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13 序幕 【Side.ビニール仮面】


『ヒーロー』それは誰もが憧れる存在。


『変身』それは誰もが憧れる言葉。


贅沢にも、その2つに憧れた男がいた。


『変身ヒーロー』になる事を、夢見る男が……



「貴様ら!その子を離せ!悪は許さん!とう!」


野外ステージの上では、コオロギの仮面を被ったヒーローが、蜘蛛の怪人と闘っている。


「Are you ready?Go logy!」


舞台も終盤、必殺技を繰り出すヒーロー。


「グワーッ!やられたー!」


蜘蛛の怪人は、ヒーローのキックを受けて倒れた。


「やったー」


「かっこい〜」


「ゴーロギー!」


子供達の声がステージに響き渡る。



ヒーローショーが終わり、ステージ裏では着ぐるみから生えた、おじさん達が雑談をしている。


「やっぱ夏は勘弁して欲しいよなぁ」


コオロギの仮面を外し、頭にタオルを巻いたおじさんが、背中のチャックを開け、上半身を着ぐるみから出して倒れるように椅子に座った。そして団扇で仰ぎながらアイスコーヒーを口にした。


「そっすね〜。暑さ手当て欲しっすね〜」


蜘蛛の怪人の仮面を外した青年は、ぬるい麦茶を飲みながらそう答えた。


【俺の名前は『一色 飛翔』(いっしき あすか)

飛翔と書いて「あすか」

まさしくヒーロー向けの名前だと思わないか?


長所は、誰とでも直ぐ仲良くなれる。それとポジティブ。

短所は、良く噛む。それと、思い込みが激しく、勘違いをする。良く言えばポジティブ。


チャームポイントは左目の泣き黒子。

年は20歳。独身。身長183センチ。


趣味は変身ヒーロー全般。


いわゆる変身ヒーローおたくだ。

変身ヒーローに憧れて、ヒーローショーのバイトを始めたが、身長が高すぎて、悪役しか回ってこない…


Are You Ready?だって?俺はいつでも準備良し!

Go Logy!はコオロギと、かけてるだけだろ?意味は分からん!


ヒーローとして様々な格闘技に手を出したが、ヒーローにはなれない事を悟り、やる理由がなくなって格闘技は辞めた。


俺の紹介はこんなもんだ。

変わり映えのない毎日を送っている。


しかし世間では、今夜8時、一生に一度見れるかどうかの流星群が降るらしい。


そんな事よりも、俺はコンビニで発売されている、五百円クジの、A賞のヒーローフィギュアを狙っている。そしてあるコンビニに目をつけていた。

以前五千円分買って当たらなかったが、今朝、残りが二十個を切っていた。

今日行けば、一万円以内で確実にゲット出来る。今朝は買えなかったが、仕事帰りに何としても手に入れてみせる】



18時45分


「ハァハァ。出遅れた!」


アスカは、走ってコンビニへ向かっていた。

明日のショーの準備に手間取っていたのである。


流星群を見るためか、街を歩く人は殆どいなかった。


しかし、しばらく走っていると、目の前を小太りの男が、ゆっくり歩き細い道を塞いでいた。


「邪魔だぜオッサン!どいてくれ!」


そう叫んで横をすり抜けたが、肩が当たってしまった。


「悪りぃ急いでるんだ」


振り向いて謝った時、タクシーが近付いて来るのが見えた。


(早くしないと誰かに先を越されるかもしれない!アレに乗ろう)


タクシーに向かって手を上げた。


すると、アスカよりもタクシーの近くにいた、小太りの男が手を上げた。


「何っ!」


タクシーは男の前で停まり、男が乗り込むと、そのままアスカの横を通過して走りだした。

すれ違い様、男はアスカに向かって親指を立てた。


「グ〜ッド。じゃないわ!あの野郎!当たったからって憂さ晴らししやがって!」


走り去るタクシーを睨んでいたが、今はそれどころではない事を思い出した。


「しまった!こんな事で誰かに先を越されたら、目も当てられない!」


アスカは再び、コンビニ目指して走り出した。



19時05分


アスカはコンビニで怒りに震えていた。


目の前で、先程肩が当たった小太りの男が、九千円出して全てのクジを買ったのだ。勿論A賞のヒーローフィギュアをゲットした。


(何でここにいるんだ?肩が当たった時にフラグも当たったのか?当たった俺が悪いんだが。いや、A賞が当たらなかった俺が悪いんだ。あれ?肩に当たった俺は悪くないのか?当たったんだからね)


軽くパニックになったアスカは、泣く泣くコーヒーだけ買って店を出ようとした。しかし男が、出口で振り返りアスカを見た。


そして、右手の人差し指と親指をくっつけて輪を作り、お金のサインをアスカに見せながら、『二シャリ』と左の口角を上げて笑った。


「くっそ〜馬鹿にして!九千円くらい持っとるわ!」


すると男は無言で肩を窄め、への字口にして首を左右に振った。


「やれやれ〜。じゃないわ!今謝れば許してやる」


頭に来たアスカは、ビニール袋から缶コーヒーを取り出し、投球フォームをとった。


すると自動ドアが開き、まるでモデルのような美女が入って来た。


「おっ君ありがと〜」


そう言った美女は、フィギュアを受け取り、おっ君と呼ばれた男の腕にくっついた。


おっ君はさっき指で作った、お金のサインをゆっくりと握り拳に変えた。

そして更にゆっくり小指を上げて、またもやアスカに見せてきた。


アスカは怒りで視界がグニャリと歪んだ。


「もう謝っても許さん!」


おっ君は更に、先程と反対側の口角も上げて「グフッ」と笑った。前歯が一本抜けていた。

それはとんでもない破壊力だった……


「ガハッ!」


アスカは、まるで血を吐いたような胸の痛みを感じた。


(胸が締め付けられる!俺は負けたのか?)


おっ君を見るとA賞の当たりクジにキスをして、店の外に投げ捨てた。

そこでアスカの怒りが頂点に達し、意識と缶コーヒーを手放した…



19時30分


ショックでしばらく放心状態だったアスカは、外から言い争う声で我に帰った。


「何だお前?怪我してぇのか?亅


コンビニの外に、ナイフを持ったチンピラがいた。対する短髪男は、傘を持っていた。


(喧嘩か?俺の行き場の無い怒りをぶつけてやるぜ!)


憂さ晴らしのため、外に出ようとした所で、涙と鼻水でボロボロにダメージを受けた自分の顔が、ガラスに映った。


「ちくしょう……覚えてろよ」


(しまったこのセリフ、何だか俺が小悪党みたいじゃあないか……)


アスカは自分のセリフで、更にダメージを負った痛む心を押さえつけ、手の甲で乱暴に涙を拭った。


赤く腫れた目を見せまいと、空になったビニール袋に穴を開け、覗き穴を2つ作ると、おもむろにそれを被った。


そしてそのままコンビニの外に出た。


「そこまでだ!」


ナイフを振りかぶった男にそう告げた。


とんでもない、ナイスタイミングだった。

ここしかないという、グッドタイミングだった。

2人とも驚いてアスカを見ている。


(決まった…)


アスカはゆっくりと見回した。

少し離れた場所に、怪しい格好の女が一人、そして彼女を囲むように3人の男たちがいた。


「!?っ」


その内の一人が、おっ君に似た体格の小太りだった!

アスカは、怒りが沸々と蘇って来た。


「悪は許さん!」


さっきの恨みを右の拳に乗せて、小太りの顎へ放った。

クリーンヒット!

激しく脳を揺さぶられ、膝から崩れる小太りを横目に、次の男へ回し蹴りを決めた。

クリーンヒット!


そして素早く3人目に顔を向けた途端に、視界が真っ白に染まった。


(しまったビニール袋がズレた!)


しかし、ここで慌てるヒーローはいない。


アスカはゆっくりと腰を落としつつ、左腕はダラリと垂らし頭を下げて、右手でゆっくりとビニール袋を元に戻した。


3人目の男を視界に捉えると、流れるような動きで鳩尾に正拳突きをめり込ませた。


「危ない!」


短髪の声と同時に後ろから、金属音が転がる音が聞こえた。

振り向くと、金髪がナイフを落としていた。

金髪は倒れた仲間を起こしてこう吐き捨てた。


「お、覚えてろぉ〜!」 


(その言葉さっき俺も言っちゃった…恥ずかしい!ビニール袋を被ってて良かった。ダサいけど…)


「あ〜、やっぱりあの台詞を言うんだ…」


短髪が肩を窄めて言った後、怪しい格好の女が、とんでもない言葉を言い放った。


「ダサい…」


アスカは恥ずかしくなり咄嗟に反論した。


「ビニールしか無かったんだから仕方ないだろ!」


「い、いや、あの、さっきの捨て台詞がダサいって言ったんですけど…何かすみません」


(ビニール袋じゃなかった…)


「あ〜ね…はは…怪我してない?」


アスカは、勘違いで怒鳴ったことを申し訳なく思い、ビニール袋を取って謝ろうとした。


(ダメだ!おっ君のせいで、涙と鼻水でボロボロだった。目が腫れてたな……あれ?何だか髪の毛がピリピリするぞ?何か来る予感がする)


それもアスカの勘違いで、実際は髪とビニール袋との摩擦で静電気が発生していた。


「助けに来なくて良かったのに。早く何処か行って」


(ズキューン!その悲しそうな瞳で見ないでくれ。

恋の稲妻が落ちる予感はピリピリ察知してましたぁ〜!)


「私は呪われてるんです…魔女なんです。私に関わると良くない事が起こるんです。だから早く離れて下さい。」


「「へ?」」


アスカと同様に、短髪の男も驚いている。


(ま、まあこれだけ可愛ければ、疎ましく思う補欠群が、呪いの手紙とか出したくもなるだろう。ビニールが邪魔で良く見えないけど)


「助けていただいて、ありがとうございました」


(ズギューン!良い子だ!魔女は俺に恋の魔法をかけたのか?いや魔女じゃない天使だ。黒の天使がここにいました。ああ、神様この出会いに感謝します)


そう思いアスカは空を仰いだ。

そこには空は無く、巨大な何かが真っ直ぐ向かって来ていた。


(アレは……アレか?隕石だろ?)


「こりゃ詰んだわ」


(22歳。良い事なんて何一つ無い短い人生だったなぁ。黒の天使と出逢って直ぐにこれかよ。生まれ変わったらまた逢おう。

さらば黒の天使。

さらばヒーロー…)


「隕石?」


短髪が、そう言った途端に視界が真っ白になった。

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