44 さらば【Side.ビニール仮面】
けたたましく鳴り響く警報音に、アスカはパニックを起こしていた。
(ビービーうるせぇな!分かってるよ!
このピンチどうする?
後5回!体は動かないし助けを呼ぶか?
後4回!いや、村人たちは絶賛拍手喝采中!情けない真似は出来ない!
後3回!嗚呼。まだ見ぬ色のイセカイザーたち。
後2回!そうだ!アビスサイドの緑の魔石!くっ手が動かない!
後1回!異世界の美女たちよ!さらべ!あっ噛んだ……)
最後の警報が鳴り終わると、轟音と共に見張り台がイセカイザーグリーンを押し潰し崩れ落ちた。
イセカイザーグリーンが潰されるのを目の当たりにした村人たちは、先程までの祝賀ムードから一変、氷漬けにされたように一瞬で固まった。
「え?」
ムーアンは覚束無い足取りで瓦礫の山に近寄った。
「テイマー様……きっとあの緑の人は心優しきテイマー様だったのじゃろう。ありがとうございます。テイマー様!!」
涙を流し大声で叫ぶムーアンの後ろから、アスカの声がした。
「呼んだか?」
「うわっ!テ、テイマー様?ご無事でしたかっ!」
「どうした?死人でも見るような顔して」
その時、瓦礫が爆散した。
「何じゃ!!」
瓦礫の中立っていたのは、なんとイセカイザーグリーン。
イセカイザーグリーンは歓声を上げる村人に、両腕でガッツポーズをし無事をアピールした。
「おおぉ!緑の人!ご無事でしたか!はて?ではテイマー様ではなかったのじゃな?」
「俺も川で溺れてる所を彼に助けてもらったんだ」
「そうでしたか。ではあのお方は一体どなたなのじゃ?」
「知らん!!」
そして村の外を向き、頭だけ振り向かせると一言鳴いて去って行った。
『キューン!』
バシャバシャと泥水を巻き上げ、あっという間に見えなくなった。
〜〜〜
時を遡る事、最後の警報が鳴り響く頃……
最後に噛んでしまい、全てを諦めかけたアスカの目の前に、イセカイザーグリーンが現れた。
(何っ!)
『キュウ!』
「キュウなのか!?」
イセカイザーグリーン(キュウ)は、イセカイザーグリーン(アスカ)を素早く抱き上げて、猛スピードで村の中に走った。そして村人から見えない小屋の裏に降ろすと、再び崩れる寸前の見張り台の下へ自ら飛び込んだ。
「キュウ!助かったよ」
緑に輝き変身が解けたアスカは、小屋の陰から顔を出した。
「グリーンの顔もピンクに負けず劣らずだな!格好良い!」
村人たちの意識が、崩れ落ちた見張り台に集中しているのを確認して、コソコソと泥棒のように村人の後ろへ出て行った。
そして何事もなかったかのように、ゆっくりと前に進み、ヨタヨタと歩くムーアンの後ろに並んだ。
「テイマー様……きっとあの緑の人は心優しきテイマー様だったのじゃろう。ありがとうございます。テイマー様!!」
(バッチリ勘違いしてるな。キュウナイス!)
「呼んだか?」
「うわっ!テ、テイマー様?ご無事でしたかっ!」
「どうした?死人でも見るような顔して」
(今だキュウ!)
瓦礫が弾け飛んだ。
「何じゃ!!」
煙が引くとイセカイザーグリーン(キュウ)が万歳をしたまま立っていた。
(おいおい!その登場はダサいぞ!ポーズだ!ポーズを取り直せ!!キュウ)
「おおぉ!緑の人!ご無事でしたか!はて?ではテイマー様ではなかったのじゃな?」
「俺も川で溺れてる所を彼に助けてもらったんだ」
(せめて、戦っての方が良かったかな)
「そうでしたか。ではあのお方は一体どなたなのじゃ?」
(俺だ!!って言いたい!)
「知らん!!」
イセカイザーグリーン(キュウ)は歓声を上げる村人に、両腕でガッツポーズをし、無事をアピールした。
(ムンムン!じゃねぇーよ!それもダサいだろ!)
そしてクルリと後ろを向き、頭を振り向かせると一言鳴いて去って行った。
『キューン!』
(馬鹿!声を出すな!しかもそこは「さらば」だろ!)
バシャバシャと泥水を巻き上げ駆けて行き、あっという間に見えなくなった。
(おいおい格好良く飛んで去れよ!そうか、キュウは喋れないし、飛べないんだったな。だが、ギリギリ助かったよ!ありがとなキュウ)
「良かった……一時はどうなるかと思ったのじゃが、緑の人のお陰で村の者も、大切な子供たちの命も守られたのじゃ」
「お、おう!俺も助けられた」
(クソ〜!実は俺でした〜って言いてぇ!)
「じゃが……門がこのような状態じゃと、またいつモンスターが襲って来るやも知れぬ」
「そうだな……復旧までは気が抜けないな」
「復旧は無理なのですじゃ。門を建て直しても、そこに結界の呪文を施せる者など、もうこの村にはおらんのですじゃ」
「何だって!じゃあ門が完成しても、またモンスターに襲われたら簡単に村の中に攻め込まれるって事か?」
「その通りですじゃ」
(何てこった!魔石は無いぞ。ホブゴブリンがまた攻めてくるかもしれないのに……だがまあ、それまでにさっき倒した奴らの魔石を回収しておけばいいか)
アスカは門の周囲に横たわる、上下に別れたホブゴブリンを見て、ある異変に気付いた。
「まさか!」
ムーアンには聞こえないように、左手でイヤーカフを触り小声で聞いた。
「おい!ホブゴブリンの魔石まで真っ二つってことはないだろうな!?」
『説明しよう!
「グリーンデスサイズ」がロックする場所は急所。いわゆる魔石であり、技が発動した場合、風の大鎌が魔石を一刀のもと両断する必殺技なのである』
「しまった!!!」
「どうかされましたかのう?」
(何だって!じゃあ魔石は一つ残らず真っ二つかよ!外の奴も、体に風穴開けて後片も無いからな……いや待てよ、クロたちが最初に倒した奴と、グリーンで倒した三匹がいるはずだ!)
アスカは、みずぐるま亭に向かって走り出した。
「テイマー様!」
ムーアンに呼ばれたがそれどころでは無いアスカは、答える事なくその場を後にした。
『キュ〜!』
走っているとキュウが追いついてきた。
「戻ってきたな!助かったぞキュウ!ありがとな!っておい!お前その尻尾!」
キュウの尻尾が三本に増えており、増えた尻尾の先の色は緑色であった。
「可愛いな!それより大変なんだ!」
言葉を交わしつつも走り続けた。
みずぐるま亭の前では、救助した美人な女性がクロたち四匹を介抱してくれていた。
「テイマー様ご無事だったのですね!先程はありがとうございました。この子たちにも命を救われました」
美人な女性が、頬を赤らめて上目遣いで言った。
(これはワンチャンあるかも!)
「いや、いいんだ!貴女が無事で何よりだ!一つ聞くが、ここにあったホブゴブリンの死体はどうしたんだ?」
三体の死体は後片も無く消えてしまっていた。そして先ほどまで水溜りのようになっていたミミが、元気を取り戻しアスカの肩に飛び乗ってきた。
「それでしたら、お仲間のスライムさんが食べてましたけど……」
「何ぃ!三体全部か!?」
「いえ、あちらにあったのも含めると四体です」
アスカは、口をパクパクさせて肩に乗るミミを見た。
ミミは得意げに地面に降りると、グニャグニャと姿を変え始めた。
「きゃー!ゴブリン!」
ミミは姿をホブゴブリンへと擬態した。
「どういう事だ!?」
『説明しよう!
ミミックスライムの擬態は吸収した対象、もしくは捕獲対象の思考を読み取る事で擬態する。そして弱点等に擬態し油断させたところで、攻撃、吸収する際に使用する。また、危機を回避する際にも使用するのだ』
「そういやぁ、それ確か前に聞いたな……吸収ってそういう事だったのね。魔石が……」
『ミミ〜』
腰に手を当て胸を張り、誇らしそうに鳴くホブゴブリンのミミを見て、アスカは深いため息をついた。
「ミミが元気になったから良しとするか……でもその姿でその声は止めてくれないか」
『ミミ!』
再びグニャグニャと形を変えて元の可愛らしい姿に戻った。
そこに先程の子供二人が、両手に瓶を持って、たどたどしく走って来た。
「ハァハァ、テイマー様これを使ってください!」
「ポーションだ!ハァハァ、その狼に飲ませてくれよ」
「サンキュー助かる!」
アスカは子供たちからポーションを受け取り、クロたちに飲ませた。すると見る見るうちに傷口が塞がり元気を取り戻した。
「トム!チット!あんたたち勝手にどこ行ってたの!!」
「母ちゃん……」
「か、母ちゃん!?」
(ワンチャンは無かった……さらば美女)
『キュウの機転により、全ての危機を回避したアスカ。二人のイセカイザーグリーンの活躍で、村にも再び平安が訪れたのであった。
しかしアスカは魔石も美女の心も、何一つ手に入れる事が出来なかった。
ドンマイアスカ!ノーチャンイセカイザー!
次回予告
別れ』
「安定の悪口で安心したよ!!」