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出会い

「きゃあああっ!」


爆風と共に目の前に落ちて来た馬車に、仔犬を庇うようにして身を竦める。


意外にも、大破するかと思われた馬車はそれほど壊れていない。

よく見ると、馬車全体が薄い光に包まれている。


「これは、もしかしたら、魔法…?」


これだけの馬車ごと守るためにかける魔法なんて、相当の力がある魔術師でなければ難しいはずだ。そして、魔力の消耗もかなり激しいに違いない。


馬車に駆け寄ろうとした途端、上から耳をつん裂くような、嫌な音がした。


「シャアアーッ」


私も図鑑でしかまだ見たことのなかった、第一級魔物の氷の大蛇が、それも2匹。馬車に向かって宙を舞い、襲いかかってくる。

馬車から大蛇に放たれたのは、これも最上級の魔法である氷の刃の雨。私の学んだ限り、一握りの優れた魔術師しか使うことはできない。


けれど、不運にも、相手は氷の大蛇。同じ氷の系列の攻撃では、効力は弱くなる。致命傷は与えていないようだ。


所々、皮膚を貫いた刃に激昂した大蛇は、牙の覗く口を大きく開いて、再度馬車に襲い掛かろうとした、ように見えた、その時。


なぜか、ぴたりと馬車を襲う動きを止めて、2匹とも大蛇が首をこちらに向けた。

大蛇たちと目が合う。


…気付かれた。

足がすくんで、まったく動けない。


目を逸らすこともできずに睨み合う格好になり、ああ、死ぬのかなとぼんやりと考えたとき、不思議なことが起こった。

なぜか氷の大蛇たちが戦意を失ったように、2匹で目を見交わした後、慌てて姿を消したのだ。

それは勝利を目前にした魔物にしては、不自然な光景だった。


「助かった…」

私は仔犬を抱きかかえたまま、へなへなとその場に座り込んだ。


とその時、馬車から

「リュカード様、リュカード様、どうか目を開けてください…!」

と悲鳴に近い声が聞こえてきた。


我に返った私は、震える足で立ち上がり、馬車へと向かう。


人の命がかかった緊急事態なのだ、とやかく言ってはいられない。

馬車の扉をガチャリと開いた。


「あの、私!回復薬を持っていますので、よかったら使ってください…!」


まだ震えが止まらない手で、足下に仔犬を下ろし、鞄からアルスの作ってくれた回復薬を取り出す。


私が不審な者かどうかに構っている余裕もないのだろう、従者らしき人が慌てて倒れた主人と思われる青年の前を開けてくれた。


(どうか、この人が目を開けてくれますように)


青白い頬に左手を添えて、少し口を開けさせ、薄桃色に輝く回復薬を流し込む。

喉がこくりと飲み込む動きをしたのを見て、側にいた従者も、私もほっと胸を撫で下ろした。


長い睫毛で彩られた目が、ピクピクと動き出す。


…よく見ると、目の前の青年は信じられないくらいに美しい顔立ちをしていた。透き通るように白い肌に、形のよい輪郭。黒よりももっと闇に溶け込むような濃い青色の髪が、少し乱れて額にかかっている。

まるで神話から抜け出して来たようだ。


ゆっくりと開いた瞳の色は、澄んだ美しい菫色だった。


「リュカード様、よかった。本当に、よかった…!」


涙を流す従者と目が合い、笑い合う。

彼も品のある綺麗な顔立ちをした、実直そうな若者だった。

年も、私と同じくらいだろうか。


安心したのも束の間、あまりに美しい顔が目の前にあり、そして目が合ってしまったことに、たじろいでどぎまぎしてしまう。


少しずつ回復薬を飲ませているので、私の左手も彼の頬に添えたままだ。


はっと手を離そうとすると、なぜか彼の右手が伸びて来て、そっと、私の左手を包んだのだった。

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