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21 ブラックホール【Side.ビニール仮面】


「一気に賑やかになったなぁ」


仲間たちを見渡して、うなずく視界の端で()()物が輝いた。


「そうだ黄金!これこそ女神の贈り物だろう!五個もある。こんな量の黄金見たこともないな……まさか偽物か?いや空から落ちて来て壊れてないんだ。本物だろうな」


アスカは輝く黄金を見ると、自然と顔の筋肉が緩み始めた。


「ククククク……大金持ちだ!今後食いっぱぐれる事も無さそうだな!くははははは!やったー!」


アスカは両手を振り上げ大声で喜んだが、ある事に気付いた。


「……持てたらだが……これだけの黄金を全て持って行けるとは思わないけど、一つも持てない可能性もあるな…ぬか喜びだ」


黄金の箱に近付いて揺らしてみたが、全く動かない。


「こんなに黄金があるのに、どうすりゃ良いんだよ。女神の悪戯か?って待てよ…女神のスキルで、俺にもアイテムボックスとかいう物があるんじゃ?…頼む!おーい!俺はアイテムボックス持ってるだろ?」


アスカはイヤーカフを触り懇願する。


『説明しよう!

持っている。しかし正確には超亜空間である!』


「何だそれは?どうやって使うんだ?」


『説明しよう!

超亜空間とは、イセカイザーが使用できる、ここではない別の空間の事である。そこは大きさ、重さ、数、全て関係なく、そして際限なく送ることができる空間なのである。更に時間の概念がなく常に停止している。つまり、凍った物は凍ったまま、熱い物は熱いまま、どんなアイテムでも送ることが出来、そのままの状態で取り出す事が可能なのである。ただし、生きているものは送ることができないのであ〜る』


「何で得意げに語尾を伸ばしたんだよ〜!しかしオーケー理解した。出し入れはど〜すんの?」


『説明しよう!

超亜空間に送りたい場合は両手で触れて「圧縮」と発声すれば良いのだ。そして超亜空間から出す場合は、出したい物を頭に浮かべて手を叩くのだ。ただしこの時、魔石だけは、手の平サイズの楕円形に変化して出てくる。元の形には戻らないのである』


「出し方ダサいな…手品か!しかし何で魔石だけは小さくなるんだ?まぁいい、試しに黄金を送ってみるか!」


アスカは黄金の箱に両手で触れた。


「圧縮」


すると、アスカの両手に付けているブレスレットから黒い稲妻が走り、両ブレスレットの中間にブラックホールのような小さな球体が現れた。


『ブォーン』と微かに重低音が聞こえたかと思うと、黄金の箱がブラックホールに一瞬で吸い込まれた。


「…いい」


黄金の箱が無くなった跡には、ウインドウルフの潰れた死骸があった。


「うげっ!これはエグいな…ん?あれは魔石か?」


潰れた死骸の真ん中に、土に埋まった緑に輝く物を見つけた。


「緑だ!大きさが違うみたいだけど、まさかイセカイザーグリーン!?変身したい!」


すかさず、アナライズのスキルで確認をすると、魔石であることが分かった。

アスカは飛ぶように魔石に駆け寄り、半分埋もれたそれを掘り起こし拾い上げた。

それはピンクの魔石とは違い一回り小さく、螺旋階段のように渦巻く風をイメージしたような美しい造形であった。


吸い込まれそうな美しさと、変身したい衝動が相まって無意識の内にゆっくりと胸元に近付けていた。しかし、アスカの脳内で警鐘が鳴った。今回のように、危険な状況で変身出来ないと死活問題である。


「我慢。我慢だぁ〜!圧縮」


右手に乗せた魔石に、左手を重ねて断腸の思いで超亜空間へ送った。


「…魔石を出してみるか」


アスカは両手を、パンッと大きな音が鳴るように叩いた。

そして両手を離すと、圧縮時と同様にブレスレットから黒い稲妻が走り、小さなブラックホールが現れた。

重低音と共に、そのブラックホールから出てきた緑の魔石は、手の平サイズの楕円形に変化していた。


「いい!ブラックホール格好良い!」


アスカは超亜空間の便利さと、格好良さに興奮していた。また、小さくなった魔石を眺めつつ、変身したい衝動を必死に抑えていた。


「この魔石でグリーンに変身したい!が!もしもの時、変身出来ないとあれだからなぁ…やっぱり我慢だ!圧縮」


楕円形に姿を変えた魔石を両手で隠すように持ち、再び断腸の思いで超亜空間へと送った。


「しかしこれはあれだな。イセカイザー専用の超亜空間だから、魔石を持ち易いサイズに変えてくれてるのか?便利だな。よし!この調子で全部回収するぞ!」



それからアスカは、ボスに落ちた黄金の箱を除いた三個手に入れた。

しかし魔石については、当たり所が悪かったのか、ウインドウルフと共に粉々に粉砕されていて、手に入れる事が出来なかった。


「残りはボスの魔石だな。死んでるよな?飛びかかって来るなよ。みんな準備はいいか?」


仲間達は、可愛らしく返事をして黄金の箱を囲んだ。


「そして頼む!魔石よ、残っててくれ!圧縮」


重低音と共に小さなブラックホールが現れ、ボスの上に落ちた黄金の箱を吸い込んだ。


「…潰れてるな…ふぅ〜。大丈夫みたいだ。何だあの魔石は!?」


ボスの潰れた死骸の中に、原形をとどめた緑の魔石はあった。しかし、その周りには禍々しい黒い煙りのような、オーラのようなものが渦巻いていた。


「アナライズ!」


【魔石 (アビスサイド)】魔物の核。色や大きさ、内に秘める魔力は魔物により様々である。(深淵の者たちによる力が影響している。どの様な効果があるかは不明である)


「…深淵の者たちって、どなたでしょうか?嫌な予感しかしないわ」


アスカはアビスサイドの魔石の側でしゃがみ込んだ。


「これは触っても良い物なのか?」


周りをグルリと見回すと、四匹のウインドウルフと目が合った。しかし、シロ、クロ、ブチ、チャと順に目を合わせるが、ことごとく視線を逸らされた。


「何だお前たち!俺が無理矢理触らせるとでも思っているのか!?お前たちは俺がそんなに最低なヤツだと思っているのか?」


それでも、視線を合わそうとはしなかった。


「おいおい。キュウ何か言ってやってくれよ」


肩に乗るキュウを見ると、キュウは既にそっぽを向いていた。


「…キュウ…こっち向いてくんない?」


しかしキュウは微動だにしなかった。


「薄情なヤツらだよなぁミミ!」


アスカは反対の肩に乗るミミに話を振ったが、ミミは目をつぶり、寝たふりをしていた。


「さっきまで起きてたろ?」


ミミは鼻が無いにも関わらず、鼻風船を作って寝たふりを続けた。


「はいはい。お前らの気持ちは良〜く分かりました。触らせるつもりは無いって言ってんのによ〜!ったく。見てろよ」


アスカは溜め息を吐いた後、右手の人差し指でアビスサイドの魔石を突いた。


「ぐわぁ〜〜!!」


その途端アスカは胸を押さえて苦しみ出した。

両肩に乗っていたキュウとミミは慌てて飛び降りた。


「く、苦しい!助けてくれぇ〜〜!」


胸を押さえ、その場で丸まったアスカは、目を閉じて歯を食いしばった。


「な〜んちゃって」


陽気に立ち上がったアスカは、先ほどまでウインドウルフたちがいた場所を見た。しかしそこにはウインドウルフはおろか、キュウとミミさえいなかった。


「あいつら…」


その先の遠くの木の影から、トーテムポールのように六匹が顔を出していた。


「心配してくれないんだな…」


アスカは深い溜め息と共にしゃがみ、アビスサイドの魔石を拾った。


「不気味だな…でもまぁ圧縮」


アビスサイドの魔石は、アスカの作り出したブラックホールに吸い込まれた。


「使わなきゃいいんだ。他に緑の魔石が一つあるから何とかなるだろ。あ〜早く変身したい!出てこいモンスター!」



その後、黄金の箱と魔石を回収し終えたアスカたちは、あてもなく歩き彷徨っていた。既にどちらが北なのかも分からずに。


しかし地球にはいない奇妙な植物や、不思議な虫たちを見つけては、興味津々で観察したり、変身するか悩んだり、興奮して大声を出して走り回ったりして楽しんでいた。


そうこうしているうちに、気が付けばジャングルも開けつつあり、視界もグンと良くなってきた。しかし、未だ雨は降り続けていた。


しばらく歩くとジャングルを抜け、雨が一層激しく降り始めた。道のようなものを見つけたが、雨水で泥道になっていた。しかしアスカは、それが道であるはずと希望を持ち、泥道を進む事を決めた。

ドロドロになった地面に体力を奪われるが、一歩一歩踏みしめ、ゆっくりと、しかし確実に前へ進んだ。

そんな中、凶暴なモンスターに一度も出会わなかったのは、まさに僥倖であった。


どのくらい歩いただろうか。戯れ合いながら進んでいたシロたちも遊ぶのはやめて、トボトボとアスカの後を付いて行くようになった。降り続ける雨を受け、グチャグチャな道を歩くアスカたち全員の体力は限界であった。


「疲れたなぁ。どこかで休みたい…」


地面ばかり見ていたアスカは、顔を上げ周囲を見渡した。


「ん?」


アスカは視線の先に立派にそびえ立つ、一本の巨大な木を見つけた。


「道は外れるが、あのデカい木の下に行って休憩しよう」


アスカたちは近くまで行くと、その木の巨大さに驚かされた。

幹の太さは、概ねあのコンビニ3軒分。

一周回るのも骨が折れそうだ。

雨を凌げるほどの巨大な木の下で、アスカたちは休憩することにした。


「よいしょっと…腹減った。何か食いたいなぁ」


アスカは木を背もたれにして、頭の後ろで手を組み、変化のない低い雨雲を見ていた。

仲間たちは、お互い戯れあい束の間の休憩を楽しんでいる。


「しかし、雨やまないねぇ〜。パンツの中までびしょびしょだ…服は泥水で汚れるし。早く旅館に行って疲れと汚れを落としたいねぇ。お前たちも水に濡れてて気持ち悪いだろ?」


『キュ』


『ミ』


『『『『ワォ』』』』


キュウたちは、アスカの問い掛けに顔だけ向けて返事をし、再び追いかけ合い遊び始めた。


「元気だねぇ〜あんまり遠くへは行くなよ!」


『キュウ』


『ワォン』


そう返事をしたキュウたちは、追いかけっこをしながら巨大な木の反対側に行ってしまった。

アスカの元にはミミが残り、頭の上でウトウトしている。


「ふぅ。俺も少し寝るか」


アスカは目蓋を閉じると、一瞬で夢の中へと落ちて行った。


それは疲れのためか、はたまた魔法によるものか…



『超亜空間の便利さより、格好良さに興奮したアスカ。禍々しいオーラを放つ魔石の謎は気にも止めず。アスカのアはあっけらかんのア。

行け、あっけらかん!

飛べ、イセカイザー!

次回予告

偶然』


「ブラックホールとか格好よくない?ダメ?ワクワクしちゃダメなのか?」

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