36 伏せ撃ち
「頼む!この通りだ!」
「ウォ〜ン!その力を、商人たちを救うために貸してくれ!」
麻痺が解けたニ人の冒険者は、その場に立ちゼンジにひたすら頭を下げていた。
「分かったから、ちょっと待ってくれ!馬車は、何匹のマンティコアに襲われたんだ?」
「五匹だ!そのうち四匹がコッチに来てたとすると、残り一匹かもしれないし、まだ他にも増えているかもしれない!しかし、あんたの強さは尋常じゃない。頼む!商人たちを救うために、一緒に森に入ってくれ!」
「護衛がいないのなら、商人の乗った馬車は既に全滅してるんじゃないですか?」
ポーラがもっともなことを言った。
「一人残ってるんだ」
「結界士が結界を張って守ってるはずだ!」
「結界士?」
「そうだ!だが急がないと間に合わないかもしれない!」
「分かった!行こう!」
四人は森へ向けて走り出した。
ゼンジは小声でステータスを確認した。
「ステータスオープン」
ゼンジは、自身のステータスを確認した。
(スキルは新たに防毒マスクを覚えてるな。これいるのか?その内使うこともあるのかな?有るに越したことはないけど……弾は後、四発か……弾が無くなると毎回新しい小銃を出すのか?でも、MP消費はどのくらいだ?)
ゼンジは、指に嵌めてあるトランシーバーのボタンを押して小声で話しかけた。
〔ザッ「CPO、小銃の消費MPを教えてくれ」ザザッ〕
〔ザッ『マスター、小銃の消費MPは50です』ザザッ〕
(消費が激しいな、MP50はちょっと……そうだ!弾だけ出す事は無理なのか?)
〔ザッ「CPO、小銃の弾だけ取り替える事は出来ないか?」ザザッ〕
〔ザッ『マスター、弾倉をイメージすれば、消費MP15で新たに出現します』ザザッ〕
「弾倉!」
目の前に30発入りの弾倉が出現した。
「ナイスCPO!」
弾倉をポケットにしまい、代わりに干し肉を出して口に放り込んだ。
森に入り注意深くかつ、早足で進んで行くと、それは聞こえてきた。
「こっちに来て〜!」
「そっちは危ないよ〜!」
気味の悪い、嘲笑う囁きが聞こえたのである。
「聞こえるな。一匹じゃないみたいだ」
「見えてきました!」
「そんな……」
幌馬車は数台固まって停まっており、その真下の地面には、大きな魔法陣が広がっていた。その外周から真っ直ぐ空へ向かって、光が立ち上っていた。光の影響で、中の様子はあまり確認出来ないが、馬車と馬車の隙間から魔法陣の中心で、一人しゃがんでいるのが視認できた。
そしてその外周を、七匹のマンティコアが時計回りに、ゆっくりと回っていた。
「な、七匹もいる!」
ノックは無意識に後ずさった。
「やっぱり引き返そう……残酷な事を言うが、あれは無理だ」
そう言うとゴードンも一歩下がった。
目の前の光景に、冒険者二人は絶望していた。
「あれが結界だな?ここから狙う!下がって伏せてくれ」
ゼンジは皆にそう告げたが、ゴードンは納得しなかった。
「聞いてなかったのか!?あれは無理だろ!七匹もいるんだぞ!」
「言われた通りにするのじゃ」
冒険者たちは渋々その場に伏せた。
ゼンジは小銃から二本の脚を出し地面に固定すると、自分も寝そべり伏せ撃ちの射撃体勢をとった。
(一回で狙えるのは、結界の手前に見える四体までだ。残弾数は四発丁度か)
ゼンジはポケットから弾倉を取り出し、小銃の横の地面に置いた。
「耳を塞ぐんだ」
ポーラたちは頷き、耳を塞いだ。
「攻撃したら気付かれるぞ!逃げよう!」
ゴードンは耳を塞がずに反論していた。
しかしゼンジは、その提案を受け入れず、スコープ越しと肉眼との両目でマンティコアに標準を合わせた。
「おい!聞いてるのか!助けてくれと言ったがあれは取り消す!頼む!逃げよう!」
値踏みするかの如く、結界を囲んで歩くマンティコアたち。
三匹は結界の奥、そして四匹が結界の手前に出てきたのを確認したゼンジは、息を吐き出しそして呼吸を止めた。
地面に体をつけている事もあり、心音がやけに大きく感じる。
「ふぅ〜。バレットタイム!」
ゼンジの発声とともに、世界は止まったように遅くなる。
一匹ずつ正確に、そして迅速に射撃を実施した。
四発目の弾丸が銃口から飛び出したのと同時に、世界は再び加速して、元のスピードに戻った。
四発の弾丸は、それぞれ真っ直ぐマンティコアの頭へと向かって行った。
被弾したマンティコア四体は、それぞれ頭を大きく振りその場に崩れ落ちた。
しかし、今回はその威力が仇となった。
四匹のマンティコアを貫通した弾丸は、その奥にある結界にぶつかった。
金属同士が衝突したような、激しい音が響き渡った。
「な、何じゃこの音は!?」
ポーラの声の直後に結界が弾けて消えた。
結界の残痕が、キラキラと美しい粒子となりその場に漂っている。
「えっ?」
「何じゃ?」
『ん?』
「「え〜!」」
魔法陣の中心でしゃがんでいた人影も、立ち上がりキョロキョロと狼狽ている。
そして今まで見えなかった、魔法陣の向こう側にいたマンティコア3匹が、前足を上げて翼を羽ばたかせた。3匹は同時にフワリと浮かび上がり、上空から馬車を物色し始めた。
魔法陣の中心の人影は頭を抱え、再びその場にしゃがみ込んだ。
「好都合だ!バレットタイム!」
再びスローモーションの中、一人だけ素早く動けるゼンジは、予め準備していた新しい弾倉を、素早く小銃に装着した。そして、上空で止まっているマンティコアへと照準を合わせ発砲した。
今度も三匹目に発砲したタイミングで、スローモーションが解けた。
弾丸が直撃した三匹は、その場に落下してピクリとも動かなくなった。
ーパッパッパッパカパ〜ンー
(おっ!レベルが上がった!ペースが早いな!意外とマンティコアは強いのか。それとも経験値を多く持っていたのか。だな)
「…あんた一体何者だ?」
ゴードンはゼンジの強さに驚いて、地面に伏せたまま動けないでいた。
「ウォ〜ンありがとう!ありがとう!」
ノックはお礼を言うと立ち上がり、幌馬車に向かって走り出した。
『結果オーライ』
ポーラはウインクするメロンを抱いたまま立ち上がった。
「いつまで寝ておるのじゃ!さっさと立たんか!」
「喋り方!」
ゼンジは小銃の脚を折りたたみ、その場に立った。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「全然平気だ!自衛官は体が資本だからな」
「それでは結界士の救助に行きますよ」
「そうだな」
ゼンジとポーラはキャラバンの荷馬車へと歩き出した。
「…マンティコアを一撃で葬るあの武器はなんなんだ…見たこともない…まさか!アーティファクト?だとすると高ランク冒険者か?
いや…そうは見えない。積荷を狙う刺客なのか?そうなるとノックはあの調子だから当てにならない。俺だけでも冷静にならないとな」
キメ顔をしつつも、腰が抜けて立ち上がれない、うつ伏せ人間ゴードンであった。
(女神様、こちら自衛官、
やはり冒険者はアホばっかなんですか?どうぞ)




