プロローグ
誰かが俺を愚か者だと呼んだ。それは父だったか母だったか、はたまた兄弟の誰かか。今となっては些細なことだがそれが一つの分岐点になったのも事実だ。
そしてそれが原因で家を追放されたのも事実だ。
だがその人間が何を学ぶかなんてその人の自由だろう。魔法を学ぼうとも錬金術を学ぼうとも魔術を学ぼうとも人に指図される筋合いはない。
個人の自由だ。
代々魔法使いの家系だから錬金術を学ぶな?魔術もダメだ?なんて愚かで馬鹿馬鹿しい。
祖先の偉業や功績は評価しよう。それを尊敬もしている。だがそれとこれとは別問題だ。
過去や家訓に囚われていたら一体、何が進歩するというのか。
ルールとは世界を縛り個人を縛るものだ。それから脱するには自分でルールを塗り替えるか、ルールの外側に行かなければいけない。
そして俺はルールの外側に行くことに決めた。
永遠の停滞の中はどうにも退屈だ。その結果、家から追放されようとも自分の決断に間違いはない。後悔もない。愚か者と罵られようとも自分はそれを新たな世界に挑戦する挑戦者に与えられる称号と捉えよう。
こうして俺は愚か者の称号とともに家を追放された。
七年前の出来事だ。
そして現在ーー
静かで荘厳とした山の中。ポツンとひとつ小屋が建っている。
人里離れた場所に立っているとは思えないほどの立派なログハウスだ。
小鳥たちが窓の縁にたち囀る。
平和と呼ばれる世界に突如、爆発を音が響き渡る。
その音に驚き小鳥たちは囀りをやめ、周りに隠れていた獣たちとともに逃げ去って行く。
それもそのはず爆発音の原因はこのログハウスにある。
音の発信源である部屋には一人の少年が立っていた。
右目にルーペをかけ机の上に張り付いてる不審者としか言えない男だ。
頭はまるで使い古された漫画表現のように頭の髪の毛がアフロになりいかにも実験に失敗しましたと言った様相だ。
爆発音から数分、少年がやっと机にへばりつくのをやめる。
服についた汚れを適当にはらい、近くにあったノートとペンを手に取り走られる。
少しして少年はペンを机の上に置いてあったコップの中に投げ込み、ノートを後ろの棚にしまう。
そして先ほどペンを投げ込んだコップの中からピンセットを取り出し、張り付いていた机の方に向かう。
行く途中で地面に落ちていた銀トレーと小さな瓶を手に取り運ぶ。
少年は再び机に張り付き先ほどまでとは別人のように慎重にそして優しく机の上を這う。
その目的は机の上に転がっている目を凝らしてやっと見えるレベルの宝石のような魔石を掻き集めているのだ。
今回の実験の成果であるその砂つぶよりも小さい魔石を色ごとに分け瓶に詰めて行く。
そして少年が地面を這い始めて数時間が経った頃、少年が笑みを零す。
今までないほど慎重に一つの魔石を掴み取る。それは他の魔石で埋もれ奥深くに沈んでいた。
無色の魔石だ。
一切の色がなく光を完全に透過する魔石。淡い緑の光を放っており、周りにはまるで惑星を回る天体のような光の粒が二つ、軌跡を残しながら回っている。
蒼い光だ。
少年は机の端に置いておいた装飾の施されたペンダントを手に取る。機械仕掛けに見えるそのペンダントの中心に空いている穴に無色の魔石をはめ込む。すると自ら空中に浮きはじめ、ペンダントに仕込まれていた魔法と魔術と錬金術の紋様が、それぞれ浮かび上がり複雑な模様を作り上げる。
少年はそうして出来上がったペンダントを手に取り、細部を見渡す。
どこにも異常は見当たらない。どうやらペンダントは当初の予定通り動き始めたようだ。
これで今回の研究は終了した。
大方大成功だ。
あとは大量に残った魔石の砂つぶを全て瓶に分ければ錬金は完全に終了する。
目の前に広がる魔石の砂漠に軽くめまいを起こしながら後片付けを始めた。
ーーーーー
時刻は深夜2時。
既に日付が変わり、夜も更け切ったところだ。
少年は今、9時間というえらく長い時間のかかった研究の後片付けからやっと解放され、束の間の休息。月明かりの下、コーヒー片手に本を読み耽っていた。
手に持っている本は錬金術に関する教本。『ホムンクルスでもわかる初心者のための優しい本』という題名のものだ。
本当にホムンクルスでもわかるのかは別として、この本自体は実によくできた教本だ。錬金術に必要とされる基礎や要素をほぼ全て踏襲しており、実際にこの本を読ませれば小さな子供でも初歩的な錬金術は使えるようになるだろう。
実際、彼がまだ錬金術のれの字も知らない幼少期にはこの本を読んで勉強したものだ。
しかし彼の目的は過去の思い出に浸ることや基礎の復習をすることではなく。新たな研究材料を探しているのだ。
正確には新しい研究が思いつかないため暇を潰しているというべきだろうか?
もちろん今も並行して色々な研究をしている。マンドラゴラを魔力水に浸してみたり、火炎魔法と煙火魔法を無理矢理混ぜてみたり、拒絶反応を起こす魔法同士を圧縮してみたり、改めて思い返すとろくなことしてないな。
まあそんなロクでもない研究を七年も山に籠って行っていたら流石に研究内容も枯渇してくるわけで、新たな刺激を求めて17周目にあたる本の周回を行っているわけだ。
しかし新しいアイデアもそろそろネタがない。というか10周目には既にネタはなくなっていた。あまりのネタのなさに錬金術で泥団子を作っていたほどだ。しかも魔法と魔術で強化された巨木を破壊できる破壊力を持った泥団子だ。
技術の無駄遣い過ぎだろう。
既に読んだ本を17周したところで出てくるアイデアは取りこぼした出涸らしぐらいだ。
流石にそろそろ潮時か。
本を閉じコーヒーを一口飲む。
そしてしばし月を眺め少年は決意する。
街に出よう。
少年は本を魔法で適当な棚に戻し立ち上がる。
正直な話をすればここ数年、研究機材の経年劣化が激しく錬金術や魔法、魔術で騙し騙し使ってきたのだが、数日前からもはや修復不可能レベルで幾つかの機材が壊れた。別に自分で一から作り直してもいいのだが、この際、街に出て新たな環境で暮らすのも悪くないだろうということで、街に出ることを計画していた。
それこそ七年も山に閉じこもっていたのだ。街に出れば新しいアイデアも自然と湧き出てくるだろう。
そう少年は胸をときめかせ街に行く準備を始めた。
クローゼットの奥にしまい込んであったトランクケースを引っ張り出し、必要なものからそうでないものまで詰め込む。
魔法で部屋を掃除し、その間に風呂に入る。服を着替え、家の明かりを消し玄関の鍵を施錠した。
家を出た時には世界は白み出し、朝日が昇り始めていた。
旅の始まりにはいい日だ。
少年は一歩前に足を踏み出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ブクマや評価、感想をくれると嬉しいです。
この作品は作者の完全な趣味で書かれています。唐突に知らない設定などが登場する可能性がありますが、そういった部分は脳内補完を行いながら読んでください。
多分そのうち番外編で設定をまとめたのも出します。
あと趣味なので不定期です。