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老婆の狙い

シャノンが帰路に就く途中、1人の老婆が足を痛めて路上に蹲っているのを見つけた。


「あいたたた…」


「大丈夫ですか?」


シャノンは慌てて老婆に駆け寄り、回復魔法をかけた。

老婆はゆっくりと笑顔になる。


「親切なお嬢さん、ありがとうなあ。助かりましたじゃ。


…結界の外から街まで行き来するのは、老人には骨が折れますなあ。先程は転んで、足を痛めてしまったのじゃ」


「まあ、結界の外まで!なぜ、そんなに危険な遠いところまで行き来など…」


シャノンが驚いて声を上げると、老婆は続けた。

「…結界が張られたせいですのじゃ。

実はわしは、以前から小魔物を飼っておるのじゃが。…ここだけの話じゃよ…。なに、小さな魔物で、たいした力もなく、害にもならない可愛いものじゃよ。

結界が張られたとき、結界の外におったので、魔物であるために中に入れなくなってしまったのじゃ。


それで、餌を持って結界の外まで会いに行っておったのじゃが、不便なことこの上ありませんなあ」


確かに、小魔物の中でも下級で力の弱いものは、愛玩用にする者もいなくはない。


ディーク王国のほぼ全員が、その存在に感謝しているだろう、国を守る結界。

にもかかわらず、結界への不満をぶつぶつと呟く老婆の声に、シャノンの瞳がふっと影を帯びた。


老婆が暗く目を光らせ、再度口を開く。


「ああ、優しいお嬢さん。

さっき私を助けていただいてわかったのじゃが、お嬢さんの魔力は強いんじゃのう。

…お嬢さんを見込んでお願いじゃ。

できれば、私の飼っている小魔物1匹だけ、結界内に入れるような穴を、結界に空けてはいただけないじゃろうか。人間に悪さをするようなものでもないんじゃよ。…ほら、わしの上を飛んでおるじゃろう」


ふわふわと可愛らしい、金色の丸い小魔物が、確かに老婆の上を結界越しに飛んでいる。

シャノンがその姿を見上げると、小魔物のくりっとしたその黒い目が、光を放った。


シャノンはぼんやりとした表情になると、

「いいですよ…」


金色の小魔物が飛んでいる辺りに手を翳す。

結界は、内側からの方が脆いし、小さな穴なら空けて埋めることも、神官になれるほど魔力が強ければ不可能ではない。


光の膜に小さな穴ができ、ふわふわとした魔物が結界内に入って来た。

…そして、何か背筋の冷えるようなものが数体、その穴を通り過ぎる気配をシャノンは感じた。


「…!」


はっとシャノンは正気に戻ると、慌てて結界の穴を塞いだ。

自分のしてしまったことにおののき、地面にへたり込みながら老婆を見ると、老婆は

「ありがとうねえ、助かったわい」

と笑いながら、先ほどまで曲がっていた背をしゃんと伸ばしていた。


***

…しまった。やられた。

シャノンは、自分のしてしまったことに青ざめた。

あろうことか結界に穴を空け、魔物を結界内に通してしまった…しかも、何匹も。


(あの老婆、いや老婆になりすましていた人は…)


さっき、なぜ気付かなかったのだろう。

結界の外を飛んでいた小さな金色の魔物は、目を合わせると判断力を落とす能力のある、下級魔物。

結界越しなら、あえて自分から術にかかりにいくようなことをしなければ、相手にもならないはずだ。なのに、自分からその目に合わせに行ってしまった。


けれど、たとえ判断力が落ちたとしても。

もし、私が結界に穴を空けようなどと微塵も思っていなかったなら、そんなことは決してしなかったはずなのだ。


…あの赤紫の髪の少女と、リュカード様、そしてシリウス様が一緒に作った結界。

ずっと陰ながら慕っていたリュカード様は、私の存在にさえ、きっと気付いていないというのに。あの少女だけ特別扱いだ。

あんな結界、穴でも空いて壊れてしまえばいいのに。

結界が壊れてしまえば、またきっと救護所でリュカード様と会えるのに。


心のどこかでそう思っていたのを、心に黒い感情が宿ったのを、きっと見透かされ、利用された。

神官になる時、心に光を宿せと、闇が忍び寄る時が最も危ういと、あれほど繰り返し教わったというのに。

シャノンは自分の浅はかさを呪った。

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