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アルスの能力

シリウスの言葉に、アルスは考えを巡らすように口を噤むと、しばらくしてから口を開いた。


「鮮明な記憶、ですか…。

言われてみれば、まるでアリシア姉さんの経験を追体験しているかのように、目の前で起こった出来事のように思えたので、そうですね。かなり姉さんの記憶が鮮明に見えたように思います。


ただ、姉さんに魔力を分け与えられて、死に掛けたところを助けられたというのは、もちろん初めてです。魔具を使うときにこのように思いや記憶を伝えられるものなのか、このような記憶の見え方が普通なのかどうかも、僕にはわかりませんが…」


戸惑いの色が見えるアルスの言葉に、リュカードが頷く。


「ああ。アルスの意見はもっともだ。

…俺も、アリシアに魔具で魔力を与えられたとき、アリシアの記憶が走馬灯のように駆け抜けて行って、最後にアリシアの思いが込められていた。アルス、君を大切に思うアリシアの気持ちもな。


ディーク王国の魔具には、思いを伝えられる特殊な機能がある。ただ、普通は単なる連絡手段として使うに過ぎない。

それに比べたら、シリウスの言う通り鮮明過ぎるとも言えるかもしれない。

…ただ、アリシアの魔具は特殊なもののようだ。単純な比較は難しいが…」


エリザが横で首を傾げた。


「アリシアがオルガさんの店で、魔具に思いを込めるための仕上げをしてもらっているのは見たけれど、それ自体は特に変わったものではなかったみたい。


元々の魔具の性質かな?それとも、アリシアの魔力が強いからなのかな…」


リュカードが口を開く。


「シリウス、君もアリシアの記憶を見ているな。

君はこれをどう見ている?」


シリウスは集まっている面々の顔を見回すと、静かに口を開いた。


「これは私の推測でしかありませんが。


アリシア様は、私たちに魔力を分けたとき、持っているすべての魔力を魔具に込めた。そのときに、もちろん自らの死も覚悟した筈です。アリシア様の記憶がなくなっていると聞いて感じたことですが…その必死な思いとともに、アリシア様の記憶まで意図せず込めてしまったのではないか、そのような印象を受けました。本来なら、もしかしたらアリシア様自身が見ていたはずの走馬灯を、我々が見てしまったとでもいうのでしょうか。

そのために、完全に忘れ去ってしまってはいないまでも、記憶が抜け落ちたような状態になっていることが想定されます。魔具の使用方法は、恐らく身体が覚えていたのでしょう。


…我々が分け与えられた魔力をアリシア様に戻せれば、アリシア様の記憶が戻る可能性もあるのではないかと思いますが…」


そこで言葉を切って、シリウスはアルスを正面から見つめた。


「…アルス様。

アルス様は、アリシア様に魔力を戻すことはできますか?」


シリウスの言葉に、ルークが慌てたようにシリウスを諫めた。


「何を言っているんだ、シリウス。

受け取った魔力を持ち主に戻すことは、人間にはできないはずだろう?」


しかし、シリウスはじっとアルスに視線を向けたまま微動だにしない。

アルスは苦笑すると、ゆっくりと口を開いた。


「神官であるシリウス様にはお見通しのようですね。

試したことはありませんが、姉さんに魔力を戻すことは、多分できると思います。これは僕の感覚ですが。


…僕には、少し魔物の血が混じっているようです。

僕がカーグ家に引き取られる前、僕の父はカーグ家の遠縁でしたが、僕は父が外で作った子として、疎まれていました。その相手が、魔物の血を引く女性だったようなので尚更です。魔物でも、人型を取る魔族と言われるものがいるようですね。


それがはっきりとしたのが、僕が6歳で自ら魔術の封印を解いてしまったときでした。

アストリア王国では、魔術の能力で家格が決まるので、魔術に優れたものを家から出すことはほとんどありません。家の格を上げる機会を、みすみす逃すようなものですから。

けれど、僕が魔術の封印を解いて、両親は僕についてはさじを投げたようです。僕は多額の金銭と引き換えに、カーグ家に引き取られました。


カーグ家でも、父母や上の姉には、一定の距離を置かれていたように思います。きっと僕の血についても何らか気付いていたのでしょう。


でも、アリシア姉さんは、それに気付いていたようではありますが、家族の一員として、外からやってきた僕を心から歓迎してくれました。

…僕がカーグ家で心底安らげたのは、アリシア姉さんの側だけです」


アルスは、シリウス、そしてリュカードの目を見つめた。


「アリシア姉さんのためなら、僕は何でもします。

…姉さんの記憶がそれで戻るなら、僕は喜んで手伝いましょう」

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