表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/114

25 起死回生


『ギュルルルルルッ!』


ゼンジたちを見ていたサハギンたちは、鳴き声を上げて一斉に歩き始めた。


「最悪だ!」


警棒をサハギンから引き抜き下段に構えた。


「もうダメなのじゃ……あの数は無理じゃ」


「諦めるな!何か手があるはずだ!」


ゼンジは周囲を見回すが、隠れる場所も逃げる手段も無かった。

サハギンの槍を拾い上げてみたものの、それでは到底勝ち目はなかった。


「ステータスオープン」


ステータスを見つめるゼンジは、乾いた笑い声を上げた。


「……はは」


そして無言で槍を地面に刺し、警棒の先を捻りながら押し込んで元の短さに戻した。ホルダーに手を伸ばし、それに収納して右足に巻き付けた。


ポーラは立ち上がる気力もなく、手を地面に突いて首を垂れている。

ゼンジは胸を押さえ、ゆらりと立ち上がりボソリと呟いた。


「小銃」


「ショウジュウ?」


顔を上げたポーラがゼンジを見上げると、見たこともない真っ黒く細長い塊を両手で抱えていた。


「その黒い塊は何なのじゃ?」


「出た!イケるぞ!ポーラ!」


ゼンジの顔は引きつっていたが、その目は諦めてはいなかった。


【小銃とは、陸上自衛隊の装備で20式5.56mm小銃の事である。簡単に言えばライフルだ。名前に『小』という字が入ってはいるが、拳銃ではない。


弾倉 (マガジン)には弾が30発装填できる。安全装置にはカタカナで『ア、タ、レ』の文字があり、

『ア』は安全装置が働き、引き金が引けない状態。

『タ』は単発。引き金を引くと一発弾が出る。

『レ』は連射。引き金を引き続けると、その間、弾が発射され続ける。


ちなみに陸上自衛隊では数字の2を『に』と読み、海上自衛隊では数字の2を『ふた』と読む。】


(これはサハギンに効くのか?警棒のように、鱗に弾かれるかもしれない……そもそも弾は出るのか?しかし、やるしかない!)


「動くなっ!それ以上動くと発砲するぞ!」


(この小銃は新型だな。海自には、まだ導入されてないから使い方が分からないが、64と大体同じだろう)


【64とは、64式7.62mm小銃のことを言い、主に海上自衛隊が使用する旧型の小銃である。陸上自衛隊は89式5.56mm小銃を使用しているが、これらよりも新たに支給されたのが20式である】


大声で虚勢を張るゼンジを見て、半ば諦めていたポーラは成り行きを見守った。


「…ゼンジ」


「最終警告だ!動くと撃つぞ!」


『ギュルル!』


サハギンは警告に反応を示さず、槍を構えて歩き続けた。


「警告はしたからな!」


ゼンジは小銃のスライドを引いた。ガチャリと音が鳴り、弾が弾倉から薬室に装填された。


次に安全装置を『ア』の位置から『タ』の位置へ切り替えて解除すると、小銃を胸元まで持ち上げ銃尾を右肩に当てた。

そして先頭を歩くサハギンへと銃口を向けた。


「何をしておるのじゃ!ハッポウとは何じゃ!?撃つとはどういうことじゃ!?その奇妙な塊から魔法でも出るのか」


「ポーラ!よ〜く見てろよ!」


(警告射撃は必要ない!直接当ててやる!)


「耳を塞げ!」


ポーラは慌てて両手の平で耳を塞いだ。


「塞いだのじゃ!」


「了解!」


(距離フタマルマルってとこか)


左足を前に出しスコープを覗き込み、照準をサハギンの胸に合わせる。しかし緊張と肋骨の痛みとで、心音と共に照準がブレる。


『ドックン!ドックン!ドックン!』


「ふぅ〜」


高鳴る鼓動を落ち着かせる為に軽く息を吐き、両腕に力を込めて、小銃を体に引き寄せ固定した。狙いを定めると引き金に右手の人差し指を添えた。

そして、息を止めた。


『ドックン』


(落ち着け)


『ドックン』


(生き物に対して撃つのは初めてだ)


『ドックン』


(標的ヨシ、集中するんだ)


『ドックン』


照準がサハギンを捉えたタイミングで、ゆっくりと引き金を引いた。

直後、鼓膜を震わす激しい音が響いた。


「くっ!」


「ひっ!!」


発砲の衝撃が肋骨に響き、顔が歪むゼンジとは裏腹に、耳を塞いでいるにも関わらず、予想外の爆音にポーラはその場で仰け反った。


ゼンジは構えたままの状態で、小銃から頭を離し、両目でサハギンを確認する。


「どうだ!?」


サハギンたちは爆音に驚き動きを止めたが、再び歩き始めた。


「ダメか!効かない!いや、外れたのか?」


ゼンジは再度照準のためスコープを覗き込んだ。

そして先頭に狙いを定めるが、そのサハギンがスコープから消えた。


「!?何っ!」


慌てて頭を上げて肉眼で確認すると、先頭のサハギンはその場に倒れていた。更にその後方にいる二匹も、それぞれ腕と胸を押さえてしゃがみ込んだ。


「はは……スゲェ威力だな!一発で三匹とは、地球の威力より割増しだな」


『ギュルギュルルルル!!』


『ギュルル!』


倒れたサハギンはピクリともしなかった。そして後ろの二匹は、その場でもがき始めた。


「動くなよ!動いた奴から撃つぞ!」


『ギュルギュルギュル!』


その他のサハギンは怒りを露わにして、横一列に広がり、こちらへ向かって走り出した。


「くそっ!広がった!意外と賢いな!だが」


ゼンジは立て続けに三発、発砲した。


「ぐっ!ハァハァ」


一匹は腹に当たり、もう一匹は頭に当たった。三発目は外したようだ。

ゼンジも撃つたびに胸に激痛が走っていた。


「反動で上に逸れてしまう」


『ギュル!』


『ギュルルル!』


それでも残りのサハギンたちは、槍を掲げて近づいてくる。


「止まれ!それ以上近づくな!」


ゼンジの静止も聞かず、尚も走り続けるサハギン。


(距離およそゴウマル。連射に切り替えるか?)


「撃つぞ!」


(いや、連射の衝撃に自分が耐えられない。足下を狙う)


「ふぅ〜」


深い息を吐いた後、ゼンジは息を止め、三発発砲した。


弾は三匹のそれぞれ、足、腹、胸に命中した。


小銃の威力と爆音で、ポーラは固まっていた。


「っ〜〜!ブハァ、ハァ、ハァ」


(…残り六匹。自分の体がもつか?)


「止まれ!うっ」


声を出しただけで胸が痛むようになり、汗が噴き出してきた。


サハギンの一匹が槍を投げる体勢をとった。

それを見たゼンジは、躊躇なく三発発砲する。


「ぐぁ!ブハァ〜、ブハァ〜、ハァハァ」


二匹のサハギンの胸に命中した。槍投げ体勢のサハギンにも当たり、槍はあらぬ方向へと飛んで行った。一発は外れてしまった。


ーパッパッパッパカパ〜ンー


小銃を撃つたびに、飛び出す薬きょうが、ポーラの頭にコツンと落ちた。それによって、ポーラの時が動き出した。


「な、な、何じゃその錬金術は!!アーティファクトじゃ!!」


しかし、ゼンジの耳には入らなかった。


(し、小銃が重い…残り四匹)


『ギュルル!!』


更に三発発砲した。


「があぁ!ブハァ、ブハァ、ブハァ〜、ブハァ〜」


二匹の腹と腕に命中した。


(残り…二匹)


激痛で意識が飛びそうになる。

意識をなんとか引き止めて、二発続けて発砲する。


二匹のサハギンは声を出す事もなく、その場に倒れた。


「がはっ!ゴホゴホッ!ハァハァ」


「凄いのじゃ!見たこともないのじゃ!」


大はしゃぎのポーラであったが、ゼンジは意識を保つのがやっとであり、足の力が抜け、その場に片膝をついた。


「ゼンジ!」


慌てたポーラがゼンジを支えたが、その衝撃で銃を落としてしまった。


「いっ!」


「すまんのじゃ!……平気か?」


しかし、ゼンジはサハギンを睨んだまま小銃を拾いあげた。


「ハァハァ、まだ…三匹…残ってる」


腕に弾が当たったサハギン二匹は、立ち上がりゼンジたちへと走り出した。足を撃たれたサハギンは、その場を動かず、口を開け頭を上げた。


『ギュルル』


「しつこすぎる!」


震える足に喝を入れ、片膝を立てた状態で小銃を構えた。


「ふぅ〜」


呼吸を整え息を止め、三発発砲した。


三匹のサハギンの胸と頭に命中した。

頭を上げていたサハギンの胸にも当たったが、そのまま口からウォーターボールを吐き出した。

その玉は、ゼンジに向かって飛んでいく。


「ゼンジ!」


しかし、ポーラがゼンジの目の前に立ち塞がった。


「何やってんだよ!!大楯!大楯!大楯!」


ゼンジとポーラの前に、三枚の大楯がドミノのように並んで現れた。

ゼンジは小銃をその場で手放し、ポーラを引き寄せ、大楯に背を向けしゃがみこんだ。


「ぐぅっ!」


胸の痛みで気が遠くなる。


直後、大楯に水の玉がぶつかり、大楯同士がぶつかり合う音が聞こえた。そしてゼンジは背中に衝撃を受けた。


「ぐはっ!」


「ゼンジ〜!」


重なり合う大楯により、ウォーターボールの衝撃は抑えられたが、それでもダメージは大きく、ゼンジは立ち上がることができなかった。



(女神様、こちら自衛官、

レベルが上がったら、全回復する仕様に変えてくれませんか?どうぞ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ