味方
グレンの視線に、私も真っ直ぐに見つめ返す。
グレンは私に優しく微笑んだ。私がカーグ家にいた時と同じ、あの笑顔で。
「…結界には、恐らく、いえ、まず間違いなく、アリシアお嬢様も関わっていらっしゃるのでしょうね。
アリシアお嬢様が魔術試験で魔術を使えなかったと聞いて、私は何かの間違いだと思いました。
…アリシアお嬢様の魔力は、類を見ないほどに強い。そして、私を先程助けてくださったように、触れれば魔力を分け与えることができる。このような方には、私もアリシアお嬢様以外、お会いしたことはございません。
アストリア王国でも、アリシアお嬢様の力のことを何らか掴んでいるのでしょう。お嬢様を国外追放してから気付くとは、遅きに失した感はありますけれどね。
お嬢様は、その能力が知られた場合、味方にいれば心強いですが、敵方につけば脅威です。
お嬢様を取り返すか、あるいはその命を狙うか。アストリア王国は、そのいずれかを狙ってくる可能性があります。
…今回、私が送り込まれたように。
…ですから、お嬢様、その身に危険があり得ること、どうぞお心に留めて置いてくださいませ」
グレンの真剣な表情に、頷いた。
しばらく、その場に沈黙が落ちる。
リュカード様が、私を見て口を開いた。
「アリシア。…このグレンという男は、信頼に足る男か?」
私は迷わず頷いた。
「はい。…私は、グレンが密偵のような任務で、この国に来ていたとは知りませんでしたが、彼とは長い付き合いですし、彼の人柄はよくわかっているつもりです。
…彼は、私のいたカーグ家の中でも、最も信頼していたうちの1人です。それに、私のために今回ディーク王国に潜入してくれたのも事実でしょう。私は、彼の言葉も、彼自身も信じています」
私の言葉を聞いたグレンが、静かに口を開く。
「…お嬢様、私を庇うと、お嬢様の立場が悪くなりかねません。それでもよろしいのですか?」
私は、幼い頃から幾度となく見てきた、グレンの美しい赤い瞳を見つめてにこりと笑った。
「ええ、もちろん。
私は昔からあなたを信頼しているし、あなたがいてくれたら私も心強いわ。
私は、もしこれから両国が争ったとして、このディーク王国側につくわ。
それでも、私の味方になってくれる?」
「ええ、もちろんです」
グレンは躊躇いなく頷く。
リュカード様は言った。
「アリシアがそう言うのならば、わかった。彼をディーク王国の客人として迎えよう。
ルーク、それでいいか?」
ルークも同意を示して頷く。
「ああ。
アリシアちゃんもそう言っているし、彼の言葉は、さっきの話を聞く限り信用できると思う。
この騎士団の一角に、来客用の部屋がある。そこを用意させよう。
…彼を捕らえた騎士や、さっきこの部屋にいた騎士たちには、俺から軽く説明しておくよ。
アリシアちゃんが彼の魔法を魔具の銃弾で無効化したせいで、騎士団員たちも、彼が自爆魔法を使おうとしたことすら気付いていないだろう。敵じゃないと信じてもらうことは難しくないはずだ」
他の面々も、顔を見合わせて頷いた。
私はグレンに手を差し出し、微笑んだ。
「改めて、これからもよろしくね、グレン」
「はい、アリシアお嬢様。…お嬢様のことを、この命に代えてもお守りいたします」
グレンはそう言うと、私が辛いときにいつも励ましてくれたように、優しく包み込むような笑顔を見せてくれたのだった。
読んでくださってありがとうございます!
いつもみなさまの評価やブックマークを励みにしています。
応援していただけると、とても嬉しいです。




