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想い

誤字報告ありがとうございます、修正しております。

リュカード様とヴェントゥスが庇ってくれたお陰で間一髪、私が攻撃を免れると、女の子は薄笑みを浮かべて呟いた。

その可愛らしい、あどけない顔のままで。


「ああ、残念。あと少しだったのに。

…じゃあまたね。お姉ちゃん」


そう言ったかと思うと、すうっとかき消えるように姿を消した。

私は、彼女が姿を消した場所を、呆けたようにただ見つめていた。



女の子が何者なのかはわからないままだったけれど、狙いは私のようだとわかったこと、そして魔物に襲われる危険もあることから、私は、しばらくは身の安全のために外出を控え、リュカード様の屋敷内に留まることになった。


騎士団の宿舎に滞在していたグレンも、リュカード様の屋敷に部屋をあてがわれ、私の身辺警護をお願いすることになった。


***

「リュカード様、痛くはないですか?」


「ああ、大丈夫だ」


屋敷に戻った私は、私を庇ったせいで怪我をしたリュカード様の左手の傷の消毒と止血をしていた。


あの女の子は、魔法で刃を出して私の首を狙ったようだ。

リュカード様の左手は、防具を介して攻撃を受けたので致命傷ではなかったものの、思いのほか深くざっくりと切れていた。回復薬を使おうとしたら、この程度のすぐ治る軽傷には回復薬も回復魔法も必要ないと微笑まれてしまったけれど、私は、自分のせいでリュカード様にこのような怪我を負わせてしまったことが、悲しくて、悔しくて仕方がなかった。

せっかく魔具まで手に入れたのに、まだ自分のことすら守れずに、それどころか自分のせいで大切な人を傷付けてしまっている。


「リュカード様、すみません。私のせいで

…」


思わず、悔しさに握り締めた私の右手を、リュカード様はそっと両手で包み込んでくれた。


その両手に、私の涙がぽたぽたと落ちる。


リュカード様は、優しい目で私を見つめた。

「俺は大丈夫だ。たいした怪我ではないし気にすることはない。…アリシアが無事でよかった。


それよりも、アリシア。君が命を狙われていることの方が、俺はよほど身が削られる思いがするよ。君に何かあったらと思うと…」


私は大丈夫だと伝えたくて、微笑んだ。


「しばらく、外出はせずに屋敷内におりますし、ご心配はいりませんわ。

それに、グレンもこちらに滞在させていただくことになりましたし」


グレンは、私の知らないうちに、カーグ家執事としての顔以外の能力も身につけていたようだ。

素早い身のこなしに加え魔術の才能に長けた彼は、優れた護衛にもなるだろう。


リュカード様は少し顔を顰めた。


「本当は、俺が常に君を守りたいんだがな。立場上、街に被害が出れば出向かなければならない。君をここに1人にするよりは、グレンがいるほうが安心なのだとはわかっている。


…だがな。アリシア、君の近くに、俺の知らない昔からの君を知る者がいるというだけで、俺にとっては想像するだけで歯噛みする思いだ」


リュカード様は苦笑すると、薬箱を片付けようと、後ろを向いて戸棚に手を伸ばした私を、後ろからふわりと抱き締めた。


私は驚いて、一瞬固まった。

身体全体が恥ずかしさにかあっと熱くなる。


「…グレンは、昔から仕えてくれている執事で、身内のようなものです」


リュカード様は呟くような低く甘い声で、後ろから私を抱き締めた姿勢のまま、耳元に囁く。


「アリシアのことは、何でも知りたいし、誰にも渡したくない。

…アストリア王国皇太子の婚約者候補だったとも、この前まで知らなかったよ。それを聞いた時、心が凍りそうだった。

…自分がこれほど独占欲が強いとは、思わなかった」


そして、私をくるりと振り向かせ、リュカード様と向き合った体勢にすると、私の目をじっと覗き込んだ。その美しい菫色の瞳に、熱を宿して。


「アリシア、俺は、君が好きだ。

君のことを守らせてほしい。…このまま、俺の側にいてくれないか?

アストリア王国にも、どこにも行かずに、俺の隣に」


私は、さっきとはまた違う涙でじわりと目頭が熱くなるのを感じた。

こんなに、涙腺が弱かっただろうか。


何もかも失くした日に出会い、絶望の中から救ってくれた、リュカード様。

出会ったその日に見たその美しい笑顔に心を奪われ、ずっと想っていた。

家を追われ、家名さえ失くした私には、高位貴族で筆頭魔術師のリュカード様となど、とても釣り合わないと心に想いを閉じ込めていたけれど、…私も想いを伝えても、いいのだろうか。


「…私には、家も何もなく、ただアリシアという名前があるだけです。それに、私は、これから敵対するかもしれないアストリア王国の出身です。それでも、よろしいのですか?」


リュカード様は頷く。


「ああ。アリシアがいい。…君以外には、誰もいらない」


涙が頬を零れ落ちるのがわかった。


「リュカード様、私もリュカード様が大好きです。

…初めてお会いした日から、お慕いしておりました。

私でよければ、ずっとディーク王国に、リュカード様の隣にいさせてください」


私の言葉を聞くと、リュカード様は蕩けるような笑顔を見せ、私の涙を拭うと、今度はぎゅっと抱き締めてくれた。


そして、いったん身体を離して、愛おしむように私の目を見つめると、…そっと私の唇に、優しく彼の唇を重ねた。

読んでくださってありがとうございます!

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