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75 泥酔のロックジョーと泥


「ガッハッハ!ちょっくら害虫駆除に行ってくるわ!」


便所から戻ったロックジョーは、首をゴキゴキと鳴らした。


「はぁ。村人の避難完了です。くれぐれも家は壊さないでくださいね」


「こんなにお酒を飲んだのに大丈夫ですか?」


テーブルの上に転がるジョッキを見て、テープルは眉をひそめた。


「ガッハッハ。心配には及ばんよ。俺の魔力は酒で出来てるからな。飲んだ分だけ強くなる!」


「はぁ。そんな訳ないでしょ。ただのザルですよ」


「誰がサルだ!村長。仕事が片付いたら俺を酔わせる極上の酒を飲ませてくれよ」


「それは勿論です。村を救ってください!」


「はぁ。ザルがサルに聞こえるくらいにエールで十分酔ってるでしょ。暴れて酔いを覚ましてきてください。それと一般人に怪我をさせないようにしてくださいね」


「誰がチンパンジーだ!酔いが覚めた!嬢ちゃんエールを樽で持ってきてくれ!」


「はぁ。それは後にしてください。それとも、錬金術師の彼が戻るのを待ちますか?」


「ガッハッハ……今のはカチンときたな。樽は無しだ!極上の酒の為にひと汗かいてくる!お前らも、何があってもここから出るなよ」


ロックジョーは扉を開けると、窮屈そうに体を縮めて出て行った。


「本当に一人で大丈夫でしょうか?」


二人のやり取りで不安を覚えたテープルは、窓まで近寄りロックジョーを覗いた。リオはテープルの後ろで、成り行きを見守っている。。


「はぁ。多分大丈夫でしょう。戦う理由が欲しかったのです」


「た、多分。ですか……」


村長も窓辺に来ると、外を見るなり大声を出した。


「雨が止んでます!」


「本当だ!!ロックジョーさんに気を取られ過ぎて、全く気付かなかった!キーラさん!キーラさん!」


テープルは椅子にぶつかりながら調理場へ消えた。リオもそれを追って行った。


「はぁ。普通気付くでしょ」


窓からは暖かい日差しが差し込んでいる。しかし、それが突然何かに遮られた。


「あれは!レッドイーター!ロックジョー殿に向かっている」


エールを浴びるように飲んだロックジョーの顔は、程よく赤くなっていた。レッドイーターはここぞとばかりに、一斉にロックジョーへと急降下を開始した。


そのロックジョーはフラフラとして体を前に倒すと、その場に右手をついた。


「ロックジョー殿!上!上です!」


迫り来るレッドイーターの大群を、見向きもしないロックジョーに焦り、村長は大声を上げ窓を両手で叩いた。


「ガッハッハ。なかなか上質な泥だな」


ロックジョーは地面につけていた右手を、ズブズブと押し込み、地面の中に肘まで突っ込んだ。


「ガッハッハ。マッドハンマー」


体を起こすと、右腕も地面の中から引き上げた。

その手には泥の棒が握られていた。それをゆっくりと持ち上げ肩に担ぐ。棒の先には泥で造られた巨大な塊が姿を表した。いささかハンマーとは形容し難い物である。


「な……」


村長はあまりの光景に言葉を失った。


およそ人が持つ事は不可能であろうそのハンマーは、白い雄鶏亭よりも大きく、窓からではその全貌は確認できなかった。


「ガッハッハ!折角の晴天が台無しだな!」


上空を見上げると、目前に迫り空一面を覆うレッドイーターにより太陽は遮られ、ロックジョーはその影の中にいた。


「ぬん!」


ロックジョーが右腕に力を込めると、筋肉が膨れ上がり、幾重にも血管が走った。


「マッドメテオ」


迫り来るレッドイーターに向けて、まるでテニスのラケットでも振るかのように、巨大な泥の塊となったハンマーを振り上げた。


物理の法則を無視した攻撃は、ジェット機を彷彿させる轟音を鳴動させた。


その衝撃波で、窓ガラスが粉々に割れた。


そして、先陣を切るレッドイーターとのインパクトの刹那、泥のハンマーの塊は、柄の部分から切り離された。


縛られていた物から解放された巨大な泥の塊は、レッドイーターの群れを飲み込みながら、青い空へと消えて行った。運良く免れた数匹のレッドイーターは、脱兎の如く蠢きの森へと逃げて行った。


「ガッハッハ。鳥ひとつ無い快晴!」


「はぁ。多分大丈夫と言ったでしょう。あれは撤回します。大丈夫じゃありませんでした。衝撃波で窓が割れましたね。向こうの家は二軒ほど潰れてますが、あそこに人はいますか?」


窓ガラスが割れた瞬間、リズベスは村長を窓際から移動させていた。


「あ、ありがとうございます。あれはテープルの家と倉庫です。今はここにおるので誰もおりません」


「はぁ。そうですか。ロックジョーさんが全て責任を取ります」


「ガッハッハ!残りはバルーンモスキートだな」


二人のやり取りなど聞こえないロックジョーは、大股を開き相撲取りのようにしゃがみ込むと、片足を大きく上げてシコを踏んだ。


「マッドロック」


火山が噴火したかのような爆音と地響きと共に、村全体の泥水が数メートル飛び上がった。


「じ、地震ですか!?早く外に逃げないと」


慌てる村長に、リズベスはため息混じりに嗜める。


「はぁ。何があっても出ないように言われたでしょう。時期に治ります」


リズベスが言ったとおり、地震は数秒で治った。そして、泥水が全て落ちると、バルーンモスキートは泥で包まれていた。まるでバルーンモスキートのチョコレートのように。


「ガッハッハ。汗はかかなんだ」


〜〜〜


リズベスが戻った後、ゼンジはステータスの確認を行った。海自のレベルが14になっており、MPが100を超えていたので、すぐさま陸自にマークチェンジをした。


ゴードンが先陣を切り、虫と戦闘をしている。そこにゼンジは、自ら虫の攻撃を受けに行き、正当防衛のロックを解除した。


ノックたちが首を捻る中、ゼンジはそそくさと内職を始めた。

無反動砲を20基、手榴弾を20個呼び出し、全て衣のうに収納した。その間、干し肉を吐くほど食べていた。そしてレベルを上げるために、再び海自にマークチェンジし直した。


「うっぷ。これ以上は食べれない……」


『見てるこっちが吐きそうだよ』


「皆さん気を付けて!モンスターの動きが変です!」


リッキーの言葉の直後、目の前から森の虫が、一斉にゼンジたちに向かい走ってきた。


「何だ!」


「ウォ〜ン。ウォ〜ン。イモい!」


「みんな落ち着くのじゃ!何か変じゃ!」


ポーラが言ったように、虫のモンスターたちは、何かから逃げるように、ゼンジたちには見向きもせずに横を通過して行く。

羽があるモノは空に飛び上がり、森からは生き物の反応が無くなった。


「音が消えた……」


不気味に静まり返った蠢きの森であったが、前方の木々がザワザワと揺れ始めた。


「何が来る!」


ゼンジは、足のホルダーから拳銃を取り出し構えた。


しかしそれは、地鳴りと共にやってきた。


「うおっ!デカイぞ!」


「揺れてるのじゃ!」


「地震!?」


地震は数秒で治った。


「みんな無事か?結構デカかったな」


「ビックリしたのじゃ」


「オゥ〜ン!ありがたい!虫がいなくなった!」


「それもそうだな。今のうちに先を急ごう」


地震の影響で、その後モンスターと出会うこともなく、日が沈む頃には、ゼンジたちは蠢きの森と、ラムドールの村との境目まで戻ってきていた。


「この匂いは何だ?アルコールのような、鼻につく独特な匂いがするな」


「ウォ〜ン!ゼンジもやっと気付いたか!これが黄金のマタタビだ!最高だろ!」


「ん〜。自分にはちょっと分からないな。しかし行きには、この匂いはしなかったような気がするけど」


「きっと雨が止んだからだろうな。虫どもはこの匂いも苦手なんだ。良かった。これでバルーンモスキートも村には来ないぞ!」


ゴードンは軽く拳を握った。


「そう言えば全くモンスターが出て来なくなったな。後は、村のバルーンモスキートとレッドイーターを何とかすれば元に戻るな!」


「ワイバーンもいますよ」


ポーラの言葉に続き、ノックが声高々にゼンジに肩組みをした。


「ウォ〜ン!ゼンジがいるから心配ない」


「はは……もう、おだてには乗らないよ」


『分かればよろしい。以後気を付けるように』


「はい。返す言葉もありません」


メロンの皮肉にも、素直に答えるゼンジであった。


〜〜〜


一行は、黄金のマタタビがなる木々を越え、ラムドールの村に入った。


「モンスターがいません!」


「ウォ〜ン!リッキーそれは本当か?」


「はい!一匹もいません!」


「ギルマスだな」


ゴードンは腕組みをして村の入り口にある、白い雄鶏亭へ顔を向けた。


「白い雄鶏亭に行ってみるか。ん?どうしたゼンジ?そんな所で固まって」


一行は振り向いてゼンジを見た。ゼンジは遠い目をして固まっていた。


「……忘れてた。品位を保つ義務の事を……」


ゼンジは後退りをしてポーラを呼んだ。そしてポーラが抱えるメロンに、マスタークリーンをかけてもらった。


「メロン助かるよ。これで村に入れる」


『うむ。気にするな。それよりゼンジ、あそこに何かあるよ』


メロンが言う場所にはチョコレートのような、バルーンモスキートが二つ置いてあった。


「これは何でしょうか?」


ポーラの疑問にゴードンが答える。


「間違いないギルマスだ。村はもう安全みたいだな」


「ロックジョーさんがこれを?」


疑問が残るポーラは棒切れを拾い、泥で包まれたバルーンモスキートを突いた。


「ギルマスの職業は『魔法剣闘士』だ」


ゴードンはそう言うと、白い雄鶏亭へ歩き始めた。ゼンジたちも後を追い、ポーラも突くのをやめて追いかけた。


「魔法剣士じゃなくて?剣闘士?聞いた事ないな。グラディエーターって事か?」


ゼンジが知るゲームの知識には無い職業だ。


「魔法剣士よりもレアな職業が魔法剣闘士だ。しかも土属性だぞ。ロックジョーさんは、最強の一角だ」


「しかもの意味が分からないが、土魔法は見てみたいな。見せてもらおう」


「見せてもらうのはゼンジの勝手だが、絶対に怒らせるなよ!」


「分かってるって。でも良いな、魔法が使えて」


白い雄鶏亭の前に着くと、豪快な笑い声が聞こえた。


「ガッハッハ!戻ったか!お前たち良くやった!」


上機嫌のロックジョーが、白い雄鶏亭の中から、ガラスが無くなっている窓越しに声をかけてきた。


「ロックジョーさん!村のモンスターは全てロックジョーさんが?」


「ガッハッハ。お前たちだけに美味しいところを持って行かれたら、後ろ指さされるからな」


「そんな事無いですよ。でもあんなに巨大な、しかも、クィーンヴァンパイアが出て来るとは思いませんでしたよ」


「ガッハッハ。それは俺のミスだ。まさかワイバーンキングとは思わなんだ。二匹とも仕留めて来たがな」


「ワイバーンを倒したんですか!自分たちが戻る間に街道に行ったんですか?」


「ガッハッハ。酒の前の軽い運動だ」


「そんなに強いなら、全て一人で……」


ゼンジの話の途中でノックが前に出ると、ロックジョーの持つ泡立つジョッキを指さした。


「ウォ〜ン!それは、黄金のマタタビールですか!」


「ガッハッハ!めざといな!しかも採れたてだ!」


「ウォ〜ン!黄金のナマタタビールですね!」


ノックは窓から白い雄鶏亭に飛び込むと、慌ただしくロックジョーの向かいに座りキールに注文した。


「ウォ〜ン!とりあえずナマ!」


「……」


ゼンジ絶句。



(女神様、こちら自衛官、

異世界でも『とりあえず生!』が聞けるとは思いませんでした。どうぞ)

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