紅き月の夜<後>
23時17分、エンリとリアナ・リバースがシルバルサ城前へ到着。
来る途中、街中で逃げ遅れた人や瓦礫の下敷きになってしまった人を救助しているヨラル・アンスバルトを発見、どうやら街中でバイオテロに遭い、武器も情報もない中、魔獣化した人間と戦い、他の人たちを守っていたようだ。数時間前に軍が到着した際には、ここら周辺の魔獣化した人間は全て無力化されており、それからさらに少しして魔獣化した人間の拘束が街全域で完了した知らせを受けて、救助活動に動きを変えたらしい。そのためか全身が汚れており、服はボロボロであったが、怪我一つなく魔獣化した人間をいなし続けていたことが容易に想像できる。
しかし不運なことにバイオテロの発生からエンリたちに会う数時間の間、誰にも会わなかったせいでリリアが誘拐された事実を知らなかったらしい。
状況を聞いたヨラルは誘拐犯がいるであろうシルバルサ城に特攻を仕掛けようとしたが、こっちの方は任せてくれと宥めた。その代わりエンリが持っていた予備の無線機をヨラルに渡し、これでセレンと連絡を取り、他のベガ神話に関わる場所を探してくれと伝えといた。
エンリやセレンとの戦闘を見てわかるように誘拐犯はかなりの実力者だ。並の人間では相手にならないだろう。そしておそらくヨラルは誘拐犯と渡り合える側の人間だ。それなら、エンリとリアナの二人と一緒にいるよりも、ヨラルにもベガ神話に関わる場所を探してもらい、捜索の人数を増やし、もしもに備えてもらった方がいいだろう。少なからず、エンリの予想が外れても『紅き月』が出ている以上ベガ神話にまつわる場所にいることは間違いないないのだから。
空を照らす大きく禍々しい紅き月は今宵の星空を赤く染め映し出す。
街灯の暖色がいつもより濃く見えるのはきっと月のせいだろう。閑散とした城の前は恐ろしいほど静かだ。嵐の前の静けさという言葉があるが、これは台風の目、その渦中にあるように思えて仕方がない。
「エンリ、リリアさんを助ける前に聞いておきたいんだけど」
「なんだ?」
「あなた、犯人の目星ついているのよね?」
「ああ、ついてるな」
「やっぱり……」
「よくわかったな?」
「さっき話してた時、誘拐犯のことをあの人って言ってる時があったから、それを聞いて、誘拐犯のこと知ってるんだなって思ったの」
「なるほど」
「それで?なんでセレンに言わなかったの、犯人のこと」
「いう必要がないと思ったから」
そういうエンリの顔はどこか悲しそうな表情をしている。
それを見てリアナはこれ以上の追求をやめた。
「……そう、ならいいわ」
おそらく誘拐犯はエンリの知り合い、そしてセレンと親しい人物なのだろう。
そうだ。そうでなければ今回の事件は成り立たない。エンリを襲った犯人はリリアを誘拐した犯人とエンリを誘拐した犯人は同一犯の可能性が高いとセレンから聞いた。その目的が液体魔力だってことも知ってる。ならなぜ犯人はエンリが液体魔力を持っていることを知っていた?なぜリリアが封霊体質であることを知っていた?なぜリリアが誘拐された時、そこにいるとわかった?
リアナはそこまで考えて思考をやめた。ここから先は考えなくても今から答えがわかる。思考するだけ無駄だ。
「さて、それじゃあ、行こうか」
そう言ってエンリは封鎖された城の門を易々と超えた。それに続くようにしてリアナも門を越える。
赤く染まった橋の上には誰もいない。世界を包む紅の粒子が、まるで重力の束縛から逃れるように空へと登っていく。その光景は見ていて気持ちのいいものではない。まるで潜在的恐怖を撫でられているような感覚に襲われる。
そして何より異様なのはこの城周辺には一人として魔獣化した人間がいないという事実だ。いや正確には生物の気配を感じない。それはまるで蜘蛛が自らの危機を察知して逃げるかの如く、山羊が天敵の気配を感じて避けるが如き光景だ。
一本目の端を超えた先、城へ続く二本目の橋。石造のその橋は緊急時の処置として魔法によって分断、上げられ、城への道を立っている。
「エンリ、流石の私もこの距離は飛べないわよ?」
「わかってるよ」
対岸までの距離はおよそ100メートル。人が一飛びで超えていい距離ではない。もちろん、身体強化などの魔法を使えば越えることはできるだろうが、わざわざそんなことしなくても対岸に渡る方法などいくらでもある。
エンリが地面を軽く蹴ると魔力の橋ができる。白の光に虹色が走る橋だ。これは魔法や魔術、錬金術などではない。
その光景にリアナは目を丸くする。
「ほら、早く来い」
「え、ええ」
エンリは特に何をいうわけもなく橋を上を渡っていく。その光景はさも当然のことのようだ。
リアナは恐る恐る足を踏み出す。普通の人間ではこれだけの魔力を掌握し続けるのは不可能に近いだろう。いつどこが魔力の物質化が解け、底が抜けてもおかしくない。そもそもこれだけの強度を持った魔力を魔力操作だけで一瞬でも維持すること自体、異常なのだがエンリ自身はそのことを自覚しているのだろう。
この男は自分を単なる学者だというが、絶対そんなではない。
魔力の橋への疑念が晴れないまま橋を渡りきり、ついには城の入り口までやってきた。
重い木製の扉を押し開ける。明るい光が城内を照らし、おそらく途中までは今日も通常通り営業していたのだろう。地面には投げ捨てられたパンフレットが散乱し、ポールなどが薙ぎ倒されている。城の中にいた観光客は相当焦っていたようだ。
そしてその薙ぎ倒されたポールに混ざるようにして何人もの警備兵が倒れていた。多くのものが剣を抜き、魔法や魔術、錬金術を使用した痕跡こそあるものの、ほぼ無抵抗のまま一方的にやられたようだ。もしくは攻撃をためらったのだろう。
近くにいた警備兵の一人の脈を測る。どうやら生きてはいるようだ。別の警備兵の脈を測っていたリアナもまたエンリの方を見て頷く。死んでいる警備兵はいないらしい。いつ目覚めるかもわからない警備兵を生かしておくとは、誘拐犯は随分と優しいらしい。まあ、この様子じゃあ、当分目を覚ますことはないだろうが。
「それにしても今なら、聖遺物でもなんでも盗み放題よね」
「そうだな……盗むのか?」
「そんなわけないでしょ!」
そう叫ぶリアナ。
確かに今であればここにある聖遺物や歴史的価値のある資料、神話時代の貴重品など、なんでも盗めるだろう。
エンリは辺りを見渡しながらそう思う。
「それで、目的の地下はどこかしら?」
「さあな。案内板にでも書かれてないか?」
そんな軽口を叩きながら二人は地下への入り口を探す。
魔法で探すにも地下室の壁は魔力不導体だ。感知する事すらできないだろう。そのためこうやって地道に探すしか方法はない。
そして数分後、エンリが適当な神話時代の遺物を興味深そうに見ていたところ、リアナが地下への入り口を発見する。
「エンリ、こっちに来て。それっぽい場所見つけたわ」
「ああ、今行く」
そこは神話時代に作られた彫刻が展示されいる場所の裏に設置された古びた扉。
「ほら見て、エンリ、ここ最近人が通った形跡がある」
「ああ。いくつか扉の先に続く魔力の残滓も残ってる。少なからず頻繁に人の出入りがあるのは間違いない」
扉の前にはここ数時間以内にできたと思われる埃についた足跡と何人もの魔力の残滓が残されていた。
扉自体にも認識を阻害する魔法がかけられており、意識的にこの扉を探さなければ見つけることはないだろう。
扉を開ける。
ギギギという錆びた金具の音と共に冷たい風と石を削りつくった階段が現れる。壁にかけられた淡くオレンジ色に光る魔導灯がまるで二人を導くように光り輝く。
エンリが足を踏み入れる。瞬間、空気が変わったことを肌で感じた。痺れるような締め付けるようなそんな感覚。明らかにこの扉の先には何かがあるそう思わせる感覚だ。
地下はまるで冷蔵庫のように寒く、初夏の服装であるエンリとリアナにとっては少し肌寒く感じる。
時間にして一本ほど降った先で広い空間に出る。
直径50メートルほどの地下空間。そこにはさらに下へと続く螺旋階段が壁沿いに配置され、暗闇の中へ飲み込まれるように途方もなく続いているのが見える。
「底が見えないわね……」
「底が見えないんじゃない。底がないんだ」
「え?」
「おそらくあの暗闇は世界の境界線。次元層の境目だ。あの境界の先はある一瞬を無限回繰り返している実質的静止世界。下手に進もうとすると無限の時間を繰り返した果てに存在が希薄になり、最終的には消滅する」
「なら、他に下に行く方法があるの?誘拐犯がリリアを使って『レンヴェルク』の封印を解くつもりなら、ここを通らなければいけないのようね?」
「ああ。普通なら鍵となる言葉を言ったり、文字の羅列だったり、特定の魔法陣や紋に反応したりするものだが、あいにく俺たちはそんな都合のいいもの持ち合わせてない」
「そうね。この際、鍵になりそうな言葉でも言ってみる?」
「いや、その必要はない。先人の知恵は偉大でな。実質的静止世界を突破する方法なんて腐るほどある」
暗闇の境界線に走る閃光。それは面全体に広がり、まるで鏡のようにひび割れた。
空間の破壊。いや、正確には次元層を一時的に修復不可能にしたと言った方が正しいか。無限回繰り返される空間はいわばこの世界とは隔絶した空間と時間軸に存在している。そのためその間は常に通常の空間と無限回繰り返される空間で衝突し合う。反発と結合という二つの力が常に働いている。そしてこの二つの力の拮抗状態が次元摩擦となり、自然と乖離したその境界線で次元層が視覚可能な状態で現れるのだ。そしてこの次元層を破壊した時、無限回繰り返された空間は通常との空間との境目をなくし、拮抗していた反発と結合の力関係が崩れ、空間はより大きい力、つまりは通常の空間へと結合される。
もちろん次元層が回復すれば再び反発と結合の力が拮抗して、再び空間が無限回繰り返されることになるだろうが、次元層へ与えたダメージ的に三日は完全な修復までかかるだろう。
次元層への攻撃は本来、王国の法律で禁止されているのだが、まあ、もしバレた時は「世界の危機だった」とでも言い訳しよう。
次元層が破壊されたことにより、100メートルほど下に光を放つ空間が見える。おそらくそこがこの空間の底なのだろう。
「高いわね」
「そうだな」
「ここを降りるとなるとだいぶ時間かかりそう」
「ああ……ところで、リアナ、バンジージャンプってやったことあるか?」
「え?ないけど?」
「スカイジャンプは?」
「ないわね」
「そうか……悪いけど、ちょっとここ立ってくれない?」
「……別にいいけど」
そう言われリアナはエンリの前に立つ。場所的には階段の際より少し内側にいる程度である。そのためすぐ後ろには、壁沿いに存在する螺旋階段の中心、底まで続く巨大な穴が存在している。
「舌噛まないように口は閉じとけ」
「え?」
エンリはそう言うと数歩後ろへ下がって、軽く助走をつける。そしてリアナの手を掴み、底まで直通の巨大穴へとジャンプした。
浮遊感、底へと向けて紐なしバンジーを開始する。リアナの悲鳴が閉鎖空間の地下に響き渡る。内臓が浮き上がる感覚と体が地面へと引き寄せられる感覚。その齟齬が非常に気持ち悪い。
前にもこんなことがあった気がする。というか確実にあった。そして今回もその時と同じように、風を滑り台のように利用して落下の速度を殺す。
無事地面に着地する。
「はぁ……はぁ……エンリ、今度から、こういうことする時、先に説明してくれる……?」
どうやら相当驚いたのか、リアナはへたりと地面に腰を下ろし、呼吸は上がっている。頬は軽く赤く染まって、その心臓の音がこちらまで聞こえてきそうだ。
「そうだな、気が向いたら……」
「絶対!言って!」
「あ、ああ、そうするよ」
すごい気迫のリアナにエンリは思わず後退りしながらそう言う。
「立てるか?」
差し出した手を掴むリアナ。その体を起こす。
「どうやら、ゴールが見えてきたみたいだ」
エンリの視線の先には10メートルの通路の先に一つの扉が見えた。その扉の前には警備兵が二人倒れており、何者かに襲われた形跡が残されている。おそらく上で倒れていた警備兵と同じ人間に襲われたのだろう。その上、多分つい最近、扉が開けられたのだろう。地面には扉が擦れてできたと思われる生傷が残されている。
コツン、コツンと二つの足音が通路内を反響する。一歩、また一歩と進むたびに空気が変わっていくのがわかる。今までの空間とは全く空気感が違う。まるで恐怖や畏怖、そう言ったものが空気に溶け込んでいるかのような感覚だ。アスカノールやハージ・ジェルク、正体不明と対峙した時とは違う緊張感を感じさせる。恐れとでもいうべきだろうか。
無意識に呼吸が浅くなる。鼓動が早くなる。死というものを直感させる。まるで自分の足で地獄へと進んでいっているような感覚だ。
ついに扉の前に立った。
足がすくむ、肩が小刻みに震えるのがわかる。そんなリアナの背中を勢いよくエンリが叩く。
「痛っ!?ちょっと、何するのよ!」
「なに、その背中が随分と小さく見えたから喝を入れてやっただけよ」
「……ありがとう」
「気にするな」
エンリはそういうとトランクケースから無線機を取り出す。
「こちらエンリ。セレン・リオキル、応答願う」
『はい、こちらセレン・リオキル』
「シルバルサ城で複数の警備兵が倒れているのを発見、何者かに襲われた形跡あり。シルバルサ城地下の警備兵も気を失っており、扉に開閉された痕跡がある。警備兵の救助を寄越してほしい」
『了解しました。こちらからも一つ報告があります』
「なんだ?」
『この街にある全てのベガ神話ゆかりの場所や物品が保管されている場所を回ってみましたが、誘拐犯らしき人物とリリアさんらしき人物は見当たりませんでした。残っているのはエンリさんとリアナがいる『レンヴェルク』の封印地、シルバルサ城の地下のみです』
「了解」
『それでエンリさんたちこれからどうしますか?』
「俺とリアナはこれより、誘拐犯がいると思われる『レンヴェルク』の封印地へ突入する」
『わかりました。私もそちらへ急いで向かいます』
「了解、着いたら上で待機しててくれ」
『わかりました。ああ、それと、ご武運を。通信終了』
「通信終了」
ご武運をね。できればご武運なんか祈られなくてもいいぐらい完勝でいきたいものだが。
「リアナ、行けるか?」
「ええ!」
23時42分、エンリ及びリアナ・リバースが扉を開け、『レンヴァルク』封印地へ足を踏み入れる。
広がる魔力の蒼と紅が混ざり合う空間。壁に刻まれた数えきれないほどの術。天井から伸びる27本の細い鎖には一つ一つの魔法がかけられているが見える。そしてその先にはまるでその鎖を束ねるように腕に巻きつけた女性を模した像ある。その手はまるで祈るように握られており、周囲に浮かぶ、九つの文字の羅列が、圧縮詠唱を記した魔術言語だと理解するのに時間はかからない。
地面に描かれた三つの小円と一つの大円からなる極めて複雑な封印術はその描かれた封印陣に一切の無駄がない。それどころか封印陣に描かれている幾何学記号や神秘記号、刻まれた言葉には、12個の星座、107の星の位置が対応し、占星術を用いた封印も同時に行われている。
そしてそれらの中心にそれはある。
ガラスのような透明な八面体の箱。中は水で満たされその中を一本の錆びた短剣がまるで波に漂うかのように揺れる。しかしそれはまるで何かに固定されているように箱の中心から動かない。
シルバルサ城に展示されていた『レンヴェルク』の封印術と同じもの。ただ一つ違うところあげるなら、錆びた短剣が赤黒い炎ような塊を突き刺しているということだろうか。
そしてその下には八面体の箱を眺める一つの人影とその横で地面に寝かされているリリア・アンスバルトがいた。
距離にして50メートル。身体強化を行えば3歩で届く。
リアナが大剣を構える。その時、人影が口を開いた。
「随分と血の気が多いな、リアナ・リバース。警告もなしに切り掛かるつもりか?人間違いだったらどうする?」
「入口の警備兵は倒れてて、隣には誘拐された女性、その上、こんな観光客が迷いそうにもない場所にいるってだけで私には警告なしで斬りかかる十分な理由だけど?」
「それもそうか……」
「それより、なんで私の名前を知ってるの?」
「誘拐なんて犯罪を下調べなしにやると思うか?」
「そう、意外と勉強家なのね。もっと別のところに生かせばよかったのに」
大剣の刃先を地面に軽くつけた。腰を低く落とし、まるで弓を引き絞るように意識を集中させる。
魔力が爆ぜる。それは爆発的な加速力を生み出し、リアナを大きく前へ押し出した。3歩で誘拐犯の背後に届く。
左足を軸に右足で円を描くような軌道、剣が宙を走る。その後には魔力の残滓が流星の如く残る。魔力がもう一度爆ぜる。次は体ではなく大剣の後ろで、爆発は大剣をより加速させる。脇腹を薙ぐような攻撃が振るわれる。しかしその攻撃は当たることはない。浸透魔法により自らの一部を世界に浸透させ、攻撃を避ける。
大剣が突き抜ける。その時、3度目の魔力の爆発が大剣を上へ跳ねさせた。まるで鮭が激流を泳ぐかのように、竜が滝を登るかのように、上へと進んだ大剣は誘拐犯の体を斬り裂くはずだった。
しかし大剣は喉元で止まる。そこには大剣にめり込むようにして鷲掴みにしている誘拐犯の腕があった。
「悪くない作戦だな」
そう言うと誘拐犯は大剣の中の腕を浸透魔法で滑らせ、リアナの骨を直接掴む。そして左手で魔法を生成、ゼロ距離から放たれるは『紅蓮の廉槍』である。
灼熱がリアナの皮膚を焼く。生成途中であるのに、すでにローストにされそうな勢いである。
リアナは咄嗟に掴まれていない方の腕で、魔術を発動させる。しかし反応の遅れたリアナでは到底『紅蓮の廉槍』発動前に反撃をすることは不可能であった。
そのためリアナは大剣を離し、誘拐犯が逃げれないようその手首を掴み取ると、右腕を掴んでいる腕の外側に回し、足を蹴って体勢を崩す。そして右腕を引き戻すように力を入れる誘拐犯は地面にしゃがみ込むようにして地面に膝をつく。リアナは誘拐犯の背中側に周り、膝をついた足を踏みつけ、行動を制限、地面に落ちた大剣を拾い魔力を流す。
おそらく誘拐犯はこの封印地を無闇に破壊したくないはず。だから腕を掴み逃げれなくした状態でゼロ距離から魔法を放とうとした。そうなれば背中を取り、避けるのが容易な有利な位置にこちらが立てば魔法を使うのは難しくなるだろうと、リアナは考えた。
しかしその考えは甘かった。
誘拐犯は特に怖気付くこともなく『紅蓮の廉槍』を後方にいるリアナ放つ。
「嘘でしょ!?」
そう叫びながらリアナは迫り来る魔法を避けるのよりも早く、エンリの防御結界がリアナの身を守る。
霊宝『蒼炎白光』
蒼と白の炎が大剣から発生、火の粉が誘拐犯と襲いかかる。それを浸透魔法で避ける誘拐犯の一瞬の隙に、リアナは大剣の刃先を支点に誘拐犯の腕を斬り落とそうとする。しかし誘拐犯は間一髪のところで浸透魔法による右腕の透過によってなんとか何を逃れる。
しかしその結果、リアナは後方へと飛び退き、大きく距離が空くこととなる。
「強いな」
誘拐犯がそんな風に呟く。声は変えていない。
「ありがとう、エンリ」
「どういたしまして」
リアナは大剣を下段に構え、誘拐犯をじっと睨む。誘拐犯もまたリアナを警戒するようにしてこちらの方をじっと見つめていた。
その顔が魔力の光に照らされ、ずっとよく見えた。
全身を筋肉の鎧で固め、その肌にはいくつもの傷が刻まれている。顔には斜めに断つような傷跡があり、もとより強面な顔をより人相の悪いものへとしている。眼力だけでいつかのシーベルトを一蹴できそうだ。
エンリにはその顔に見覚えがあった。その声に聞き覚えがあった。
ゆえに聞いた。
「隠すのはやめたのか?」
「ああ、隠す必要もないしな」
そこにいたのはハンベルマン・ロイレイス。王国軍の大佐にして、セレンの上司。エンリがこの街に入る際、お世話にあった人間であり、ヨラルの友人。そしてリリア・アンスバルトが封霊体質であることを知る人間の一人であり、エンリが液体魔力を持っていることを知っている一人であり、ヨラルに人間を魔獣化させる薬を投与できた一人。
「驚かないんだな?」
「知っていたからな」
「いつから?」
「勘付いたのは襲われた時。確信に変わったのはセレンにハンの魔法について聞いたときだ」
数時間前、セレンにある一つの質問をした。ハンベルマン・ロイレイスは何の魔法を使うのか。セレンは炎魔法といった。他にも魔法は使えるらしいが、主に使う魔法はそれだと。それも炎飛『紅蓮の廉槍』を使える人間の一人だと。その話に違和感はなかった。セレンはハンが浸透魔法を使えるかどうかを知らなかったようだし、あんな特殊な魔法使えなくても不思議じゃない。同じ軍人、それも上司の魔法を知らないと言うこともないだろうと思い、一度は誘拐犯の容疑者から外した。しかし、セレンの一言でその認識は一変する。
セレンはこう言った「ハンさんは短剣やナイフをよく使うけど、持ってる姿を見たことがない」。彼女は確かにそういった。
俺を襲った誘拐犯も確かに短剣を所持し、使ってきた。それでいて誘拐犯は武器を大量に浸透魔法で世界に浸透させていた。だが俺も一度として誘拐犯が鞘から短剣を抜いた姿を見ていない。大量の武器を持っていた姿を見ていない。それはセレンが言った短剣やナイフを使うが、持ってる姿を見たことがないハンの姿にそっくりではないか。
だから俺は続けて聞いた。俺が襲われた日のハンについて。大怪我をしていたこと、俺がレイアに連れて行かれた場所について聞いていた。まるで後で俺を襲うことができるように。液体魔力を盗み出せるようにするかの如く。
他にもハンが誘拐犯であると考えられる証拠は多くあった。襲われた時、左手薬指につけられていた指輪は以前、『裏路地宿』に遊びにきていた時につけていたのと同じだし、その時、彼は俺の居場所を知っている。俺が軍に向かう道を絞り込むのも簡単だっただろう。
「え!?この人がハンベルマンさん!?セレンの上司の!?」
そうか、リアナがハンと直接、顔合わせするのは初めてなのか。セレンからその名前だけは聞いていたようだが、初めての顔合わせがこれとは随分なことである。
「感情豊かな子だ。娘を思い出すよ」
そうハンが静かに微笑む。
「さて、どうする?今だけなら、誘拐犯の事実を知ってるのは俺とリアナだけだ。リリアを渡してくれるなら逃げるなり、姿を隠すなり好きにしてくれ」
「気を遣ってもらったところ悪いな、エンリ。リリアは渡せない。もう一度、妻と娘に会うためにも、断固死守させてもらう」
「そうか、残念だ。なら今一度、殺されかけた恨み晴らさせてもらうかな」
一度の瞬き、エンリの姿が無くなる。後方からの気配にハンは世界に浸透させていた短剣を手に持ち横に振る。しかしそこには誰もいない。その刃は虚しくも虚空を過ぎるのみ。
次の瞬間、走る背中からの衝撃。鈍痛。内臓を前に押し出されるようなその感覚は衝撃系の魔法を使われたのだと瞬間的にわかる。体を捻り、衝撃を受け流すようにして後ろに振り返る。しかしやはりそこには誰もいない。そしてやはり後ろから首を掴まれる。短剣を後ろへ振るも当たった感覚がない。まるで幽霊を相手にしているような感覚だ。
「初めてか?浸透魔法を相手にするのは?」
「そう、か」
体を持ち上げられ首が閉まる。
ハンは浸透魔法で自らの体を世界に浸透させ、その魔の手から逃れようとするも、なぜか浸透魔法が発動しない。
「な、ぜ浸透し、ない?」
「悪いが、俺は浸透魔法を相手にするのは初めてじゃないんでね。対抗魔法を作ってきた。弾浮魔法っていう名前だ」
「おい、それと、魔法が、作れ、てたまるか」
「作れるんだな、それが」
弾浮魔法、以前、ハンに襲撃された後、エンリが作り出した浸透魔法への対抗魔法。慢心及び手軽な対抗術がなかった、あの時の教訓を生かした逸品となっている。
世界に溶け浸透していく浸透魔法に対して、弾浮魔法は世界から弾かれ、その存在をより明確にする。まだ開発途中なため、浸透魔法を相殺する証明『明確なる存在』という魔法しか存在していないが、将来的にはこの世界に存在する不明確な存在の確認や既存のものをより相手へ明確に意識させるのに使おう考えている。
浸透魔法と併用すれば、こちらからは触れることができるのに、相手からは触れることができないなんてこともできる。
「馬、鹿げた才、能だな!羨ましい、よ」
「何、そんなに褒めなくても殺しはしないさ」
そういうとエンリは強化魔法で無理やりハンを空中へ投げ捨てる。そして手に持っていたトランクケースを投擲する。3個の魔法陣を超えたトランクケースは一つ目で音速を超え、二つ目で魔力の外郭を持ち、三つ目で爆発魔法を付与される。
ハンはその最中、体勢を整えエンリの方へ浸透魔法で隠していた複数の武器を加速させ、投擲、エンリの内部で実体化を試みる。しかしそれは証明『明確なる存在』によってエンリの体内部へ侵入するよりも手前で実体化、魔法による武器の完全なる消滅によって防がれる。
すぐそこに迫るトランクケースにハンは相殺するために『紅蓮の廉槍』を放つ。
『紅蓮の廉槍』はエンリのトランクケースとハンから7メートルほどの距離でぶつかり合う。瞬間、トランクケースの外郭に付与された爆発魔法が作動。
0.001秒、半径5メートルに空間隔絶魔法式結界が発動。
0.002秒、光、魔力、熱等、周囲の熱量を吸収、圧縮を開始。
0.003秒、分子、原子、粒子等、周囲の質量体を吸収、圧縮を開始。
0.007秒、半径5メートル以内の空間から物質及び熱量が消失。
0.008秒、圧縮された質量体が特異点を生成、異常な空間湾曲が開始。
0.013秒、半径5メートルの空間隔絶魔法式結界が解除。
0.014秒、物理法則により、真空となった空間に質量体及び熱量が周囲の空間と均等になるように動く。
0.015秒、異常な空間湾曲による空間齟齬のため物質及び熱量の不均衡さが生まれる。
0.017秒、物質及び熱量の不均衡からなる『超物質熱量体』が発生、同時に圧縮され続ける質量体と熱量により異常な空間湾曲『ワームホール空間』が発生する。
0.020秒、光、魔力、熱等、周囲の熱量を吸収、圧縮の停止。
0.021秒、分子、原子、粒子等、周囲の質量体を吸収、圧縮の停止。
0.022秒、『ワームホール空間』により加速を続けていた『超物質熱量体』が特異点の吸収、圧縮停止に伴い、加速を停止。
0.023秒、『超物質熱量体』が『ワームホール空間』の座標誤認性によりトンネル効果が発生。それにより特異点に衝突。
0.024秒、爆発魔法、波景『0.02秒の超現象』発動。
特異点から八方向、水平線上に高さの概念を持たない縦と横のみの面の光が放たれる。そのあとすぐに、ハンの体がまるで引き込まれるようにして特異点方へ2メートル進んだ。そして360度、時間、空間、次元においても作用する爆発的熱量の濁流がハンを襲った。半径5メートルの異常な威力の爆発である。
その威力は通常、大陸破壊兵器や文明消去魔法として使われるような魔法と遜色ない。むしろ時には衛星すら破壊するほどの威力を持つそれを5メートルの範囲限定にのみ威力が発揮されるようにしたため、通常よりも威力が上乗せされているかもしれない。
ハンは奇しくもその爆発半径に飲み込まれた。いや飲み込まれるようにエンリが調整していたのだろう。浸透魔法で咄嗟に逃れようとするも、魔法は発動しない。
おかしい弾浮魔法を先ほどリアナと戦った際にエンリが使用しなかったことから、触れていることが条件だと思っていたのだ。違うのか?
そんなことを考え自らの腕を見る。そこには魔力回路に沿うようにして一つの魔法が刻み込まれている。それが弾浮魔法、浸透魔法の対抗魔法である。
さっき触れた時にはすでに刻んでいたのか。
浸透魔法が使えないと分かった今、ハンは自分が使える全ての防御魔法をありったけの魔力を使って発動させる。
防御魔法を使っているはずなのに、飛んでくる魔力や空気だけで全身を貫かれるような痛みがある。おそらく防御魔法が完全に機能していない。いや機能はしているのだろう。しかし防御力が足りない。明らかに目の前の爆発がそれを凌駕する威力で襲いかかってくる。こっちの使ってる魔法は基地制圧魔法を耐え切れるはずの耐久力があるのにだ。それどころか、一つの防御魔法でできる限りの魔力とそれをアシストする魔法を使ったから、通常よりも格段に強いはずなのに。
防御魔法にヒビが入る。まずいとさらに魔力を入れるが、そのヒビはより大きくなっていく。それと同時に爆発が収束し始める。次第にその威力が収まり始め、すでに限界の防御魔法でも守り切れると確信した時、それはやってくる。
爆炎を突き抜けて本革性の古びたアンティークなトランクケース。それが音速で防御魔法に衝突、それが最後の一押しとなって、その防御魔法を破壊した。
それにより収束前だった爆発を直接、体で受けるハン。防御魔法で威力が低減され、さらに強化魔法で体の強度を高めていたために、致命傷とまではいかない。しかし、後方へ大きく吹き飛ばされ、天井へ激突、受け身も取るのも難しいまま、地面に落下する。常人なら再起不可能なレベルのダメージだ。これで気を失わないのはタフの域を超えているだろう。
立ち上がるハン。服はボロボロ、足は炭で黒くなり、今にも崩れ落ちそうだが、その眼光はいまだにこっちを見据え、戦意を衰えさせない。まあ、それでもデコピンで倒れそうなことには変わりないが、今の彼にはそう思わせないほどの威圧感と迫力があった。
そしてエンリに対して短剣を構え、一歩足を踏み出し、炎魔法の無数の矢と共に走り出した瞬間、爆発で空気中の水分が気化し視界が悪くなった場所から、一人の少女が現れる。
「悪いけど、この勝負一対一じゃないのよね」
リアナの大剣が横に薙ぐ。それは見事にハンの腹部に直撃。浸透魔法による避けることの出来ないハンはこれを回避することはできずに、そのまま大剣を振り抜かれ、骨が軋む感覚と内臓が押し潰されるような感覚と共に壁に叩きつけられた。
その手から短剣が落ち、地面へと崩れ落ちた。流石のハンもあれだけのダメージを貰えば意識を手放しざるおえなかったらしい。
エンリはハンの方へ魔力操作を阻害する拘束具を投げつける。それは胴体に巻きつき、力が入らないよう後ろの方で、腕を縛りつけ、首と顎を固定する。そして簡単には歩けないよう三角座りの体勢で両足を拘束した。その光景を見届けエンリははんに背中を向け、リリアの方へ駆け寄る。
「エンリ、どうリリアさんの様子は?」
「大丈夫、ただ気を失ってるだけみたいだ」
「よかった……」
リリアに目立った外傷はなく、まるで眠っているかのようである。
そうまるで眠っているかのようであった。
「とりあえず、研究所に戻ってリリアを見て貰おう。俺は『レンヴェルク』の再封印をする。『紅き月』があるってと言うことは復活まではいかなくても封印自体は一部解けているはずだからね」
「分かったわ。リリアさんは私が連れて行くわね。それでハンさんはどうする?」
「ああ、ハンは置いていってくれ。場合によっては頭から情報を抜き出すから」
頷くリアナ。
そしてリアナがリリアを抱き抱えようとした瞬間、それは始まる。眩い発光、赤と黒のその光はあまりにもどす黒く、体の内部を侵食するかのように気分が悪い。まるで内臓を喰い貪れているかのようである。リアナが地面に倒れるように伏せ、胃の内容物を吐き出す。エンリもまた平衡感覚を失い地面に膝をつく。
これは間違いない。かつてエンリとキリヤがリリアの中に住まう神話的生物からその神性を奪取する際に浴びた力。神が神たる所以、霊力である。
これは明らかに一部の封印が解けているレベルじゃない。復活まで秒読みといった感じだ。霊力の解放は基本的に第三封印。つまり少なからず第三封印まで封印術が解けているのだろう。
封印陣の星の位置が変わる。二つの恒星系、3個の恒星と7個の惑星、22の衛星と5つの彗星、その他の星々の逆位置。力の完全な遮断。つまり占星術による封印が解かれる。そしてそれに呼応するように反時計回りに封印陣が回転。まるで金庫を開けるようにいくつかの文字が入力され、隠されていた5個の封印陣が浮かび上がり、因果逆転と呼ばれる高度な封印陣が解かれる。それと同時に封印陣に込められた四つの『封印詠唱』が破棄される。
因果逆転と『封印詠唱』の破棄は封印術において両方とも第二封印に含まれる。つまり残された封印は第一封印と始点封印のみ。
どうやらハンはすでに封印陣の解除を行なっていたらしい。
「エンリ、これ外せるかしら!?」
地面伏せていたリアナが、立ち上がりそう叫ぶ。耐性のない人間があれだけ濃密な霊力を受けたのだ。精神的にも肉体的にも相当なダメージのはずなのだが、それでも立ち上がれるのはかなりすごいことだ。少なからず常人では不可能だろう。
エンリが視線を向けると抱き抱えられたリリアの背中からいくつかの鎖が見える。
「『天意縛りの鎖』か。厄介なものを」
天意縛りの鎖は、人の意識を完全に縛ることができる世界で唯一の鎖。それは神や天使だけが作ることができ、扱うことができる、人ならざるものの鎖。本来ならベガ神話の邪神たち天意縛りの鎖を使うことができないはずだが、邪神と言われても『レンヴェルク』は歴とした神だ。神話や伝説に残っていないだけで、俺たちの知らない事実があってもおかしくない。
ただ一つ問題があるとするのなら、今のこの状況は俺一人で抱えるにはあまりにも重すぎる。いくら魔法や魔術が使えたって、体は一つだし、思考力にも限界がある。その状態で、俺はどこまでやれる。
天意縛りの鎖を外すことは簡単だ。神が作り出した鎖でも力技で外すことはできる。ただ外した結果、リリアの意識が戻らない可能性を否定しきれない。人間の意識がどれだけ神の神性に抵抗できるか。封霊体質であるリリアなら、多少の抵抗力はあってもおかしくがないが、それで耐えられるものなのだろうか?一か八かで試すか?
まるで大気が震えるような音が響く。女性の像を囲む魔術言語による九つの圧縮詠唱が発動する。三つが女性の像の中へ入っていき、封印陣に溶けていき、また別の三つが魔力を対流させ、八面体への箱へ道を作る。二つが下に描かれた封印陣の一部を書き換え、一つが女性が束ねるように持つ九つの鎖が解く。
そして八面体の箱の中を満たしていた水が外へと流れ出す。ゆっくり、時間を掛けて、雨が岩を穿つかの如く。そして流れ出た水は道を伝い女性の像を濡らす。
八面体の中にあった錆びた剣が底につく。何かが境界面に触れたかのような衝撃と共に魔力を感じた。
そして八面体の箱が開く。まるで今まで蕾だった花が咲き誇るように、その面を花びらに見立てて。錆びた剣に突き立てられた赤黒い炎のようなものが空気に触れた。
開いた箱は花が散るゆくかの如く、魔力の光を反射して砕け世界に溶けていく。
第一封印が解かれた。
残された封印は始点封印のみ。
ここでエンリは気づく。今の状況の異常性に。封印術は本来、その封印を解くために特定の言葉や行動が必要になってくる。場合よっては鍵が必要だし、鍵ではなくとも本やペンなどが必要になる場合も少なくない。だが、ハンは今回、それを使用した形跡はなく。今回はそれが必要なかったとしても、意識を失った後も勝手に封印が解けていっている。これは普通ではあり得ないことだ。
封印の解除には第一封印、第二封印、第三封印とその数だけ行わなければいけないことがある。今は誰もその解除の手順を踏んでいない。それを無視して封印を解くことは不可能なのにだ。だが今はその不可能が起きてしまっている。
明らかな異常事態。だがこの世界はあいにく、不可能は可能になるし、異常が平常運転の世界だ。今更、一つぐらい理解のできないものが起きたところで動揺はしない。
それに理解できないものを理解できるものにするのも学者の役目だ。
しばしの沈黙、そして思考。
拭いきれない違和感。それを払拭するかのように思考を続ける。
そしてその答えが出る前に、目の前で答え合わせが行われる。
まるで凪いだ水面に雫が落ちるかの如く、その力を覚醒させる。
それは霊力を見ることができるエンリだからこそ、見えた光景。一筋の光が『彼女』の元へとおちる。広がった霊力の一部が壁にぶつかり、波飛沫のように中心へ立ち戻る。そして淡い緑と青の光がまるで天使が降臨する際の後光の如く、世界を照らし出した。
リリア・アンスバルトの封霊体質による暴走である。
『彼女』の背中に純白の翼が三枚、漆黒の翼が三枚、生えている。しかしそれは力無く下を向く。『彼女』に人間らしい表情はなく、人ならざるものの気配のみを感じる。
だがそれは以前変えたものとは違う。あの時感じたのは神がかり的な、神話的に印象。だが今は操り人形を見ている気分だ。
「リアナ!離れろ!」
エンリが叫ぶ。しかし、事情を知らないリアナは状況を飲み込むことができずに、一瞬、行動が遅れる。
ゆえの代償。リアナが膝から崩れ落ちる。まるで地面に落ちたタオルが自然と折り畳まれていくように。
「え?」
力が入らない。この感覚、まるで道具にされているような。このなることが正しいと言われているようなそんな感覚。指一本だって自分の意思で動かすことができない。でも不思議と恐怖はない。むしろ喜びすら感じてしまうほどだ。
自然と『彼女』の体が地面と近くなり、椅子から降りるかのように地面に降り立つ。足音が響く。人ならざるものの足音だ。
『彼女』がまるで地面に崩れ落ちたリアナを労うようにその方に優しく触れた。その瞬間、リアナが先の戦闘で負傷した腹部の傷が完治する。痛みも苦しみもなく、以前と同じどころかそれ以上の調子を持ってして。
傷を治してくれたのは祝福かそれとも呪いか。いや多分、『彼女』にとって大した意味はないんだろ。単なる気まぐれだ。ただそこにいたから、ただ”私”を抱き抱えていたから、ただ目に入ったから、おそらくはそんな理由なんだ。肩が手を置きやすい位置にあったからなんて理由だったりもするかもしれない。
そして『彼女』はまた一歩前へ進んだ。リアナからその手が離れていく。向かう先は始点封印、錆びた剣の元である。
天意縛りの鎖が千切れる。一本、また一本とまるで紙でも破るように簡単に。5歩進んだ頃には天意縛りの鎖は全て千切れ、『彼女』は自由の身となり、錆びた剣の元へと歩き続ける。
その目に刻まれているのは魔法陣といくつかの言葉。それが意味するのは、リリアによる『レンヴェルク』の封印の解除である。
そして彼女は『レンヴェルク』最後の封印を解くために歩き始めたのだ。
「リアナ!リリアを止めろ!」
エンリが叫ぶ。その声はいつにも増して真剣で切羽詰まっているように思えた。
だが今、彼女はリリアの神性により動くことが難しい。
エンリが引き止めようと足を踏み出したその瞬間、右腕が世界に呑まれる。それとも右腕が世界を呑み込んでいるのか。ただ一つ言えるのは、エンリにはこれが何か理解できるだけの知識があったということだ。それゆえに、今、自分が圧倒的にあることを理解してしまう。
「世界統合とか冗談じゃない!」
世界統合。主に二つの世界を一つの世界になるときに使われる言葉。この現象を言葉で表すのは難しいが一言で言えば、世界が世界を喰らう現象。全世界でたびたび発生し、神隠しの原因の一つと言われている。次元学、空間学、世界学における三大未解決問題のうちの一つ。いまだにその原因の解明には至っていない。わかっているのはそういう現象が存在しているということだけだ。
先ほどまで、まるでオオカミを前にした赤子の如く、戦意を失ったかのように膝をついていたリアナの手足に力が戻ってくる。
直感した。自分では目の前のリリアを止めることはできないだろうと。だからと言って動かないわけにもいかない。リリアが立ち上がる。そしてまるで吸い寄せられるように手が伸びた。自分の意思ではない。それでもまるで自分の体がを動かすようにリリアへ手が伸びたのだ。
腕を引き戻そうとしても戻らない。それどころか、まるで体が『彼女』を求めるかの如く、体が前へ進む。後ろへ一歩、下がろうとするも体がそれを拒否する。
何かがやばいと本能が叫んでいる。腕を叩き切ってでも逃げろと脳が囁いてくる。そしてリアナ本人も理性と知性を持ってして、この状況が明らかに異常であると理解し、本能と直感を経て、自らの右腕を差し出しても差し余るぐらいの危機であることを理解していた。
ゆえにその手を大剣の方へ手を伸ばそうとする。しかし体は一切動かない。首を横に振るのも、足で円を描くことすらできるのに、『彼女』から遠ざかるそれだけの行為ができない。できるのは『彼女』へ近づく行動のみである。
操られているような感覚はない。むしろ自分から『彼女』へ近づいている感覚さえ覚える。
『彼女』が振り向いた。その指先がリアナ指先に触れ、絡み合う。まるで絡まった糸のように。その感覚を指、一本一本から感じる。そして感覚はより鋭敏に研ぎ澄まされていく。『彼女』が人間ならざる神秘的笑みを浮かべた。
その笑みは同性であるリアナが見惚れてしまうような甘美で優しい、嫉妬なって言葉すら出てこない優美の笑み。
そして彼女の指がリアナから離れていく。名残惜しくもあるその感覚に、少しの焦燥感と恐怖を感じる。
ふと地面が近づく。全身の力が抜け、倒れ込むようにして地面に伏せたのだ。
「な、にが……?」
リアナは一人、思案する。
まさか体に力が入るようになって、立ち上がった瞬間、また全身の力を抜かれるとは思わなかった。いや力が抜けるというよりは体が勝手に動かされる感覚だ。まるで全身に筋肉を強制的に弛緩させられた感覚。というかその感覚で間違いない。おかげで正座したまま地面に伏せるなんていう屈辱的体勢のまま全身の力が抜けてしまった。まるで猫が伸びてる姿だ。
そんでもって、今、自分が死んでいないのが不思議なぐらいである。そう思えるほどの経験をした気がする。もし本当に全身の筋肉を弛緩させることができたのなら、心臓の一つや二つ止めるぐらいわけなかっただろう。
この幸運は日頃の行いが良かったおかげか、それともリリアが無意識のうちに力をセーブしてくれたのかはわからないが、少なからず、あの時ばかりは、確実に私の制御権は私ではなくリリア、『彼女』にあった。
今、彼女に何が起きているのか私の理解できる範疇には存在しないが、どうやら彼女は随分とレベルの高い世界に存在しているらしい。
しかし問題はここからである。一体、どうやってリリアを止めるか。おそらく今のリリアを止める方法は実力行使したもはや残されていないだろう。だが、私にリリアを止めるだけの実力があるかといえば、ご覧の通りである。できて時間稼ぎぐらい?それも大剣が手元にあれば話ではあるが。
とりあえず、どう大剣の元まで向かうか考えるべきだろう。
23時58分、リリアと『レンヴェルク』の封印までの距離が近くなる。その距離はおおよそ、歩幅15歩分。
時間はそう多く残されていない。エンリの中で焦りが大きくなり始める。
くそ!世界統合が使えるなら最初に教えて欲しかった。これは一体どうなってる?俺が世界に統合されていってるのか?それとも世界が俺に統合されていっているのか?どちらにしろまずい状況には変わらない。もし俺に世界が統合されているのだとしたら、俺はその情報を体に記録したまま戦えるか?正気のまま?精神を破壊されずに?無理だろ。世界の一端だったとしても今の俺にそれを許容できるだけの頭と余裕はない。
ならもし世界に俺が統合されているのなら?俺と世界の境界が曖昧になって、世界が俺の体積分広くなるか?それとも俺の体積分、狭くなるのか?どちらにしろ、俺は世界の一部になり変わるだろう。この際、右腕を切り落とすか?だがそんなことをして、片腕を失った今の俺にリリアを止められるのか?封霊体質が暴走している彼女を。
今の俺にそれだけの実力があるか。それにもし、彼女を止めることができずに『レンヴェルク』が復活したのなら、その時は神話的存在を二人相手にしなきゃいけない。どう考えても正気の沙汰じゃない。一人で二人の神話的存在を抑えるなんて。もしその時が来たのならリアナはもちろん、セレンにヨラル、万全の状態のハージ・ジェルクですら戦力には数えられない。
そもそも俺が知る限り世界統合を操る神話的存在は一人しか知らない。もし本当にリリアの中にいる神話的存在が、そいつなら、戦いになった際、あまりにも分が悪すぎる。少なからず、この街をと周辺地域を犠牲にするぐらいの覚悟は必要だろう。
そもそもリリアの中にいる神話的存在が一人とは限らない。現に彼女には漆黒の翼の他に純白の翼も持ち合わせてる。残念ながら俺の知ってる世界統合を操る神話的存在は悪魔であり、堕天使でも、天使でもない。となるとあの純白の翼は別の神話的存在の可能性が高いだろう。
となると最悪の場合、俺は一人で神話的存在を三人、相手にしないといけなくなるのか?それはなんとも冗談であって話だ。こんな最高な悪夢、今時見れやしないだろう。
もしそうならば、余計右腕は切り落とせない。片腕をなくせば戦闘力はおろか、体力すら落ちてしまう。悪手も悪手。自ら詰みに進む人間はいない。となると手段は限られてくる。『レンヴェルク』の封印を破壊するか。リリアに刻まれた魔法陣を破壊するか。それとも、リリアを殺すか。
できれば3個目のやつは使いたくはない。となると『レンヴェルク』の封印の破壊か、リリアに刻まれた魔法陣の破壊だが。正直、封印の破壊は現実的ではない。神話の時代に殺しきれなかった『レンヴェルク』という神を殺し切るだけの自信はない。そもそも封印が破壊できるなら、とうの昔に、誰かがすでにやっているだろう。誰も行っていないということは、つまりそういうことだ。
そうなると残された手段は魔法陣の破壊だが……少なからずリリアと目を合わせられる距離、魔法陣を直接確認できる距離でないと破壊は難しいだろう。
そうなるとやはり問題は帰結して、この世界統合をどうにかしないといけないのだが、その方法が見当たらないから困るわけで。境界術ならワンチャンあるだろうか?いや、時間魔法の方がいいか?
ふと、エンリが微笑を浮かべた。影を落とした暗い笑みだ。これから起きることを予想できる人間はいない。それは神であっても例外ではない。
ただ唯一、エンリのみがそれを理解できる。
「リアナ、剣を持て!」
広い部屋の中、エンリの声が反響する。
リアナはその声に反射的に飛び上がり、大剣の方へ走り出す。少しの間、考え事をしながら、地面に突っ伏していたおかげか、筋力が回復し、自分の体を自分の意思で動かすことができるようになっていた。運動性能にも問題はない。
幸いにも大剣は近くに置いていたおかげで、そう離れてはいない。その距離はおおよそ、5メートル。
剣に手が届く瞬間、腕が地面に叩きつけられた。骨が軋む音。筋肉がみちみちと音を立てる。そして地面の上でおろされるか如く、リリアの方へ引き摺られ始めた。
しかしリリアはそれを特に気にすることもなく、歩き続ける。
バチッ、そんな音が聞こえた気がした。リリア……『彼女』が大きくのけ反る。まるでその頭に強弓でも受けたのかというほどの仰け反り方だ。そして、絶叫。リリアの声に似た何かが喉の奥からありったけの苦しみを声にして絞り出した。喉が張り裂けるんじゃないかと心配になるほどの叫びだ。
そして頭を抱え、悶え、苦しみ、狂乱する。その様に思わず身を焼く炎を幻視する。
『彼女』がその美しい黒の髪の隙間からエンリを眺め見た。
エンリは何も言わない。ただその表情の陰からそのじっと『彼女』の瞳を見つめるだけだ。
2秒ほどの一瞬、二つの視線がぶつかる。
リアナが体の自由を取り戻す。先ほどまで全然言うことを聞かなかった体に、突然、力と制御権が戻ってくるのは奇妙な感覚だ。
『彼女』の周りに霊力の残滓を感じる。薄くごくわずかな霊力。ゆえに残滓。しかし、それはすぐに霧散し、まるで興味をなくしたかのようにして一転、踵を返し、『彼女』は再び封印に向かって歩き始める。
その距離は残り10歩。時間はもはやそう長く残されていない。
リアナが大剣の方へ、飛ぶ。
大剣を掴み、その勢いを殺すようにして、一度、二度、三度回転。手に握り込まれた大剣の感覚を妙に懐かしく感じてしまう。
どうする?エンリは剣を持てといった。つまりそれはエンリにとって、今、私はこの大剣を握って欲しい状況にあったと言うことだ。エンリは何かを求めている。それは一体なんだ?単純に考えれば、リリアの足止めだが、それにはどうにも力不足だ。現に私は、すでにリリアに三度も体を操られている。今立ち向かったところで、対抗の術がない私にとっては、四度目の敗北を味わうだけだろう。
それはエンリも理解しているはずだ。
風が吹く。まるで台風の中に、竜巻の中にいるような暴風。魔力と霊力が吹き荒れ、体が後ろへと押し戻されていくような感覚。
リリアが『レンヴェルク』の封印、半径5メートル以内に貼られている魔力と霊力の膜を破ったことによる風。力の氾濫とでもいうべきだろうか。純粋な力は神話的生物だろうと明確な対抗手段はない。リリアはその暴風に押され歩く速度を少し落とす。一歩踏み出すのも大変だろう。
「こっちに来い!」
エンリの声にリアナは咄嗟に反応しそちらへ走り始める。
風に背中を押されリアナの体は驚くほど軽く感じる。追い風が体を軽くしているのだろう。
不意に風が強くなった。踏ん張るも抵抗虚しく体が浮く。リアナが宙を舞う。竜巻にさらわれるがの如くこのままで円を描きながら部屋を回ることになるだろう。
予想外の出来事にエンリも思わず、声ができる。
「え!?」
リアナが大剣を床に突き立てるも、運悪くそこは封印陣の真上、その材質は何千年、何万年と耐えれるように特殊加工された特注品である。火はもちろん水にも強く、釘で打ったところで穴が開くどころか、ハンマーが砕け、釘は折れるだろう。そんな場所に普通の魔導具であるリアナの大剣が刺さるわけなく。まるでバネを地面に押し当てたかの如く弾かれ、油の上を歩くかのように滑り、その体勢を大きく崩す。そして風に大きく体を掬われる。
「ちょっと!?」
「おいおい、冗談だろ!?」
二人が冷や汗をかく。
「エンリ、キャッチして!」
「はぁ!?」
幸いにもリアナはエンリの方へ走り出していた。そのため方向はあっており、追い風により推進力を確保できている。つまり、リアナはエンリの方へ飛んで行っているのである。
しかし、世界統合により右手が世界に固定され、動けない人間に無茶をいう。だがこうなっては仕方がない。どうにしてみよう。
エンリが左手を力任せに振る。手に持っていたトランクケースが遠心力で外側に広がる。それはちょうど飛んでくるリアナの真正面。顔面に当たる位置にあった。
生命脈動『咥えるモノ』
トランクケースのロックが外れ、パカっと開く。
中から現れるは、異常なまでに口腔が発達した存在。目はなく、耳もない。鼻と口だけが存在している。その表面には赤と青の毛細血管のようなものが走り、その唇は薄く、それでいて何層、何十層にも積み重なってできたような形になっている。その様は、まるで本の小口のようである。もしその上に指を走らせたなら、パラパラとページが捲れるように動くだろう。どこか人間を模して作られたかのようにすら感じる姿なのに、そのあまりにも生物らしからぬ姿に恐怖すら覚える。
そしてその口腔を支えるようにトランクケースから伸びる一つの背骨らしき物と二本の動脈のような物。人間でいう食道のあたりにはまるで直接くっつけたかのよう、麻袋のようなものがぶら下がっていた。
見るもの全てに自らの正気を疑わせるような、そんな挑戦的な姿。この世のものではない。この世のものとは信じたくない。この世のものではあってはいけない。この世のものであって欲しくない。この世のものではないと願いたい。化け物や怪物などというチャチな言葉では表現できない存在。言葉が通じないや常識が違うなどというものでもない。心の底から根源的恐怖を煽られている気分だ。
そしてそんなものが自分の眼前に現れたリアナの心境は穏やかではなかっただろう。いや、その姿を認識するよりも、理解するよりも先に次の出来事の光景が見えるため考えている隙すらなかったかもしれない。
異常発達した口腔の中から大きな舌が現れる。それはザラザラと返しのような表面に何百もの触手と何千もの細かい触手、何万ものさらに細かい触手で作られた一つのベロ。
それをベロンと犬や猫が水を飲みときのようにリアナのことをその器用な舌で掬う。そしてそのまま大きな口でリアナの上半身を咥え込んだ。
「嘘でしょ!やだ!」
トランクケースに上半身が咥えられる前、リアナのそんな悲鳴が聞こえた。まあ、あの口腔に咥えられるのは誰だって嫌だろう。あれは理屈や感情がどうではなく、本能に訴えかける嫌悪感を与える。拒絶するのは当然だ。
だが、まあこちらも躊躇はしないが。今は手段を選べない緊急事態でね。
風で煽られるトランクケースを引き寄せる。一瞬、トランクケースの中に引き摺り込まれそうになるも、なんとか口腔から引き摺り出し、地面に下ろす。
「気分は?」
「……最悪、なんかベタベタしてるし、気持ち悪い」
リアナが口に入った粘液を吐き出しながらそういう。
雨が降る。雨粒一つ一つに、金色の光と深青の光の粒子が泳いでいる体の回路を焼く雨だ。痛みも苦しみもなく体を蝕む。傷もなくまるでスポンジに水が染み込んでいくかのように体を侵食するのだ。
短時間であれば、雨に触れている間、魔法や魔術といった魔力を使用するものや神術や法術といった神力や法力といった力を使ったものが使用できなくなる。それは霊力を使用する神話的生物も例外ではない。
長時間、浴び続ければ、二度と魔力回路などが回復せずに、魔法や魔術、神術に法術といったものが使えなくなるだろう。
エンリは自分とリアナの周りに結界を張る。
視界の隅で捉えたリリアもまた降り注ぐ雨を全て避けている。いや、正確には雨がリリアを避けているのか。
まるで透明な外皮でもあるかのようである。ガラス玉の中にでもいるのだろうか。
しかし、今はそんなことを考えている場合でもはない。世界統合をどうにかしないと、このままでは世界と一体化してしまう。世界にとってその程度のこと些細な問題かもしれないが、俺にとっては大問題だ。
「リアナ、説明してる暇ないから、結論だけ話すけど、今から魔導具での全力の魔術で俺の右腕に攻撃してくれない?」
「え……?」
「使う魔術はなんでもいい。そっちに任せる」
「私にはその右腕が見えないんだけど?どこやったの?」
「世界に取り込まれていってる。だから早くしないと俺自身が世界に取り込まれて、さよなら、バイバイになる」
「あー、なるほど……了解。よくわからないけど、とりあえず、私は全力であなたの右腕を攻撃すればいいわけね」
「ああ、攻撃する場所はなんとなく右腕がありそうな場所でいい。むしろ俺自体に攻撃してもらっても構わない」
「オッケー、本当に全力で攻撃していいのね?」
「ああ、問題ないよ。むしろその方がありがたい」
「そう……先に言っとくけど、私、人生で一度も魔力切れを起こしたことないのよね」
「……え?ちょっと待って、それってどう……」
エンリがそのセリフを言い終わる前に、リリアは大剣を構えた。
「モードを大剣から戦略魔術兵器に変更、0から60番まで安全装置解除、回路システム再構築、制御機構限定開放、排熱機構部分開放、炉心臨界回転、魔力排出システムNo.001〜027までロック、カートリッジによる魔術使用停止、システム停止、システム再起動、使用コード省略、戦略魔術兵器『ビクトリア』起動……無意『薙始鏖過亡止之理』発動」
それはあまりにも静かに、そして予感させることもなく動き出した。
まるで木陰のそばを微風が通り抜けるように、空が白む朝のように、誰かが手紙を認めるときの部屋のように、たった微風の音、たった小鳥の囀りの音、たった筆が走る音、それしかない。それだけの咆哮だ。
世界が次第にその描写能力を落としていく。240から120フレームへ、120から60フレームへ。60から30、30から10、10から1、そして静止する。
さっきまで降り続いていた雨風もが止まる。
リアナがその大剣を薙いだ。
しかしそれは何もない空間でまるで見えない壁にぶつかったかのように途中で止まることとなる。
そしてこれから起こる事象をリアナは理解することはできなかった。いやむしろ、理解しなかったというべきか。少なからず理解できなくてよかった、リアナはそれを見た時、最初にそう安堵した。もしこの時、リアナがエンリの研究の一端でも理解できたのなら、それはおそらく人類は世界終焉の一歩を踏み出すことになっただろう。
わかったのはそれが一瞬で終わり、世界の何か核心めいたものにでも触れてしまったかのような焦燥感と焦り、それと目の前の男を同じ人として扱っていいものか疑念を抱くだけの異常性を感じながら終わる。
< の研究>
それはありとあらゆる知識と技術を網羅するエンリが学者として研究者として、一個人として研究し続けている唯一の命題であり、一生の命題である。エンリはその研究に関して、決して語らず、明かさず、見せず、誰かに予感させることもない世界の秘匿情報にして秘匿技術。その全てはトランクケースにしまっている。
エンリの研究の内容をリアナは少し垣間見た。だからこそ言える。彼が抱える責任は、秘密は、重荷は、おそらく私が想像するよりも大きいのだろう。理解できなくても、それだけはわかった。だって彼がそれを使った時、その表情が今までになく影を落とした。そして、エンリという男のことを何も知らないのだと、私は実感させられた。
『彼女』が3歩目を踏み出す時、まるで世界統合で消えた右腕を模るかのように青白い線は伸びていく。それが何でできているかはわからない。音もなく衝撃も無しに、ただただ紫電の火花を散らしながら、まるで世界からエンリが引き剥がされるように、いや、エンリが世界を引きちぎるようにして、形を為す。
世界統合によって失われていたエンリの右腕だ。この時より、エンリとリアナは世界で初めて、世界統合から乖離を試み、成功した唯一の人間となった。
動けるようになった喜びも束の間、エンリはすぐさまトランクケース片手に走り出す。それがちょうど、『彼女』が3歩目を踏みしめた頃であった。
魔法による次元干渉で『彼女』を封印から引き離そうとする。しかし単縦な霊力での力押しで干渉していた次元を元に戻される。『彼女』が4歩目を踏みしめた。封印に手が届くまであと2歩。
草蒼魔術による蔦と錬金術で錬成した鉄の鎖で『彼女』の体を縛り付け、後ろへ勢いよく引っ張るも、蔦はエンリの制御を離れ、まるで蛇のように腕に絡み付けて、骨をへし折ろうとしてくる。鉄の鎖は世界統合で跡形もなく、世界の一部に還元されてしまう。
腕に巻き付き喉を噛みちぎろうとする蔦の蛇を圧縮魔法で圧縮し、酸素と水素と一緒に燃やす。
『彼女』が5歩目を踏みしめた。封印に手が届くまであと1歩。
『彼女』が6歩目を踏み出した。右手を伸ばす。足が地面に近づくにつれ、その手は『レンヴェルク』の封印へと近づく。エンリと『彼女』までの距離はおおよそ2メートル強。一歩と少しの距離である。
エンリが直接、『彼女』を捕え、目に刻まれた魔法陣を破壊するのが先か、そして『彼女』が封印を解術するのが先か。もはやそれを考えるよりも、答えが出る方が早い状況であった。
『彼女』が6歩目を踏みしめた。その手が『レンヴェルク』の封印に届く。そしてエンリもまた『彼女』が最後の始点封印である赤黒い炎に刺さった錆びた剣の柄を握ると同時にその右腕を掴んだ。
「悪いが、そいつはそのまま寝かせておいてくれ」
『彼女』の双眸を見た。刻まれている魔法陣は十一芒星と十七芒星の複合星型多角形。二層構造となっており、その上、二つが基準点を元に、三次元的に動くことによって、二つの魔法陣の重なりに情報を載せることで、通常よりもより多くの情報を詰め込むことを可能にしている通常では見られない魔法陣の形。刻まれている言語もまた、交点角文字と呼ばれる圧縮文字であり、どこの文献にも歴史上にも一度も登場しないモノである。
この両方が九年前にできたばかりの技術であり、俺の記憶が正しければ、一度も世に出したことのない技術。
そしてこれらの技術を利用して作られたこの魔法、『彼女』に刻まれた精神支配指定操作魔法もまた今から九年前に作り、使用機会がなかったために、世に出すことはなかった魔法。
そうこの三つは俺が作った技術と魔法だ。
これをかけたのがハンだったのなら、彼がそれを知る機会はないはずなのだが、どこかで俺と同じような思考の人間が森にこもっている間に、作りあげ、世に広めたか、それとも、この技術と魔法を知っている誰かが、俺の代わりに、ハンに教えたのか。そのどちらかは知らないが、今はそんなこと考えている暇もないだろう。
幸いなことに魔法陣に多少の差異はあれど、俺が作ったものとそう大きく変わりはない。全てを読み解こうとすれば多少、時間はかかるが、解除だけなら一瞬でできるだろう。
エンリがそう確信し、魔法の解除を行おうとした時、雄叫びにも近い声が聞こえた。
「エンリいいいぃいぃぃぃ!!!」
振り返るとそこには先ほどまで拘束されたまま地面に、転がっていたはずのハンの姿があった。その手には短剣が握られ、拘束具の面影はない。
そして視線を少し後ろへ、向けるとそこには無惨にも破壊された拘束具が転がっている。
「なんで、拘束が解けてるんだよ!」
「軍人のフィジカルを舐めるな!」
まじかよ。もしかして筋肉で無理やり抜け出したのか!?大木をくくり付けても破けないぐらいには耐久力があるはずなんだけど。今や見るも無惨な姿になった拘束具をよく見ていると、確かに糸で縫い付けられたり、布が少ない部分だったり、壊れやすい部分が破け破壊されている。
俺の一ヶ月の力作がこうも無惨な姿に変わり果てるとは。
ハンとの距離はおおよそ三十メートル、決して近くはないが遠いという距離でもない。彼の身体能力なら1秒もかからないうちに辿り着くだろう。
25メートルを切ったところで、ハンが左手を大きく振りかぶった。しかしその手には何も持っていない。だが、何も持っていないというだけで、警戒を解く理由にはならない。相手は歴とした軍人である。対人戦闘においてはその経験の際は大きいはずだ。
そして気づく、ハンに刻んでいた弾浮魔法が消えている。なんで刻まれている魔法が消えたのかは知らないが、つまり、今のハンは浸透魔法を使えるということだ。ゆえに、あの時、浸透魔法で何かを投げていてもおかしくはない。
ハンがその左手に『紅蓮の廉槍』を生成、握りしめる。
エンリはリリアの目に刻まれた魔法の解析を一度やめ、ハンの方へと向き直る。リリアが封印を解けないように左手だけは錆びた剣に添えた。
目の前に突如として短剣が現れる。浸透魔法による加速されたそれは瞬きする間も与えず、その瞳を抉ろうとした。エンリは咄嗟に右腕で短剣を叩き落とす。ハンが短剣を逆手に持ち直し、『紅蓮の廉槍』地面スレスレに走らせ、迫ってくる。
もはや向かい撃つしかないだろうと、心を決め、攻撃しようとした時。側面から高熱のレーザーが照射された。目を焼くような青白い光は一瞬目をくらませ、体を怯ませる。
大剣が振り下ろされる。リアナの大剣だ。
ハンは紙一重で、横に飛ぶことで避ける。しかしそれを狙っていたように地面に大剣を弾ませ、切り返しの突き。ハンはそれを体を捻ることで皮膚一枚で避け切る。そして捻った体を元に戻す力を利用し、短剣と『紅蓮の廉槍』でリアナの後隙を狙う。
しかしリアナはそれをカバーするように下がることはせず、一歩前へ踏み出し、ハンの膝を的確に破壊する。
体勢を崩すハン。短剣と『紅蓮の廉槍』の持っていた両手が浮く。つまり人間の急所の一つである脇下が覗けるような体勢へとなった。そこを狙うように大剣を切り込むも、ハンも体勢を無理に戻そうとするのではなく、重力に従うようにして体を流し、壊れた膝を地面について浸透魔法でつま先を地面に固定することによって、リアナの大剣を不利な姿勢から受け止め切る。
両者互角の鍔迫り合い、リアナが言う。
「私が押さえてるうちに、リリアさんを!」
「ああ、了解!」
エンリが再びリリアの方へと視線を向けようとする。
わずか2秒ほどの時間。大きな隙だ。誤魔化しきれないほどの隙だ。
不意に疑問が浮かぶ。なぜハンはわざわざ大声で俺の名前を呼んだのか。あれでは、今から攻撃行くよ、と言っているようなものだ。軍人であり戦闘においての不意打ちの価値を知っているであろう、ハンの行動としては疑問が残る。わざわざ、拘束を外し、どう言うカラクリか腕に刻まれていた弾浮魔法も取り除き、浸透魔法も使えるようになった。なら、不意打ちを試みるべきではないか?
もし、全身に浸透魔法が使えなかったとしても、短剣を俺に投げつけたように、短剣に浸透魔法を使って、俺に致命の一撃を与えたあの時のように、背後からの一撃を狙うべきだった。
もちろん、不意打ちの警戒はしていたが、試みるには十分すぎる隙と価値があっただろう。そもそもなぜ、ハンは今も浸透魔法を使わない?浸透魔法を使えるのなら、リアナの膝への攻撃も浸透魔法で避けれただろう。まるで自分に意識を向かわせるような立ち回り。
何かあるのか?
そこに思考が至った時、背中に感じる異物が入り込んでくる感覚。
後ろを振り返り、エンリは思わず、呟く。
「なるほどね……」
そこには短剣を握り、エンリの背中を貫くリリアの姿があった。
どうやら、俺は同じようなミスを二度も繰り返してしまったらしい。まさか、誘拐してきた人間を共犯者にするとは、魔法が刻まれている時点で考えておくべき可能性だっただろう。勝手に封印を解くためだけに動くと決めつけ、そこまで頭が考えが至らなかった、俺の落ち度だ。
背中から広がる二度目の熱と痛みも今回の授業料として受け入れよう。
肩甲骨の隙間に刺された短剣をリリアは横に移動させ、背骨にあたったところで下へと切り返し、30センチほど切り裂き、短剣を抜いた。
リリアの頬は赤く染まり、両手は鮮血で濡れ、地面へと滴る。恍惚としたその表情は彼女本来のものではないだろう。
エンリはリリアが握る短剣を握り、その手から奪う。
「あまり気に病むなよ?」
そう言って、エンリはリリアの頬を抑える。
力が抜けていく足を奮い立たせ、その瞳に刻まれた魔法を解析する。時間にして10秒ほど、恐ろしく長い時間だ。
体から熱が逃げていく。手先の感覚がなくなっていく。
思考が散乱して、収拾がつかない。しかしそれでもリリアの瞳に刻まれた魔法だけは解術した。
不意に『彼女』の唇が動いた。おそらくリリアではない。
それが声になることはなかったが、その意味だけは汲み取ることができた。
だからリリアではない誰かに向けて、『彼女』に向けて、エンリは言う。
「どういたしまして」
意識を失ったリリアの体を地面に寝かせる。それと同時に、エンリが膝から崩れ落ちた。
家を追放され、これまで世捨て人のように生きてきたが、再び人の世界に戻ってきてよかった。予想もつかないことが次から次へと襲ってくる。この一週間あまりで二度も死にかけるなんて思ってなかった。少なからず、森にいたのでは味わえないスリリングな体験だ。
まさか、こんな盛大な計画に巻き込まれるとは思っていないかったが、これもまたいい経験だと言える。神の封印を解くことも成功したし、あとはあの赤黒い炎のようなものに刺さった錆びた剣を抜くだけだ。
エンリが震える足で立ち上がりながら、疑問を覚える。
今、俺は何をしようとしている?なぜ、『レンヴェルク』の封印の方へ歩を進め、手を伸ばしている。なぜ封印を解こうとしているんだ。
エンリは伸ばしている腕を左手で止めようとするも、足も手も封印の方へと伸びていく。
これはまずい。一瞬で理解できた。どうやら、リリアに刻まれていた魔法が、俺にも刻まれてしまったらしい。元々俺が開発した魔法であり、魔法そのものに少しばかりの耐性があるためか、完全に精神を支配されるようなことにはなっていないないが、どんなに止めようとしても、体の意思に関係なく、封印を解こうとしてしまっている。
エンリは膝の上にトランクケースを置き、その上に右腕を乗せ、手首を下に下げることによって腕を折ろうとするも、左腕が勝手にそれを拒む。ならばと、自らの腕を魔法や魔術によって拘束するも、自らが生成した別の魔法で相殺、防御され、分解ならばどうかと、錬金術による腕の分解を試みるが、自らの錬金拮抗によって阻まれ、なら、前に進めないよう足首と膝を魔法で射抜く。しかしそれも防御魔法で失敗に終わる。
意識を立とうと、脳への酸素供給を止めようとするも失敗、リリアの傷による意識の消失も、迷惑なことに案外タフであるが故、難しいだろう。
「リアナ!まずいことになった!」
エンリが言う。
「多分、このままだと俺が封印を解く!」
「そう……はぁ!?」
未だにハンと鍔迫り合い中のリアナがそう叫ぶ。その隙にハンはリアナの大剣を受け流し、片足で少し距離を取る。
「俺に魔法が刻まれた!リリアへの負担を気にして反転や俺に魔法の付与させたのが裏目に出たみたい!」
「解除は!?」
「魔法陣による三次元的重なりを全て読み解かないといけない」
「つまり?」
「俺の頭じゃ、スペックが足りない!最低でも一日はかかる!」
「リリアのはすぐ解けたのに!」
「自分に刻まれた魔法は、自分からは確認できないんだよ。俺が手鏡を持ってるなら話は別だけどな」
「魔法は?」
「無理だった」
「なるほど」
それと同時にリアナが地面を走る。そして大剣をエンリの膝の高さで薙いだ。しかしそれは突如として現れた地面に固定された無数の武器や障害物によって阻まれる。そしてそれらは、大剣を弾くとリアナの体を目掛けて飛んでいく。
「まさか、ここまでスムーズに物事が運ぶとは思わなかった。用心をしておけとはよく言われたが、こんなに生きるものだとは思ってなかったよ」
「迷惑な話だよ。方向性のおかしな努力家は」
封印に向けて歩を進めるエンリの隣をハンが壊れた膝を引き摺りながら、並走するようにゆっくりと歩く。後ろではリアナがエンリの元へ向かおうとしているも、浸透魔法による妨害で思うように進めていない。
もはや封印までの距離はそう遠くないここまで近くなって仕舞えば、行動を制限したところで無駄だろう。
「リアナ!リリアを連れて遠くに逃げろ」
「……了解!」
リアナはリリアを担ぎ上げ、出口に向けて走り始める。
「無駄だ。エンリが封印を解くまでに外に出ることはできない。彼女が器になることは逆らえない」
「だろうな。だけど、何もしないよりはいいだろ?それに世界っていうのは予想外に満ち溢れてる。リリアが器にならないことだってあるんじゃないか?」
「君のような実力者でも、最後に願うは奇跡か」
「奇跡は起きるから奇跡なんだ。起きない奇跡は単なる結果だよ、ハン。それに俺の直感が言ってる。リリアの中にいるのは多分、『レンヴェルク』よりもヤバいやつだ。跳ね除けることぐらいできるさ」
「面白い冗談だ。本気で言ってるなら、今一度、その直感を改めた方がいい」
「何、俺の直感はメンテ要らずの一級品の一生物だよ」
そう言ってエンリは微笑み、その手に錆びた剣の柄を握りしめた。
そして引き抜く。
紅き月が地上を見下すように昇った。地上が真紅に染め上げられる。見上げるべき星空はなく。そこには紅き月だけがあった。
『紅き月の夜』の始まりである。
00時00分、『レンヴェルク』、降臨。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ブクマや感想、評価などよろしくお願いします。
ここからは補足です。
多分、この作品を追ってくれている読者の方や最後まで読んでくれた読者の方はすでにお分かりと思いますが、今回の話、かなり知らない設定が多いと思います。雰囲気を楽しんでください。設定説明もかなり省いてますが、キャラクターの意味不明な行動への説明や心理描写も省いてます。状況説明なんかはもっと省いてます。
それどころか状況説明の説明が必要な場面が多く存在しているため、そこも省いてます。
おかげでワームホール空間という設定がどういったものなのか説明されていないせいで、想像できない。そういったものがこの話では多発してます。
特にリリア関係の設定に関しては、それだけで一作書けるだけの設定があるので、設定を知らないと困惑する部分が多いです。他のキャラも言動や行動に関しても設定を知らないと納得できない部分も少なからず存在していると思います。
とりあえず、今回の話で公開できる設定の中で一部補足すると、エンリがリアナだけしか連れてこなかったのは、作中で説明されている以外に、『レンヴェルク』の封印が解かれた際の保険としてヨラルとセレンを地上に残したというのと、魔力量的にリアナ以外の人間を連れてくると第三封印が解かれた際の霊力によってエンリ以外、全員、あの世行きです。
ハンが霊力の影響を受けていないのは入念な準備のおかげです。
天意縛りは『レンヴェルク』ではなく、『彼女』が『レンヴェルク』と魔法で操作されているリリアを止めるために使ってます。
ワームホール空間は波が球の形になっている空間だと思ってください。
一応考察はできるように、伏線だけはばら撒いてるので、それを理解した上で、この話を読むと色々な繋がりが見えて面白いと思います。特に設定と設定のつながりを知るとこの作品がもっと面白くなると思います。
作者の知らないような設定がポンポン出てくる作品ですが、これからも応援よろしくお願いします。




