表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/114

4 上官の命令に服従する義務



ゼンジは目を見開き、真っ先に大声を出していた。


「む、無職じゃないの!?異世界来てまで自衛官!?どういうこと!?」


「うるさいぞ。静かにせんか!」


(この状況で静かにしてられるか!)


「了解!」


(何だ?逆らえないぞ!王の威圧感のせいか?)


「この者、勇者ではないのだな。間違いないか?」


アーノルド王は焦ら立つように、ロイン宰相を睨んだ。


「は、はい。間違いありません。ジエイカンという聞いたこともない職業です。勇者にしては、ステータスも低過ぎます」


ロイン宰相の答えに、ゼンジは怒りを覚えた。


「そんなの嘘だ!魔法は?モフモフを仲間にする大冒険は?自衛官?も、元だろ?今は違うんだよ!そ、そうだ転職すれば職業変更できるんだよな?どこの神殿に行けば良いんだ!」


パニックになったゼンジに、アーノルド王は叱責する。


「職業の変更など一生出来ん!転職など聞いたこともないわ!この戯けがっ!!」


アーノルド王の怒声に、他の者たちは顔を伏せた。


「己で確認してみよ!ステータスオープンと言えば自身のステータスが確認できる」


「そんな恥ずかしいこと出来るか!」


「貴様、誰にそのような口を聞いているのか分かっておるのか!やるのだ!」


「了解!ステータスオープン」


(くそ!どうして言う事を聞いてしまうんだ!まさか操られてるのか?)


突然、目の前に透明なウィンドウが現れた。


ーーーーーーーーーーー

名前 : 鏡 善士

種族 : 人間

分類 : 異世界人

属性 : 異属性、火属性

年齢 : 22

性別 : 男

職業 : 自衛官

階級 : 2等陸士

Lv : 1

HP : 21/21

MP : 19/19

攻撃力:23

防御力:25(+7)

素早さ:17

知 能:15

器用さ:18

幸運値:10

装 備 : 地球の服(防御力+2)、地球のズボン(防御力+3)、地球の靴(防御力+2)

アクセサリー : 地球の腕時計

スキル : 言語理解、迷彩戦闘服、警棒、大楯

自衛官の誇り : 上官の命令に服従する義務

ーーーーーーーーーーーー


(本当だ……自衛官でした…しかも2等陸士って陸自だろ……ん?『上官の命令に服従する義務』ってのがある。これのせいで逆らえないんじゃ?)


【上官の命令に服従する義務とは、自衛隊法によるもので、隊員は、その職務の遂行に当っては、上官の職務上の命令に忠実に従わなければならない。というものである……】


ゼンジは目の前が真っ暗になった。


(どうしてこうなった?

この短期間で目の前が白くなったり、黒くなったり慌ただし過ぎる。一度整理しなければ)


アーノルド王を含め、目の前の人間たちが、ゼンジに向かって何かを言っているが、それどころではないゼンジの耳には、何も入っていなかった。


(あの時、女神様は言った。剣と魔法のファンタジーな世界に転移させると。そして、好きなギフトを与えると。

間違いない!確かにそう言ったんだ。ここまでは良い。問題はここからだ。


自分は職業は選ばなかった。無職で良いと言った。女神様も了解してくれた。…はずだったのに!


どうして自衛官?しかも、上官の命令に服従してるし!騙されたのか?…そう言えば、あの時女神様は……

『自衛隊さんは自衛官だったのですね』

って言ってたな。ま、まさかあれは、

『自衛隊さんは無職じゃなくて、自衛官が希望だったのですね?』ってことか?)


「やりやがったな!絶対わざとだろぉ〜!」


「……カン!…ジエイカン!」


(アーノルド王が何か言ってる……)


「ジエイカン、聞いておるのか!!!このワシを馬鹿にしおって!許さんぞ!」


アーノルド王は、この世の者とは思えない形相でゼンジを睨みつけ、怒りを露わにしている。


すると王の後ろから、白銀に輝く、美しい鎧を身に纏った男が前に出てきた。


「我が王に対する不遜な態度!死を持って償え!」


そう言ったかと思うと一瞬にして消え、次の瞬間にはゼンジの目の前に現れた。

ゼンジは驚き体を反らす。

それと同時に左顔面に激痛が走った。


「がはっ!」


『ガチャッ』


金属音が頭の中で響いた気がした。


男の拳は空を切ったが、それでも風圧によるダメージで、ゼンジはその場に倒れてしまった。口の中を切ったのか、鉄の味がする。


「運の良いやつだ。しかし安心しろ。次で死ねる」


(また死ぬのか?どうして…)


ゼンジは死の覚悟も出来ないまま、立ち上がる事さえ出来なかった。


「助けてくれ!誰か助けてくれぇ!」


周りを見渡すが、ゼンジを睨み付け、誰一人として動こうとはしなかった。


「頼むやめてくれ!やめてください!女神様!助けてください!ビニール仮面!黒の魔女!どこにいるんだ!誰でも良い助けて!助けて…」


死の恐怖で、恥じやプライドを捨て、必死に叫び続けた。

しかし目の前の男は白銀の帯剣を抜き、その切先をゼンジの喉元に当てた。


「待て、ギルダーツ!楽に死なせてやるな」


「御意」


ギルダーツと呼ばれた男は剣を収め、再び一瞬で王の後ろに下がった。


「無様だな。勇者でもない貴様など必要ない!とっとと自害せよ!」


その言葉を聞き、自然と涙がこぼれ落ちた。


(勝手に勘違いしたくせに、とんでもない事を言ってやがる!その言葉はダメだ!上官の命令に服従する義務が発動してしまう!!)


「了解!喜んで」


(ほらヤバイ!)


ゼンジの体は、その意思とは関係なく、勝手に壁に向かって歩き出した。


(止まれ!止まってくれ!)


そして、壁に飾ってある剣を手に取り、無表情で自分の首筋に当てた。

一筋の血が首を伝った。


(し、死ぬ…)


「チッ。待て」


アーノルド王が舌打ちをしてゼンジを睨みつけた。


「死ぬのはやめろ。ワシの城を貴様の汚い血でこれ以上汚すのは許さん。クソッ!死にたい奴を死なせるのはつまらんな」


「了解」


(た、助かったぁ)


剣を首から離し、無表情のままその場に落とした。


アーノルド王は苛立ちを隠すかのように、右手で髭を触り始めた。そして何かを思いついたのか、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべた。


「一瞬でも気を抜くな。寝る事も許さぬ。死に恐怖せよ」


歪んだ顔でゼンジに告げると、今度はロイン宰相に指示を出した。


「苦しんで死ねるように、いっそ無防備な状態でモンスター共に襲わせてやる!こいつの身包みを剥いで、ゴルヴァルナの森に捨てて来い。

勇者も聖女も当てにならん。予定通りロベルトを北に向かわせろ!」


「仰せのままに」


ロイン宰相が頭を下げると、アーノルド王は踵を返して神殿から出て行った。


(何なんだこの世界は……どうして簡単に人を殺す事が出来るんだ?)


命は助かったが、ショックで何も考えることができなかった。


その後ゼンジは、その場でパンツ一枚になるまで服を剥がされ、両手をロープで縛られた。


そしてロープの先を騎士が引き、パンツ姿のまま馬小屋まで連れて行かれた。

騎士は、角がニ本生えた黒い馬のような何かに跨り、ゼンジに繋がったロープを持って、ゆっくりと雨の中を進み始めた。


城門を潜り街に出た。


夕方の街は人気が多く喧騒であったが、騎士を見るなり静まり返り、左右に避けて一本の道が出来た。


しかし、ゼンジを見るなり何処からともなく笑い声や、罵声が飛び交い始めた。


(くそっ……くそっ!何なんだこの国は)


怒りや悲しみ、悔しさ等の負の感情が思考を覆い、その後の記憶は曖昧であった。

街の門を通過した事も分からない程に。


気が付いた時には、薄気味悪い森の中にいた。



(女神様、こちら自衛官。

いきなり窮地ですけど。とんでもない場所に転移したんですけど。これも全て、ビニール仮面のせいですね。どうぞ)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ