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42 風【Side.ビニール仮面】


「やめろぉ〜!」


目の前で仲間が次々と倒されるのを見て、頭に血が上り身体が熱くなるのを感じた。素早く手を叩き、緑の魔石を超亜空間から取り出すと、右手でキャッチしてそのまま走り続ける。


(やめてくれ!)


咄嗟にキュウとホブゴブリンの間に割り込み、左腕でガードした。それを見たホブゴブリンはニタリと笑い、上げている棍棒を振り下ろした。

アスカは全身に鳥肌が立った。それはホブゴブリンの気色悪い笑みによるものか、迫り来る棍棒の結果が見えていたのか、はたまたその両方か。


(死ぬ…)


骨の折れる音が体を伝い耳に届いた直後、予想していたよりも激しい衝撃を受け、上げていたはずの左腕が、ダラリと振り子のように揺れているのをアスカは呆然と眺めていた。


「ぐああああ!」


死が頭をよぎった。

経験したことのない痛みを受け、全ての思考が吹き飛んだ。


『キュウ…』


キュウの声が耳に届き、まだ生きていることに安堵した。飛びそうな意識を手繰り寄せ、その意識をホブゴブリンに向けると、棍棒を横に構え次の攻撃態勢に入っていた。


(ヤバイ!変身しないと!)


「へ」


フルスイングを左腕に受け、肋骨の砕ける音を聞き、手繰り寄せた意識を再び手放しそうになるのを、歯を食い縛り必死にこらえた。


しかし、アスカは力無く回転しつつ、放物線を描きながら川へ飛ばされた。


(ラッキー……)


川に着水する寸前で、アスカは胸に当てた右手に力を入れた。


「変……身」


そのままの勢いで頭から川へと落下した。


「テイマー様ぁ!!」


遠くでアスカを呼ぶ声が聞こえる。

激流に川底まで押し付けられたアスカの体が、緑色に輝き出した。


(聞こえてるさ……俺は大丈夫だ!)


瀕死の怪我を負っていた体には、先程までの痛みが嘘のように無くなっていた。

アスカは折れていた左手を握り締め、輝くその手を見つめた。


(変身出来た!バレてない!傷も治った!しかしここで川から出るのは不味いな。このまま少し流されるか。みんな無事でいてくれ!)


視界の悪い激流に身を任せたアスカは、川がカーブしたのを感じてこっそり水面へと顔を出した。


「よし!誰もいないな……ガボッ」


しかしその直後、頭に何かが当たり水中へと押し戻された。


(何だ!?)


咄嗟に頭に当たった何かを掴んだ。それは板のようなもので、次の瞬間勢い良く水面へと引き揚げられた。


「これは!」


頭に当たった物は水車の水受け部分であり、あっという間に水車の頂点まで運ばれた。


「あらららららららららっ!」


激流を受け勢い良く回る水車の上で、大玉に乗るピエロのように手をばたつかせながら走り始めた。

そこで初めて自分の体を確認したアスカは、歓喜に震えた。


「超格好良い!」


イセカイザーグリーンも、やはり緑をベースにした姿で、肘まである手袋、膝まであるブーツ、身長と同じ長さのマフラー、全て緑であった。肘、膝等関節の部分は黒、腕輪の金色はグリーンでも健在だ。


「良い!…マフラー以外は…マフラー長過ぎ」


そしてピンク同様、胸や腰、肩にはデザインは違うが、薄い緑の鋼鉄のアーマーが付いていた。

顔は見えないが、触った感触では風のように流れるフォルムのようだ。


「モチーフは風だな!良い!」


視線を落とすと、蔦に囲まれた家が見えた。


「みずぐるま亭だ!」


そのまま村の入り口へと視線を向けると、門からは黒煙が上がり、その向こうには無数のホブゴブリンが押し寄せていた。


「ヤバイ!門が燃えてる!」


門の手前では、燃え上がる門に向かって薪や家のドア等の可燃物を運び、火を絶やさないようにしているように見えた。


「なる程!火で通さない作戦だな!」


そして更にその手前では、アスカが川に落ちた後、村人たちは一斉に逃げ出しており、残されたのは三体のホブゴブリンに囲まれた女性とキュウたちがいた。


「ヤベッ!遊んでる場合じゃぁなかった!」


川岸に向けて飛び降りると、体の違和感に気付いた。


「体が軽い」


川岸にフワリと降り立つと仲間の元へ急いだ。


「待ってろよ!今行くからな!」



〜〜〜



一方その頃、主人を失ってもなお、気絶した女性を守ろうと震える足で立ち上がり、ホブゴブリンを威嚇し続けるキュウたちは既に限界であった。ミミは水溜りと区別がつかなかった。


『ゲギャギャギャ』


ホブゴブリンは自分よりも小さく弱い相手を痛ぶるのを好む。恰好の餌食であるキュウたちは、時間をかけて遊ばれていたのだが、結果的にそれが良かった。


不気味な笑い声を上げて飛び跳ねるホブゴブリンと、力無く威嚇するキュウたちの間に、一陣の風が吹いた。


そこにいる者は皆、突然の風に目を閉じた。


風が止み目を開けると、キュウの目の前には緑の長いマフラーをなびかせる、イセカイザーグリーンが背中を向けて立っていた。


「悪りぃ。待たせたな。もうちょい待っててくれ」


イセカイザーグリーンはその言葉を置き去りにして消えたかと思うと、ホブゴブリンたちの後ろからキュウたちに向かって歩いて来た。その足元には急ブレーキを掛けたのか、二つの深い窪みが並んでいた。そして微動だにしないホブゴブリンたちの間を通り、キュウの前でしゃがみ込み抱き上げた。


「俺のMPを吸収して回復するんだ」


『キュ〜ゥ』


キュウは淡い光を放つと、傷がみるみるうちに無くなり元気を取り戻した。


「よし!ここまで全て作戦通り!」


アスカの言葉にツッコむ者は誰もいなかった。


仲間を見ると傷だらけでボロボロになっていた。

ミミに至っては雨の中、何処にいるのか見分けが付かない。


(すまない。俺に治癒能力があったら……)


「さてと、お前たちはここで彼女を守っていてくれ」


『『『『ウォン』』』』


『キュウ』


『ミー』


「おっ!ミミそこにいたか。無事みたいだな。みんなここを動くなよ!キュウ、後は頼むぞ!」


そう言い残すと、イセカイザーグリーンは風と共に村の入り口へ走った。その風を受け三体のホブゴブリンは、ようやく倒れる事を許されたのだった。


イセカイザーグリーンは、左手でマスクの側面に触れた。


「ところでグリーンの能力は何なんだ?」


『説明しよう

イセカイザーグリーンの能力は、風を自在に操る事が出来るのである!射程距離は半径100メートルである』


「だろうな!分かってたが意外とシンプルだな。体が軽く感じたのは風を操ってたからだろ?試してみるか」


走りながら自分の周りに風を纏うイメージをした。


「体が軽い!!」


一度地面を蹴ると、体がフワリと浮き上がる感覚を覚えた。



〜〜〜



時を同じくして門の前では、村人たちが火を絶やさぬよう木材を運び続けていた。


「もうダメだ!」


「門が壊れるぞー!」


外枠の見張り台を残し、門の扉が大きな音を立てて崩れ落ちた。


「燃える物をもっと持ってこい!」


「やってるよ!家を壊して運んでるだろうが!」


「雨が邪魔しやがる!」


怒号が飛び合う中、雨の力には逆らえず、火の勢いが徐々に弱まり、とうとう消えてしまった。


「火が……」


「みんな村の奥に逃げろー!」


その声が引き金になったのか、門の前に積み上げていた木材が弾け飛んだ。

一瞬時が止まり門を注視する村人たちは、誰かの悲鳴を合図に逃げ始めた。


とうとうホブゴブリンの群れが、村に雪崩れ込んできたのである。門を埋め尽くし、溢れるホブゴブリンたち。そこはまさに地獄絵図であった。


『ゲギャギャギャ』


「うわー!逃げろー!」


「キャー!えっ?」


逃げ惑う村人の間に一陣の風が吹き抜けた。


村人が振り向くと、ピタリと動きを止めたホブゴブリンたちの目の前に、長いマフラーをなびかせる、緑の何かが立っていた。


「何だ?」


「おい!君逃げろ!死にたいのか!」


緑の人は右手を上げ、手のひらをホブゴブリンへと向けると、左から右へ流れるように移動させた。そして手のひらを上へ向け握り締めた瞬間、全てのホブゴブリンが、上下真っ二つに割れ、その場に崩れ落ちた。



『運良くイセカイザーグリーンに変身したアスカ。

大勢のホブゴブリンを瞬く間に倒した。

後に村人たちは、この日の事を「みどりの日」と言い、後世まで語り継いだと言う。

闘え!

国民の祝日戦士イセカイザーグリーン!

次回予告

必殺技!』


「ゴールデンウィークかよ!!」

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