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始まり<戦闘>

 「引き返します!」


 リレアが叫んだ。

 至極真っ当な判断だ。今、この状況で岩地龍に突っ込んでいくのはバカのすること、人間なら近づいた瞬間に肉体が蒸発、空気中を彷徨う気体となるだろう。

 しかしリレアは知らない。後方から迫るもう一つの脅威を。


 「ダメだ!後ろからダラバララが迫ってきてる。戻れば轢き殺されるぞ!」

 「ダラバララって奇鳥ですか!?」

 「ああ、奇鳥だ」


 奇鳥ダラバララ。時速300キロで連続走行が可能な鳥型の魔獣である。

 彼らは主に広い草原に生息し、100から1000の群れとなって生活する。主食は雑草などの草で戦闘を好まない平和主義者である。

 ゆえに一魔獣としての戦闘力は決して高くないものの彼らが群れとなり大移動を開始したときには一国をも滅ぼしかねん災害へと変化する。


 彼らは目的地まで直進するのだ。目の前にある障害物をその強靭な脚力と肉体を持ってして粉砕、突破する。

 それがもちろん木でも岩でも魔獣でも、そして国だろうと直進し続けるのだ。

 彼らの前に生身の人間が立った日には1秒と持たず肉片へ大変身することになるだろう。


 そしてそんな災害とも揶揄される魔獣が俺たちに迫ってきてるわけ。

 目測だが速度200キロは出てる。

 到達まで3分と言ったところか。


 「エンリさん!捕まってください!」


 リレアの声とともに馬車が急加速する。

 そして岩地龍の方へ直進する。

 リレアは手綱を放し横に置いてあった剣を握る。


 青き稲妻が地を駆ける。

 銀の刀身があらわになる。


 「倒せるのか?」

 「正直、五分五分です。剣を抜くのなんて数年ぶりなんで」


 その瞳には決意の色が浮かぶ。

 御者台の上で剣を構える。

 シーバルトが吠える。周囲の温度が一段階上がるのを感じる。

 次の瞬間、地面からマグマが噴き出す。まるで噴水のようなそれは1000度の雨を降らす。


 リレアは一瞬たじろぐもマグマが馬車に降り注ぐことはなかった。

 目の前に黄緑色の半透明の膜が見える。結界だ。エンリが結界を張りマグマの雨から馬車を守ったのだ。

 リレアはエンリを一目見て頭を下げると再び剣を構え、紫電の一撃を撃ち放つ。


 それは世界が一瞬暗闇に見えるほどの眩い光量。音よりも早く衝撃が身を揺らし、意識よりも感覚が先にその振られた剣を認識する。

 1/1000秒という限りなく短い時間で、発生、衝突、増幅、放出が行われたその一撃はまさに神速。

 あらゆるものを穿ち地を砕く雷鳴の一撃。


 「雷穿天邏」


 その一撃は天を割った。


 「あんた本当に元冒険者か!?悪魔かなんかじゃねえの?」


 エンリが雷鳴が止まないなか叫ぶ。

 リレアは苦笑いする。

 しかしこの光景は悪魔扱いも仕方がないだろう。まるで世界の終焉だ。天地に稲妻が疾り、地上には無数の雷が落ちる。到底、元冒険者の商人が作り出した光景には見えない地獄の風景だった。


 リレアが剣を収めると自然と落雷と雷鳴が止み、攻撃によって舞い上がった砂埃が落ち着き視界が通るようになる。リレアは御者台に座り手綱を握る。

 しかし数秒後、リレアはまるで苦虫を噛んだような表情をすることになる。


 そこには表面の岩肌が少し剥がれただけのシーベルトの姿があった。

 岩肌の間を流れる溶岩流がより鮮烈に鮮やかに色づく。


 「やっぱり火力不足か」


 リレアがつぶやく。

 どうやら五分五分というのは俺を安心させるための嘘で実際は賭けに近い形だったようだ。

 しかしあれだけの光景を作り出す攻撃を食らっておいて岩肌を剥がす程度のダメージしか与えられないとか絶望にもほどがあるな。

 おおよそ生物の防御力ではない。


 シーベルトが口を開く。

 圧縮されていく魔力と溶岩流。白紅の破壊光線がエンリたちに向けられる。あんな攻撃が放たれれば俺たちはもちろんここら一帯が消し飛び、新たな火山地帯が誕生することになるだろう。


 「アリア、リアナ、愛してるよ」


 どうやらリレアは万策尽きたらしい。ついに遺言を残し始めた。

 そんなリレアをよそにエンリは馬車の後ろに移動し、先ほどまで完全に蚊帳の外だったダラバララの距離を確認する。

 やはり先ほどより距離が縮まってきている。どうやら予想より早く馬車が轢かれそうだ。

 それにしても馬車が轢かれるという言葉はなかなか使う機会のないパワーワードだな。


 エンリは御者台にいるリレアの肩を叩き、声を掛ける。


 「リレア、席を代わってくれ」


 リレアは不思議そうに首を傾げながら席を変わる。

 死ぬかもしれないのに冷静なのは元冒険者としての経験が生きているのかもしれない。

 上着を脱ぎ馬車内に投げる。そして馬車の後ろを指差しながら指示する。


 「今からシーベルトの攻撃を受け流す。受け流して少ししたら爆発音がするからその音がなったら、後ろにさっきと同じ攻撃を放てるか?」

 「できるけど、あの攻撃をどうやって受け流すんだい?」

 「任せておけ」


 エンリはそれだけ言い残すと先ほどのリレアと同じように御者台に立つ。

 そして手を前に突き出す。

 腕にいくつかの光の線が浮き上がる。それは淡く魔力を帯びており、腕全体を軽く覆っていた。


 「さあさあ、境界術を使うのなんていつぶりかな」


 そう言いつつ肩を回す。

 ふと、視界に馬車を引いている二匹の馬が目に入る。

 その馬たちに「あと少し頑張ってくれ」と言葉を投げかける。

 その言葉が馬たちに聞こえたかどうかはわからないが馬たちの足に力が入る。


 シーベルトの口元が発光する。超圧縮状態の魔力と溶岩流が一つの光線となって発射される。

 地面は融解し、大気を軋ませ、迫り来る破壊光線を前にエンリは落ち着いた様子で立っていた。

 そして光線が馬車と接触するコンマ数秒前、エンリは呟いた。


 「暁と黄昏の境界線で」


 世界に夜がやってくる。

 先ほどまであった熱く辛い太陽は冷たく青白い月へと姿が変わり、シーベルトが放った光線は姿を消している。

 ゆえに今、世界を照らすものはシーベルトの溶岩流とエンリの腕を巡る淡い光のみである。

 そしてその夜は酷く静かでまるで地上にいる全てのものを畔笑うかのように星が輝く。


 そして朝がやってくる。

 日が天高く昇り、月は隠れる。

 その姿は夜が来るまでの姿となんら変わりない。唯一変わっていることがあるとすればシーベルトの放った光線が馬車の後方、ダラバララの群れの中に放たれていることぐらいだった。


 圧倒的破壊力を持ったシーベルトの光線は最もたやすくダラバララの群れを壊滅させ、溶岩の湖を作り出す。

 そしてその溶岩湖に後ろから追従していたダラバララも勢いを落としきれず次々と落ちていく。もし止まれたとしても後続からどんどん押され湖にドボンだ。


 だがダラバララもバカではない。

 異変に気付き横に広がるような形で散開する。数匹が溶岩の湖の横を通り抜けていく。

 しかし彼らが走り続けることはない。


 爆発音から遅れながらもリレアが先ほどと同じ攻撃を使う。

 けたたましい雷鳴と地を疾る雷が次々と溶岩湖から逃れたダラバララを蹂躙していく。

 大方予想通りに進んだ。

 あとは目の前の大きなお山を片付けるだけだ。


 しかしエンリは何をするわけでもなくシーベルトに背を向ける。

 それを隙はたまた余裕だと読み取ったシーベルトはすぐさま次の攻撃に移る。

 咆哮とともに地面を踏みつけると、地下から溶岩が溢れ出る。それは先ほど出たようなチンケなものではない。

 この溶岩が全て噴火に使われていたと考えるとゾッとする量だ。


 溶岩は流動的で物理法則を無視した行動をする。

 それはまるで竜のようでシーベルトが操っていることがうかがえる。

 溶岩竜がエンリを襲う。灼熱と熱風を引き起こしながらそれはエンリへ向かう。

 だがシーベルトはある勘違いをしていた。


 エンリが背を向けたのは隙でも余裕でもはたまた侮辱でもない。

 すでに必要なかったのだ。シーベルトを見ることに。


 エンリに溶岩竜が食らいつく寸前、溶岩竜は突然、重力引かれ地面に落ちる。あっけなくまるで地面に落ちる液体のように。

 それは一つに事実、そして結果を示していた。


 シーベルトの体があべこべになり、まるで子供に書かせた落書きのようなる。

 そしてフランケンシュタインも驚き、継ぎ接ぎののちに自壊する。

 ただの岩に成り果て、道のそばに転がる。その岩はわずかに熱を帯びている。

 岩地龍シーベルトの最期だった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

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