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3 自衛官



眩しかった視界が、徐々に収まり始める。

ゼンジは薄ら目を開けるが、ぼやけてよく分からない。


「…………おお!」


「成功したぞ!」


「やりましたな!これで我が国もようやく」


「しかし男ですぞ。聖女様ではないのでは…」


「もしや、勇者様!」


「勇者様を召喚したのか!?急ぎ国王様にお知らせしろ!」


どこか興奮した様子の声が聞こえる。

ゼンジは何度か目を擦り、ようやく視力が回復してきた。


周りを見回すと暗くてハッキリとは分からないが、石造りで出来た古い神殿のような建物の中だった。


等間隔の柱には、カンテラに火が灯されている。足元には、大きなサークルの中に六芒星が描かれ、線に沿って見たこともない文字や記号が描かれている。

いわゆる魔法陣。その中央にゼンジは立っていた。


六芒星の各頂点にはローブを纏った何者かが座っている。そして正面には先程の声の主たちが、安堵の表情をゼンジに向けていた。


よく見ると皆、北欧人のような顔をしている。


(言葉が分かったが、日本語?映画の撮影か?)


「ここはどこですか?」


ゼンジが質問をした途端、正面にいる男達の中から、初老の男性が声を上げて前に出た。


「おお!良くぞ我らの祈りに答えて下さいました。しばしお待ち下さい。間も無く国王様がお見えになります」


そう言うとゼンジに対して深く頭を下げた。


(やっぱり言葉は通じたみたいだな。しかし国王様?本当にここはどこなんだ?)


「はっ!?」


白い部屋と、女神の顔がフラッシュバックした。


(!?思い出した!そうだ!自分はビニール仮面と一緒に、黒の魔女を助けたんだ。そこに隕石が落ちて死んだんだ…確かここは異世界?ということは転移出来たのか?)


女神との会話を思い出し、自分の格好を見たが、以前と同じ私服を着ていた。


(格好は同じか…)


「ここは何処ですか?」


「ここはギャリバング王国です」


初老の男性が口にした言葉を、ゼンジは頭の中で反芻するが、記憶の何処にも無い名前だった。


「これは大変失礼しました。私は、宰相をしておりますロインと申します。略説しますと、ギャリバング王国とは、人間の王が収める国です。そしてナイナジーステラには、ルファーン大陸とアハトゥーム大陸の、2つの大陸が存在します。我が王国は、前者の大陸の中央に位置します」


「人間の王?ルフ…何ですか?」


ゼンジは、何度も目をパチクリと動かした。


「ルファーン大陸です。北には獣人の王が収める…いえ、この場では控えておきましょう。今、我が王国は、危機に直面しております」


「危機ですか?」


「はい。一年の間、雨が止まないのです。それにより食物は育たず、民は疲弊しきっておりギリギリの生活を送っております。そこに漬け込み、各国が攻め入っておりますが、なんとか防いでおるのが現状です。特に隣の大陸、アハトゥーム大陸からの侵攻に、頭を抱えております」


「戦争中って事ですか?」


「左様です。今までは勢力が等しく、均衡を保っていたのですが、謎の長雨に見舞われる我が国に、アハトゥーム大陸にあるキュベロン連邦が、ここぞとばかりに戦を仕掛けて来ました。現在、長雨による食糧難に対応中の我が国は防戦一方です」


「それで自分を召喚したのですか」


「実は、大変申し上げにくいのですが、我が王国の窮地を救ってくださる、聖女様を召喚する儀式を行っていました」


「聖女様…ですか?」


「はい。先日見慣れぬ吟遊詩人が詩を残して行ったのです。それは……


『双子の眉は 向かい合い 表が裏が 選り分ける

影より白き 箱の世に 現れ救う 紫叉の聖女』


……これは、今日の日を謳っていると我らは直ぐに悟りました。

双子の眉とは、赤と青の双月が三日月となる今日、紫叉ししゃの日の事を表しているのでしょう」


(2つの月か。ゲームの世界にはありがちだな)


「そして、この召喚の間は、召喚の儀を行う6人の召喚士から、影が中央に伸び集まりますが、ご覧のとおり、勇者様の足元で重なり白く輝くのです。それが、影より白き箱の世でしょう」


「いや、勇者ってそんな…」


ゼンジは恥ずかしそうに頭をかいて下を向いた。


「本当だ…足元が光って影がない」


(いや待てよ。影より白き箱の世って、女神様の居た場所じゃないか?)


「ただ、現れたのは聖女様ではなく、勇者様でした…ですが!これで我々も、魔法国家キュベロン連邦に対抗する事ができます」


(魔法国家?そうだ!先ずは魔法の確認だ!)


会話の途中ではあるが、早る気持ちを抑えきれず、視線の先にあるカンテラの火を消そうと、手のひらを向けた。


しかしその時、肩まで伸びた金髪をオールバックにし、カイゼル髭を生やした50代であろうワイルドな男が歩いてきた。


「おお、勇者よ!突然召喚してすまない。ワシはこの国の王、アーノルド・フォン・ギャリバング8世である。説明はあらかたロインから聞いたと思う」


想像していた赤い服ではなく、黒をベースに金の刺繍を施した、シックな服装だ。よく見ると、目の下には隈があり、顔色も悪く疲れているように見える。


(まさか全てすっ飛ばして、勇者からのスタートか?そんなはずはない、自分は無職だ。どういうことだ?しかも召喚って女神様の趣向か?召喚されたテイで始まるんだな。了解!)


「召喚とはどういうことですか?自分は勇者なのでしょうか?」


ゼンジは、女神による転移の件は知らないフリをした。


「勿論だ。たった今、召喚の儀が成功したのだ。其方が此処におることが何よりの証拠」


アーノルド王は、ロイン宰相に目配せをした。


「勇者よ、我が国を救って欲しい。そこで早速だが、其方の実力を知るためにステータスの確認をしても良いか?」


アーノルド王は疲れた顔に笑顔を作り、嬉しそうに髭に触れている。


「確認とはどのようにすれば良いのでしょうか?」


「鑑定水晶を使用します」


初老の男性が説明を始めた。


「こちらの鑑定水晶に手を乗せて頂ければ、ステータスが投影されるのです」


「では早速鑑定してくれ」


アーノルド王は早く知りたいのか、急かすように言った。


(マズイな。自分は無職だ。ステータスを見られても良いのか?ダメだな。取りあえず断っとくか)


「了解。喜んで」


(!?断ったつもりが、思ってもいない言葉が出た!マズイ!)


「うむ。ロイン前へ」


「はっ」


ロインと呼ばれ、先程の初老の男性が鑑定水晶を持ち、ゼンジの前まで近寄った。


「これに手を乗せて下さい」


(はあ?何勝手に話を進めてるんだ?そんな事する訳ないだろ)


「了解」


(何ぃ!身体が勝手に反応する!)


ゼンジは鑑定水晶に右手を乗せた。


すると、鑑定水晶を覗き込むロイン宰相が、苦虫を噛み潰したような表情をしている。


「どうなのだ」


待ち切れないようにアーノルド王が聞いた。


「は、はい。申し上げます。この者、ゆ、勇者ではありません!」


ロイン宰相は当然そう答えた。


「何を馬鹿な!勇者で無いのであれば、一体何者なのだ?まさか聖女だとでも言うのか」


その場にいる全員が固まった。


(マズイ!無職がバレた!どうする!?)


「ジエイカンとなっております。」


「そうなんです!実は、自分は無職なんですが、これから転職して勇者に……えぇぇ〜〜〜〜っ!!!」



(女神様、こちら自衛官。

答礼を笑った事、絶対怒ってますよね?何かの間違いでは……ないですよね?どうぞ)



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