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12 ゼンジとポムのヒミツ



「残り二つの樽も探しに戻って来るぞ!」


「少しでも遠くに、ハァハァ、逃げるのじゃ!」


アシスタント改め、CPOのお陰で悲しみを乗り越えた矢先、やる気と共に黄金の樽まで持って行かれたゼンジたちは、それでも必死に走っていた。


「隠れる場所がどこにも無いのじゃ」


「闇雲に逃げるのは危険だ!ハァハァ、このまま山の麓に沿って、あの場所から直角に逃げよう!」


転がり落ちた場所から遠ざかるために、山を右手に見て麓に沿って走っていた。


しばらく走ると、ポムの体力も限界に近づいてきた。


「カ、カガミゼンジ、ハァハァ、も、もうハァハァ、無理じゃ、ハァハァ」


「そうだな。ちょっと、休もう、ハァハァ」


二人は走るのをやめて、それでも止まる事なく歩き続けた。


「ハァハァ。何なのじゃ!あの黒いドラゴンは!」


「ふぅ〜。全くだ!あの大猿でさえ、倒すイメージが浮かばないのに!」


息を整え警戒しつつ、逃げ道を探す。


「ここでまた、規格外のモンスターが現れたら、もう、逃れられんのじゃ」


「恐ろしい事言うなよ!町がどこにあるかCPOに聞いてみよう!」


〔ザッ「CPO 、町はどこにあるんだ?」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジ士長、集落とは、概ね川の傍にあるものです。山の麓に沿って歩き、川を見つけたら、今度は川に沿って下ると良いかもしれません』ザザッ〕


(CPOナイス!)


「よし!川を探そう!」


二人はそのまま、山の麓に沿って歩き始めた。

雨の中、足場の悪い暗がりを歩くのは、疲労困ぱいの二人の体力を更に奪っていった。

そしてポムの体力は、既に限界だった。


(ポムは辛そうだな、会話もなく歩くのは厳しいな)


「ポム大丈夫か?」


「大丈夫じゃ!お主こそ足が、ガクガクではないか!」


「俺はまだまだ走れるさ!教育隊では小銃を持って、一時間は走らされたからな。自衛官は体が資本なんだよ」


「そのキョウイクタイやら、ショウジュウなど聞いたこともないな。そもそも、ジエイカンとは何じゃ?」


(しまった!普通に話してしまった!)


「そう言えば、何度も異世界とか言っておったが、どう言う事じゃ?」


(誤魔化そう)


「ポム話し方!」


「…騙されませんよ。話を変えようとしてもダメです。それとも、言えない事ですか?」


(もう、隠すのは無理か……話しても良いのか?しかし、アーノルド王にバレたけど、何ともなかったよな。女神様も特に地球のことは秘密にしろとか言ってなかったし)


「やはり言えないんですね」


ポムは悲しそうにトボトボと歩いている。


「いや……話しても良いのか分からないが、驚かないで聞いてほしい」


ゼンジは、ポムに全てを話すことに決めた。


「はい…」


「実は、記憶喪失じゃないんだ。自分は、この世界の人間じゃない。地球と言って、こことは別の世界から来たんだ。そこには、スキルや魔法などは存在しない、勿論、腕が四本ある大猿や、ドラゴン等のモンスターも、エルフもいない。人間と動物が暮らす世界から、女神様の力で転移してきたんだ」


(言えた……良かった……のか?)


二人は歩くのを止めて立ち止まった。


「……」


ポムは口を開けてゼンジを見ていた。


「信じられないかもしれないが、その地球での職業が自衛官だったんだ。自衛官とは、国民の平和のために危険を顧みず身を持って働く職業だ」


ポムは口を閉じて、再度口を開いた。


「信じます。だから貴方は、私を守ってくれたのですね」


「信じてくれるのか?突拍子もない話だぞ。嘘かも知れない」


「いいえ。それでも信じます。私は嘘が分かります。出会ったばかりですが、貴方はとても良い人だと言う事も分かります。だから……だから私も真実を話します」


「ありがとう」


ゼンジはポムの優しさに救われた気がした。


「私は影武者ではありません」


「だよな。そんな気はしてた」


ポムは鉄ヘルを外した。すると、鉄ヘルに隠していた、緑色に輝く長い髪が現れた。


「私の本名は『ポーラ・ハイエルフ・ムスタカリファ』エルフの国、ムスタカリファ王国の第二王女です。

エルフの姓は皆、ムスタカリファです。名はポーラ。そしてハイエルフは王族の証です。影武者は亡くなった彼女の方です」


「……」


ゼンジの口は、あんぐりと開いていた。


(やっぱり女の子だったか。でも第二王女って)


「彼女の名は『ポレット・ムスタカリファ』

私に良く似た彼女は、私の影武者として、常に私の側に居ました。それと同時にポレットは、私の唯一の理解者であり、たった一人の友達でした。


そして、親しい間柄のエルフ同士では、姓名の頭文字を取り呼び合うのです。私の名前の頭文字もポムになります。お互いポムと呼び合い、彼女とは本当の姉妹のように育ちました。


ある者たちが私を、亡き者にしようとして命を狙っている時も、彼女が身代わりになり何度も救ってくれました。ムスタカリファ王国からも、一緒に逃げ出してくれました」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!どうして逃げないといけなかったんだ?」


「それは、私の職業のせいです」


「職業?魔法使いがか?」


「ごめんなさい。実は私の職業は『エレメンタルアーク』です。」


「エレメンタル…アーク?……ってなんだ?」


「エレメンタルアークとは、精霊の力を借りることが出来る職業です」


(アークは確か方舟だったな。さしずめ、精霊が集まる方舟ってとこか?)


「精霊を召喚する、召喚士のようなものか?」


「いいえ。召喚はしません。精霊はどこにでも居ます。火や水、風や土、様々な場所に精霊は居るのです。その精霊たちの声を聞き、寄り添い、助け合うのです」


「要するに、そこら中にいる精霊が見えて、そいつらと話が出来るってことか?」


「そうです」


「それが国を逃げ出す理由と、どんな関係があるんだ?」


「それは…私には嘘が分かるからです」


「成る程。精霊が教えてくれるからか?」


「……そうです。私が知らない所で、誰がどんな話をしてるのか、精霊たちが教えてくれました。それこそ良いことから悪いことまで、色々教えてくれるのです。ですが嘘をついたり、悪意を持ったり、悪い事をした人からは精霊が離れて行きます。それは、精霊たちから話を聞かなくても見れば分かります。だから皆私を恐れて、私から離れて行ったのです。悪い事をした人たちから、精霊が離れるように……」


「それでか…大変だったんだな」


「!?貴方は怖くないのですか?」


「え?ポムが?精霊がか?」


「両方です。私の周りは、私の力を恐れて……」


そこでポムは下を向き話すのをやめた。


「何言ってんだよ!精霊と話が出来るなんて素晴らしいじゃないか!ノームとかサラマンダーと話が出来るんだろ!羨まし過ぎる!」


「どうして彼らを知ってるのですか!?」


(ゲームでお世話になってるとは言えないな)


「元の世界ではファンタジーの王道だからな」


「ファンタジーの王道?何の事か分かりませんが……良かった…」


「ところで、この辺りには、どんな精霊がいるんだ?」


「…実は精霊の声が聞こえなくなったのです」


「どうして!」


「先程あるものたちに命を狙われていると言いましたが、そのあるものたちを束ねていたのが、私の姉、第一王女です。私の力を恐れた第一王女に、呪いをかけられてしまいました。精霊たちが教えてくれたので、呪いが届かぬ遠くへ逃げるつもりでしたが、間に合いませんでした」


そう言うとポムは、おもむろに戦闘服を脱ぎ始めた。そしてポムは、胸が見えないギリギリまで、服を捲り上げた。


「ちょっ!何やってるんだ!」


「この紋章は、禁忌呪法による呪いです」


服の裾をめくり上げると、ヘソの周りには黒いタトゥーのようなものが刻まれていた。そのタトゥーは腰の周りを、禍々しい模様を描きながら、一周していた。更にヘソから心臓付近までも、同様の模様が伸びていた。


「今の私は何も出来ません。魔力も封じられ、魔法も使えません。でも、嘘は見破れますよ。声は聞こえなくても、精霊たちの光は見えますから……」


ポムは悲しそうに微笑んだ。


「そうか」


ゼンジはポムの頭に手を乗せて微笑んだ。


「大変だったな。泣きたい時は泣いて良いんだぞ」


ポムはゼンジの手を振り払い、下を向いた。


「ズルいのじゃ!ズルいのじゃ……」


目元から流れ落ちるモノが、雨なのか、涙なのかは分からなかった。


「大丈夫。自分は離れない。ちゃ〜んと守ってやるよ」


ポムは顔を上げ、ゼンジの目を見て言った。


「カガミゼンジはズルいのじゃ……」


ポムはゼンジに抱きついて、声を上げて泣き始めた。


「そうだ、フルネームはやめてくれ。俺の名前はゼンジだ」


「妾はポーラじゃ」


「ポーラ、改めて宜しくな!」


「ゼンジ、こちらこそ宜しくなのじゃ」


ポーラの泣き声と雨の音が、静かに二人を包んでいた。


(なんだか恥ずかしいな、助けてくれ!CPO)


「よし!この近くに町がないかCPOに聞いてみよう!聞き方を変えれば答が変わるかも知れない」


〔ザッ「CPO、近くに町はないのか?」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジ士長、分かりません。マップがあれば分かります』ザザッ〕


「そりゃそうだ!一本取られたな!」


ゼンジから離れたポーラは、涙を拭った。


「機嫌が良さそうじゃな。シーピーオーはなんと言っておるのじゃ?」


「ああ、このトランシーバー超気に入った!マップが無いから分からないんだとさ」


「それのどこが良いのじゃ?まったく、ゼンジは変わっておるな」


その後、二人は歩き始めた。

トランシーバーに話しかけるゼンジを横目に、ポーラは密かに微笑んで周囲の警戒を始めた。


しばらく歩くとポーラが何かを見つけた。


「ゼンジあれを見て下さい!川じゃないですか?」


落ち着きを取り戻したポーラは、口調を元に戻していた。


雨で視界が悪く、川の音も聞こえないが、目を凝らすと流れが早い茶色の濁流が少しづつ見えて来た。


「川だな。山から流れてきてる。かなりデカいぞ」


傍まで行くと、轟々と唸りを上げて荒れ狂うような激流と、その大きさに驚かされた。


「向こう岸が見えないな!下流の方に行ってみるか」


川を右手に、しばらく歩くと雨が更に強く降り始め、視界が急激に悪くなってきた。しかし、既にびしょ濡れの二人は、雨が強くなろうがどうでも良くなっていた。


その後も二人は歩き続けた。


そして数時間後、雨は小降りになり、薄らと明るくなり始めた。


「もう直ぐ朝だな!」


「モンスターに一度も出会わず、運が良かったですね」


「それは言ったらダメなやつじゃないか?フラグが立つぞ」


するとポーラは前方を指差した。


「あそこを見てください!」


「何!?もうフラグ回収か?どこだ?」


「ほら!あの大きな木の下です!」


ゼンジは目を細めて、ポーラが指差す先を目で追った。


「木の下に何かいるな?……あ、あいつは!!」


大きな木の下に人だかりが出来ていた。



(女神様こちら自衛官、

あそこにいるのは、あいつですよね?どうぞ)


「残り二つの樽も探しに戻って来るぞ!」


「少しでも遠くに、ハァハァ、逃げるのじゃ!」


アシスタント改め、CPOのお陰で悲しみを乗り越えた矢先、やる気と共に黄金の樽まで持って行かれたゼンジたちは、それでも必死に走っていた。


「隠れる場所がどこにも無いのじゃ」


「闇雲に逃げるのは危険だ!ハァハァ、このまま山の麓に沿って、あの場所から直角に逃げよう!」


転がり落ちた場所から遠ざかるために、山を右手に見て麓に沿って走っていた。


しばらく走ると、ポムの体力も限界に近づいてきた。


「カ、カガミゼンジ、ハァハァ、も、もうハァハァ、無理じゃ、ハァハァ」


「そうだな。ちょっと、休もう、ハァハァ」


二人は走るのをやめて、それでも止まる事なく歩き続けた。


「ハァハァ。何なのじゃ!あの黒いドラゴンは!」


「ふぅ〜。全くだ!あの大猿でさえ、倒すイメージが浮かばないのに!」


息を整え警戒しつつ、逃げ道を探す。


「ここでまた、規格外のモンスターが現れたら、もう、逃れられんのじゃ」


「恐ろしい事言うなよ!町がどこにあるかCPOに聞いてみよう!」


〔ザッ「CPO 、町はどこにあるんだ?」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジ士長、集落とは、概ね川の傍にあるものです。山の麓に沿って歩き、川を見つけたら、今度は川に沿って下ると良いかもしれません』ザザッ〕


(CPOナイス!)


「よし!川を探そう!」


二人はそのまま、山の麓に沿って歩き始めた。

雨の中、足場の悪い暗がりを歩くのは、疲労困ぱいの二人の体力を更に奪っていった。

そしてポムの体力は、既に限界だった。


(ポムは辛そうだな、会話もなく歩くのは厳しいな)


「ポム大丈夫か?」


「大丈夫じゃ!お主こそ足が、ガクガクではないか!」


「俺はまだまだ走れるさ!教育隊では小銃を持って、一時間は走らされたからな。自衛官は体が資本なんだよ」


「そのキョウイクタイやら、ショウジュウなど聞いたこともないな。そもそも、ジエイカンとは何じゃ?」


(しまった!普通に話してしまった!)


「そう言えば、何度も異世界とか言っておったが、どう言う事じゃ?」


(誤魔化そう)


「ポム話し方!」


「…騙されませんよ。話を変えようとしてもダメです。それとも、言えない事ですか?」


(もう、隠すのは無理か……話しても良いのか?しかし、アーノルド王にバレたけど、何ともなかったよな。女神様も特に地球のことは秘密にしろとか言ってなかったし)


「やはり言えないんですね」


ポムは悲しそうにトボトボと歩いている。


「いや……話しても良いのか分からないが、驚かないで聞いてほしい」


ゼンジは、ポムに全てを話すことに決めた。


「はい…」


「実は、記憶喪失じゃないんだ。自分は、この世界の人間じゃない。地球と言って、こことは別の世界から来たんだ。そこには、スキルや魔法などは存在しない、勿論、腕が四本ある大猿や、ドラゴン等のモンスターも、エルフもいない。人間と動物が暮らす世界から、女神様の力で転移してきたんだ」


(言えた……良かった……のか?)


二人は歩くのを止めて立ち止まった。


「……」


ポムは口を開けてゼンジを見ていた。


「信じられないかもしれないが、その地球での職業が自衛官だったんだ。自衛官とは、国民の平和のために危険を顧みず身を持って働く職業だ」


ポムは口を閉じて、再度口を開いた。


「信じます。だから貴方は、私を守ってくれたのですね」


「信じてくれるのか?突拍子もない話だぞ。嘘かも知れない」


「いいえ。それでも信じます。私は嘘が分かります。出会ったばかりですが、貴方はとても良い人だと言う事も分かります。だから……だから私も真実を話します」


「ありがとう」


ゼンジはポムの優しさに救われた気がした。


「私は影武者ではありません」


「だよな。そんな気はしてた」


ポムは鉄ヘルを外した。すると、鉄ヘルに隠していた、緑色に輝く長い髪が現れた。


「私の本名は『ポーラ・ハイエルフ・ムスタカリファ』エルフの国、ムスタカリファ王国の第二王女です。

エルフの姓は皆、ムスタカリファです。名はポーラ。そしてハイエルフは王族の証です。影武者は亡くなった彼女の方です」


「……」


ゼンジの口は、あんぐりと開いていた。


(やっぱり女の子だったか。でも第二王女って)


「彼女の名は『ポレット・ムスタカリファ』

私に良く似た彼女は、私の影武者として、常に私の側に居ました。それと同時にポレットは、私の唯一の理解者であり、たった一人の友達でした。


そして、親しい間柄のエルフ同士では、姓名の頭文字を取り呼び合うのです。私の名前の頭文字もポムになります。お互いポムと呼び合い、彼女とは本当の姉妹のように育ちました。


ある者たちが私を、亡き者にしようとして命を狙っている時も、彼女が身代わりになり何度も救ってくれました。ムスタカリファ王国からも、一緒に逃げ出してくれました」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!どうして逃げないといけなかったんだ?」


「それは、私の職業のせいです」


「職業?魔法使いがか?」


「ごめんなさい。実は私の職業は『エレメンタルアーク』です。」


「エレメンタル…アーク?……ってなんだ?」


「エレメンタルアークとは、精霊の力を借りることが出来る職業です」


(アークは確か方舟だったな。さしずめ、精霊が集まる方舟ってとこか?)


「精霊を召喚する、召喚士のようなものか?」


「いいえ。召喚はしません。精霊はどこにでも居ます。火や水、風や土、様々な場所に精霊は居るのです。その精霊たちの声を聞き、寄り添い、助け合うのです」


「要するに、そこら中にいる精霊が見えて、そいつらと話が出来るってことか?」


「そうです」


「それが国を逃げ出す理由と、どんな関係があるんだ?」


「それは…私には嘘が分かるからです」


「成る程。精霊が教えてくれるからか?」


「……そうです。私が知らない所で、誰がどんな話をしてるのか、精霊たちが教えてくれました。それこそ良いことから悪いことまで、色々教えてくれるのです。ですが嘘をついたり、悪意を持ったり、悪い事をした人からは精霊が離れて行きます。それは、精霊たちから話を聞かなくても見れば分かります。だから皆私を恐れて、私から離れて行ったのです。悪い事をした人たちから、精霊が離れるように……」


「それでか…大変だったんだな」


「!?貴方は怖くないのですか?」


「え?ポムが?精霊がか?」


「両方です。私の周りは、私の力を恐れて……」


そこでポムは下を向き話すのをやめた。


「何言ってんだよ!精霊と話が出来るなんて素晴らしいじゃないか!ノームとかサラマンダーと話が出来るんだろ!羨まし過ぎる!」


「どうして彼らを知ってるのですか!?」


(ゲームでお世話になってるとは言えないな)


「元の世界ではファンタジーの王道だからな」


「ファンタジーの王道?何の事か分かりませんが……良かった…」


「ところで、この辺りには、どんな精霊がいるんだ?」


「…実は精霊の声が聞こえなくなったのです」


「どうして!」


「先程あるものたちに命を狙われていると言いましたが、そのあるものたちを束ねていたのが、私の姉、第一王女です。私の力を恐れた第一王女に、呪いをかけられてしまいました。精霊たちが教えてくれたので、呪いが届かぬ遠くへ逃げるつもりでしたが、間に合いませんでした」


そう言うとポムは、おもむろに戦闘服を脱ぎ始めた。そしてポムは、胸が見えないギリギリまで、服を捲り上げた。


「ちょっ!何やってるんだ!」


「この紋章は、禁忌呪法による呪いです」


服の裾をめくり上げると、ヘソの周りには黒いタトゥーのようなものが刻まれていた。そのタトゥーは腰の周りを、禍々しい模様を描きながら、一周していた。更にヘソから心臓付近までも、同様の模様が伸びていた。


「今の私は何も出来ません。魔力も封じられ、魔法も使えません。でも、嘘は見破れますよ。声は聞こえなくても、精霊たちの光は見えますから……」


ポムは悲しそうに微笑んだ。


「そうか」


ゼンジはポムの頭に手を乗せて微笑んだ。


「大変だったな。泣きたい時は泣いて良いんだぞ」


ポムはゼンジの手を振り払い、下を向いた。


「ズルいのじゃ!ズルいのじゃ……」


目元から流れ落ちるモノが、雨なのか、涙なのかは分からなかった。


「大丈夫。自分は離れない。ちゃ〜んと守ってやるよ」


ポムは顔を上げ、ゼンジの目を見て言った。


「カガミゼンジはズルいのじゃ……」


ポムはゼンジに抱きついて、声を上げて泣き始めた。


「そうだ、フルネームはやめてくれ。俺の名前はゼンジだ」


「妾はポーラじゃ」


「ポーラ、改めて宜しくな!」


「ゼンジ、こちらこそ宜しくなのじゃ」


ポーラの泣き声と雨の音が、静かに二人を包んでいた。


(なんだか恥ずかしいな、助けてくれ!CPO)


「よし!この近くに町がないかCPOに聞いてみよう!聞き方を変えれば答が変わるかも知れない」


〔ザッ「CPO、近くに町はないのか?」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジ士長、分かりません。マップがあれば分かります』ザザッ〕


「そりゃそうだ!一本取られたな!」


ゼンジから離れたポーラは、涙を拭った。


「機嫌が良さそうじゃな。シーピーオーはなんと言っておるのじゃ?」


「ああ、このトランシーバー超気に入った!マップが無いから分からないんだとさ」


「それのどこが良いのじゃ?まったく、ゼンジは変わっておるな」


その後、二人は歩き始めた。

トランシーバーに話しかけるゼンジを横目に、ポーラは密かに微笑んで周囲の警戒を始めた。


しばらく歩くとポーラが何かを見つけた。


「ゼンジあれを見て下さい!川じゃないですか?」


落ち着きを取り戻したポーラは、口調を元に戻していた。


雨で視界が悪く、川の音も聞こえないが、目を凝らすと流れが早い茶色の濁流が少しづつ見えて来た。


「川だな。山から流れてきてる。かなりデカいぞ」


傍まで行くと、轟々と唸りを上げて荒れ狂うような激流と、その大きさに驚かされた。


「向こう岸が見えないな!下流の方に行ってみるか」


川を右手に、しばらく歩くと雨が更に強く降り始め、視界が急激に悪くなってきた。しかし、既にびしょ濡れの二人は、雨が強くなろうがどうでも良くなっていた。


その後も二人は歩き続けた。


そして数時間後、雨は小降りになり、薄らと明るくなり始めた。


「もう直ぐ朝だな!」


「モンスターに一度も出会わず、運が良かったですね」


「それは言ったらダメなやつじゃないか?フラグが立つぞ」


するとポーラは前方を指差した。


「あそこを見てください!」


「何!?もうフラグ回収か?どこだ?」


「ほら!あの大きな木の下です!」


ゼンジは目を細めて、ポーラが指差す先を目で追った。


「木の下に何かいるな?……あ、あいつは!!」


大きな木の下に人だかりが出来ていた。



(女神様こちら自衛官、

あそこにいるのは、あいつですよね?どうぞ)

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