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32 女神の部屋 《Side.黒魔女天使》


真っ白になった視界が輝き始めた。


「ようこそ。お待ちしてましたよ」


そこには、あの女神がいた。


「私は死んだのでしょうか?」


(失敗したのかなぁ。助けてあげたかった)


「いいえ。あなたは死んではいません。先程の攻撃も、しっかり弾いてますよ」


ヒメは、おでこや顔を触れたが、傷ひとつなかった。


「え?では何故ここに?」


「あなたに与えた職業は何ですか?」


「使者です。でも使者とは何ですか?使者は何故呪いが効かないのですか?」


「単刀直入に言いますと。私の眷属です」


「……」


「要するにあなたは使いの者、私の部下ですね」


「……部下…ですか?」


(どうして私はアンジュ様の部下なの?)


「いいですか。呪いが効かない職業などありません。実は勇者でも、魔王でさえも呪われます。であれば、呪いが効かない私の恩恵を、貴女に与えるしかありませんでした。よって、あなたには全ての状態異常が効きません。あっ、でもそれ以外のダメージは受けるので、注意して下さいね」


驚愕!

使者とは女神の眷属だった。


「そんな職業、聞いた事ありません!」


「あなたが私を煽ったんでしょ?希望通り『チートキュウ』の職業をあなたの為に作りましたよ。『チートNO.9』の職業は、使者です」


「そんな……」


ヒメは、女神のとんでもない勘違いに言葉も出ない。


「はぁ〜〜」


すると女神は深いため息をついた。


「だいたい、貴方たち3人は我がままが過ぎます。

チート職はすでに幾つかあるんです。その中から選んでくれたら良いのに。勇者とか魔王とか他にも有るのに、何にも聞かずにいきなり貴女が説明を始めるし!


無職とか変身ヒーローとか好き勝手言って、挙げ句の果てには『チート9』とか、ナンバー指定までしてくるし。

お詫びだから聞いてあげましたけども!


決まった後に、やっぱり自衛官だ!とか言うし、変身ヒーローの種類は選ばせろとか言うし、呪いが効かないチート職業をナンバー9に作れとか言うし……」


(凄い愚痴られてる……)


怒涛の勢いで捲し立てた後、女神は首を振った。


「ゴメンナサイ。愚痴を言ってしまいました。貴女は私の眷属なので、ついつい」


(なんだか寒気がする…全てアンジュ様の勘違いなのに…)


女神は目を瞑り咳払いをした。


「さて、今回ここに呼んだのは貴女へのサービスです。やはり説明なしに使者は務まりませんからね」


「良かった。使者とは何をすればいいのですか?」


「使者とはつまり伝令です。私の意思をナイナジーステラに伝えて下さい。その使命とは…それは布教活動です」


「ふ、布教活動ですか?」


「冗談です」


女神は片方の口角を上げ、不敵に微笑んだ。


(本気な気がする…)


「まず、貴女に呪いは効きません。それどころか全ての状態異常は効きません。そして貴女が言ったとおり、武器や防具の状態異常に対しても、それは効果が現れます」


「本当にありがとうございます。それはとても嬉しいです。でも、どうしてドレスを着ることができないのですか?」


「いいですか?どんなに弱い装備品でも、攻撃力や防御力等、必ず1はあります。それを装備すると、攻撃力や防御力が1になり、状態が変化してしまいます。これも一種の状態異常になります」


(な、なんとなく分かってきた……つまり)


「つまり全ての武器や防具は、状態異常が付与されているのと同じです。貴女的に言えば呪われているわけですね。ですから、貴女のリクエスト通り装備品を、そもそも装備出来ないようにしてあります。装備する度に、いちいち呪いを解くのは面倒でしょうからね。言わばこれもサービスですよ」


(や、やっぱり……だからドレスが着れなかったんだ。呪われた装備品を装備しても、呪われないようにって意味だったのに…でも本気で言ってるのかな?一生裸って、どんな罰ですか。女神様なのに、天邪鬼という鬼なのでは??)


「オ、オホン。因みに、アクセサリーは除外します。何も身に付けられないのは、女性として恥ずかしくて寂しいでしょうからね」


(えっ?心が読まれてるのかな?でも、『分かってますよ』的な話し方ですが……裸にアクセサリーの方が変態です。ビニール仮面さんよりも変態です)


女神は笑顔を引きつらせながら説明を続けた。


「これを見てください」


女神は何処からともなく鏡を出してヒメに見せた。


そこに映し出されたのは、深いエメラルドグリーンに妖しく輝く、あのバレッタだった。そしてバレッタからは、透けてはいるがハッキリと見える、緑色の大きなバッタのような頭と右腕が出ていた。


「魔王です」


「えっ?」


「魔王が封印されているアクセサリーを身に付ける事で、彼女には呪いが発動しています。取り外す事も出来ません。他人が外す事も出来ません。しかし貴女だけは別です。貴女には魔王と言えど、力は届きません」


(本当に魔王だったんだ…)


「それなら私がバレッタを取って壊せば良いのですね!」


「そうです。それが出来るのは貴女だけです」


「はい!」


ヒメは高鳴る鼓動を抑えるように、両手を胸に当てて返事をした。


「ですが、一つ問題があります」


「問題?ですか?」


「封印されていたり、取り憑いているアイテムを壊すと、依り代がなくなり中から本体が出てきてしまいます。そうなると、今の貴女では抑える事が出来ません」


(魔王だもんね…)


「どうすれば良いのですか?」


「そうですね。ここからが本題です。貴女の血を分けてあげて下さい」


「血を分ける?」


「呪いは勿論、邪悪なる者も貴女には触れる事すら出来ません。それは、今では貴女が神聖なる立場にあるからです。私の眷属なのですからね」


(だから何もしてないのにウゾウゾを弾いたのか)


「でも今回のように、ただ話しかけて来ただけ、という場合は状態異常には含まれないので、相手とリンクして話す事が出来ます。

しかし気を付けてください。相手が触れる事は出来なくとも、操っている人やモンスター、手から離れた物や魔法は当たります。今の貴女では魔王が投げる石ころや、初級魔法でも簡単に死んでしまうでしょう」


ヒメは身震いをした。


「失礼しました、話が逸れましたね。本題に戻します。貴女の血を相手に付ける事で『契約』する事が出来ます」


「契約…ですか?」


「そうです。契約する事でアイテムを壊す事もなく、相手と闘う事もないので、全て丸く収まります」


「拒否されたらどうするのですか?」


「相手に拒否権はありません。この血の契約は絶対です。そして契約解除も、貴女の方から解除する他、方法はありません。安心して下さい」


(恐ろしい事をサラッと言ったような…)


「少しの血を付けるだけでもいいのですか?」


「そうです。貴女の少しの血と、全てのMPを消費します」


「MP全てですか?」


「安心してください。MPは全て消費しても徐々に回復します。なんなら寝ると全快です」


(何かマジックポイントの説明が雑…)


「そうでした。因みにMPは『メッセンジャーポイント』の略です。

今後、契約者を使役したい場合にも、このMPを消費しますので注意して下さいね」


「メ、メ、メ、メッセンジャーポイント!?

マジックポイントではなくて、メッセンジャーポイントですか?…まさか!わ、私は魔法を使えますか?」


「魔法使い等ではないので、魔法は使えません。使者ですので契約者を使役して下さいね」


「え〜〜〜っ!?い、異世界なのに魔法が使えないんですか?」


「そうですが何か?」


女神は笑顔のまま低い声で答えた。


(ア、アンジュ様怖い…)


「私は眷属使いが荒いですよぉ」


ヒメの背中に冷たいものが走った。


(やっぱり心を読まれた?)


「ですが、な、奈落の王が、私の言う事なんて聞いてくれるんですか?魔王ですよね?」


「貴女の血を与える事で、相手の方から契約を願い出てきますから、貴女はそれを受けるだけです。契約すれば、貴女の言うことを必ず何でも聞きますよ。たくさん使役してくださいね」


「しょ、承知しました!」


(使役ってどうすれば良いのかな?)


「コホン!最後に、使役とは『召喚』をして契約者に頑張ってもらうことと、『アイテム召喚』をして自分が頑張ることの二種類あります。しかし、契約者的には『アイテム召喚』はあまり好ましくないようです。言い方の問題だと思うのですが『憑依』と言えば少しは良いみたいですよ。お好きな方をお使い下さい」


「使者の職業は、アンジュ様が作られたばかりなのに、どうして契約者はその事を既に知っているのですか?」


「それは私が全能だからです」


(説明が面倒だから省いた!)


女神の眉がピクリと動いた。


「それと」


(まだあるの?)


「これが本当に最後です。この玉はお返ししますね」


女神はビー玉の入ったショルダーバッグを、ヒメの目の前に出現させた。


(ビー玉!アンジュ様、ありがとうございます)


ヒメはショルダーバッグを受け取ると、毛布の上から袈裟にかけた。


「いえいえ。このくらいサービスにも入りません」


(心を読むのは確定ですね。ありがとうございますアンジュ様!)


「で、では頑張ってくださ〜い!」



満面の笑みで手を振っている女神がボヤけ始め、辺りが白くなる。


視界が戻ると、いきなり目の前にドアップの魔王が現れた。

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