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70 蠢きの森の異変


「おい!ノックこの野郎!言葉には気をつけろよ!ギルマス怒らせたら命が幾つあっても足りんぞ!」


前を歩く二人は森へ入った途端言い争いを始めると、鼻息の荒いゴードンはノックの肩を殴った。


「ウォ〜ン。殴るなよ。悪かったよ。俺も死んだかと思ったよ……」


「ギルマス?」


ゼンジは、新しいワードが出て来たので聞き返した。


「「っ!?」」


ゴードンとノックは、ビクッと跳ねて振り返った。


「そのギルマスってギルドマスターの事か?ギルドマスターって何なんだ?」


ゴードンは声が裏返った。


「ビビらせるなよ!!ギルマスが居るのかと思っただろ〜が!!……おほん!知らないのか?ギルマスってのはな、冒険者ギルドをまとめるギルドの長だ。デカい街には必ず一人いる。功績を認められたり、偉業を成し遂げた奴がなれるんだが、当然強い!そして滅多な事が無い限り表には出てこない」


「だったらロックジョーさんはどうして、ラムドールの村に来てたんだ?」


「それはギルマスが言ってただろ?客として来たって。あのギルマスは、かなりの酒好きで有名だ。そしてラムドールには、ちょっと名の知れた名酒があるんだが、残念ながら今は酒どころじゃない」


「だから機嫌が悪かったんだな?」


「ウォ〜ン!今日は良い方だ!名酒が飲める可能性が出てきたからな。だからゼンジ!俺たちの身の安全の為にも必ず成功させてくれよ!」


ゼンジはポーラと目を合わせ、後ろを歩くリッキーに同情した。


「リッキー。お前も大変だな」


「もう慣れましたよ。いつもの事なんで」


でも、それが楽しいんですよと付け足すと、舌を出して笑った。


〜〜〜


「おらっ!!っとこいつで最後だな。しかしやはり森の様子がおかしい。虫どもが少な過ぎる」


ゴードンは、軽自動車サイズのダンゴムシに、トンボの羽が付いたモンスターの群れを蹴散らした。


「ウォ〜ン!少なくて良い!キモい!こいつらは何のために生きてるのかも分からない!」


「ノック!少しは働け!」


「ウォ〜ン!ウォ〜ン!虫はキモい!」


「確かに気持ち悪いな。小さけりゃそこまで無いんだが、こうもでかいと鳥肌が止まらないよ」


ゼンジは身震いをして腕を摩った。


「そんなこと言って甘やかさないでくれ!ノック!何もしなければ襲われて食われるぞ!早く慣れろ!」


ゴードンは、舌打ちをして剣を背中の鞘に仕舞うと、腰に下げている、なたのようなナイフを取り出し、邪魔な蔦や枝を斬りながら歩き始めた。


「ポーラは平気そうだな」


「私は大丈夫です。虫は嫌いじゃないですよ」


ポーラは微笑むと、ゴードンの後をついて行った。

それを見たゼンジはボソリと呟いた。


「エルフは虫とも話せるのかな?」


「二時の方向から八体向かって来ます!動きは遅いので、おそらく角芋虫です!」


リッキーのスキル〈気配察知〉は、生物の気配を探知して場所を特定するスキルである。生物のいる方向、距離、数、そしてレベルが上がれば、強さ、種類、などが分かるようになる。


「お!何か出て来たぞ!」


乗用車サイズの芋虫が、木の影からノソノソ現れた。緑を基調とし、シマウマのように黒のラインが入っている。しかし頭部は赤。そこから名前の通り、先の尖った立派な角が生えてはいるが、後頭部から後ろに向かっている。


「デカッ!しかも何だよ長いあの角は!後ろに生えてるぞ!」


ゼンジは角の向きに疑問を抱いたが、リッキーがその謎を解いてくれた。


「あれはレッドイーターに襲われないためですよ」


「なる程な!空から襲われない為なのか」


「ウォ〜ン!ツノイモムシだ!あいつはオオノミの次に嫌いだ!」


「つべこべ言わずに行くぞ!」


「イモい!イモいから嫌だ!」


ノックは、持っている斧を地面に刺してその場に座り込んだ。


「おいおいおい!!ノックこの野郎!早々に戦闘放棄してんじゃねぇ!ちったぁ加勢しやがれ!」


「ゴ、ゴードン!すまん!生理的に無理!イモ過ぎて、ち、力が入らないんだ!ウォ〜ン!分かるだろ」


「毎度毎度座り込んで!成長しねぇなぁ!そこで座って待ってろ!」


「イモいには、ツッコまないんだな……」


ゼンジは苦笑した。

イモい、を見事にスルーしたゴードンは、颯爽と駆け出し片手剣のロングソードを鞘から抜いた。


「スラッシュ」


鮮やか。この一言に尽きる。


ゴードンが放った一撃は、斬られた角芋虫自身も分からないほど、洗練された見事な技である。


次の角芋虫へと走り出すゴードンを、たった今斬られた角芋虫が追いかけようと振り向くと、その反動で赤い頭がズルリとずれ落ちた。


「あの技カッコいいよな!自分にも出来ないかな?」


「出来ると思います。剣を振り続ければ、誰でも剣術を覚える事が出来るので。ただし職業によっては、10年かかる方もいるらしいですよ」


「じゅ、10年!?暇つぶしのつもりでやらないと泣くに泣けないな!」


「皆さん気をつけて!!急速に近付く気配が一つあります!」


後ろのリッキーが声を荒げた。


「方位を教えてくれ!!」


前を見たままゼンジが叫んだ。


「10時、いや12時。早すぎて分かりません!」


ゼンジは大楯を構え、軽く左を向いた。


「分かりました!上です!」


「何っ!」


ゼンジは慌てて上空を仰いだ。刹那、大きな影が急降下して来た。それと同時に、ゼンジの顔に木の枝が当たり、ロックが解除される音を耳にした。


「痛っ!」


直後、太腿に携帯していた拳銃を取り出し上空に構えた。


「バレット……」


それは殺気を撒き散らし飛来する、レッドイーターだった。しかし急降下の先は、先程ゴードンが斬り落とした角芋虫の頭であり、両足で掴むとゼンジを睨みつけた。


「ゼンジ!」


ポーラが声を上げると、レッドイーターは再び空へ舞い戻った。


「ビッッッックリしたぁ〜!!!本当に赤いのを狙うんだな!」


「ビックリしたではないのじゃ!こっちがビックリじゃ!何故ハッポウせんのじゃ!一瞬の判断ミスが命取りになるのじゃ!」


『ポーラの言う通りだぞゼンジ!』


ゼンジはその言葉を飲み込むと、頭が無くなった角芋虫を見た。


「だけど今のは、明らかに芋虫の頭を狙ってたぞ」


「今回はそうかもしれんが、油断はするなって事じゃ!」


『そうだよ!実力に見合わない力を持つ者が、陥り易い事なんだ。油断は禁物だよ』


「……確かに……そうだな。強くなった気でいたよ。ポーラ、メロン、ありがとな!肝に銘じるよ」


『ん?ん?ゼンジどうした!?熱でもあるの?頭でも打った?義務が発動してるのか?素直過ぎる!雨でも止むんじゃないの?」


「本当じゃ!変じゃ!偽物のゼンジじゃ!」


「喧嘩売ってんのか!俺がまるで頑固な奴みたいな言い方して!」


「そうであろう?」


『そうだよね?人の話聞かないし』


「お前らそこに直れ!その曲がった根性、自衛隊方式で真っ直ぐに正してやる!まずは喋り方!」


「冗談ですよ。ねぇメロンちゃん」


『そうだよ!ムキになるなんて認めてるようなもんだよ』


「お前ら連携完璧か!作戦会議の時に、悪口の打ち合わせもしたのか?大体なぁ……」


「お〜い!こっちに来てくれ!」


ゴードンは、八匹の角芋虫を既に倒していた。


「ゴードンさんが何か見つけたみたいですね!行きましょう!」


『ゼンジ〜置いてくよ〜』


「完全におちょくってるだろ!」


ゼンジはポーラの後を追いかけた。


ゴードンは全員集まると、木の付け根を顎で指した。


「これを見ろ。トマトビートルの角だ!やっぱり喰われてる!リッキー気を付けろよ!そろそろブラックヴァンパイアが出てくるぞ!」


「もう捉えてます。11時の方向です!逃げましょう!」


「ウォ〜ン!どうしたリッキー、やばそうか?」


「兄さん!やばいなんてもんじゃ無いよ!最悪の状況だよ!十匹以上いる!」


「!?」


「一箇所に集まって動いてないんだ!ギルドマスターも無理するなって言ってたよ!逃げましょう!」


リッキーは顔を引き攣らせノックに懇願するが、ゴードンが待ったをかけた。


「だがその反応がブラックヴァンパイアとは限らない。違うか?実際に目で見て確認してからでも遅くはないだろう。周囲の警戒を怠るな!前進する!」


「ちょっと待ってくれ!この赤い角はトマトビートルの角で間違いないんだな?」


ゼンジはゴードンに確認した。


「ああそうだ。赤いだろ?トマトビートルは全身赤いからな」


「そんな事言ってるんじゃない!この角の大きさから考えると、芋虫と同じサイズじゃないか?」


「角芋虫より小さいが、角を合わせると大体そんなもんだ。でも大丈夫だ。こいつは大人しいからな」


「そうじゃない!ブラックヴァンパイアはこいつを喰うんだよな?だったらこいつよりデカいのか?」


「そりゃそうだ!ワイバーンに寄生するくらいだからな」


「そりゃそうだ。じゃないだろ!ヒルは小さいからバレずに寄生するもんだろ?デカかったらバレバレじゃないか!そんなヒルいるか?」


「ウォーン、それもギルマスが言ってただろ!珍しいヒルだって。ゼンジはビビって話聞いてなかったのか?」


「お前が言うな!!!」


「ゼンジの言う通り、その辺の情報は聞きませんでしたね。大きさとか強さとか。私はてっきり弱いと思っていたのですが、実際はどうなのですか?」


ゼンジが聞きたかった事をポーラが代弁してくれた。


「大きさは、角芋虫、二匹分だ」


「しかしマンティコアに比べたら弱い。俺たち三人だと苦戦するが、勝てるな」


ノックに続きゴードンが答えた。


「微妙だな。デカいのが十匹以上となると、この人数だと囲まれるんじゃないか?」


「それはない。動きが鈍いから大丈夫だ。いざとなれば余裕で逃げれるさ」


「そうか……それなら確認だけでも出来そうだな。行ってみるか」


「ウォ〜ン!ゼンジがいれば問題ない!」


「おだてるなよ。油断は禁物だ。気を引き締めて行こう!」


ノックの言葉に気を良くしたゼンジは、足取り軽く前進を始めた。


ゴードンの説明を聞き、作戦続行を決断したゼンジだった。

しかしこの判断が既に慢心だった事に、ゼンジはまだ気付いてはいなかった。



(女神様、こちら自衛官、

ポーラは自分の事を、頑固者の分からず屋だと思っていたのですね?結構ショックです。どうぞ)

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