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76 女将【Side.ビニール仮面】


アスカは大きく伸びをした。そして門の先を見据えると、広がる街並みに圧倒された。


(映画のセットかよ!まるで中世だ!凄いな……しかし、どこに行けば良いのやら……)


その時、街の中から黄色い声が聞こえた。


(よし!美女には騙されないように気をつけよう)


両手で頬を叩き街の中へ足を踏み入れた。


まず目に飛び込んできたのは、正面の突き当たりにある大きな教会であった。


「まずは木箱のお礼だな。女神に挨拶でもするか」


「今日は大盤振る舞い!宿泊費が半分だよ!」


左の方から男の声がした。


左を向くと、立派な服装の男が客引きをしていた。


(教会の後は、宿だな)


「今日は長雨が止んだお祝いで半額ですよ〜」


その時、反対側から女性の声が聞こえた。

アスカが右を見ると、桃色のショートカットにバンダナを被った可愛らしい女性と目が合った。


「お宿はお決まりですか?今日は半額です。朝晩食事付きのサービスもしてますよ〜」


「……」


首を倒し、人懐っこい笑顔で微笑む女性から視線を切り、教会へと戻した。


(すまん女神、また後で!)


アスカは教会に手を合わせた。

そして眉毛をキリリと上げ背筋を伸ばすと、女性に体を向けスタスタと歩み寄った。


「丁度良かった。宿を探してたんだ。君の宿に決めた」


「ありがとうございます!どうぞこちらへ〜」


女性はアスカを先導して歩き始めた。


「こいつらも良いのか?」


キュウとミミは可愛く鳴いた。


「はい。宿の裏にテイムモンスター用の小屋がありますので、そちらになりますが」


「そうか……まあ仕方ないか」


「お客様は冒険者ですか?」


「冒険者?ん〜旅をしてるから冒険者だな」


「そうですか!ランクを聞いても良いですか?」


「ん?ランク?何の?」


「え?ギルドランクを知らないんですか?冒険者じゃないんですか?」


「俺、田舎もんでさ。悪いけど、それ教えてくれる?」


アスカは恥ずかしそうに左手で頭をかいた時、イヤーカフに触れてしまった。


『説明しよう!

ギルドランクとは……』


アスカは慌てて小声で叫んだ。


「お前じゃないよ!」


「え?」


「あ、いや独り言です。で、そのランクって何?」


「はい!まず冒険者とは冒険者ギルドに登録している人達の事を言います。で、ギルドランクは、その人の強さを表しているんです」


「へぇ。そのランクって黒帯とか白帯みたいなこと?」


「は?え〜と。一番下はGランクで、クエストをこなして行くとランクが上がって行きます」


「へぇ」


「Gの次はFで、Aまで上がると次は最高ランクのSです。Sランクになるのは、ほんのひと握りだそうです。私はまだ一度も会った事はありません」


「なんだか面白そうだな」


「お客様はもしかして貴族様ですか?それとも商人ギルドに所属してますか?」


「いや、貴族じゃぁないし、商人でもない」


「では、身分証もギルドカードも無いのですね。通門の時、金貨を払ったんですか?」


「まあ、そうだな」


「お金持ちなんですね」


「それが金は1円もないんだよね。一泊したいんだけど金がないんだ。どこか物を換金できる所知らない?」


「イチエン?……物にもよりますが、大体の物は冒険者ギルドか商人ギルド、どちらでも換金出来ますよ。でも、どちらかのギルドに所属していると、割高で引き取ってくれるメリットがあります」


「商人ってガラじゃぁないから、冒険者ギルドに入ってみるかな。デメリットってあるの?」


「着きました!ここです」


彼女の後ろには、なかなか豪華な建物が建っている。看板には『琥珀の渡鳥』と書いてある。


(結構デカい。高そうだな。デメリットは後で聞くとして……)


「あのさ、聞いてなかったけど、一泊いくらなの?」


「そうでした!ごめんなさい。一泊2000ギャリーです。あっ!今は半額の1000ギャリーでした」


女性は片目を瞑り舌をペロリと出した。


「1000ギャリー!?……ってどのくらいの価値があるのか分からないんだけど……」


「……どんな所から来たんですか?え〜っと簡単に説明すると、、100ギャリーでパンが買えます」


「なるほど。1ギャリーは1円くらいかな?」


「イチエン?」


「あ、いや、何でもないよ。一泊、銅貨3枚か」


(1000ギャリーなら……一泊1000円?) 


「安いな」


「そうですか?でも今は長雨のせいでお客さんがいなくて……でも、宿の人たちはとても良い人たちですよ!」


彼女は満面の笑みをアスカに投げかけた。


「そうか。それは良いな。じゃあ一度冒険者ギルドで換金してくるよ。ついでに登録もしようかな」


「ギルドは教会のすぐ側にあるんですが、一度門まで戻った方が早いです。それと、教会から奥は貴族様が暮らすエリアです。近寄らない方が良いですよ」


「あの教会か。分かった!ちょっと、りんごを換金したらまた戻ってくるよ」


「え?りんごですか?」


(しまった!つい口を滑らした)


「そう。りんご。食べる?」


「いやいやいや!そんなお金ありませんよ!!」


「金は要らないよ。説明してくれたお礼に」


「り、りんごの価値を知らないんですか!?」


「知ってるよ」


(さっき聞いて知ったんだけど)


「じゃあ、りんごの代わりに、君の名前を教えてくれよ」


(これ、俺に惚れるパターンじゃない?)


「え〜〜〜!そんな事で良いんですか!?」


周りを行き交う人々が、大声に反応してアスカたちをジロジロと見ている。


「ちょっと静かにしようか……それと俺が田舎者ってのと、りんごの事、誰にも言わないでくれる?」


女性はコクコクと何度も頷いた。


「わ、私の名前はエレノアと言います」


アスカは手を叩き、りんごを取り出してエレノアに渡した。


「エレノアか、良い名前だ。親切にサンキュ!」


「ほ、ほ、本当に頂いて良いんですか?」


「誰にも言わないでくれよ」


アスカは人差し指を口元に当てた。その時店の入り口から男の声が聞こえた。


「エレノア!そ、それはどうしたんだい!?」


「シガニールさん!こ、これは……その〜」


エレノアは、りんごをエプロンの内側に隠した。

周囲を行き交う人々が、何事かと足を止め野次馬へと変わり始めた。


「しー!しー!!おっちゃんがここの店長か?と、泊まりたいんだ!とにかく中に入ろう」


アスカは慌てて二人の背中を押して、無理矢理店の中に入った。


「ちょっと!あなた!何なんですか!私はこの店の店主ですが、今はエレノアと話がしたいんです!エレノア!大声が聞こえたから出てみれば、そのりんごはどうしたんだ!」


店の中は掃除が行き届いており、塵ひとつなく綺麗であったが、長雨のせいか少しカビ臭かった。


「綺麗な宿だな」


アスカは話を逸らそうと室内の話題に変えた。


「見ての通り、雨のせいで客が来なくてね!毎日掃除してたんです!それよりもエレノア!……まさか盗んだのか!!」


アスカの目論見はあっという間に崩れた。


「違います!そんな事しません」


「しかしそんな高級品は、お前の給金では買えんだろ!盗みはするなとあれ程言ってきたのに……」


「どうしたんだい!雨が止んだってのに景気の悪い声なんか出して!」


二階から恰幅の良い女性が降りてきた。その女性もバンダナを頭に被り、エレノアと同じエプロン姿である。


「聞いてくれよジーナ!外で大声がしたから出てみれば、エレノアがりんごを持ってたんだ!」


「ふ〜ん。それで?どうしてあんたは怒鳴ってるんだい?」


「どうしてって、りんごだぞ!そんな物買える訳がない!盗んだに決まってる」


「エレノアがそう言ったのかい?」


「それは……違うが……しかし!それ以外に考えられんだろ!!」


「エレノアがそんな事すると思うかい!全く何を考えてるんだか。エレノアの話も聞かずに」


「しかし!」


「しかしも、シガニールもないよ!!」


「俺も無いって……どう言う事だよ……」


「は〜、全く……」


ジーナはエレノアに向き直った。


「エレノア。そのりんごはどうしたんだい?」


「これは……言えません。ジーナさん。ごめんなさい!」


(良い子だなぁ。可愛いし)


「そうかい。分かったよ。話はこれで終わり。あんた、お客さんだよ」


「ちょっ、ちょっと待てよジーナ!話はまだ済んでない!」


「エレノアが言えないって言ってるんだよ!何かこれ以上あるかい!?」


「ジーナさん……」


エレノアは涙を浮かべた。

それを見たアスカが頭をかいて口を開いた。


「俺が無理矢理渡して口止めしてたんだ。まさかこんな事になるとは思わなかった。これはお詫びの印だ」


アスカは手を叩くとりんごを二つ取り出して、シガニールとジーナに渡した。


「誰にも言わないでくれ。今みたいな事になると申し訳ないからさ」


「り、り、りんご!」


シガニールは目を丸くして、受け取ったりんごを大事そうに両手で包んだ。


ジーナはりんごの匂いを嗅ぐと、口角を上げてウインクをした。


「お客さん気前が良いね。お金は要らないよ。好きなだけ泊まって良いよ」


「良いのか?」


「ジーナさん!」


「エレノア!やっぱりあんたは幸運を運んで来るね。夕飯を作るから手伝ってくれるかい?」


「はい!」


エレノアは涙を拭い、ジーナの後をついて行った。


「おっちゃん良いのか?」


「それはこっちのセリフだ!本当に貰って良いのかい?」


「勿論だ。本当に、ただで泊まって良いのか?」


「勿論だとも」


シガニールは、ホクホク顔でアスカを部屋に案内した。


『りんごを使いナンパするアスカ。

しかし、りんごの効果は絶大で、引っかかったのは宿屋のおっちゃん。二人はホテルの部屋へと向かった。今後のBLに期待!

頑張れアスカ!おっちゃんの愛を取り戻せ!

次回予告

再会』


「おい〜!どこを見てたんだ!あれか?久々の説明を聞かなかったから怒ってんのか?おっちゃんとボーイズラブなんかするか!おっちゃんじゃなくてもしないけどもっ!!」

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