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23 再開【Side.ビニール仮面】


四人の女性は口を閉ざした。


「どういうつもりだ!?」


その不気味さに、魔石を持つ手に自然と力が入る。


「正体を現せ!」


すると突然、堰を切ったように女性たちが涙を流し始めた。


「え?」


その涙にアスカは動揺した。


「お願いがあります。実は村がゴブリンに襲われました」


美人の女性が、綺麗なお辞儀をした。


「私たち村の女は、ほとんどがゴブリンに拐われました」


可愛い女性が、美しいお辞儀をした。


「私たちは幸運にも逃げ出せましたが、まだ上流にあるゴブリンの巣には、村の女たちが捕まったままです」


スタイルの良い女性が、節度あるお辞儀をした。


ここでアスカは状況を理解して顔を引き攣らせた。


「……」


「本当はテランタ村は、あの木よりも下流にあります。上流にあるのはゴブリンの巣です。騙してごめんなさい。でも…是非、他の女性たちも助けてください」


胸の大きな女性が、深々とお辞儀をした。


「(胸元が)ヤバい!」


(ヤバイどころの話じゃぁなかった。その反対だ、ヤバくない。というか全くヤバい話じゃぁなかった。いや、彼女たちにとってはヤバいんだけど。恥ずかしい……川に飛び込みたい。彼女たちはモンスターじゃないのに、お前たち何者だ!正体を現せってデカい声で叫んじまったし。そもそも愛の告白じゃなかったのか?テイマーがモテモテだと言ったのはどこのどいつだ!反対じゃぁないか!反対の反対だ!…ん?モテモテの反対の反対は一周回ってモテモテ?まだ可能性は残ってる?彼女たちに良い所を見せればあるいは…)


独り相撲をしていた事に気付いたアスカは、勝手に希望を見出して、魔石を圧縮し超亜空間に送った。そして戦闘態勢を解き女性たちに向き直った。


「騙すような事をしてごめんなさい。でも早く助けてあげないと。ゴブリンに何をされるか分かりません」


スタイルの良い女性が、顔を上げて笑顔で言った。


「お、おう。ゴブリンな!」


(ゴブリンって誰だ?プリンの仲間か?)


「もう直ぐゴブリンの巣に着きます。巣は川から離れた森にあります」


可愛い女性が、顔を上げて嬉しそうに言った。


「実は、私たち四人は捕まっていた所を助けられたのです」


胸の大きな女性が、顔を上げて微笑んで言った。


「そうなのです。優しくて強い方に」


美人の女性が、顔を上げて頬を赤らめ言った。


「丁度あそこに見えるお方と似ていました……え?あのお方は、まさか」


美人の女性が、アスカの背にある森を指さして言った。


(ダメだ!振り向いちゃぁダメな気がする!)


アスカはまるでスローモーションのように、ゆっくりと時間をかけて振り向いた。


(体が勝手に動いてしまう!しまった!視界の端に見えてきた!)


そこに立っていたのは、見たことのある顔だった。


「お、お、お前は!ま、まさか!!」


そこには異世界に来る前に出会った、出会ってしまった、あの地球人がいた。


「何故?何故なんだ!何故、俺の邪魔をする!」


アスカが振り向いたその先には、大勢の女性たちを引き連れた、いや大勢の女性たちに囲まれた、小太りのオッサン、そう、あの『おっ君』がいた。


「おっ君この野郎ぉ!!」


しかし、実際は『おっ君』に大変良く似た『オーク』である。それでもアスカの目には、その『オーク』は『おっ君』として認識されていた。


地球での最後の経験が、忘れる事が出来ないほどの衝撃と、周りが見えなくなる程の怒りを受けた為であろう。

彼の存在は、アスカにとって、決して許すことの出来ない、憎き存在にまで昇格していた。


「おっ君!!?き、貴様!貴様何故ここにいるぅ〜!」


アスカはコンビニでの苦い思い出が、怒りとともに沸々と蘇ってきた。その叫び声を聞き、キュウたちも、只事ではないと頭を低く下げて戦闘態勢をとった。更にシロたちウインドウルフは、唸り声を上げながら、体に風を纏い始めた。


(異世界に転移したのは、俺たち三人だけじゃぁなかったって事か!女神は何のために、おっ君まで転移させたんだ!俺と戦わせる為か?あいつの伸びきった鼻っ柱をへし折れって事か?鼻は低いみたいだけど!)


「俺の邪魔をしやがって!ここで会ったが百年目!昔年の恨み晴らしてやる!豚っ鼻野郎!その女性たちを解放しろ!」


しかし、おっ君に似たオークは、アスカを見てゆっくり右腕を上げて、拳を見せてきた。


「やめろぉ〜!それ以上は見たくない!その手を降ろせ!クッソ〜!許さん!許さんぞぉ〜!」


オークは、拳の親指をゆっくり上げた。


「グ〜〜ッド!じゃねぇわ!!デジャヴか!そこを動くなよ!」


怒りのボルテージがMAXまで達したアスカは、両手を合わせパチンと鳴らした。

そして、手を離した場所には小さなブラックホールが出来ていた。そこから出てきた緑の魔石を右手でキャッチして、そのまま何の躊躇もせずに胸元に添えた。


「変身!!!」


怒りを露わにした、アスカの怒鳴り声が響き渡る。


しかし変身する事は出来なかった。


「……どうした?これで変身出来るはずだろ?この魔石じゃぁダメなのか?おい!何故変身しないんだ!?」


イヤーカフを触れて叫んだ。


『説明しよう!

イセカイザーの正体を、ナイナジーの知的生命体に知られてはならない!つまりイセカイザーに変身するところを、知的生命体に見られていては、変身出来ない』


(……イラッ!)


「は〜〜〜っ?なんだその古い設定は!!モンスターも知的生命体だろ!」


『説明しよう!

ここで言う知的生命体とは、言葉を理解し、それを口にする者である』


「だったら人間って言えよ!紛らわしい!」


『説明しよう!

言葉を理解する者は人間だけではない。獣人、魔人、古龍その他にも言葉を交わす事が出来る者は多数存在する。それらを全て総称して、知的生命体なのである。イセカイザーの秘密を話す事が出来る者の前では、決して変身する事は出来ないのであ〜る』


「なんだその縛り!どんだけ不便なんだよ!おっ君を倒せば、話す事が出来なくなるんじゃないのか!」


『説明しよう!

倒そうが倒すまいが、変身を見られてはいけないのである!周りの人間たちも見ているのであ〜る!」


「ぐっ!そうだった。彼女たちに手を出す事は出来ない!考えたな!おっ君!」


アスカは両手を合わせた。


「圧縮!」


緑の魔石はブラックホールによって、超亜空間に収納された。


「ちなみに、 正体がバレたらどうなるんだ?」


『説明しよう!

正体がバレたら、消滅するのであ〜る』


「何ぃ〜!!!死ぬのか!?消滅って死体も残らないのか!?」


アスカは顔面蒼白になり、女神を睨むように空を見上げた。


「お、おい!キュウ!ミミ!お前たちも、今後イセカイザーになるところを誰にも見られるなよ。解除するところもな!」


小声で肩に乗る二匹に伝えた。


『キュ〜!」


『ミュ〜!』


「こうなったら生身の姿でやってやらぁ!」


アスカは、いきり立って一歩前へと歩み出した。


「おっ君この野郎!よくも罪のない女性たちを!!!」


すると四人の女性が、アスカの前に立ちはだかり壁を作った。


「わ、私たちを逃してくれたのは、あのオーク様です」


可愛い女性が、狼狽て説明した。


「様っ?おっ君がか!?」


「そ、そうです。私たちも初めは驚きました。オークが人を助けるなんて!しかも女性を」


胸の大きな女性が、慌てて説明した。


「きっと下心だ!間違いない下心があるんだ!!」


「ち、違います!大勢のゴブリンと一人で戦い、傷を負いつつも逃してくれました」


美人の女性が、まごついて説明した。


「……マジでか?いや!騙されない!下心だ!君たちは騙されているんだ!」


「だ、騙されてなどいません!私たちに、お腹が空いてるだろうと、干し肉と水を分けて下さいました」


スタイルの良い女性が、面食らって説明した。


「う、嘘だ……格好良過ぎる」


(渋い真似しやがって!その肉は、うちの子たちが食べちゃいましたけども)


アスカはオークを睨みつけた。しかしその向こうでも大勢の女性たちが、オークを守るように前に出ていた。


(俺の美味しいところを全部かっさらいやがって!異世界に来てまでも俺の邪魔をするのか!)


「クソッ!そんな訳ないだろう何かの間違いだ!そうだ!これは夢だ!いつもの夢なんだ!夢から覚めるキーワードは何だ?『助けてくれ〜』か?『のどかだねぇ』か?」


アスカは頬っぺたをつねった。


「痛い……ダメだ現実だ。夢じゃぁないのにどうして、何故おっ君は、いぶし銀なんだ!?」


アスカは恨めしそうにオークを見た。

オークは片方の口角を上げ、『後は任せた』と言わんばかりに牙を『キラリ』と光らせた。


「やめろぉ〜〜〜!おっ君!それ以上はやめてくれぇ〜!」


しかしオークは反対側の口角も上げて『グフッ』と笑った。そこには偶然にも、地球のおっ君と同じく、このオークの前歯も一本無かった。


「ガハッ!」


アスカは胸を抑えその場に片膝を着いてしまった。


(なんだあの破壊力!ハァハァ。胸が苦しい。またなのか……ハァハァ。俺はヒーローになっても、奴には勝てないのか?そもそも下心があるのは俺の方じゃぁないのか?)


オークはアスカを一瞥すると、満足気な顔付きで、雨の向こうに消えて行った。


「オーク様!ありがとうございました」


「この御恩は一生忘れません!」


救出された女性たちは、それぞれがオークに感謝の言葉を叫んでいた。

涙を流す者までいる。


「おっ君!待て!俺と闘え!」


アスカの視界がグニャグニャに歪んだ。


(俺は泣いているのか?)


頬を伝う熱いモノは涙か雨か。それはアスカにしか分からない事であった。


(今回も俺の負けだ……)


「これで勝ったと思うなよ!次に会う時が貴様の命日だ!必ず貴様に勝つ!覚えてろよぉ〜(涙)」



『必然の出会いは果たされた。こうしてゴブリンに捕まった女性たちを、アスカは傷だらけになり、致命傷を受けつつも無事救出する事に成功した。

そして、子悪党のようなアスカの叫びがこだまする。

吠えろアスカ!遠吠えイセカイザー!

次回予告

水車』


「あぁ!どーせ負け犬の遠吠えでさぁね!救助したのは俺じゃぁないし!」

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