狭い世間<謎の少女>
外に出ると暑い日差しが押し寄せる。部屋の中ではその熱気を感じることができなかったが、一度、外に出てしまえば、初夏のその湿度を感じなくとも、皮膚に焼き付くような熱が体を焼いていく。
こんな気候もあってか、外は小脇に上着を持つ人や、半袖などの涼しげな服を着た人で溢れかえっていた。
いつもなら燕尾服にも似た上着を脱がないエンリでさえ、今日は熱を吸収しやすい黒のその燕尾服を脱いで、白いシャツをだらしなく着ている。
何がタチが悪いと言えば、この暑さが気温によるものではなく、太陽によるものだということだ。そのせいで部屋の中ではカラッとした涼しさで、外では真夏以上の暑さをいう意味のわからない状況が起きている。
しかしまあとやかく言えども、天気を操れるのは神様ぐらいなもので、人に出るのは所詮真似事だ。今はまだ、耐えるしかないのだろう。
そんなことを考えながらふらりふらりと、街を歩き目的地である冒険者ギルドについた。
燦々と降り注ぐ太陽が塗装の剥げかけた建物に出入りする人を照らしている。暑さから逃れるように、建物内へと入ろうとするも、すぐにその違和感に気づきエンリは足を止めた。
こんなに暑いというのになぜか、多くの人が屋根もない建物の前に集まって、円を作り描いている。何かを見ているのだろうか?何か涼めるものでもあるのかもしれない。そんな楽しげな想像をしながら、エンリもついでにその中を覗く。
そこにいるのは一人の少女。人を惹きつけるその美貌に艶やかな金の髪をツインテールにしたその姿は、いとも美しき人形とも見間違えるかの如き美しさ。赤の瞳の先にあるのは孤高にもにた高潔さだ。
そして彼女が背負うその背中の獲物が彼女を冒険者と知らしめている。
リアナ・リバースーーそれが彼女の名前だ。
名前こそ知っていても彼女との関係性は非常に薄い、依頼の途中でたまたま彼女と出会い、成り行きで正体不明という魔獣から助け葬り去った程度の関係性。前回、冒険者ギルドに来た時の様子を見るに彼女はなかなかの有名人のようだが、その戦闘スタイルはもちろん、彼女の情報という点においても、さらにいえばその有名人の噂話一つ小耳に挟んだことない。つまりは彼女の知ることは何一つないのだ。
リアナは建物の柱に背中を預け、建物内に入っていく人の姿や野次馬の中を吟味する。その姿はまるで誰かを探しているようだった。
何をしているのだろう?という考えが一瞬浮かぶものの、すぐに涼めるものが置かれているのではなかったという落胆に流されて、脳裏の彼方に消え失せた。
そして太陽からの日差しから逃げるように建物内に入ろうとした時、声が響いた。リアナの声だ。
「そこの君!待ちなさい!待って!」
そう少女は建物の入り口の方へと走りエンリの手を掴む。
エンリは驚いたように素っ頓狂な声をして不思議そうに首を傾げた。
そして口を開き、言葉を発しようとするも、その声は透き通るようなリアナの声にかき消される。
「あなた、一体、ここ数日間何していたの!?私、あなたが来るのずっとここで待っていたんだけど!?」
ずいずいと責め立てるリアナにエンリは自然に半歩後ろへ足を引く。
その結果、半ば体が反るような形でエンリはリアナへのそんな言葉を聞くこととなる。
「というかなんなの!?ここ数日、全身を焼くみたいに暑いし、そんな中で待たせるとか、一体どういうつもり!?」
何か、とんでもない言いがかりをつけられている気がするが、彼女の押しに圧倒され反論することもできない。
そしてひとしきり文句らしい文句を言い終わり、言葉が切れたところで、エンリはやっと発言の権利を与えられる。
「えっと、確か洞窟であった……」
「ええ、そうよ。リアナ・リバース、もしかして忘れたの?」
「い、いや、ちゃんと覚えてるよ?」
「そう、なら良かったわ。それで、これからちょっと時間あるかしら?」
「え?時間?」
「ええ、この後暇か聞いてるの」
暇といえば、暇だ。特にやることもない。強いているのなら研究道具を買い揃えるための費用調達に、再び薬草取りに勤しもうかと思っていたぐらいだ。
ふと周りを見渡せば、周りの視線を一身に浴びている。推定有名人であるリアナと喋っている、名も知られていない三日前に冒険者登録を行ったばかりの男。
おそらく多くのものがその豊かな創造力でいろいろな可能性を考えているだろう。実際に周りからさまざまな憶測が風に流され聞こえてくる。
中年の男「滅多に自分から声をかけない、あのリアナが進んで話しかけるなんて、あの男何者だ?」と隣の冒険者仲間に話しかける。
冒険者仲間は「さあ?もしかしたら、腕の立つ冒険者なのかもしれないな。つい最近、随分と難しい依頼をしてたみたいだから、その時会った」と答える。
またその反対側では、若い冒険者の二人が「もしかして恋人なのかしら?仲良さそうだし」と言葉に「きっとそうよ!姫様に恋人がいたなんて初耳!」などという勘違いも甚だしい想像で、黄色い声をあげている。
一体、この状況のどこが仲良さそうに見えるんだ、と叫びたかったが、どうにか胸の中で消化する。
「まあ……暇だけど……」
「そう、ならちょうど良かったわ。少し付き合いなさい」
「え!ちょ、ちょっと、待っ……!」
その静止が聞こえたか聞こえなかったが、その真意はわからないが、エンリは半ば強引に、リアナに腕を掴まれ、引っ張られる形で、群衆の中を後にする。
残された人たちはさまざまな想像をしながら、引っ張られていくエンリの背中を見送った。
ーーーーー
エンリとリアナは今、冒険者ギルドから徒歩十分ほどの喫茶店にいた。煉瓦造りの喫茶店は、奇しくもこの街に来た時に入り、キリヤと会った喫茶店でもある。
日差しが強いせいか窓際のテーブルは軒並み空いていて、日差しの届かない壁側にばかり人が集まっている。
そのせいでエンリとリアナが座っている席は窓際のそれも影のひとつもない席となってしまい、暑さに耐えながら、座っていた。
リアナを前にして思い出すのは洞窟での質問責めの記憶。再び同じ目に遭うのかと思うと、エンリは逃げ出したくてたまらなくなった。
そんなことを考えながら、エンリは無意識に肩をすくめる。
そしてリアナは怯えにも似た感覚を味わうエンリの気持ちもつゆ知らず、彼の前にメニュー表を差し出す。
「好きなの選んで、奢るから」
「え?奢ってくれるの?」
不意に言葉にでた。
その言葉を聞いたリアナは、呆れた様子で、
「当たり前でしょ?洞窟で助けてくれたお礼をしに来たんだから?」
「そうだったのか……」
「一体、何だと思ってついてきたのよ……?」
「てっきり、また質問責めにされるものだと……」
「は?違うわよ……まあ、少し聞きたいこともあるけど、例えば……」
「あ、店員さん、コーヒーとオレンジジュース、あとこの夏野菜のパスタとフォードッグの酒蒸し、フレンチトーストとシーザーサラダ、山盛りのポテトと柚子のスープ、あとこの店で一番でかいスペアリブをください」
「ちょっと、無視しないで。というか、どれだけ頼むつもり!?」
「いや、奢ってくれるなら、食いたいもの頼めるだけ、頼もうかと」
「あなたは遠慮って言葉知らないの!?」
そう声を荒げるリアナを見ながらエンリはははは、と乾いた笑いをする。
「お連れの方は?」と店員に急かされリアナも投げやりに、メニュー表から目についたものを頼む。愛想のいい笑顔で店員が頼まれた品を繰り返して「ごゆっくりどうぞ」と離れていく。
それを見送って、リアナがエンリを指差し高らかに宣言する。
「ここまで奢るんだから、今回はあしらわないでしっかり私の質問に答えてもらうわよ!」
「まあ、ある程度なら」
今になって、大量に頼んだことへの罪悪感が生まれてきたのか、エンリは意外にも素直にそう答えた。
「なら聞かせてもらうけど、正体不明?っていうあの魔獣は一体何なの?」
「それになら前にも言った通り、別の次元住む、概念的生命体だよ。人の存在を……」
「それはもう前回、聞いたわ。聞きたいのはそれじゃなくて、なんで私とあなたは正体不明に関して覚えてるのかって話よ」
至極当然の疑問だった。正体不明はその存在を決して人間は愚か、他の種族全てにおいて認識させない絶対的な、認識阻害能力を持つ。おそらくその効果は、これは正体不明すらも凌ぐ実力を持つ魔獣や存在ですら効果があるだろう。
それは人間でも同じ、賢者と言われる人間だろうが、勇者と呼ばれる人間だろうが、英雄と呼ばれる人間であろうが、そのものがいかなる強力な防御魔法、魔術、結界術、境界術を持っていたとしても、正体不明が持つ認識阻害の能力には抗えない。もはやこれはそういった自然的能力だと割り切る方が簡単だろう。
しかしそうなると今のリアナの状態は矛盾とも言える状況だ。
本来認識できない相手を認識できる、それは異常というに違いない。
いかにさまざまな知識を持ち、研究し、探究し続けても、答えを知らないものを答えることはできない。
エンリはあくまで学者という探究者であり、全知の存在ではないのだ。その上、正体不明などいう、別次元に住まう怪物のこと調べようもない。
本来なら頭を抱えてしまいそうな質問だが、幸いにもエンリはリアナの質問に対する答えを持っていた。
「これって明らかな矛盾でしょ?」
「あー、それなら、存在を奪われかけた時に正体不明の一部が体に取り込んだからだと思う」
「体の一部?」
「まあ体の一部というより、存在の一部かな?正体不明の存在の一部を取り込んだから、こうして正体不明のことを覚えておけてる感じかな」
「なるほどね。その説明だと、あなたも正体不明に襲われたことがあるの?」
「あるよ。だいぶ前の話だけど」
そうエンリは以前、正体不明に襲われたことがある。それこそ存在を奪われかけたことも。あの時に比べれば今回はだいぶ初期の段階で、正体不明を止めることができただろう。
今思えば、あの時の戦闘は、おそらく俺の人生の中でも一二を争うレベルでその命というか存在の危機だった。
存在や記憶を奪われるぐらいならともかく、あの時はその理性さえも奪われ、精神汚染や認識汚染に対する抵抗力を失った。運よく生き残ることができたが、あの時ばかりは自分の存在が消えていてもおかしくない事態だった。
そんなことを考えていると品物を持った店員がテーブルで止まって、エンリの前にコーヒーとオレンジジュースを置いていく。
エンリはその中にテーブルの横に置かれたミルクと砂糖を三個ずつ入れて、ティースプーンでかき混ぜる。
「というか、あなたよく生きていたわね?正体不明に襲われる前ならその存在を認識できないんでしょ?」
「運が良かっただけだよ」
適当にそう流して、コーヒーに口をつける。自分で頼んでおきながら、こんな日差しの強い席で、熱いもの飲み物は頼むべきではなかったな、と反省する。
せめてアイスコーヒーにすれば良かった。
リアナも席に着いた時に出された水を口にして会話の後の乾いた喉を潤した。
そしてしばしの静寂の後、リアナがその口を開く。
「あと聞きたいのだけど、あの絵画みたいな世界は一体何なの?前回ははぐらかされたけど、今回はちゃんと説明してくれるわよね?」
そう言うリアナにはそこ知れぬ謎の威圧感がある。
「あー、あれは……」
エンリはどうもめんどくさそうに言い淀む。
正直な話、あの世界について説明しろと言われても、一体に何を話していいやら。懇切丁寧に一から全て説明してもいいが、そんなことをしては三日三晩の時間がかかる。
流石に彼女の探究心がどれほどのものであっても、三日三晩、説明すれば身も心も疲れるものだろう。そのため短い文で彼女を納得させないといけないのだが……俺にそれだけの語彙力があるだろうか?
「あれは、世界構築理論と世界構成理論に基づく擬似空間で、主に空間掌握や境界術、錬金拡張などを使用した上で、魔力回路をそこらじゅうに巡らせて、空間圧縮や次元収縮に対応した空間」
そこまでいってエンリは大きく息をする。次の説明のための準備だ。
目の前ではリアナが「世界構築理論?世界構成理論?」などと言いながら首を傾げている。
「詳しく説明する?」と聞くと、「ええ、お願いするわ」と言う。
だがまあ、彼女が理解できないのも当然と言えよう。
別世界の創造など、それこそ人の域で行うことではない。そのため世界を作り、維持しようとなると様々な工夫と想像もできない程の数多の知識が必要となる。
その上、別世界の構築は現代でも確立されていない技術だ。エンリが当たり前のように話している世界構築理論と世界構成理論など、彼が山籠りしているときに見つけた新たな理論だ。
そんなものをどこぞの専門家ならいざ知らず、専門知識を持たないリアナは当然の如く知るわけではない。
そもそも別世界の構築に関する研究をしている学者や魔法使いや魔術師、錬金術師ですら、おそらくエンリの話についていくのは難しいだろう。
しかしまあ、この説明も全て彼女が望んだ質問だ。思う存分、知識で殴り……披露しよう。
「そもそも、この世界以外に無数の別の世界が存在していることは、世界学の第一人者であるテイルズ博士がかなり昔に証明してて、そこに目をつけた博士がこの世界の外に人工的な世界を作ることは可能なのか考え始めたのがこの学問の始まりなんだけど、実際に博士がこの世界の外に新たな世界を創造することは可能だと、証明したのがかの有名な<テイルズの世界証明>で」
エンリが「ここまでは大丈夫?」とリアナに聞くと「え、ええ。問題ないわ、続けて」と返してくれる。
「それで<テイルズの世界証明>によって、人工的に世界の創造が可能となると、多くの研究者が研究し始めた。でもすぐに問題が起きて、その問題が、この世界の外に別の世界を作るのに一度、この世界の外に出ないといけないっていう問題。いわゆる”世界越え“って呼ばれる問題だね。まあこの問題はすぐに解決策が提示されて、ユウレンスっていう発明家が空間を中和して、世界の境界を越える『試作型可変空間超過装』って呼ばれる装置を作って”世界越え“ができるようになったから。あ、ちなみにこの『試作型可変空間超過装』に使われた術式が境界術の源流になる界穿って呼ばれるものね」
解説してるとちょうどリアナが頼んだシーフードサラダとエンリが頼んだ、シーザーサラダが届く。
それを受け取りながら話を続ける。
「これで一応、”世界越え“はできるようになったんだけど、またすぐに別の問題が起きて、それが空間断層による断層崩壊現象と空間崩壊現象。いくら『試作型可変空間超過装』で空間を中和できてもそれはあくまで一時的なもので効果範囲も大きくない。そのせいで、長い間、外の世界の空間の安定を維持できないんだよね。そもそも、外の世界はこの世界ほど空間が安定して……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「何かわからないところでもあった?」
「正直、専門用語が多すぎて半分も理解できてない。<テイルズの世界証明>とかは何となく聞いたことあるけど、空間の中和とか、”世界越え“とかは今、初めて聞いたし。それに聞きたいんだけど、この話って全部話終わるのにどれぐらいかかる?」
「そうだな。内容を結構端折ってるから、あと三日もあれば終わるかな?」
「三日!?本気で言ってるの!?」
「これでもだいぶ内容削ってるよ?本格的に説明すると空間断層の他に次元断層とか、時空断層とか、世界断層とか、似たような単語ばっか出てくるし、それこそ一ヶ月間ぐらい説明し続けないといけないから」
「冗談でしょ?」
「試してみる?」
エンリはそう挑発するように煽ってみる。その笑顔はどこか楽しそうだ。
リアナはエンリのその不適な笑みを見て、げんなりした様子で、いいやめとくわ、と言い背もたれに寄りかかる。その言葉を聞いてエンリも、その方がいい、俺も疲れてきたところだ、と目の前にあるサラダを適当に摘んだ。
リアナもまた自分の前にあるサラダを食べる。
ふと頭に一つの謎が浮かぶ。
それは至極単純で、単純だからこそ気になってしまう謎。
それは今、目の前にいる少年が何者なのかという何偏屈ない疑問だ。
以前、正体不明と戦ったときに聞いた話では、彼の名前と年齢、泊まっている宿の住所とあの洞窟にいた経緯、そしてエンリが最近この街にやってきたばかりの旅人だと言う話だけだ。
真面目に考えると、これだけの知識を有し私と同じぐらいの年齢で正体不明ような怪物との戦闘経験がある人間など、初めてであった。
そもそもあの絵画のような世界が本当に人工的に作られた別の世界なら、それは賞状はおろか今までの常識自体を塗り替える大発見なのではないだろうか?
まあ今、目の前でこう語る彼の話が全て嘘で今の今まで見てきたのは全て、私を騙すための幻覚だったなんて言われては元も子もないが、彼が戦い目の前で見た景色、感じた感触、それはどれも幻覚などでは味わえないリアルなものだった。
もとよりそこまで長い付き合いではないがエンリがそのような嘘をつくようなタイプには見えない。
前、聞いた時は自分のことを学者だと名乗っていたが実際には何千年も生きた賢者だったり、どこかの名家のご子息だったりするのだろうか?
そしてその疑問が自然とリアナの口から漏れた。
「それで?結局、あなたって何者なの?」
「あれ?前も言わなかったっけ?」
「ええ、聞いたわ。その時は学者だって名乗ってた」
「ならよかった。何かの間違いで自分は世界を救った大英雄だ!なんて言ってたらどうしようかと」
そう笑うエンリの笑顔はどうも無邪気で年相応のように見える。少なからず何千年も生き続けている賢者のような笑い方ではない。そんな人間にしては随分と若々しく初々しい。
「俺は単なる学者だよ。それ以上でもそれ以下でもない。あ、今は一応、冒険者でもあるんだったな。だから学者兼冒険者だね」
「なんでその単なる学者兼冒険者を自称するあなたが、正体不明のような怪物と戦った過去があるのよ……」
「少しばかり人よりもそう言う奴らに縁があっただけさ。特に珍しい話でもないよ」
珍しい話でもない、そう言った彼の言葉を信じることはできなかった。一体、あんな怪物と戦って生き残った人間がどれぐらいいるだろう?それも学者などと自称する人間が。
「ならあなたは一体、なんの研究してるの?」
「結構色々な研究してるよ。それこそ魔法や魔術、錬金術の研究はもちろん、普通に植生の研究だったり、世界学だったり、神獣の研究とか、魔導具の研究なんかもやってる。まあ、できることは手当たり次第にやってる感じかな?」
「魔法と魔術、錬金術を同時に研究するって大丈夫なの?」
そういう彼女の顔には不安そうな表情が浮かんでいる。
まあ古来より仲の悪いとされている三大技術を同時に研究している人間はそう多くないだろう。
どの使い手も自分達が扱う技術を誇りに思い一番優れ崇高だと思っているせいで、それが原因で過去には国同士の戦争になった例があるぐらいだ。
実際、俺も魔法使いの家系なのに、魔術と錬金術を研究して家から追い出されたのだから、それだけでも一体どれほど魔法使いが他の魔術や錬金術を嫌っているかわかるだろう。
リアナもそう言った事情を知っているからこそ、その三つの研究を同時に行なって問題はないのかと言っているのだろう。
「まあ別に世界に一人ぐらいその三つを研究してる人間がいても問題ないでしょ?」
「そう……なのかしら?逆に目をつけられそうな気が……」
「その時はその時さ」
現状なんの不便もしていないからいいのだ。そもそも何らかの実害が発生しても、魔法、魔術、錬金術を同時に研究するのをやめるつもりは毛頭ないけどね。
エンリがいつの間にか飲み終わったコーヒーのカップの底を覗き見る。手に取ったオレンジジュースを半分近く飲み干して、半分程減ったサラダを食べた。
ふとリアナが「それにしても暑いわね」なんて言ってくるものだから、余計に暑さを意識して、外を眺めた。
いくら冷房が効いているからと言って西日の日差しは、ここ最近の異常な日差しの強さに関わらず厳しいものがある。いくら過ごしやすい気温でも日差しが強いせいでも、これだけ日差しが強ければ意味がないだろう。
「あの……」
不意にそう声をかけられた。
リアナの澄み切ったような凛とした声とは違い、どこかあどけなさを残した、それでいて感情の起伏に乏しい声音だった。
エンリは無意識に声の方へ視線を向け、そこにいた人影に驚く。
そこにいたのは、白い髪に淡白なほど薄い表情。その整った顔立ちはあまりにも人工的で、美しい。彫刻のような芸術的美しさの少女だった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ブクマや感想、評価などよろしくお願いします。
今回、出てきた設定は基本覚えないでいいです。世界構築理論とか、世界構成理論とか。
ただ書きたかったから書いた設定なので、ストーリーと絡みことは基本ないです。




