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73 海上自衛官


撃鉄がカチカチと鳴り響く。

全ての手榴弾も投てきした。


しかし、何らダメージを受けた様子の無いクィーンヴァンパイアは、大量の硝煙が広がる中を悠々と進み始めた。


「はぁ。気が済んだかしら?この子には、その程度の攻撃では傷一つ付けられないわ」


「うるさい!こいつをぶっ殺……」


激しい憎悪が込み上げ、視界を狭窄する。

その時心臓が大きく跳ねた。


(ダメだ落ち着け……このままじゃダメだ)


「はぁ。悔しいのは分かるけど、無理なものは無理なの。男なら諦めも肝心だわ」


「嫌だ!小さいブラックヴァンパイアは倒せたんだ。何かあるはずだ!弱点とか苦手な物とか」


にじり寄るクィーンヴァンパイアのプレッシャーで、思考がまとまらない。


(何か!何か!武器は小銃と拳銃、手榴弾、大楯、それとナイフだけだ。くそっ!レベルをもっと上げとけば……そうだ!さっきレベルが上がった!)


「頼む!!ステータスオープン!」


ステータスを確認したゼンジは、見覚えの無いスキルを見つけた。


(ん?何だ?これは?無反動砲?武器なのか?これに賭けるしかない!)


ゼンジは干し肉を取り出し、おもむろに食べ始めた。


「無反動砲!うわっ!!」


ゼンジの目の前に出現したのは、深緑で長い筒状の鉄の塊であった。


「そ、その筒は何なのじゃ!」


小銃や拳銃もそうだが、無反動砲を見た事が無いポーラは、ゼンジが新たに出した物に僅かな期待を寄せる。そしてゼンジはその筒が何かを知っていた。

無反動砲に一縷の望みを託した。


「ロケットランチャーだ!」


【実際のところ、ゼンジの新たなスキルで出現させた84mm無反動砲M3とは、個人携帯式の対戦車火器であり、ロケットランチャーやバズーカとは違い、装薬の爆発で砲弾を飛ばす大砲の一種である。


ゼンジが出現させた武器は、一般的には『カール・グスタフ』『ハチヨン』もしくは『無反動』の愛称で知られている。


弾種は榴弾、対戦車榴弾、照明弾、発煙弾と様々であるが、今装填されているのは対戦車榴弾(HEAT弾)である。】


「使い方が分からない……海自には無いからな」


しかし、クィーンヴァンパイアはそんな事で待ってはくれない。動きは止めず、ゆっくりと近付いている。


「やるしかない!みんな離れてくれ!それと自分の後ろには立たないように!」


ゼンジは無反動砲を右肩に乗せ、スコープを覗き込んだ。吸盤に照準を合わせると、躊躇なく引き金を引いた。


爆音と共に砲口付近にドーナツ状の煙を残し、HEAT弾が炎と煙を巻き上げて飛んで行く。それと同時に無反動砲の後方には、強力な燃焼ガスと爆風が発生した。


HEAT弾は真っ直ぐ、クィーンヴァンパイアの吸盤に吸い込まれた。


直後、激しい爆発音と、それに伴う爆風と爆煙が辺りへ広がった。


「うわっ!」


「きゃ〜」


ゼンジたちは爆風による衝撃波に煽られ、吹き飛ばされてしまった。


吹き飛ばされたゼンジは、転がりつつも直ぐに立ち上がり、クィーンヴァンパイアを睨みつけた。


「やつはどうなった!?」


クィーンヴァンパイアの上部は煙で見えないが、見える下部はしっかりと体を起こしたままだった。


「ダメか……いや!もう一発だ!」


引き金を引くが弾は出なかった。


「一発しか撃てないのか!」


ゼンジは空になった84mm無反動砲M3を投げ捨て、新たに出現させようとした。


「無反動砲!」


しかし、大量のMPを消費するそのスキルにより、ゼンジのMPは尽きていた。

無常にもクィーンヴァンパイアは、クネクネと動き出しゼンジへと近付く。


「そんな……MPが足りない!くそっ!」


絶望の中、衣のうから干し肉を取り出し口へ放った。


「無反動砲!出た!」


新たな無反動砲を取り出した次の瞬間、クィーンヴァンパイアはゼンジに覆い被さるように倒れ込んだ。


「バレットタイム……ダメだ、MPが切れた」


またしてもMPが切れたことにより、張り詰めていた緊張の糸も切れてしまった。

ゼンジは、無反動砲を撃つことはせず、煙幕の中から現れるであろう、倒れ来る巨体を見上げていた。


そして、クィーンヴァンパイアが煙をかき分け姿を現した。


しかし、ゼンジの目に飛び込んで来たのは、上部が吹き飛んだ見るも無惨な、クィーンヴァンパイアの姿であった。

体半分を失っていたため、ゼンジたちには届かず、目の前に力無く倒れた。


ーパッパッパッパカパ〜ンー


「……」


レベルの上がったゼンジを始め、一同は言葉を失っていた。


「はぁ。信じられない……」


リズベスは切長の目を大きく開き、言葉を出し終えた後も、口は開きっぱなしである。


「リッキー!!!」


ノックが叫び声を上げ、下半分になったクィーンヴァンパイアに駆け出した。


「ゼンジ!!あれはリッキーの足なのじゃ!」


ポーラが指をさすのは、クィーンヴァンパイアの残りの体で、そこからは確かにリッキーの足が出ていた。


「リッキー!」


もつれる足を必死に動かし、ゼンジもそこへ走り出した。


先に到着したノックは、はみ出た足を掴むと力一杯、引き抜いた。


「リッキー!!ウォ〜ン!誰かポーションを頼む!」


出て来たのはやはり、リッキーであった。

しかし、火傷の様な傷跡を至る所に負っている。クィーンヴァンパイアの消化液に溶かされかけていた。


「任せてください!」


ゼンジに続き駆け寄るポーラは、小声でメロンにヒールをかけるように伝えた。


『ウルトラヒール!』


メロンは両手を突き出すと、リッキーが淡く輝き傷口が塞がる。


「リッキー!リッキー!!」


ノックはリッキーを揺さ振るが返事は無かった。

しかしリッキーの口元に手を当て、胸に耳を着け心音を確認すると、ノックは涙を流した。


「動いてる……生きてるぞ!!ウォ〜ン!リッキーは生きてるぞ!」


その言葉を聞き、ゼンジはその場に膝から崩れた。


「良かった……」


全身の力が抜け、呆然とリッキーを見ていた。


「ヴォ〜ン。ありがどう。ゼンジ。ありがどう」


ノックは手で涙の流れる目元を抑えつつ、感謝の言葉を繰り返した。するとノックが目を覚ました。


「兄……さん」


何が起きたのか理解出来ないリッキーであったが、涙を流すノックを見て全てを思い出した。


「ヴォ〜ン。ビッギー!!良がっだ!グスン。もうダメかと思った」


「ゼンジさんが助けてくれたんだね……やっぱりゼンジさんは凄いや」


その言葉を聞き、ゼンジは眉間に皺を寄せた。


「いや……こうなったのも全て自分の責任だ。リッキーの言う事を聞いていれば、こんな事には」


「その通りじゃ!あれ程注意せよと言っておったのに!阿呆め!お主は阿呆なのじゃ!」


『そうだぞゼンジ!今回は、明らかにゼンジの判断ミスで仲間の命を危険に晒した!助かったから良かったものの、取り返しのつかない事になってからじゃ遅いんだよ!』


ポーラとメロンの言葉が有難かった。


「みんなゴメン……二度とこんな事にはならない様に気を付けるよ……いや、絶対にしない!こんな思いはもうしたくない!」


「お?また偽物じゃろうか?素直過ぎるのじゃ!」


『本当だ!変だ!さっき頭を打ったの?雨でも止むんじゃないの?』


「あのなぁ!自分はそんなに聞き分けが悪いか?」


「悪いのじゃ」


『悪いよ。全然言う事聞かない!』


「全くお前らは……でも、ありがとな」


その時、突然雨雲が消え雨が止んだ。


『ほらぁ!やっぱりゼンジがおかしいから!雨がやんだよ!!』


「そんな馬鹿な……自分のせい?」


「当たり前じゃ!気持ち悪い事するからじゃ!」


「何だよ!気持ち悪い事って!!喋り方!」


「とにかくクィーンヴァンパイアを倒して、リッキーも救助出来て、ついでに素直になったゼンジのお陰で、雨も止んで良かったじゃないですか」


微笑むポーラにゼンジは抗議した。


「雨は絶対自分じゃないぞ!」


「ウォ〜ン。あんな奥の手を隠してたなんてな!」


「あれは隠してた訳じゃなくて、直前で覚えたんだ」


(そうだ!レベルが上がったから、スキルの確認をしないとな)


「ステータスオープン」


歓喜ムードの中、ゼンジは一人呟いた。そして新たなスキルに目を止めた。


(なんだ?マークチェンジ?)


〔ザッ「CPO、マークチェンジとは何だ?」ザザッ〕


〔ザッ『マスター、マークチェンジとは、陸海空それぞれ任意のタイプに、変更が可能なスキルです』ザザッ〕


(ん〜。属性が変わるだけかな?とりあえず海自にしてみるか)


リッキーに抱きつくノック。

皆、安堵の表情で二人を眺める。


そんな中ゼンジは、干し肉を食べた。


「マークチェンジ!海上自衛官……」


迷彩服は陸自のまま、特に変わった所は見当たらなかった。


「何だ?何も起きないぞ?ステータスオープン」


(おお!海自になってる!)


「え?」


ステータスを見たゼンジは唖然とした。


〔ザッ「CPO、職業が海自に変更はしてるけど、レベルが1なんだけど……」ザザッ〕


〔ザッ『マスター、陸海空それぞれで、成長が異なります。陸にマークチェンジすると、今までのレベルに戻るので安心してください』〕


(ここでレベル1はマズイ!)


「マークチェンジ陸上自衛官!ステータスオープン……海自のままだ」


〔ザッ「陸自に戻らないぞ!」ザザッ〕


〔ザッ『MPが足りません。消費MPは100です』ザザッ〕


「おいおい!レベル1だから、MPが19しか無いぞ!これじゃ戻れないだろ!最初にまとめて説明してくれよ!」


「ウォーン!どうしたゼンジ?そんなに慌てて。リッキーが無事だったんだ!それで十分だ!」


「そうだな。今回の調査はここまでだ。ラムドールに帰ろう」


ノックに賛同したゴードンが親指で後ろを差した。


ゼンジたちとは少し離れた場所で、リズベスは気怠そうな表情で独り言つ。


「はぁ。信じられない……彼は一体何を錬金したのかしら。あんな武器見たこともない。はぁ。彼は何者なのかしら」



(女神様、こちら自衛官、

危ない所でした。無反動砲が無ければ全滅でした。でもやっぱり自衛官のスキルは厄介です。どうぞ)

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