58 ヴァンパイアの娘《Side.黒魔女天使》
オブラートにテーブルクロスを持って来てもらい、体に巻いて毛布の代用とした。元々毛布も代用なのだが。
ジュドウに遅れること数分。
通路を進み、地下へと続く階段を降りた。
階段を降りた先には、一直線に通路があった。しかし奥の方は暗くて見えなかった。
一つ目の扉が開いていたので、その中を見るとジュドウが立っていた。
中に入り確認すると、意外と広かったが、気味の悪い物を見つけてしまい、視線はそれに釘付けとなった。
ヒメの視線の先には、七つの黒い棺が並べられている。
「このコフィンだ」
ジュドウは一番右端にある、棺の蓋の突起物に触れた。
棺の蓋の隙間から、密閉を解除したような音が聞こえ、大量の冷気がそこから出てきた。
その後、蓋は自動で動き完全に開いた。
棺の内側には、柔らかそうに膨らんだ、赤いベルベットが敷き詰められている。その上には、胸の前で手を組んだ女性が眠っていた。
「彼女がフランだ」
フランと言われた女性の髪は、肩まである茶色で、目を閉じていても美しいと分かる顔立ちである。
しかし、ボッコスとバッコスのように、髪の付け根から顎にかけて、縫合の跡が左右両方にあった。皮膚の色は薄い緑色である。
服装もまた彼らと似ており、黒いコートを羽織っている。コートの内側の生地は赤で、襟を立て、腕の裾は肘の手前まで曲げてあった。黒い革の手袋の指は切れていて、全ての指が出ていた。いわゆる、フィンガーレスの手袋である。ズボンは緑色で、裾はコンバットブーツの中に入れていた。寝ているので定かではないが、身長は180センチほどで肢体はスラリと伸び、豊かな双丘が紺のシャツの胸の部分を、内側から苦しそうに押しのけて自己主張していた。
「今にも目覚めて、私の娘と共に、楽しそうに摘んできた花を持ち帰る姿が目に浮かんでくるのだ」
「娘さんも生前は、フランさんと仲が良かったのですね」
「私の娘を勝手に殺さんでもらいたいな」
「死んでないの!?」
「死んだとは一言も言っていない。行方不明だ!私はそう信じている。死体を確認してないからな。私たちは何処かで生きている事を願っている」
「どういう事ですか?」
「……四人が事故に遭ったと話したが、もう一人その場にいたのだ……それが私の娘だ。
その事故というのが、ここに来る途中に見えたと思うが、橋の崩落に巻き込まれたのだ。
城を出て直ぐだ。私も一緒に渡っていれば、あるいは行かせなければ、防げたのかもしれない……」
「何があったのですか?」
ジュドウは、静かに目を閉じうつ向いた。
「今からちょうど一年前、イヌどものクソガキが成人を迎えるとあって、パーティーの招待を受けていた。
当時、娘はイヌどものクソガキと仲が良かった。娘は花束のプレゼントをする為に、花を摘みに行くと言って、フランと、執事三人を連れて、早朝から出て行った。その時止めておれば良かったのだ……
私はしばらく混血液を飲んだ後、自分のコフィンで一眠りしようとしていた。
その時、娘の使い魔が、血だらけで戻って来たのだ。私は急いで橋に行くと、橋が崩落した谷の底に、フランと執事三人の死体があったのだ。しかし娘は姿どころか、痕跡すら無かったのだ。
そして馬車には、イヌどもの……爪の痕が幾つも残っていた」
(そんな……ヴォルフさんたちとても優しかったのに……何かの間違いじゃないのかな?)
「イヌどもの仕業で間違いなかったのだが、日光が強くなり始めていたのもあり、奴らの元へ向かうのは諦め、私は急いで四人の死体を城へと運んだ。
そして娘が作った、このコフィンに寝かせたのだ。ここまでが事故の詳細だ」
「それでは娘さんの生死は、分からないのですか?」
ヒメは体に巻いたテーブルクロスで、涙を拭きながらジュドウに問いかけた。
「そうだ、朝になると私は外には出られぬ。そこで、妻を捜索に向かわせた」
「奥様を……向かわせた?」
「そうだ。城に帰ると妻は起きていたので経緯を説明すると、慌てて飛び出して行った」
「いや、そうじゃなくて!奥様は、太陽の光は平気なんですか?」
ヒメが知っているヴァンパイアは、一様に日光が苦手であった。
(太陽の光が効かないヴァンパイアもいるのかな?)
「ああすまない。まだ紹介してなかったな。
妻の名はアユナレス・ムスタカリファ・ドラグ。
エルフだ」
「えーーーーっ!」
「娘は、私とエルフの妻とのハーフなのだ。
妻は当然、日光は平気であり、娘はその血を受け継いでいる」
「ハーフヴァンパイア?ハーフエルフ?ヴァンパイアエルフ?エルフヴァンパイア?どれ??どれも素敵だけど!」
ヒメは、聞いたこともない組み合わせに興奮した。
すると、オブラートが拍手をした。
「いや〜素晴らしい!流石聖女様。適当に言葉を合わせれば、どれかが正解するという安易な考え方。しかし全てハズレです。いや〜素晴らしい」
「じゃあなんて言えばいいの!!ブレンド?」
ヒメは、再び耳まで染めてオブラートに突っかかった。
「好きに呼ぶがいい。今となっては、どうでも良い事だ」
「オブラートさーん!どーでもいーってー!」
とうとうヒメは拗ねた。
しかし、ジュドウはスルーした。
「妻を向わせたのだが、イヌどもは、知らぬ存ぜぬの一辺倒。とぼけて、まともに答えなかったそうだ。私は直ちに根絶やしにしたかったのだが、死んでしまった執事たちを、生き返してやらねばならなかった。
そこで、娘が作り出していた、装置や道具を使って、フランケンシュタインとして、フランを除く三人を復活させることに成功した。
そして我ら四人で、イヌどもの縄張りに向かったのだが、既に奴らは裏の世界に逃げていたのだ。
その後も何度か、ボッコスとバッコスを向かわせたのだが、足取りが掴めなくなっていた」
「そうだったんですね……だったらもう……」
「ただ、望みはある!使い魔のベティだ。ベティが持ち帰ったネックレスから微かに、娘の血の痕跡が見えるのだ」
「使い魔のベティ?モンスター?ネックレス?」
「そうだ。あの日ベティは傷を負い戻ってきた。娘のペンダントと共に」
「それなら、ネックレスを調べれば良いのでは?」
「何度も調べようとした。しかし、触れようとすると、ベティに拒まれるのだ。そしてあの日を境に、ベティはとてつもなく凶暴になってしまった」
そう言うとヴァンパイアは奇妙な話を始めた。
「この屋敷の荒らされようは見ただろう。あれは全て、ベティがやったことだ」
「え?そんなこと……捕まえられないの?」
「触れんのだ!娘が作った物や、様々なアイテムを試してもみた。何人もの魔術師にも見させた。だが、何も、誰も、ベティに触れる事は出来なかった!」
その時、元来た部屋の方から、何かが壊れる音が響いた。
「始まったか。ベティが暴れておる。良い機会だ見せてやろう。ついて来い」
そう言うとジュドウは、通路を引き返した。




