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28 射撃時の異変


「雨、やみませんね」


ポーラは座ったまま、太腿の上にメロンを座らせ、両腕で包んでいる。


「そうだな……このまま待ってても埒が明かないな。もう少し休憩したら出発するか」


頭の後ろに両手を敷いて足を組み、ゼンジは仰向きで寝転がっていた。


『いやだ!濡れるのは、いやだ!』


ポーラに抱っこされた状態で、メロンは首を左右にブンブン振っている。


「でも、早く安全な場所に行きたいんですが」


「そうだぞ。ここは危険だ」


(正当防衛が解除されない。って事は、まだ近くにサハギンがいるはずだ)


『いやだ!水に濡れると、動けなくなるんじゃないの?』


頭にクエスチョンマークを付け、首をコトンと傾けてメロンが聞いた。


「あ〜、ぬいぐるみ……だからか?どうして知らないんだ?」


ゼンジは、ぬいぐるみ本人が知らない事に疑問を感じた。


『何を隠そう、この姿には、ついさっき、なったばかりなんだよ』


「えっ!?そうなんですね。どうして、ぬいぐるみになったんですか?」


『それは、貴様らが言ってた、ドラゴンが原因なんだ!』


「どう言う事だ?」


ゼンジは上半身を起こし、周囲を一通り警戒した後、メロンを見た。


『あいつのせいで、我はここに落ちたんだ……あいつは……我の側近だった』


そこまで話すと、突然川の中から水飛沫を上げ、一匹のサハギンが川岸に飛び出て来た。


『ソッ、ソッキンだ!ソッキンが出た!』


ポーラの太腿の上で、両手両足、翼、尻尾、全てをバタバタさせながらメロンが言った。

ゼンジは、ネックスプリングで跳ね起きて、木に立てかけていた小銃を手に取り構えた。


「サハギンな!」


メロンにツッコミを入れた後、サハギンの頭に銃口を向けた。


「そこを動くな!」


『ギュル!!』


しかしサハギンは、気味の悪い声を上げるとゼンジたちに向かって走り出した。そして、顔を上げて水の玉を吐き出す体勢をとった。


「耳を塞げ!」


ゼンジは銃口を下げ、腹に照準を合わせて発砲した。


一発の弾丸を胸に受け、サハギンは上空に水の玉を吐き出し、そのまま後ろへ倒れた。


「反動に負けて、狙いの少し上に当たるな。もっと精度を上げないと」


続けて二匹のサハギンが、川から飛び上がった。


「また出たのじゃ!」


「任せろ」


サハギンは地上に着地すると、そのままゼンジたちに向かって走り出した。


二匹が重なった所で一発発砲すると、二匹のサハギンは胸に銃弾を受け、その場に倒れた。


「ふぅ〜。オールクリア。いや!まだか!」


更にもう一匹川から飛び上がっており、空中で水の玉を吐き出す体勢をとっていた。


「ポーラ逃げろ!!」


ポーラはメロンを抱えて横に走った。ゼンジは、空中のサハギンに照準を合わせて一発発砲する。


しかし弾は当たらず、サハギンは水の玉を吐き出し、そのまま川へと消えていった。


ゼンジは慌てて横に飛んだ。

水の玉は、三人が居た場所に当たると、地面を削って弾け飛んだ。木の下は乾いていたので、砂埃が巻き起こり、反対側に飛んだポーラたちが見えなくなった。


「ポーラ無事か!?」


「メロンちゃんも平気じゃ!ゼンジはどうなのじゃ!?」


「こっちも大丈夫だ!そこを動くなよ!」


ゼンジはその場にうつ伏せで寝そべり、小銃を支えるために両肘を地面に立て、両足は肩幅に開き、伏せ撃ちの射撃体勢をとった。


(また出てくるはずだ……)


両目を開けたまま左目は肉眼で、そして右目はスコープ越しに川を睨んだ。


『ドクン……ドクン……ドクン』


心音と共に、銃口がブレ始めた。


「落ち着け!集中しろ!ふぅ〜」


落ち着かせるように、大きく息を吐き出し目を閉じた。


その時、サハギンが川から飛び出す音が聞こえた。


(出た!)


同時に目を開いた。


すると、ゼンジは奇妙な感覚に陥った。


周囲から音が消えたのである。

静まり返った世界の中で、サハギンを凝視した。

サハギンが川から現れたその刹那、ゼンジ以外の動きが、まるでスローモーションのように遅くなり、落ちて行く雨粒が一つ一つハッキリと視認できるようになった。


「なんだこれは?」


左目の肉眼で捉えたらたサハギンを、右目のスコープ内に素早く合わせて引き金を引いた。


驚くことに、小銃から発射された弾丸をも肉眼で視認していた。


それは空気の尾を引き、サハギンに一直線に向かって行く。


(弾丸も遅い……ちゃんと当たるのか?もっと早く飛んでくれ)


そう思った瞬間、スローモーションは解除され、サハギンは大きく後ろに仰け反ると、背中から川に消えて行った。


「ふぅ〜。当たったのか?しかし今の感覚は…」


そう言いながら立ち上がり、サハギンが消えた川を呆然と眺めていた。


「ハッポウするならそう言わぬか!ビックリしたのじゃ!」


砂埃が薄れる中、驚きの表情でゼンジを見るポーラが居た。


「すまん……それどころじゃなかった」


(今の感覚は何だったんだ…)


「ここも危険なのじゃ!」


「そうだな。またいつサハギンが出てくるか分からない。取り敢えず移動しよう!川から離れるぞ!」


『いやだ!い〜や〜だ〜!』


「向こう側に行こう」


ゼンジは川に背を向けて、巨大な木の向こう側を指さした。その方向には、雨とモヤの奥に数本の木が、ぼんやりと見えていた。


『我の意見は?』


「本当は、サハギンの素材を回収したかったのじゃが、余裕がないから仕方ないのじゃ」


「喋り方!……え?素材の回収?」


メロンを抱いたまま、小走りでゼンジの横に来たポーラが残念そうにしていた。


「そうでしたね、説明します。え〜っと……モンスターを倒すと、その亡骸から、鱗や肉、牙、爪、そして魔石等、様々な素材を剥ぎ取る事が出来ます。それをギルドに持って行くと、お金と換金して貰えたり、クエストを受注していれば、報酬と引き換えに交換してくれます」


「なる程、それなら是非持って行きたいな。よし!任せろ!」


ゼンジは小銃の紐を肩にかけ、近くに倒れている三体を、目だけ動かし確認した。


「衣のう…よし!出た!」


目の前に現れた衣のうを素早く取ると、近くで息絶えたサハギンに向かって走り出した。


(死んでるから収納出来ると思うんだが)


ゼンジは恐る恐るサハギンに触れて、衣のうを近づけると、そのまま吸い込まれた。


「よし!戻れ」


三体を、衣のうへと収めたゼンジは、衣のうを放り投げ消した。


「時間がないから他は諦めよう。さあ、行こうか」


小銃を右肩に担いだゼンジは、川を背にして歩き始めた。


『貴様の職業は錬金術師なの?しかもかなりレベルが高そうだね。アーティファクトクラスの物を瞬時に作り出すとは、貴様何者?』


小銃や衣のうを、ポンポン出現させるゼンジを、メロンは目を細めて怪んでいた。

しかし、それに対してゼンジは飄々と答えた。


「しがない公務員だよ」


『コウムイン?それが、貴様の職業なの?聞いたことないよ……貴様はその他に、異世……はっ!雨!いやだ!』


木の影から出たポーラと、彼女に抱かれていたメロンに、雨が当たり始めた。


『いやだ!我は濡れたくない!ポーラ戻って!お願い。一生のお願い』


頭を隠そうと、必死で両手を伸ばしたが、雨は容赦なくメロンを濡らしていく。


「ここは危険ですから離れないと、我慢して下さいね」


雨が当たり、メロンは濃い赤色に変わり始めた。


『体が重いよ〜、水を吸って気持ち悪いよ〜』


「ポーラ、降ろしてやれ!弱虫は自分で歩かせろ」


『ポーラ、降ろさないで!泥水はもっといやだ!』


「でしたら我慢しましょうね〜メロンちゃん」


『ん〜。水はいやなのに……』


雨に濡れるメロンへと、笑顔で話しかけるポーラであった。


(女神様、こちら自衛官、

もっと役立つ仲間が欲しいんですが。そう言えば、黒魔女とビニール仮面は無事ですか?どうぞ)

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