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王宮の結界

「シリウス、待たせたな。…どうした、険しい顔で宙を見つめて。何かあったのか?」


神殿の入口が内側から見渡せる、階段の踊り場の手摺りに身を持たせ掛けていたシリウスは、神殿に姿を見せたリュカードの声に、はっと一瞬驚いたような表情を見せた。けれど、それも束の間、すぐに普段通りの落ち着いた微笑みを浮かべた。


「…いえ、何でもございません。

皆さまお揃いのようですね。部屋の準備は整っております。さあ、こちらへお越しください」


シリウスに促され、会議用の部屋へと入ったのは、リュカードにザイオン、ルーク、エリザ、アルスとグレン、そしてアリシアといういつもの面々であり、ヴェントゥスもアリシアの足元について来ている。


皆が席に着いたのを見回して確認すると、シリウスは口を開いた。

「この部屋の周囲は完全に人払いがしてあり、神官の見張りも付けています。…ここでは忌憚のない意見交換が可能ですが、アストリア王国側の手の者は、我々の想像以上にこの王国内で動いている可能性があります。改めてご注意いただくほうがよろしいかと」


ルークが頷く。

「その通りだな。…今日は、簡単に伝えてある通り、騎士団に助けを求めてきたクレアという少女の話について、シリウスの意見を聞きに来たんだ。知っての通り、彼女は以前にアリシアちゃんの命を狙った少女だ。

アストリア王国の王宮にいる母と弟を助けて欲しいという話なんだが。彼女の母は、魔族、しかも、魔族の長の妹らしいんだ。クレアの言うところによると、どうやら、炎の将軍は何らかの方法で彼女の母から魔力を得ているようなのだが…」

アルスがルークの言葉に頷く。

「この前の戦でローレンス将軍と対峙したとき、彼は人間の筈なのに、魔族の力が混じっているような違和感を感じました。クレアの言っていることは真実なのだろうと思います」

「アルスの言う通り、クレアの言葉は一部は裏も取れているし、俺の感覚でも、彼女の言葉に嘘はないように思える。

…ただ、そうだとしても。王宮付近にはアストリア王国の兵も多いし、彼女の母と弟を救い出すのはとてつもなく困難だ。彼女の母が炎の将軍に魔力を供給しているなら、戦の要の1人として監視の目もあるはずだしね。けれど、あの炎の将軍に魔力の供給源があるなら、できる限り絶っておきたいのもまた事実。この前はヴェントゥスのお陰で助かったけれど、炎の竜を豊富な魔力で操られたら、厄介極まりないよ」


リュカードが腕組みをしてルークに問い掛けた。

「そのクレアという娘の母と弟が、自らの意志でアストリア王国に味方している可能性は?はじめは、アストリア王国の王宮に保護されたと考えたのだと、クレアは言っていたそうだな。結界から出られない状況であっても、自らそれを望んだならば、助けなど必要としていないだろう。むしろ助けになど行ったら、返り討ちに遭うだけだ」

「ああ、俺もそう思ったんだけどね。

クレアは、魔力に込められた感情も感じ取れるらしいんだ。アルスがアリシアちゃんに作った回復薬に込められていた感情も言い当てていたから、そうなんだろう。

彼女によれば、最後にローレンス将軍に会ったとき、彼から感じた母の魔力には、否定的な感情…将軍に対する怒りを感じたようなんだ。それもあって、利用されている可能性を考えたらしい」


ザイオンが首を傾げた。

「そのクレアっていう子の母が魔族の長の妹なら、自分で強い魔術が使えるんじゃないのかな?なぜ使えないんだろう」

シリウスがそれに答えて口を開く。

「私も噂程度でしか聞いたことはありませんが、魔族が人間と結婚する場合、その魔法の能力は封印されるそうですよ。魔力自体の封印はできないので、今はきっとアリシア様と同じように、自ら魔術は使えず、膨大な魔力だけがある状態なのでしょう。

…ところで、アリシア様。彼女はあなたの命を奪おうとした人ですが、彼女の言い分は信用できると思いましたか?」


アリシアはすぐにこくりと頷いた。

「ええ。…彼女の姉に私が回復薬を使ったとき、彼女は私の命を狙える距離にいましたが、それをしませんでした。

彼女が大切にする姉を優先させたからこそだと思いますし、自らの危険を顧みずに騎士団に助けを求めに来たのも、大切な家族を守るためなのでしょう。

この前彼女が話すところに同席した感覚では、特に疑う点はないように思います」


エリザは額に手を当て眉間に皺を寄せている。

「あの子のお母さんから、炎の将軍に嫌々魔力を渡す理由って、何かあるのかな。脅されてるとか、王宮内に監禁されてるとか…?結界があるから出られないんだろうけど」

ルークが残念そうに首を振った。

「そこまではわからないね。あの後、クレアを騎士団で保護することになってからも少し彼女と話したけれど、クレアは王宮にいる母と弟には会えていないそうだ」


シリウスがすっと目を細め、両肘を机について組んだ掌に顎を乗せる。

顔を上げて皆の顔を見回すと、よく通る低い声で言った。

「私は、伺った話から判断するに、アストリア王国にこちらから攻撃を仕掛けるときが来たのではないかと思います。

…詳細は申し上げられませんが、我々の王国の仲間に寝返りを促すような動きも出ているようです。外堀が埋められつつある。攻められるばかりでは勝機も逸します。この機に王宮を狙ってはどうかと」


グレンが眉を顰める。

「アストリア王国の王宮だけでも多くの警備兵がいますし、ディーク王国の兵力をあの王宮まで移動させるにはかなりの時間を要します。どのように攻めることを想定されていますか?」


シリウスが鋭く目を光らせた。

「王宮全体を攻撃するのではなく、王宮を覆う結界を狙います。

もしクレアの言う通りなら、彼女の母と弟が結界から出て自由の身になれば、クレアのついた我々に与してくれる可能性が高い。

彼らもディーク王国に味方してくれるのであれば、ルーク様も仰ったとおり、炎の将軍の力を削げるのは非常に大きいです。彼はあの国の攻撃の要の1人ですから。反して我々の戦力は上がる。さらにヴェントゥスが成犬になるまで凌げれば、アストリア王国が我々の国への侵攻をあきらめる可能性も出て来ることでしょう」

いつも読んでくださってありがとうございます。

そして、誤字報告をいただきありがとうございました!

私の不手際で、いただいていた誤字報告に気付くのがかなり遅くなってしまい、失礼いたしました…m(_ _)m初心者なものですみません。

あえて元の表現を残しているところもありますが、多くの部分を直させていただきました。大変助かりました!

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