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結界の穴

ディーク王国の結界の維持は、主にシリウスが行っている。


結界を形成するには膨大な魔力を必要とするが、その維持にはそれほど労力はかからない。

そのため、シリウスほど優秀な魔術師となれば、1人でも難なく維持することができる。


結界に異常があれば、シリウスの知るところとなる。魔物が結界外から攻撃を仕掛けたような場合だ。

結界外からの攻撃はままあることだが、それに対する結界の防御力は強い。


しかし、ある時にシリウスが気付いた異常は、それらとは種類を異にするものだった。


(結界に穴が空いた跡が、いや、人為的に穴が空けられた跡がある。

信じたくないが、これは…)


シリウスは俯き、唇を噛んだ。


***

王宮の中央にある、神官の集う神殿。

今日は神殿長のシリウスから神官たちに緊急の招集がかかり、集まった神官たちに不安と動揺が広がっていた。


緊張の色を隠せない神官たちに、シリウスは口を開いた。


「皆さんに今日集まってもらったのは、ある報告をするためです。


…このディーク王国の結界に、穴が空けられた形跡が見つかりました」


シリウスの言葉に、神官の間でどよめきが起こる。


「その結界の穴は人為的に内側から空けられ、すぐに閉じられたと思われます。


魔物が結界内に入り込んでいる可能性があるので、十分に注意するように。

ディーク王国内にも、魔物の入り込んだ可能性については、既に知らせるよう手配済みです。


そして、結界の内側から穴を空けた者は、そこに残った魔力の残骸から察するに、この国の神官である可能性があります。」


悲鳴にも似たざわめきが神官たちに広がる。



シリウスの言葉を聞いていた神官の中に、顔面蒼白で身体を震わせた少女がいた。


(ああ、私は、何ということを)


膝から崩れ落ちないように、その少女は自分の体を自らの両腕で抱きしめるのが精一杯だった。



***

私の名はシャノン。

魔術に、特に回復魔法に高い才能が認められて、晴れて神官として働くことになった。


魔物がディーク王国の街を襲うようになってからというもの、怪我人の手当てに注力していた。いくら回復させても新たな怪我人が増える状況に、私を含めた神官たちは疲弊していたけれど、救護所で働く私には、密かな楽しみがあった。


…それは、時々救護所に訪れるリュカード様を、陰から眺めること。


すらりとした長身で、闇夜のような濃青の髪に、菫色の吸い込まれるような瞳。

女性に対して常に冷たい表情を変えず、氷の貴公子とも呼ばれる美しいそのお姿は、一目見てから忘れることができず、救護所にいらっしゃる度に、こっそりと目で追っていた。

リュカード様がいらっしゃる日は、回復魔法にも力が入った。


…もちろん、私もほかの女性と同様に、リュカード様の視界にすら入れない。でも、それでも、その姿を見られるだけで、幸せだった。


そんなある日、リュカード様が1人の赤紫の髪の少女を伴って救護所に現れた。

白い仔犬を抱いたその美しい少女に、リュカード様は微笑みを向けている。


今まで、リュカード様は、いとこのエリザ様以外の女性と話すことはなかった。

…なぜ、彼女にだけ。

その少女に対して、心にすっと冷たいものが下りた。


その翌日、神殿には一部の者を除き立ち入らないようにとのお達しが出ていた。

私は、神殿に部外者が立ち入らないよう、見張りをする役割をしており、神殿の上階から周囲を見張っていた。


そして、私はたまたま結界を張る作業を目撃することになる。

あの少女は、リュカード様、シリウス様と結界を形成する間中手を繋ぎ、最後は倒れて、心配そうなリュカード様に抱きかかえられて行った。


…唖然とした。

私はリュカード様に目すら合わせてもらえないのに、彼女は…。


結界が張られ、怪我人が減ったのは喜ばしいことだけれど、彼女がその完成を手伝った結界に、心からは喜べないでいる自分がいた。

そして、救護所へ行くことも減り、リュカード様を見掛ける機会はめっきり減ってしまった。


その少女を見かけたとき、私は羨望と嫉妬の入り混じった目で彼女を見ていたのかもしれない。


…そんな私の様子を見ていた人物がいたことに、気付きもせずに。

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