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47 赤【Side.ビニール仮面】


仲間たちに村を託し、先を急ぐアスカは今まさに、のんびりしていた。


「腹ぁ減ったな。イノシシの肉でも貰って来るんだった」


村を出たアスカは幸か不幸か、誰とも何とも出会わず、ただただ川沿いを東に歩き続けた。


丸二日。


それにより、食事にも有り付けないでいた。


たまたま見つけた洞窟の入り口で、寝転がり両手を頭の下に敷き足を組んで、激しくなった雨を凌ぎ休憩をしていた。


「本当!雨止まないなぁ。女神の奴も晴れた場所に転移してくれたら良かったのに。ん?」


入り口に目を向けると、地面にある砕けた岩の幾つかに、奇妙な文字が描かれていた。


その岩の一つが、青く鈍い光を発していた。


「これは。アナライズ!……やっぱりそうだ!」


岩には、直径一メートル程の青い魔石が嵌め込まれていた。しかしそれは禍々しいオーラを発する、アビスサイドの魔石であった。


「デカイな!取り敢えず頂いておくか。圧縮」


アスカが魔石に触れると、魔石が吸い込まれ、穴が空いた岩だけが残った。


『キュウ』


「おっ!悪りぃ起こしちまったか。この世界に来て何だか独り言が増えたんだよなぁ」


『ミ〜』


「ミミも起きた事だし奥に行ってみますか!」


三人が立ち上がると、洞窟の奥から音が聞こえた。


「おい!何か聞こえなかったか?」


『キュ〜!』


キュウが奥を睨みつけ可愛く唸った。


「だよな!また蜘蛛か!?この洞窟の形状からして熊か、もしくは大蛇とかがいるのかも!」


カラコロと小石が転がる音が近付いてくる。

足元を見ると、血痕が奥へと続いていた。


「やっぱり先客がいたのかっ!ここは狭くて危険だ!一旦外に出るぞ!」


滝のような豪雨の中に飛び出すと、洞窟から距離を取り身構えた。


「何も出て来ないな?」


それから少し待ったが、洞窟からは何も出て来なかった。


「でも確かに何かいたよな?キュウ!ミミ!警戒を続けてくれ!このまま出発しよう」


アスカの両肩に飛び乗ったキュウたちは後ろを向き、言われた通り遠ざかる洞窟を注視したが、結局何も出て来ないまま洞窟は見えなくなった。


一寸先も見えないほどの豪雨により、アスカは自分がどこを歩いてるのかさえ分からなくなっていた。


(川はどっちだ?合ってるのか?引き返すか?いや)


「自分を信じろ!前だけ見るんだ!」


自分を鼓舞するように声を張り上げた。すると豪雨で視界不良の中、背後から女性の声が聞こえてくる。


「……どこにいくの?」


(怖っ!振り向いたらダメなやつじゃないか〜)


「振り向くな!前を見ろ!」


キュウとミミは慌てて前を向いた。


「……待って」


アスカは振り向きもせず必死に走った。


(ひぃ〜!何だ今の声は!)


一目散に真っ直ぐ走ると川が見えてきた。


「良かった。こっちで合ってた!」


川沿いまで走ると、今度はそこから東へ向けて走った。豪雨は収まったが雨は普通に降っている。


「ハァハァ、ここまで来れば大丈夫だろ。何だったんだあの声は。お〜怖っ!」


アスカは振り向き洞窟を見たが、豪雨で視界が悪く何も見えなかった。


「しかし腹減ったなぁ……鳥がいるって事は、あの中には魚がいるんだろうな」


川沿いの木の下には、大型の茶色い鳥がいるが、捕まえる術がなく、川の中にいるであろう魚も同様であった。


「あ〜。変身出来たら捕まえる事が出来るのに!」


()()()()と鬱蒼と茂った森があり、雨の影響が少なそうだった。


「あんな森あったっけか?まぁ、雨が凌げれば良いか」


休憩目的でフラリと進路を北に変え、その森へと入って行った。

空腹と雨により疲れ果てたアスカは、肩を落として下を向き、歩くスピードも亀並みに落ちていた。


「腹減ったな……」


森に入ると空を覆う葉っぱにより、雨が当たらなくなった。


「綺麗だな。蛍みたいだ」


森の中には様々な色に輝く、蛍のような光がいくつも漂っていた。


「そろそろ休もう……この木の下だな」


空腹に耐えかね、木の根元で仰向けに寝転がり、いつもの体勢になると目を瞑った。


「ふぅ〜。それにしてもいつ着くのかねぇ〜。そろそろ何か食わねぇと、腹と背中がくっついちまう」


その時、顔に何かが当たり激痛が走った。


「あ痛〜っ!」


アスカは飛び起き振り向くと、木の根元に真っ赤な、りんごが落ちていた。


「あ〜〜!りんご!」


それを拾い上を向くと、もう一つ顔に落ちて来た。


「ぐわっ!いってぇ〜!」


しゃがみ込み顔を抑えていると、周りにボトボト真っ赤なりんごが落ちてきた。

恐る恐る上を見ると、キュウが木の枝を走り回り、たわわに実った真っ赤なりんごを器用に収穫していた。


「りんごの木だったか!運がいいな!ナイスキュウ!でも採る時は言ってくれよ!」


その後、仲間と腹一杯になるまでりんごを食べた。

更に今後の事も考えて、木になるりんご全てを収穫し、超亜空間に送った。


「こんなもんか。それじゃぁ行くか。キュウ!」


木の枝を見上げて活躍してくれたキュウを呼んだ。

その時、キュウが木の枝に弾かれ落ちて来た。アスカは慌ててキュウをキャッチした。


「キュウ大丈夫か!」


キュウは苦悶の表情を浮かべた後、気を失った。

アスカは枝を見上げるが、そこには何もいなかった。


「どうしたって言うんだ!?」


キュウの負傷に苛立つアスカは、りんごの木を足の裏で蹴り付けた。


「くそっ!」


すると突然りんごの木がザワザワと揺れ始めた。


「な、何だ!?」


『赤までは許そう!』


「え?」


何処からともなく低い声が響いた。


『赤までは許す!』


「誰だ!」


キュウを左手で抱えたまま周囲を見渡した。しかし何もいない。


『何故蹴った!』


「何?」


そこでりんごの木を見ると、二つの目玉が瞬きをしてアスカを見ていた。


「め、め、め、め、目がある!?木が瞬きした!」


目の下には尖った枝が鼻のように伸びていた。

更に下には、アスカの足跡のついた場所があり、その足跡が上下に割れると、口のような形になり動き出した。


『何故!口を蹴ったのかと聞いておるのだ!プッ』


「口?うおっ!歯!?」


アスカは飛んできた物を右手で弾くと、それが歯の形をした木である事に気付いた。

木の口の中には歯が生えていたが、前歯が上下合わせて五本折れていた。


「もしかしてその歯、全部俺が折ったのか?ごめんなさい」


『一本だな!他のは昔折れたのだ!』


「そうか。それでも蹴ったのは不味かったな』


『不味かったのか!』


「りんごがか?ゲロ美味かった!」


『ゲロ……不味かったのだな!!ぐぬわぁぁぁぁぁ!』


突然木のモンスターが、空気を震わせるほどの大声で吠えた。アスカは耳を塞いだ。


「くっ!どうした?どうした?」


木はザワザワと揺れると、茶色かった幹が次第に赤く染まり始めた。


「おいおいおい!何する気だやめてくれ!蹴って悪かったよ。りんごも美味かったって言ってるのに。ゲロを付けちゃ不味かったか?いや不味くなかった!美味かったんだ!」


『言い訳など聞き入れぬ!ぐぬわぁぁぁぁ!』


「耳が潰れる!そんなに怒るなよ!謝ってるだろ!聞こえないのか!顔はあっても耳は無いのか!?」


『だ〜れの耳が節穴だぁぁぁ!』


「そんな面白い悪口言ってねぇよ!」


『んんんんんんん〜!!』


幹を真っ赤にして怒り狂う木のモンスターは、頬を大きく膨らませた。すると幹から頬へと赤い色が集まり始め、大きく膨らむ真紅の頬となった。


「何をする気だ!?」


『ん〜!!』


真紅に膨らむ頬を一気に萎ませると、真紅の色が幹を伝って上へ行き、枝へと別れ、たわわに育った真っ赤なりんごが、ポンポンと無数に実り始めた。


『喰らえ!』


「クソッ!数が多すぎる!逃げ場がない!」


キュウとミミを守るように両手に抱きしめ、その場にしゃがみ込んだ。


「……ん?」


何も起こらない事に違和感を覚え、りんごを見上げた。アスカはりんごによる波状攻撃だと思っていたが、無数のりんごは攻撃どころか、美味しそうに揺れている。


『喰らえ!』


「くっ!時間差か!」


『好きなだけ喰らえ!』


「え?」


『自信作だ!』


「は?」


『赤は嫌いか!』


「りんご?」


『出来立てだ!新鮮なうちに喰らえ!』


「……ありがとうございます。ミミ採れるか?」


ミミは、アスカの肩の上で飛び跳ねるが、りんごには届かなかった。

すると木のモンスターが枝を下げてくれた。


『喰らえ!』


「何から何までどーも」


アスカは自ら手を伸ばし、りんごをむしり取るとズボンで擦って齧り付いた。


「ゲロんまい!腹一杯なのにまだまだ入りそうだ!」


『そうか!全て喰らうがいい!』


「その言い方、なんだかおっかねぇなぁ」


しばらくするとキュウは目を覚まし、それに気付いた木に謝られた。なんでも、枝で弾いたのは、りんごを地面に落としたのが許せなかったらしく、お尻をペンペンしたかっただけらしい。


しかしそんな事はお構いなしのキュウは、新鮮なりんごを口一杯に頬張り、頬を真っ赤に膨らませて喜んでいた。



『テランタ村を急ぎ出発したものの、その後はのんびり進むアスカ。水晶玉の中のゼンジは止まっている筈もないのに……しかし旅は順調!雨を凌ぐ為に入った森の入り口で、顔のある木と出会う。気性は荒いが、気の良い、木に、気に入られ、りんごを貰い腹を満たすことができた。

戻れアスカ!目的地は逆だイセカイザー!

次回予告

森』


「赤ってりんごの事かい!イセカイザーレッドかと思って少し期待したのによぉ!」

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