表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/114

38 蚊とカブトムシと鳥


「護衛はしますが、一つ条件があります。自分の能力を口外しないでもらえますか?」


ゼンジはテープルから貰った、硬いパンをかじりながら言った。


「勿論です。ハウンドドッグの皆さんと、リオさんもそれで良いですか?」


ハウンドドッグの三人が頷いた後、うつ伏せから解放されたゴードンが答えた。


「俺たちも当然、他言はしない」


「……」


リオもコクンと頭を下げ、続いてゼンジも軽く頭を下げた。


「有難う助かります。ところで、村まではどれくらいで着くんですか?」


「そうですねぇ。順調に行けば、今日中には着くのではないでしょうか」


「了解。それと、人数はこれで全員ですか?」


「全員です…今回Dランク冒険者八名を含めた、二十名に護衛を依頼したのですが、ここに残った五名以外は…マンティコアに…」


「そうですか…でも何故マンティコアの森に入ったのですか?」


「実はこの囁きの森に入る予定は無かったのです。通常であれば、ここより東にある街道を通るはずでした」


「通常であれば?」


「そうです。私たちは隣村まで仕入れに行く必要があり、行きはその街道を通り町まで行きました。

しかし商品を仕入れて、いざ帰ろうとしたところ、行きには無かったモンスターの残骸が続いていたので、不審に思い偵察を出しました。

偵察の報告によると、街道の真ん中で二匹のワイバーンが道を塞いでいるとのことでした」


「ワイバーンって何だ?」


ゼンジは再び小声でメロンに聞いた。


『小型のドラゴンだよ』


メロンも小声で答えた。


「ワイバーンが?ワイバーンの生息地は、山岳地帯のはずですが?」


ポーラがすかさず問いただした。


「そうなんです。何故ワイバーンが平地に、しかも二匹もいるのか。理由は幾つか考えられます。餌が無くなって探しに来た。脅威から逃れてきた。つがいで出産の準備をしている。単に降りてきただけ。他にも考えられますが、どれも憶測なので詳細は分かりません」


ゼンジとポーラは顔を合わせ小声で話した。


「脅威だな…」


「脅威ですね…」


二人はブラックドラゴンを思い出していた。


「街道は森に挟まれています。反対の東側にも森があるのですが、そこは虫系のモンスターが溢れる、蠢きの森です。

東か西か迷った挙句、どちらの森もEランク冒険者には厳しいという、Dランク冒険者からの提案もあり、一度町へと引き返しました。

ギルドでDランク冒険者を更に四人と、丁度そこに居合わせた奴隷商の友人から、金貨一枚で十日間リオさんを借りる契約をして、西側にあるこの囁きの森に入ることにしました」


「彼女はその町で雇ったんですね」


「そうです…当初、出くわすモンスターはゴブリン一、二匹だったので、冒険者の方々が対処してくれていました。予想よりもゴブリンが少なく感じました。しかし原因は直ぐに分かりました。一匹のオークが、大勢のゴブリンと戦っていたのです。私たちは好機と思い、気づかれない様に通過しました」


「ゴブリンとオークは、縄張り争いでもしてたんですか?」


「それは分かりません。そもそもこの森には、オークはいないはずです。ただ、ゴブリンが少ないのは良かったのですが、普段より静かな森では、私たちの馬車の音はかえって大きく、マンティコアに遭遇する確率が増えてしまいました」


「これだけの大所帯だと目立ちますからね」


ゼンジは六台の幌馬車を見回した。


「ええ。案の定マンティコアに遭遇しました。冒険者の方が手こずっている間に、次第に数が増え始め、三匹を超えたところで、Dランクの冒険者が一人また一人と倒れていきました。

最終的にはリオさんの結界で、一時的に難を逃れましたが、それもMPが切れるまでの時間稼ぎ。

死が目前まで迫っていた所をゼンジ殿に助けて頂いた次第です。結果的にリオさんを借りて良かった」


「そもそもどうして引き返さなかったんですか?」


「私たちは積荷を、一刻も早く町に持ち帰らなければならないのです……」


そこまで話すとテープルは下を向き、言葉を詰まらせた。


「ウォ〜ン続きは俺が話そう」


ノックが神妙な面持ちで話し始めた。


「町は今、かなり危険な状態なんだ……」


「どう言うことだ?」


「俺たちの町は蠢きの森に面しているんだが、本来町の中には決してモンスターは入って来ないんだ。しかし、何が起きたのか分からないが、今はモンスターで溢れかえっている」


「虫が森から出てきたのか?」


「そうだ。普段は絶対に蠢きの森から出て来るはずのない、バルーンモスキートが発生してるんだ。

このモンスターは普段、トマトビートルというモンスターの体液を主食としている。そしてトマトビートルは森の中心にある、湖の畔に生息している。

だからバルーンモスキートも同様に、湖から離れないはずなんだ。

森の中で何かが起きてるとしか考えられない。今思えばワイバーンもその前兆なのかもしれないな」


「森を調査したのか?」


「ウォ〜ンとんでもない!あそこの森は虫系のモンスターがウジャウジャいるんだぞ。キモいだろ!」


「は?そんな理由?」


「重大な事だ!俺たち獣人は虫が大嫌いなんだよ!特にオオノミ!あれはダメだ!見た目もキモいし、取りつかれると痒くてたまらないんだよ!取りつかれたらどうするんだ!」


「自分に怒っても意味ないだろ!だったら何でその森の近くに住んでるんだよ!」


「それは俺たちの町と、森の境目に育つ、黄金のマタタビのためだ。

ウォ〜ンあれは最高に旨いんだ!しかも虫どもは、黄金のマタタビが苦手で近寄りもしない。所詮虫!あの芳醇な香りが分からないんだ」


「お前は猫か!!」


「特にあれで作った酒は格別だぞ」


「その話はもう良いよ!つまり自分がバルーンモスキートを駆除すればいいんだな?」


「無理だ」


「そんなに強いのか?」


ノックは首を横に振った。


「どちらもFランクだ」


「もしかしたら、大量発生してるとか?」


ノックは再び首を振った。


「バルーンモスキートは弱くて、普段は大人しいモンスターなんだ。しかし危険を感じると、大きく膨らんだ体を萎ませる。それと同時に大量の毒を噴き出すんだよ。

その毒を吸うと、トマトビートルのように体が赤くなってしまう。そして赤くなったやつから、バルーンモスキートは血を吸い始めるようになるんだ」


「攻撃出来ないのか?」


「そうだ。血を吸われても動く事が出来ない。ウォ〜ン何故なら、攻撃すると毒を吐き出すから身動きが取れないんだよ」


「赤くなった人たちはどうなるんだ?」


「どうもならない。ただ赤くなるだけだ。だが、血を吸われ続けると、徐々に弱り死に至る」


「だったら赤くなるのを覚悟の上で、全員で攻撃すれば全滅させる事が出来るんじゃないのか?その後解毒すればいいんだろ?」


「ウォ〜ン。一つ忘れていた。毒を吸うと動きが遅くなる。麻痺の軽いやつだが、バルーンモスキートよりも遅くなるから、攻撃が当たらなくなってしまう」


「なんだそりゃ!手出し出来ないじゃないか!」


「ウォ〜ンさっきからそう言ってるだろ!だから毒を吸ってない俺たちは、解毒薬を大量に仕入れる必要があったんだ。急いで戻らないと手遅れになってしまう」


「なる程、解毒薬を飲みながら攻撃して、全滅させるんだな?」


「違う。死にそうな者を治療するんだ。薬が無くなったら、また護衛として仕入れに同行する。それしか方法がないんだよ……」


「全滅させた方が早いだろ」


「それは出来ない。均衡が崩れるのさ……

トマトビートルにはレッドイーターという天敵がいるんだ。しかしこの鳥は毒に弱いから、バルーンモスキートを避けて捕食している。

だからトマトビートルには体液を吸われても、間接的に守ってくれるバルーンモスキートが必要なんだ。つまり、バルーンモスキートを全滅させてしまうと、赤くなった人間をレッドイーターが襲い始める。

こいつの強さはマンティコア級だ。そいつらが群れで上空から狙っている。俺たちはもう、バルーンモスキートと共存するしか他に道がないんだ。

既に八方塞がりなんだよ……」


「……状況は分かった。町に向かいながら解決策を考えよう」


「ウォ〜ン。すまん。だが解決策など無いのは分かってる。解毒薬を届ける事だけでもしたいんだ…」


食事の前とは打って変わって、雰囲気が悪くなってしまった。


話を終えた一行は、無言のまま町へ向かい始めた。



(女神様、こちら自衛官、

蚊とカブトムシと鳥。謎の三すくみ、何が何だか分かりません。どうぞ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ