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72 キングとクィーン


〜ラムドールの村『白い雄鶏亭』〜


ゼンジたちが大型のブラックヴァンパイアと遭遇した頃、ロックジョー、村長、テープル、リオたち四人は食事をしていた。


「何だと!?何故それをもっと早く言わない!!」


そして、ロックジョーは怒鳴り散らしていた。


「そ、そ、そんなに大変な事ですか?」


テープルは、突然怒り出したロックジョーに面食らい、食べていたパンを吐き出した。


「大変どころの話ではない!!それが事実なら、あいつらは死ぬぞ!」


「えっ!?ど、どうして?ワ、ワイバーンに、角が生えてるだけですよ」


「お前は商人のくせに、そんな事も知らんのか!!角が生えたワイバーンは、ワイバーンキングだ!ワイバーンの上位種だ!!」


「え〜っ!!お、雄のワイバーンには、角があるものだと思ったのです!す、すみませんでした!」


「今更遅い!作戦中止だ!リズ!おい!リズベス!ひとっ走り頼む」


ロックジョーは、その場に居ない者の名を呼んだ。


「はぁ。やっぱりそうなるんですね。ゆっくりしてて良いって言ったじゃないですか。はぁ。全く人使い荒過ぎです」


突如、誰も居なかったロックジョーの背後に女性が現れた。彼女は軽装で武器は何も装備していない。


リズベスと呼ばれたその女性は、面倒臭そうに溜息を吐くと、その美しい切れ長の目でロックジョーを見下ろした。


「状況が変わった!ワイバーンキングが現れた!そいつに寄生しているクィーンヴァンパイアが、湖付近に繁殖している可能性がある」


「はぁ。それは大変ですね。Cランクのモンスターじゃないですか」


「クィーンヴァンパイア?」


村長は、初耳であるモンスターの名前をオウム返しする。それにテープルが続く。


「シ、Cランクですか!?ワイバーンと同じではないですか!」


「そうだ。危険度が分かったか!リズ!あいつらに伝えてくれ!作戦中止。直ちに戻るようにと……生きていたらな……くそっ!」


「はぁ。ちょっと行ってきます」


その言葉を最後にリズベスは姿を消した。


「くそっ!見積もりが甘かった!無事でいてくれ」


ロックジョーは、持っていたコップを握りつぶした。


〜〜〜


ー同時刻ー


〜蠢きの森 湖畔〜


目の前の脅威に全員が震えていた。


「小銃が……効かない……」


「ウォ〜ン!耳が聞こえない!キンキンいってる」


人間よりも、聴覚の発達したノックとリッキーは、小銃の発砲音により、耳を塞いで悶えている。


「ゼンジ何をしておるのじゃ!!早く次をハッポウするのじゃ!」


千切れた尻尾のような、巨大なモンスターが起き上がり、ジワジワと開き出した。


中身はブラックヴァンパイアとほぼ同じだった。

しかし、完全に開くと驚くほど大きく感じる。

そして鎌首をもたげると、ゼンジたちの真上に吸盤がきた。

同時に雨が当たらなくなった。


「た、食べられるのじゃ!早くハッポウするのじゃ!」


ポーラの他は状況に追い付けず、声を出す事も出来ない。ただ震えて事の成り行きを見届けている。


「ゼンジ!しっかりせい!あの吸盤を撃ち抜くのじゃ!」


ゼンジは、その言葉で我に返ると空の弾倉を外し、予め出していた弾倉をポケットから取り出した。

しかし手が震えて上手く装着出来ない。


『ゼンジ落ち着け!』


メロンにそう言われるが体の震えは止まらず、小銃と弾倉がカチャカチャとぶつかる音が、その場の雰囲気を更に恐怖に落とし込んだ。


「落ち着け!あいつを倒せるのは、お主しかおらんのじゃ!」


ようやく弾倉がはまると、慌てて真上にある吸盤に向けて発砲した。


だが、吸盤に当たると金属音と共に火花が飛び散り、弾丸が弾かれてしまった。


「き、効かない……くそっ!」


ゼンジは連射に切り替えて、再び真上に射撃を開始した。


「おおおおお!!!」


三発では止めず、全ての弾丸を撃ち尽くした。

しかし発砲音と、弾丸が弾かれる金属音が鳴り響いた。撃ちがらの薬きょうが散乱し、硝煙が辺りに充満する。


そして、クィーンヴァンパイアは、無傷でゼンジたちの上で広がっていた。


「ダメだ!!いや、まだだ!」


空の弾倉を取り外し、弾の詰まった弾倉を手に取った。

その瞬間、ゼンジが持っていた小銃が消えた。


「何!?どうした??MP切れ?まさか正当防衛が発動してないのか?くそっ!!!違う、24時間経過したんだ!」


慌てたゼンジは、衣のうから手榴弾を取り出した。


その時、ゼンジの目の前に黄色い液体が落ちて来た。

ゼンジは恐る恐る上を見上げると、巨大なクィーンヴァンパイアの吸盤が開いていた。


「うわぁ〜!これでも喰らえ!」


開いた吸盤の中に、ピンを抜いた手榴弾を投げ込んだ。体内に入ったのを確認し、我に帰ったゼンジは叫び声を上げた。


「逃げろぉ〜!!爆発するぞぉ〜!」


ゼンジは走り出した。しかし焦りと恐怖で足がもつれて上手く走れない。

5秒間が、先ほどとは違い長く感じた。


5秒後、くぐもった爆発音が聞こえ、巨大なクィーンヴァンパイアは大きく後ろに仰け反った。それと同時に吸盤から黒煙が空へ噴き出た。


「ウォーン!やったか!?」


ノックの放つフラグが、音を立てて美しく立った。


巨大なブラックヴァンパイアの腹部が膨らみ、吸盤から黒煙を噴き出した。が、ただそれだけだった。

再び何事もなかったかの様に、鎌首をもたげた。


「効いてないぞ……効いてないぞぉぉぉ!」


ゴードンの叫び声と共に、巨大なクィーンヴァンパイアが勢い良く倒れ込んで来た。


「やばい……」


「ゼンジ〜〜!」


見上げるゼンジに、ポーラが叫び声を上げた。


「バレットタイム!」


ゼンジ以外の時間が、止まったように遅くなる。

ゼンジは振り向き走り出した。そして仲間の位置を確認した。


(ゴードンは大丈夫だ。まずはポーラとノックだ。リッキー待っててくれよ!)


すでに走り出していたゴードンは、クィーンヴァンパイアの落下地点から外れていた。

しかしゼンジを励ましていたポーラと、耳を塞いで悶えていたノックとリッキーはゼンジの側にいた。


「耳を塞いでる!聞こえてなかったのか!三人運ぶのは無理だ!」


ゼンジはすぐ近くにいたポーラとノックを両手に抱え、落下地点の範囲外へと走り出した。


(くっ、間に合ってくれ!)


スローで流れる時間は、あっという間に終わり、再び元に戻った。


「バレットタイム!ハァハァ。重すぎる。ノック待っててくれ」


二人を両手に抱えて走るのは限界があり、ノックを置きポーラを抱えて走り出した。


「ハァハァ。バレットタイム!頼む間に合ってくれ!」


ゴードンの隣にポーラを置くと、ノックの元へ急いだ。


「ハァハァ。バレットタイム!ハァハァ」


ノックを抱えると、すぐさま振り向き走り出した。


「バレットタイム!ハァハァ」


クィーンヴァンパイアは、すでに手の届く所まで来ていた。


「バレットタイム!嫌だ!頼む!間に合ってくれ!」


ノックをポーラの隣に置き、今度はリッキーへと向かった。

しかし落下地点の範囲外ギリギリのところで、バレットタイムが切れた。

巨大なクィーンヴァンパイアは、激しい音を立て泥水を巻き上げた。


「バレッ、ぐあっ!!」


ゼンジは、地面に着いたクィーンヴァンパイアに吹き飛ばされた。


地面を転がりポーラたちの前に押し戻された。そして、うつ伏せで止まると顔を上げ、クィーンヴァンパイアを見上げた。


「ハァハァ……嘘だろ……」


「どう言う事じゃ?何故ここにいるのじゃ?何があったのじゃ?」


「くそっ!」


ゼンジは拳を握り、地面に叩きつけた。


ポーラとノックは状況が分からず、瞬きを繰り返した。


「ウォ〜ン!そうかゼンジだな!助かった!」


「よし!立て!逃げるぞ!」


ゴードンは後ずさりをしながら叫んだ。


「ウォ〜ン。待ってくれ!リッキーはどこだ?」


リッキーがいない事に気付いたノックは、ゼンジを見たが、うつ伏せのまま答えようとはしなかった。


「ゼンジ?リッキーは?……まさか……そんな……何故だ!!」


ノックはクィーンヴァンパイアを睨んだ。すると巨大な窪地を残してゆっくりと起き上がった。しかしその窪地にリッキーはいなかった。


「間に合わなかったんだ……すまない」


「ウォ〜ン!どうして俺を助けた!どうしてリッキーを助けてくれなかったんだ!!!」


「助けようとしたんだ……」


ゼンジは、ついさっきまでリッキーが立っていた場所を見たが、そこにはやはり何も残っていなかった。周りの雨水が窪地に流れ込み、巨大な水溜りとなっていく。


「ウォォォォン!!リッキーーーー!!!」


「何やってるんだ!早く逃げるぞ!森に入れば何とかなるはずだ!このままじゃ全滅する!」


ゴードンが叫んだ直後、気怠そうな女性の声が聞こえた。


「はぁ、その通りよ。聞いていた人数よりも一人少ないけど、四人残ったのならマシな方だわ」


突如現れた女性に驚くゼンジたちであったが、ゴードンが嬉しそうに叫び声を上げた。


「リズベスさん!ここにいらしたと言う事はギルドマスターも?」


「はぁ。違うわ、私だけ。ギルドマスターの言葉を伝えるわね。作戦中止!直ちに戻れ!はぁ、立ちなさい死にたくなければね」


「聞いたかゼンジ!さっさと立て!ギルマスがいないなら無理だ!逃げるぞ!」


「嫌だ!リッキーの仇を討つ!みんなは先に逃げてくれ!」


泥だらけのゼンジは立ち上がり、衣のうから手榴弾を取り出し次々と投げ出した。そして小銃を出現させると安全装置を『レ』に切り替え、ブラックヴァンパイアに照準を合わせた。


「自分は残る。さあ、早く行け!」


「はぁ。それは無理だわ。この子はクィーンヴァンパイアと言って、ブラックヴァンパイアの上位種なの。はぁ。今の貴方たちには太刀打ち出来ないわ。もちろん私もね」


「うるさい!うわあああああああ!!!」


ゼンジは引き金を引き、全ての弾丸を撃ち尽くした。それと同時に、全ての手榴弾も爆発した。


しかし無常にも無傷のクィーンヴァンパイアが、ゆっくりと近付き始めた。


(女神様、こちら自衛官、

完全に自分の失敗です。どうぞ)

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