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31 雪の国 《Side.黒魔女天使》


微睡む意識の中、身体が冷えていくような違和感を感じ、次第に意識が覚醒していく。


(ここは…)


足元には影がなく、全周真っ白だった。


(白い部屋?)


よくよく辺りを見回すと、雪の壁に囲まれていた。

人工的に造られたのかは定かでは無いが、女神の白い部屋と同じような場所だった。


相違点があるとすれば、壁が雪である事と、天井が無いところである。


(雪……)


空を見上げると、赤と青のオーロラが白銀の世界を彩り、幻想的な光景を創り出していた。


オーロラの上には無数に煌く星たちと、向かい合う赤と青の三日月が、異世界の夜の主役は自分だと主張するかのように燦然と輝いている。


その三日月の間から、紫に輝く一筋の星が、ゆっくりと流れて行った。


(…綺麗)


その心の声に応えるかのように、しんしんと雪が降り始めた。赤や青そして紫、ころころと輝きを変える雪たちに、しばらくの間見惚れていた。


(よ〜し!)


異世界での最初の言葉は決めていた。


「ステータスオープン!」


ーーーーーーーーーーー

名前 : 北野 姫

種族 : 人間

分類 : 異世界人

属性 : 聖属性

年齢 : 17

性別 : 女

職業 : 使者

眷属 : 0

Lv : 1

HP : 15/15

MP : 28/28

攻撃力: 5

防御力: 3

素早さ: 7

知 力: 20

器用さ: 11

幸運値: 5(+1)

装備 : なし

アクセサリー : なし

スキル : 状態異常無効

ーーーーーーーーーーーー


ヒメの目の前に、半透明なウィンドウが現れた。


(出たぁー!本当にステータスが出た!)


「職業…使者!?なんだろう?それよりも、えーっと。あった!状態異常無効だ!これで呪われない……アンジュ様、ありがとうございます!」


長年の願いがようやく叶い涙が溢れだした。

涙は頬を伝い、艶やかな首を伝い、胸の谷間を伝い、お腹を伝って行く…


ヒメは素っ裸であった。


「キャ〜〜〜!」


それに気付いたヒメは、叫び声を上げていた。


「どうして!?誰かぁ〜〜〜!」


大声を出したが、誰か来るのは不味いことに気が付いた。


「…誰も居なくて良かった」


ホッとしたのも束の間、急激に体温が下がり震え始める。


「さ、寒い……ハァハァ…何か、あ、暖まる物を探さ…ないと……」


ガチガチと歯を鳴らし、周囲に何か無いか探したが、四方は雪の壁に囲まれており、その先は何も見えなかった。

そして、簡単に外へは出られそうになかった。


「あそこの…ハァハァ…壁の、向こう、に…行けば…ハァハァ…何かある…かも……」


だがすでに体の感覚がなく、思うように歩けなかった。足は凍傷にかかり、皮膚は色が変わってしまっていた。


「ど、どうしよう…ハァハァ…せっかく…異世界…に、き……」


そこで意識を失い雪の中に倒れてしまった。



――――――



パチパチと何かが弾ける音で目を覚ました。


規則的に並ぶ板が、ボヤける視界に入って来た。

どこかの部屋の天井だと理解するまでに、たいして時間は掛からなかった。


「暖かい…」


ベッドで目覚めたヒメは、自分の状況を確認した。


(全身動く!足の凍傷も綺麗に治ってる!傷一つない!裸のままだけど!)


ベッドから上半身を起こし音のなる方を見ると、壁面にレンガ造りの上品な暖炉があった。

その周囲には美しいマントルピースの装飾が施されており、この家の所有者は裕福なのだと想像できた。


ヒメは、暖炉の中で揺らめいている炎を眺めていた。


ドアをノックする音で我に帰った。


「はい!」


驚いたヒメは、元気よく返事をした。そして、ドアは静かに開けられた。


中に入って来たのは、執事のような格好をした初老の男性だった。しかし、その目の色は真っ青で、茶色の髪の上にはなんと、犬耳が付いていた。


(頭に耳が生えてる……)


「£#*@〻?」


(どうしよう。何を言ってるのか全く分からない…言語理解のスキルがないからだよね。言葉は通じるのかな?)


「助けて頂いてありがとうございます」


ヒメはベッドに座ったまま御辞儀をした。


「§%△+Å∞!」


犬耳の執事の手元には、湯気の出ているコップと、パンが乗ったお盆を持っていた。笑顔でそれをヒメに渡した。


(ホットミルクみたいだけど、飲んでいいのかな?)


犬耳の執事が微笑み、頷いたのを確認して、ヒメはホットミルクを飲んだ。


「甘くて美味しい!」


そしてパンを一口かじった。少し硬いが、異世界での初めての食事。それと、死にそうな目に合った事を思い出し、安堵して胸が熱くなり涙が流れ落ちた。


「β¥∬〻Σ?」


犬耳の執事は慌てた表情で何かを言っている。何を言ってるのか分からないが、何を言いたいのかは何となく分かった。


「大丈夫です。ありがとう」


涙を拭い、笑顔を作り、出された食事を食べ終えた。


犬耳の執事は、ベッドサイドテーブルの上にある服を指差し部屋を出た。


(尻尾も生えてる…)


「着替えて良いってことかな?ありがとう御座います」


服を手に取り広げてみると、真っ赤な美しいドレスだった。


「うわぁ!ドレスなんて着たことないよぉ〜」


ヒメは嬉しさのあまり、早速手を通してみた。しかし電気が走ったような音と共に、ドレスは飛んで行った。


「きゃっ!」


ドレスに弾かれたのである。


「何?このドレスに何か仕掛けが!?」


ヒメは恐る恐るドレスを拾いあげた。


手を通そうとすると、再び音を立てドレスに弾かれた。


「痛っ…くない?」


しかし再度手を通そうとしたがやはり弾かれた。


(どうして?何がどうなってるの?)


しばらくすると、ドアをノックして犬耳の執事が入ってきた。

ヒメは、着ることのできないドレスで前を隠した。


「∮&ζ?σΖ=w∝∀」


犬耳の執事は、ヒメを見て何かを言った後、部屋から出るようにジェスチャーをした。


「出ろって事ですよね?この毛布借りてもいいですか?ドレスが着れなくて…」


毛布を体に巻いて、名残惜しそうにドレスを置いた。


犬耳の執事が微笑んだので、毛布を借りたまま部屋の外へでると、左右に長い廊下が続いており、目の前の壁には、白く結露している窓が並んでいた。


手で拭いて外を覗くと、自分が2階にいる事が分かった。そして、手入れの行き届いた広い庭の先に門が見えた。門まで1kmはありそうで、歩いて行くには一苦労だ。


外に気を取られていると、犬耳の執事は歩き始めていた。

ヒメは慌てて後を追った。


長い廊下の突き当たりを右に曲がると、右手の壁には美しい装飾が施された大きな扉があった。

犬耳の執事は、ノックをしてドアを開けた。


しかし、慌ててドアを閉めた。

すると、ドアに何かが当たり割れる音がした。


(えっ?何!?)


次の瞬間、ドアが乱暴に開けられたのと同時に、中から緑色の()()が出てきた。


「ΨνΓγθΦΔχーーーー!!!」


「女の人?」


その()()は、おそらく女性だとヒメは思った。

肌の色は緑色。

顔や手足は痩せ細り、ガリガリ。

白銀の髪は、ボサボサ。

目は窪み、その奥にある眼球は濁った赤色で、両手には皿とナイフをそれぞれ持っていた。


ヒメが女性だと思ったのは、女性が見に纏う服を見ての事である。意外にも貴族のように上品な、エメラルドグリーンの美しいドレスを着ていたのだ。


しかし、年齢までは分からなかった。

少女のようにも見えるし、老婆のようにも見える。


(何だか嫌な感じがする)


ヒメは魔物のようなその女性を見て、一抹の不安を感じた。


「ηκνφβω……⌘λιταΣςσ¢」


四つん這いのような低い姿勢を取り、人間とは思えない形相でヒメを睨みながら、意味の分からないことを叫び続ける。


女性の頭には、ドレスよりも更に深い、緑色のバレッタが着けられている。


なんとそのバレッタから、ヒメが良く知っているモノが出ていた。


「まさかあれは…呪い!」


バレッタからは仄暗いウゾウゾが、まるで生き物のように気味悪く伸びて動いていた。


すると女性から、ガラスが割れる音が聞こえた。


「うっ!」


バレッタとウゾウゾに気を取られていたヒメは、彼女の奇行に思わず目を背けた。


彼女は口から血を流しながら、手に持っていた皿を食べ始めていた。


「*B2#$☆m!!」


同時に、部屋の中から男性の声が聞こえた。

その声の主は慌てて女性の側まで来たが、女性に触れることもせず両手を前に出し、ただ狼狽えていた。


その男性は執事と同じく、眼球は青色で髪の毛が茶色であった。そして、この屋敷の主であろう立派な格好をしていた。


しかしその顔は、今にも泣き出しそうに眉毛を下げて、目はキョロキョロと何かを探しているようだった。


彼にもまた、犬耳と尻尾が付いていた。


女性は持っていた皿を食べ終わると、今度は反対の手に持っているナイフを食べようと口を開けた。

それを見て意を決した屋敷の主は、女性のナイフを握りしめた。


「σΖ★◎d€!!」


屋敷の主は、手から血を流しながら必死に叫んでいる。しかし次の瞬間、女性のバレッタからウゾウゾが伸び始め、館の主の腕に触れた。


すると、ウゾウゾが触れた部分が痩せ細り、まるでミイラのように枯れ始めた。


それを見た犬耳の執事は、屋敷の主へ後ろから飛び付き、力一杯引き剥がした。


屋敷の主の手は彼女から離れ、犬耳の執事と共にそのまま後ろへと転がった。しかし、その腕は元には戻らなかった。


「バレッタが精気を吸った!?」


彼女は再びナイフを食べようと口を大きく開けた。


「ダメ!」


ヒメはナイフを持つ手に掴みかかった。

するとやはり、バレッタからウゾウゾが、ヒメの腕に向かい伸び始めた。


しかしヒメの腕に触れた瞬間、ドレスと同じようにウゾウゾは弾かれた。 


「私に呪いは効かない!」


屋敷の主たちは目を丸くして驚いている。


『ς√δρψξ…は効かぬのだ?』


「えっ!?」


『これで言葉が理解出来るだろう!何故貴様には効かぬのだ?』


女性とは思えない、低く、おぞましい声で話し始めた。


「言葉が分かる!貴方は誰?」


『余は、魔王』


「ま、ま、魔王?…嘘。な、名前はあるの?」


『貴様のような小さき者が、口に出して良い名ではない』


バレッタから、ウゾウゾが大量に溢れ出し、ヒメの目の前で止まった。


『貴様を贄とし、再びこの世の全てを喰い尽くす』


一気にヒメに向けて、ウゾウゾが放たれた。


しかし大きな音を立て、全てを弾いた。


そして動きが止まった。


「どうしたの?」


緑の女性も動きを止めた。


しばしの沈黙の後、バレッタから出たウゾウゾが、激しく動き始めた。


『な、何故だ。喰えぬ!吸えぬ!…貴様何者だ!』


「私に呪いは効かないからね!」


『……ま、まさか』


「助けてあげるから!」


そう言ってバレッタに手を伸ばした。


しかし緑の少女がヒメの腕を振り払い、直ぐさまヒメの両腕ごと体にしがみ付いた。


『や〜め〜ろぉ〜!』


ヒメは全く身動きが取れなくなった。


「離して!く、苦しい」


緑の女性は大きく頭を逸らすと、今度は勢い良く額をヒメの顔面にぶつけた。


激しい音とともに、ヒメの視界はグラリと揺れて目の前が真っ白になった。

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