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26 伝説のドラゴン


痛む胸を押さえつつも、背中にもたれかかる大楯を体で押し返した。


「くっ。ハァハァハァハァ」


ゼンジは立ち上がる事が出来なかった。


「サハギンは!ハァハァ、どうなった!?」


ゼンジの隙間から、ポーラが後ろを確認した。


「す、全て倒れておるのじゃ」


ウォーターボールを飛ばしてきたサハギンは、その場で力尽きていた。


「良かった…うっ」


「ゼンジ!動くでない!ポーションはもうないのか?」


「ああ、山の麓で使ったのが、ハァハァ、最後だ」


「どうしよう。妾は精霊の声も聞こえぬし、回復薬も尽きてしもうた…妾のせいで、妾のせいで」


「喋り方」


「……取り敢えず、休める場所まで移動しましょう。話はその後です」


(安定の二重人格だな…そうだ!)


「ド、ドラゴンは無事か?」


「そうでした!」


ポーラが慌てて振り向くと、木の根元で頭を抱えてうずくまる、小さな小さなドラゴンがいた。


「無事のようです」


「はは……そうか、良かった」


「ゼンジ、立てますか?木の下で雨宿りをしましょう」


「ああ。痛テテ……ハァハァ。大丈夫だ」


ゼンジは胸を抑えながら大楯を一つ拾い、杖の代わりにしてゆっくり立ち上がった。


「捕まってください」


ポーラは、ゼンジの反対の腕を取り、肩に回して歩き始めた。


木の下まで行くと小さなドラゴンが、頭を両手で押さえながらブルブル震えて、うずくまっていた。


2人は、警戒するドラゴンを見ないように、そっぽを向いて声をかけた。


「怪我はありませんか?」


「ハァハァ、大丈夫か?」


声をかけられて、ビクッと跳ねたドラゴンは、そのままの体勢で唸り声を上げた。


『グルルル!』


威嚇を始めたドラゴンを他所に、二人は隣りに座り込んだ。


「ふぅ〜。ここ空いてるか?ちょっと休ませてくれ」


そう言うと、大きな木に小銃と大楯を立て掛けてその場に座った。


「何もしませんよ、そんなに怯えなくても平気です」


そしてポーラはゼンジを覗き込んだ。


「ごめんなさい。私のせいで……」


「気にするな。ハァハァ、何とかなるもんだな」


『感謝する』


「もう良いよ。何度も言われると照れるだろ」


『我の為にご苦労であった』


「喋り方!」


ゼンジはポーラを見るが、ポーラは驚きの表情であった。


「わ、私は喋ってませんが」


「まさか!?」


そう言って二人はドラゴンを見た。


『何?』


「「お前(お主)喋れるのか!?」なのじゃ!?」


『ぎゃ〜〜〜〜!!』


ドラゴンは二人の大声に驚き、叫び声を上げて両手で頭を抱えた。


「凄いな!お前喋れるのか?」


「ドラゴンとは、皆そうなのか?」


ドラゴンは恐る恐るといった感じで、両手を下ろし、怯えつつも二人を見上げた。


その顔は、遠くから双眼鏡で見たものとは若干違っていた。


間近で見るドラゴンはとても可愛らしく、目はクリンクリンと飴玉のように丸く、牙も爪も二本の角も尖ってはいなかった。

そして、全身の鱗もフワフワとしており、腹の部分はマシュマロのように柔らかそうだ。


腹と鱗の境目には縫い目があり、よく見ると至る所に縫い付けてある痕がある。

その姿はまるで、ぬいぐるみであった。


「は!?お前、ぬいぐるみなのか!?」


『ぎゃ〜〜〜〜!!』


再び大声を出したゼンジに驚き、頭を抱えてうずくまった。


「ぐあっ!」


ゼンジは突然胸を押さえて、前屈みになった。


「平気か?少し横になるのじゃ…」


『大丈夫?怪我してるの?』


「喋っておる…のじゃ…」


『エルフの小娘そこを退いてよ。我に任せて』


「……」


ポーラは驚きの余り、固まってしまった。

ドラゴンは幼児が履く、音の鳴るスリッパでも履いているかの如く、ピッピッピッと歩く度に可愛らしい音を鳴らした。

そしてゼンジの前に立つと、短い両手を前に出した。


『マスターヒール』


ゼンジが一瞬輝いたかと思うと、辛そうな表情が徐々に和らいでいく。


「うっ……ん?痛くない…治ったのか!?」


ゼンジは立ち上がり、体を左右に捻ったが、今までの痛みが嘘のように消えていた。


『我を助けた褒美だよ』


「お前凄いなぁ!レッドドラゴンなのに傷も癒せるのか!」


『違うわっ!我をあの下等な暴れん坊と一緒にするな』


「違うのか?レッドドラゴンの赤ちゃんだろ?」


『馬鹿タレィ!その喧嘩、我の為に戦う前だったら、間違いなく買ってたよ!』


ドラゴンは体を斜に構え、腕組みをして、顎を少し上げながら話し始めた。


『いーか!耳の穴かっぽじってよ〜く聞けぃ!

そして聞いて驚け!そしておののけ!そして泣き叫べ!そして……あれだ……後悔せぃ!我はドラゴンの中のドラゴン!そしてドラゴンの頂点に君臨する、マスタードラゴンだぞ!そして、貴様ら頭が高いぞ!』


「は?マスタードラゴン?ぬいぐるみがか?笑いのセンスは15点ってところだな」


『なんだと、きさん!馬鹿にするのも大概にしとけよ!そして、ぬいぐるみではない!そして、点数低すぎだ!』


「そしてが多すぎて話が入って来ないぞ!ぬいぐるみだろ?それとも、その話し方はまさか!きさんは、三流の田舎者か!」


『きさんは、なんば良いよっとか!怪我ば治してもろうとって、そがんこつば言うとか!』


「乗りは超一流だな!」


『ちょっとばかし木の多か山ん中から…って、なんば言わすとか!!』


「おいおい!だったらなぁ、こっちも黙ってないぞ!聞いて平伏せ!オッホン……

静まれ!静まれぇ〜い!ここにおわすお方をどなたと心得る!恐れ多くも先の第二王女!ポーラ・ハイエルフ・ムスタカリファ様であらせられるぞ!第二王女の御膳である!頭が高い!控えおろぉ〜!!!」


『はは〜!』


ぬいぐるみのドラゴンは、咄嗟に美しい土下座をした。


『っておい!我はマスタードラゴンだぞ!エルフの小娘なんかより、偉いんだよ!』


ぬいぐるみのドラゴンは、小さな翼をパタパタ羽ばたかせ、ゼンジの顔の高さまで飛び上がった。


「それはそれは申し訳ない」


ゼンジは深々と頭を下げた。


『あっ。いや、こちらこそ言い過ぎました。ごめんなさい』


ピッと足の裏から音を鳴らし、地面に着地したぬいぐるみのドラゴンもまた、深々と頭を下げた。


「それはそうと、ありがとうな!助かった。お前凄いな!レッドドラゴンなのに回復魔法使えるなんて」


『やめれ〜。褒めすぎだぞ〜って騙されんぞ!マスタードラゴンだからね!』


「ははは。お前面白いな、名は何と申す?」


『あまり言いたくないんだけど、我の名は〜〜ロン』


ドラゴンのぬいぐるみは、恥ずかしそうに顔を逸らし、ゴニョゴニョと小声で名乗った。


「え?聞こえなかったぞ」


『〜〜ロン!』


「何ぃ!?まさか!…まさかあの願いを叶える龍と同じ名前なのか!?ロンの前にはシェンが付くのか?そうだろ!?伝説の名前だ!!…本当にマスタードラゴンなんだな!」


『…名前を褒められたのは、貴様が初めてだよ』


「馬鹿にして悪かったな。俺の名前はカガミゼンジだ。ゼンジと呼んでくれ」


『おうさ!我の事は気兼ねなく、メロンと呼んで良いよ!』


「ん?」


『ん?我はゼンジを気に入った!我にもマスターを付けなくても良いよ。許す!メロンと呼ばせてやる!』


「あれ?…シェンじゃなくて…メなの?」


『ん?何が?』


「か、か、可愛い〜のじゃぁ〜〜!動いたのじゃ!ドラゴンのぬいぐるみが喋っておるのじゃ!!」


ポーラは目を輝かせ、頬をピンクに染めて喜んでいる。


「さ、触ってもよいか?抱っこしたいのじゃ!妾たちと共に行こう!な?良いじゃろ?よし!おいで」


固まっているゼンジを他所に、ポーラは大興奮である。


『き、貴様も我の名を馬鹿にしないの?』


「きゃ〜!早うせい!メロンちゃん!」


ポーラはしゃがみ両手を広げ、『ほれほれ』と手首を動かしている。


『貴様も気に入った!』


メロンは翼をパタパタ動かして、ポーラの元へフワフワと近づいたところを、両手でキャッチされた。


「ふぁ〜ポフポフしとるのじゃ。妾のメロンちゃんなのじゃ」


ポーラはメロンを抱きしめて離さなかった。


「なあ。ゼンジ良いじゃろ?この子の面倒は妾が見るから。お願いじゃ!」


「拾ってきた子犬か!…まあ、自分もメロンに命を助けられたからな。このまま放っておくことも出来ないし…ちゃんとポーラが面倒見るんだぞ!」


「はい!なのじゃ!良かったなメロンちゃん!」


『……何か違くない?』



(女神様、こちら自衛官、

ドラゴンだと思ったのは子供で、子供だと思ってたのはぬいぐるみでした。何でもありなんですね。どうぞ)

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