を挟んだ朝食を運んできた。
「サンキュ。まずは換金して服を買いに行くよ」
「それならこの店の隣が防具屋だよ。ちょっと変わった店主だけど良い物が揃ってるよ」
ジーナは、エプロンのポケットから1万ギャリーを取り出し、アスカの目の前の机に置いた。
「隣で服を買うなら、これだけあれば足りるよ」
「ん?これは何だ?」
その答えを聞いて豪快に笑ったジーナは、エレノアにパンを持って来るように言った。
「本当に面白いね!1万ギャリーを見た事が無いのに、りんごを持ってるなんてね。それで服を買っておいで。りんごのお礼にしては霞んじまうけどね」
「良いのか?」
「ここからギルドまで行って、換金してまた戻るのは手間だからね。それに濡れてるだろ?その変わった服は早く着替えないと風邪引くよ」
「助かる!ありがたく使わせて貰うよ!しかしこのハンバーガー、ゲロ美味いな!」
アスカは立ち上がり、硬いパンを頬張りながら出ようとした。
「はい。ジーナさん」
エレノアが、もう一つパンに肉を挟んだ物を持ってきた。
「ちょっと待ちな!これを隣の防具屋に渡すんだ。私からだと言いなよ」
「おう分かった!ついでに渡してくるよ!」
アスカは金貨をポケットに入れ、両手にパンを持ち元気よく出て行った。
「目付きの割に、本当に面白い子だね」
「はんばーがーって何でしょうね?」
「良い響きだね。あのパンの名前は、はんばーがーにしようかね」
ジーナとエレノアは、顔を合わせてクスリと笑った。
『琥珀の渡鳥』の隣には、昨日は表に出てなかった西洋風の甲冑や、鱗で覆われた盾が店の前に並べられている。
「この鎧ピカピカだ!欲しいな」
腰に手を当てて、ポーズを取る甲冑をアスカが眺めていると、その腕の隙間から店の奥のカウンターが見えた。そして、そこに座る女性を見つけた。
「お?店番か?」
暗いカウンターには、髪の毛を二箇所、お団子にしている女性が肘をつき、ヒマそうに顔を乗せているが、表情までは確認できなかった。しかし口元には光が当たっており、艶やかに輝いている。
白のキャミソールに似た薄手の服を着ている。
アスカが笑顔を向けるが、その女性は気付いてないのか、動く気配が無かった。
アスカは店の看板を見上げると、そこには
『キャサリンズ♡ベア』と書いてあった。
「変わった名前の店だな。モグモグ。まぁ、入ってみるか」
アスカは、食べかけのパンの食感を楽しみながら店の中に入ると、ここもやはりカビ臭かった。しかし防具に至っては手入れが行き届いており、埃ひとつ乗っていなかった。
「へぇ。凄いな!まるで博物館だな。骨董品でも見てるみたいだ」
アスカは鎧や兜が店に並んでいる事が、不思議でたまらなかった。
「あら〜いらっしゃい。うちの子たちは骨董品じゃないわよ〜」
カウンターに座る女性が、妖艶な声でアスカに語りかけた。
「悪かったな。そう言う意味じゃ無いよ。初めて見る物ばかりで圧倒されてたんだ。綺麗だし」
「綺麗?よく見ればあなた、良い男じゃない!うっふん」
カウンターに座っていた女性が、投げキッスをアスカに飛ばした。
「珍しい格好してるわね。もっと良く見せてくれない?」
(セクシー!!何だあのエロい唇!お近付きになりたいなぁ!)
アスカはスキップをする様に店の奥へと入って行くと、カウンターの女性がゆっくりと立ち上がった。
「私の好みだわ〜。雨が止んで初めてのお客様だから、良い事ありそう」
ムクムクと立ち上がる女性を、アスカは見上げた。身長188センチのアスカが見上げたのである。その女性は、およそ200センチ。2メートル!
「あわわわ」
アスカは慌てて止まろうとしたが、足が滑り空回りして、その場に尻餅をついてしまった。
「気を付けて。ね」
女性はカウンターを軽くまたぎ、そのまま一歩で近寄ると、前屈みになり、倒れたアスカに手を伸ばした。ゴツゴツとした手を……
化粧をしてはいるが、よくよく見ると、口の周りには青く髭を剃った跡があり、頭はスキンヘッド、その顔は完全に男だった。
「お、お、おと!おと」
アスカは座った状態で、足をバタバタ動かし後ろに下がろうとしたが、足首をゴツい手で掴まれた。
男は立ち上がると、アスカは逆さ吊りになった。
「大丈夫?怪我はしてないかしら?」
「ギャ〜〜〜!!こっ、これは!?」
アスカの目の前には、ハイレグに収められた男のイチモツが、もっこりと主張としており、それが徐々に距離を詰め始めた。
イチモツが目前まで迫ると、アスカは逆さ吊りの状態で抱きしめられた。
「ギィヤァァァァ〜!」
そして、お尻をモニモニされた後、体の至る所を入念に触られながら、ゆっくりと上下を回転されて、目の前には口周りが青い、男の顔がハッキリと見えてきた。
そしてなんと!頭にある二つのお団子は、髪の毛ではなく、耳だった。
スキンヘッドの天辺には、丸い熊の耳が付いていた。
「ギャ〜ッ!!く、く、くま、熊男ぉ〜!?」
「失礼しちゃうわね。キャサリンよ」
熊の獣人の男は、クネクネと体を揺らすと、口を尖らせアスカに顔を急接近させた。
「ギャ〜〜!!危ねぇ!即死攻撃だな!ハァハァ」
アスカは迫り来る唇を間一髪でかわす事に成功した。
着ている服に目をやると、キャミソールではなく、タンクトップであった。
「グッタリして大丈夫?元気出して。ん〜〜」
女の格好をした男がアスカを下ろすと、唇を近付けてきた。
「ギャ〜〜!!!変身」
アスカはパニック状態に陥り、手に持っていたパンを胸に当てて叫んだ!
「あらまぁ!それはジーナのじゃな〜い?」
「そ、そうだ!ジーナからこれを渡すように言われてたんだ!」
アスカはパンを男の目の前に出した。
「嬉しい!大好物なの!いただくわね。あ〜ん」
男はアスカが持つパンをひと齧りした。
「自分で持てよ!気色悪い!」
「貴方、ジーナのお友達?だったらサービスしちゃうわ!これにはコーヒーが会うのよね」
キャサリンと名乗った熊男は、アスカを下ろすと、奥に戻り両手にコーヒーを持ち戻って来た。
「はいど〜ぞ〜。キャサリン特製のコーヒーよ〜」
アスカは持っていたパンと引き換えに、コーヒーを受け取った。
「この世界にもコーヒーはあるんだな……」
「何か言ったぁ?」
そして、パンとコーヒーを持つキャサリンを見て、アスカはどこか懐かしい感覚を覚えた。
「どこかで会った事ないか?」
「それはナンパね?クマっちゃうわ♡」
「違ぇよ!そんな事するか!」
「そのコーヒー飲んでみて。美味しいわよ」
「ん?ああ。いただきます」
「私の愛が詰まってるでしょ?」
「ぶーーーーーっ!飲めるか!!怖ぇな!何恐ろしい物入れてんだよ!」
アスカが吹き出したコーヒーを頭から被るキャサリン。
「クマったわね……蜂蜜を入れたにクマってるじゃない。これはどんなプレイ?」
それを見たアスカは思い出した。
「ああぁぁぁぁ!!思い出した!最初の夢に出て来た熊のパン屋だ!!」
「嬉しいわ!私を既に夢で迎えてくれていたのね!」
「違うわ!!」
「いやん!そんなに怒らなくってもい〜じゃない。失礼しちゃうわね。ベアベア!」
「ぷんぷん、みたいに使うな!」
アスカは深いため息を吐いた。
「しかし本当に居たんだな……スキンヘッドの熊の獣人」
「いるにクマってるでしょ!」
「無理矢理、言葉の端々にクマを入れんなよ!気色悪い!」
「熊の獣人なんだもん。仕方ないベア!」
「オエッ!もう黙っててくれ!」
「ハイハイ。お口にベア」
キャサリンは口元にニャンニャンと猫の真似をするように、ゴツい拳を当ててウインクをした。
「がはっ!……クリティカルヒット……悪夢よ!早く覚めてくれ!!!」
『ジーナの紹介により劇的な再会を果たしたアスカ。宿屋のおっちゃんの次は、防具屋のオカマちゃん。二人の可愛子ちゃんの間で、大きく心を揺さ振られる。
愛の伝道師アスカ!三人の愛の行方は如何に!!!
次回予告
条件』
「二人とも『ちゃん』が付いてるけど、男だからな!!しかも俺は激しく動揺してるんだよ!揺さぶられてるって言い方、良くないと思います!!勘違いされるからぁ!もうBLイジリはやめて頂戴!」