表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/114

62 終わりの始まり《Side.黒魔女天使》


笑顔が絶えない日々。

いつもの楽しい日常。


しかし、双子の声を皮切りに、それは突然終わりを迎えた。


「「何だあれは!?」」


ボッコスとバッコスの重なる声が響き渡る。


「スピードを上げます!」


「いや、城に戻ります!」


ボッコスとバッコスが珍しく違う反応を示した。

そして、馬車の速度が上がり始めた。


「どうしたの?」


右側のカーテンを開け、外を除いたヴァニラの目には、見たこともないモンスターが空に漂っているのが写った。


そこには、夜の闇より深く、馬車よりも大きな黒い煙の塊が並走していた。塊には、丸い二つの濁った白い光が揺らめいていた。それはまるで、目のように馬車を伺っていた。


「あ、あれは何?」


ヴァニラは黒い煙の塊にある、二つの光と目が合った。その光が赤く発光した途端に、体が動かなくなった。


『ミツケタ……』


すると、ヴァニラを見つけて喜んでいるかのように、二つの赤い光を細めて、黒い煙の塊がグングン近付いて来る。


「かっ、くっ!」


体の自由が効かなくなったヴァニラは、どうすることもできなかった。

唇の色は既に紫。しかし、大切なリップは落としてしまった。


「お嬢!下がってください!」


フランはカーテンを閉めて、ヴァニラを引っ張り自分の後ろに隠した。


「ダメだ追いつかれる!」


「いや、だから言ったんだ城に戻ろうと!」


ボッコスとバッコスが叫んだ直後、馬車に衝撃が走る。

何かに引き裂かれた音が車内に響き渡った。

そして、立て続けに激しく揺れた。


「お嬢ぉぉーーーーー!」


フランはヴァニラを庇うように覆いかぶさった。


「フラン!お嬢はご無事か!?」


「いや、お前のせいだぞ!ボッコス!」


今まで息の合っていた二人が、珍しくいがみ合っている。


「ボッコス!バッコス!言い争ってる場合では無い!もっと急ぐのだ!馬車ごと谷底へ突き落とされるぞ!ボッコス!バッコス!」


オブラートは、外の二人へと声をかけたが、既に遅かった。


「手遅れだ!回り込まれた!」


「いや!まだ間に合う!引き返すんだ!」


その言葉と、何かが爆ぜた音が聞こえた直後、馬車の速度が落ち始めた。右側の窓から前方を見て、渋い顔をしたオブラートは、並走する煙の塊に対して、モノクルのハートを引いた後、すぐさまカーテンを閉めた。


「お逃げ下さい!彼奴はガーランドレイス。上位のアンデッドです。このままでは全滅です。私奴が残って囮りになります!フラン!お嬢を頼んだぞ!命に代えてもお守りしろ!無理な時は、お嬢だけでも逃がすのだ!お嬢!私奴共に何があろうとも、お逃げ下さい!」


オブラートは懐から赤色のお札を取り出し、右側の扉を蹴り開けると、扉の枠に手を掛けクルリと回って天井に登った。


フランはオブラートが開けた扉から外を見た。

馬車を引く太いベルトは切れており、二人の御者は、二匹のバイコーンとともに姿を消していた。


「お嬢!飛び降ります!」


悲痛な叫びと共に、フランはヴァニラを抱えて外へと飛び出した。

しかし飛び出した瞬間、何かに弾かれて中へと戻されてしまった。


「うっ!」


周囲を見回すと、ぶつかって来た物がオブラートだったことに気付いた。


「オ、オブ、ラート……」


麻痺しているヴァニラは、声を出すのが精一杯であったが、その目には大粒の涙が溢れていた。


オブラートは、額から上が無くなっていた。


そしてオブラートの後から、ガーランドレイスが車内に入って来た。


『……ヨウヤク、ミツケタ。キサマノ「チ」ヲ、ヨコセ』


ガーランドレイスが、煙の一部を腕のようなモノに変え、更にそれを獣のような、三本の長い鉤爪に形を変えてヴァニラを斬りつけた。


「!?」


大量の血飛沫が辺りを赤く染めた。


ヴァニラの目の前に、フランが飛び出し仁王立ちで立っていた。


「お逃げ……くだ…さ…い」


フランは手に持っていた液体を、ヴァニラに掛けた。

その後も、何度も何度も斬りつけられたが、フランは倒れなかった。


「クソが!ハァハァ、動ける、ように、ハァハァ、なって来た!」


『サァ「チ」ヲ、ヨコセ』


ガーランドレイスは鉤爪を、細い棘に形を変えた。そして、フランの心臓を貫いた。


「フラァーーーン!」


それはフランを貫通させ、そのままヴァニラの頬を切った。

ヴァニラの血に触れた棘の先端が、紫色に発光した。


『オオ!コレダ!コノ「チ」ダ!モットヨコセ』


「お、おのれぇ!か、体の、ハァハァ、自由が効かない!みんな、ごめんね、ハァハァ、ホワイトリップを、塗らなかったから、ハァハァ、でもみんなの、死は無駄に、しない!」


ヴァニラは頬の血を、震える右手の親指で拭き、首にかけているペンダントに付けた。


「みんなが守ってくれた、ヴァニラの血を、お前にこれ以上渡さねぇ!」


その言葉を最後に、ペンダントが輝き、ヴァニラはペンダントの中に吸い込まれた。そのペンダントの鎖を、使い魔のベティが咥えて飛び去った。


『オノレ……ニガスモノカ』


棘を鉤爪に変えると、飛び去るベティへと振りかざした。

ベティは翼にダメージを負いつつも、必死に羽ばたきその場を後にした。

しかしガーランドレイスは、黒いウゾウゾを体から切り離すとベティに向け飛ばした。

ベティは上昇して紙一重でかわしたが、口から下がるペンダントに当たる事を余儀なくされた。それがペンダントに当たると、美しかった赤い宝石が黒く濁った。


『ニゲラレタカ。ダガ、マァイイ「チ」ハ、テニイレタ』


ガーランドレイスは、獣のような鉤爪を更に巨大な禍々しいモノに変えた。

そしてそれを、馬車の床に向かって振り下ろした。


馬車は床を失い橋ごと破壊され、そのまま谷底へと落ちて行った。


〜〜〜


「さて、一眠りするか」


ジュドウは左端の、一番豪華な棺にある突起物に触れた。

白い煙の演出が、不気味さに拍車を掛ける。


「ん?この音は……ベティか?もう戻ってきたのか?これは……血の匂い!!」


血だらけで飛んで来たベティは、部屋の入り口で力尽き、その場に落ちてしまった。


「どうした!?何があったのだ!」


弱々しく頭を上げるベティの口には、ヴァニラが身に付けていた、銀の十字架のネックレスがあった。しかしそれは黒く変色していた。


「ヴァニラは無事かぁ!!!」


気を失ったベティは、反応を示さなかった。

ジュドウは左手の親指の爪で、左手の人差し指に斬り傷をつけ、流れ出た血をベティにかけた。


「済まないがここにいてくれ。傷も治るはずだ」


先程開けた棺の中に、傷だらけのベティを寝かせて蓋を閉めた。


「魔眼!血界」


ジュドウの目が赤く輝き、周りの景色の色を消した。

その中に、ベティから流れていた、血の痕跡だけが赤く浮かび上がり始めた。


「無事でいてくれ!」


ジュドウは白い霧となりその場から消えた。


〜〜〜


数秒後、崩落した橋の上空に、白いマントを翻しながら、谷底を睨みつけるジュドウがいた。


しかしその顔には、間もなく顔を出す朝日の薄明が当たり、ジュウジュウと音を立てて、火傷が広がり始めていた。


「何ということだ……大量の血の痕跡が谷底へと向かっている……」


再び霧へと姿を変えたジュドウは、直後、崖下に姿を現した。


「オブラート!ボッコス!バッコス!何が起きたんだ……」


馬車の周りには、三人の執事たちの無残な姿があった。そこに生きている者はいなかった。

そして、下半分が無くなっている馬車の地面には、大量の血が流れ出ていた。


「……ま、まさか……まさか」


フラフラとした足取りで馬車まで歩き、震える手で扉をこじ開けた。

そこには無数の傷を負い、両目は潰れ、心臓にぽっかり穴の空いたフランの亡骸があった。


「フ、フラン……」


地面に膝をつき、冷たくなったフランを強く抱きしめた。


「誰の仕業だ……ヴァニラはどこだ!!」


大切な四人の死と、辺りに充満する血の匂いとで、ジュドウは理性を失う寸前であった。

周囲を見渡すが、ヴァニラの血の痕跡が途絶えていた。


「ヴァニラの痕跡が消えている……何者かに連れ去られたのか!?こ、この馬車の傷跡は……まさか!……おのれぇ!イヌどもがぁぁぁ!!」


車内の至る所に、三本の鉤爪の跡があったのを見たジュドウは、シルバーウルフ族に襲われたのだと勘違いをしたのだった。


「ヴァニラーーーー!!!」


三人の血に触れたジュドウの服は、真っ赤に変色していた。更に日の光を浴び、目から血の涙を流しながら、娘の名前を叫び続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ