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45 別れ【Side.ビニール仮面】


美人な女性が、鬼の形相で子供たちを叱り始めた。


「さあ、説明しなさい!」


「お母さんごめんなさい」


「母ちゃんチットは悪くないんだ!俺が連れ出したから……」


「お子さん?」


「そうです」


「二人とも?」


「ええ」


「可愛らしいお子さんで……」


アスカのテンションは直滑降で落ちて行った。


「どうして勝手に門を開けて外に出たの!!」


「だって……」


「トムは悪くないの。私がドート草を取りに行こうって言ったの」


「毒消し草を?どうしてなの?」


「だって……母ちゃんを助けてくれたテイマー様が、毒にかかってるって聞いたから……」


「お母さんを助けてくれたテイマー様を助けたくて……村にはドート草はもう無いし……」


「これ……これだけしか見つからなかったけど……テイマー様!お母さんを助けてくれてありがとうございました!」


「テイマー様ありがとう!」


トムとチットは、毒消し草であるドート草をアスカに差し出して頭を下げた。


「お前たち……外に出たのは、俺の為か……」


「トム……チット……あんたたち……」


鬼の形相が仏の顔へと変わった。


「ありがたく頂くよ。これで毒も治せそうだ!」


毒消し草を受け取りポケットにしまった。


「でも!外に出たのは許しませんよ!」


再び鬼の形相になり、子供たちに向かって叱り始めた。しかし、母と子の間にクロたち四匹が入って、子供たちを庇い始めた。


「え?この子たちどうしたんですか?」


子供たちを守ろうとするクロたちを見て、美人な女性が狼狽えている。


「怪我を治して貰ったのが分かるんじゃないか?」


「ワンちゃんたちが……」


アスカの答えに、チットはそう言ってクロに抱きついた。


「可愛い!ありがとうワンちゃん」


「良かったな!怪我が治って」


トムはシロに抱きついた。


「こいつらに免じて許してやってくれよ」


「でも、うちの子たちがした事は、とても許されるような事ではないのですよ。門の結界が壊れてしまえば……この村はもう……」


「そうだな。でも元はと言えば毒と間違われ……いや、毒になってた俺が悪いんだ。俺の毒を治そうとしての事だろ?優しいじゃぁないか!自分の身の危険も省みず、初めて会った他人に、ここまで出来る奴はなかなかいないと思うけどなぁ。叱るなら俺を叱ってくれ!」


子供たちを庇い、男としての器のデカさをアピールしたアスカ。


(俺最高!間違いなく惚れるだろ。人妻だが、これは仕方……)


「じゃあそうさせてもらいますけど!」


「え?マジ?」


「結界が無ければ、この村には戦える……」


「大変だ〜!テイマー様ぁ〜!」


「助かった!!いや、今度は何だ!?」


「また村の外からモンスターの群れが!」


「この村は何なんだ!お前たちはここにいろ!」


アスカはクロたちを置いて村の入り口に走った。



「「テイマー様!」」


アスカの到着を待っていた村人たちが、叫ぶように呼び始めた。


「おお、テイマー様あそこですじゃ!」


ムーアンが言わずとも門の向こうから水しぶきを上げ、モンスターの大群が押し寄せるのが見えた。


「ゲッ!何だあれは!早いぞ!」


地響きとともに現れたのは以前ジャングルで出くわした、ウインドウルフの群れであった。


「ホブゴブリンの群れより多いぞ!マズイ!みんな家に入れ!」


「家の扉は全て燃やしてしもうたのじゃ!逃げ場は無いんじゃ!!テイマー様!」


「ピンチツー」


(魔石が有れば……絶体絶命とはこの事か……

ある!アビスサイドの緑の魔石が!しかしあれは分からない事だらけだ、俺の予想じゃぁ理性を失って全てを攻撃するというのが相場だ!村人がいるここでは使いたく無い……だがしかし……)


思考を巡らせる間に、村はウインドウルフに囲まれた。


「も、もう終わりじゃ……」


門の無くなった入り口から、一頭のウインドウルフがゆっくりと入ってきた。

全身真っ黒で額にはバツ印の傷があり、群れのボスだと言わんばかりの強風を身に纏っていた。


「し、仕方ない!」


アスカはパチンと両手を叩き、黒いオーラが立ち登る緑の魔石を取り出した。


「こいつに賭けるしか無い!」


魔石を持つ左手を胸に当てた。


「変……」


その時、目の前に立ちはだかるボスへ、クロたち四匹が駆け出して行った。


「おい!お前ら待て!」


そのままクロはボスの喉元に飛びかかった。


「クロー!」


しかし噛みつかれたボスは微動だにしなかった。

更に入り口からは、白、茶色、そしてまだら模様のウインドウルフが入ってきた。

シロたちは一鳴きすると、それぞれ同色のウインドウルフの喉元に噛み付いた。


「シロ!チャ!ブチ!やめろぉ〜!」


アスカの悲痛な叫びとは裏腹に、四匹は前足の一撃で地面に叩き伏せられた。


「ワンちゃんをいじめるな〜!」


それを見ていた子供たちがアスカの横をすり抜け、ウインドウルフたちへと駆け出した。


「トム、チット戻りなさい!」


美人な人妻の叫びも聞かず、子供たちはクロの元へと駆けつけた。


しかし、一足遅くボスは鋭利な犬歯が並ぶ口で、クロの首に噛み付いた。


「クロ〜〜〜!畜生!変ん?」


しかし噛みつかれたクロは嬉しそうに尻尾を振り、仰向けになると甘えるような声を出し始めた。


「何だ?様子が変だぞ」


他の三匹も甘噛みされたり、顔を舐められたりしていた。


「仲間か?そうか!親なのか!?」


逃げる事も忘れた村人たちは、震えつつも静かに成り行きを見守っていた。トムとチットも状況が分からず困惑していた。

その子供たちにボスが近付き唸り声を上げ始めた。


「な、何だ!怖く無いぞ!」


「ワンちゃん!い、今のうちに逃げて!」


それを見ていたクロたち四匹が、トムとチットの前に割り込みボスに対して唸り声を上げ始めた。


「クロ……」


クロたちとウインドウルフのボスは、唸り声の応酬を繰り広げた。


『ワォ〜〜〜〜ン!』


その後ボスが遠吠えをすると、全てのウインドウルフがその場に座り込んだ。


『『『『ワォン』』』』


クロたちも、アスカに向き直りお座りすると、嬉しそうに吠えた。


「一体何が起きておるのじゃ……」


「はは……何とかなった…のか…」


クロたちはトムとチットに体を擦り寄せたり、手を舐めたりし始めた。


「良かったなぁお前たち!あれはお前たちの母ちゃんか?」


「ありがとうワンちゃん!ふふふ。くすぐったい」


『ワォ〜〜〜ン』


ボスが遠吠えすると村に入ってきた四匹を残し、全てのウインドウルフたちは森へと引き返して行った。


「ふぅ〜、そうか。こいつらはお前たちの親なんだな」


クロたちに声をかけると、それぞれの親の元へ駆けて行き、ちょこんと横にお座りをした。


「そっくりだな!そうか……よし分かった!お前たち!親の元に帰っても良いぞ!お別れだ!」


しかしクロたちは首を縦には振らず、アスカの元へと駆けてきた。


「親と一緒が良いだろ?無理しなくて良いんだ。行けよ。そうか、ピンクの誘惑のせいだな?おい!魅了の解き方を教えてくれ!」


『説明しよう!

イセカイザーピンクの誘惑により魅了された者は、例えアスカが死んだとしても解けない。故に解く方法は皆無なのであ〜る』


(おい〜!マジか!?そんな理不尽な技、聞いた事ないぞ!本人にも解けないなんて、恐ろしく強烈な技なんだな!グリーンもそうだが……)


アスカが思考を巡らす中、クロたちはトムとチットの元へ行き再びお座りをした。


それを見た、アスカは顎に手を当て目を閉じると口を開いた。


「分かった!お前たちに命令する!俺に変わってこの村を、その子達を守ってくれ!」


『『『『ワォ〜ン』』』』


クロたちは嬉しそうに一斉に吠えた。


アスカは目を開けると今度は、ウインドウルフのボスへと向かい、目の前まで行くとしゃがみ込み、そしてあぐらをかいた。


「良かったらお前たちも協力してくれないか?こいつらはまだ小さくて弱いんだ。ホブゴブリン一体にも、四匹で相手しないと倒せないんだ。頼む力を貸してくれ!」


アスカはボスに頭を下げた。


『グルル』


ボスは頭を下げて低く唸った。


「そうか!やってくれるか!ありがとう!」


アスカはボスの頭を、ワシャワシャと勢いよく触った。


「この傷なかなか格好良いな!そうだ!お前に名前を付けても良いか?」


『グルル』


今度は喉を摩れと顔を上げて唸った。望み通り喉を摩ると嬉しそうに目を細めた。


「お前の名前はクロスだ!」


『ワォ〜〜ン』


一吠えするとアスカの頬を舐めた。


「くはははっ!宜しくな!」



『ピンクの能力を使わずとも魔獣を手懐ける事に成功したアスカ。それは子を思う親の心か。はたまたボスの目の奥に、薄いハートが浮かんでいたのか。それは誰にも分からない。

行けよアスカ!愛と共に!

次回予告

指針』


「クロたちと別れたくない!寂しいよぉ〜!」

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