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白銀の犬

頭痛に思わずこめかみを押さえ、足元がふらついた私をグレンが支えてくれた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ。…グレン、ねえ、私、今まで何をしていたのかしら?知っていたら教えて。

時々何かを思い出せそうな気がするのだけど、思い出せないの」


グレンは私の目を見つめて口を開く。

「お嬢様、私のことはわかるのですよね。

いつの記憶までありますか?」


「魔術試験で、私に魔術が使えないとわかったところまでは覚えているのだけど、その後は、気付いたらここのベッドの上だったわ」


「…では、さっきの男の子のことはご存じありませんか?」


「…? ええ、さっき会ったばかりよ」


「そうですか。…なるほど」


グレンは少し思案顔になったけれど、すぐに続けた。


「お嬢様は魔術が使えないとわかってから、カーグ家を追われ、ディーク王国にいらっしゃいました。それから、今はアルス様もディーク王国にいらっしゃいます」


「…私がディーク王国に…。

それにアルスが?どうして…」


驚愕の表情を浮かべた私を見て、グレンが苦笑する。


「お嬢様が驚くのも無理はありません。その経緯を話せば長くなるのですが…。

お嬢様が皇太子様の婚約者になったことは、アルス様に伺いました」


その時、警備の兵士たちと思われる声が聞こえてきた。


「さっき、この辺りで何か光ったぞ」

「…魔法か?不審な者がいないか調べろ」


その声の方向をグレンが振り返る。


「そろそろ時間切れのようです」


そして、私に向き直ると、私の目を覗き込んだ。

いつも私のことを気遣ってくれる、優しい、そして真剣な表情で。


「アリシアお嬢様。最後に伺いたいのですが、…今、幸せでいらっしゃいますか?


ディーク王国とアストリア王国は開戦の可能性があります。お嬢様の記憶が戻ると、立場が真逆になる可能性がある。

どちらが、お嬢様にとって幸せなのか…」


私は真っ直ぐにグレンを見て、きっぱりと言った。


「私は、真実が知りたい。その上で、自分で判断したいわ」


グレンは頷き、微笑んだ。


「お嬢様らしいですね。

…今はもう行きますが、また近いうちにお会いするでしょう。

お嬢様、では、また。お元気で」


去りゆくグレンの背中に私も告げる。


「グレン!来てくれてありがとう…グレンも、元気でね」


グレンは一瞬私を振り返って微笑んだ後、すぐに姿を消した。



すぐに、ばたばたと警備兵たちの足音が近づいてきた。

私に気付いて、敬礼をする。


「これは、アリシア様。

…先ほど、こちらで魔法と思しき光が見えたのですが、誰か怪しい者を見掛けませんでしたか?」


「いえ。特に誰も見掛けませんでしたわ」


私が首を振ると、警備兵は続けた。


「…そうでしたか。

いや、でもご無事で何よりでした。

何者かがこの辺りに潜んでいる可能性もあります。我々がアリシア様をお送りいたしましょう」


「…ありがとうございます」


私はその言葉に頷く。


ちょうど私の部屋のバルコニーの真下にある王宮への出入口から王宮内に入ろうとした時、私を囲んでいた警備兵が焦ったように声を上げた。


「えっ、黄色い蠍?

…なぜ、こんなところに」


中級魔物の黄色い蠍。動きが素早く、猛毒がある。身体は小さいが、狙った獲物にはしつこく食らいついてくる、厄介な魔物だ。


黄色い蠍は警備兵たちの間を掻い潜るように、私を目掛けて飛んでくる。


「…!」



動けずに固まっていると、目の前を白い風のようなものが通り過ぎた。

それは蠍を一瞬で噛み潰すと、ぽいと投げ捨てた。


私は、助かったことよりも、その美しい身のこなしに思わず見惚れてしまっていた。


(綺麗な犬…)


そこには、白銀に輝く毛並みの美しい犬が、金色の瞳で私をじっと見つめていた。

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