ペンダント
私の視線を捉えたのは、ガラスケースの中ほどに並べられたアイオライトのペンダントだった。
(…とっても素敵…!)
菫青色の、親指の先ほどの大きさのアイオライトが、葉や花を模した繊細な金細工に彩られて、優しく輝いている。
それは美しくきらめいて、ほかにも数ある素晴らしい宝石の中でも、まるで私を呼んでいるようだった。
ほうっと見惚れていると、リュカード様が店主に声をかけてくれ、ケースから取り出してくれた。
掌に乗せると、ふわりと温かいような感覚がある。
リュカード様がそんな私の様子に声を掛けてくれた。
「このペンダントが気に入ったのかい?」
私が頷くと、店主が細い金の鎖を首に掛けてくれた。
改めて鏡を見ても、とてもしっくりする。
そして。
「…リュカード様の瞳と、同じ色ですね」
リュカード様は、珍しく照れたような笑みを浮かべた。
「…そうか。では、このペンダントにするか?
それほど高価な宝石ではないが、いいのかい」
私は笑顔で頷く。
「アイオライトは、昔、船乗りが太陽の場所を確認するための指針にしたとも言われます。
…家から棄てられて、進む方向がわからなくなっていた私に、方向を指し示してくれたリュカード様みたいな宝石ですね。
とても、気に入りました」
リュカード様は一瞬目を伏せてから、店主に、これを、と伝えてくれた。
美しく包装された箱を持って、リュカード様と店を後にした。
「リュカード様、素敵なペンダントを買ってくださって、本当にありがとうございます。
大切にします…!」
リュカード様は、はしゃぐ私に微笑んでくれた。
「もう一箇所、付き合ってもらっても?」
もちろんですと私が頷くと、少し急ごうかと私の右手を取った。
「…!」
リュカード様の手は、大きくて、滑らかで、そして少し冷たかった。
緩い坂道を、一緒に上っていく。
恥ずかしくて、そして初めて繋いだ手が嬉しくて、意識がすべて右手に集中してしまう。
「…間に合った。この景色を、君に見せたかったんだ」
それは、街全体を見下ろす高台で、遠くには、私達が会った崖の上まで見渡せた。
そこに、赤く輝く美しい夕陽が沈んでいく。
「…わあ、すごい。…綺麗ですね」
ぐるりと一面を見渡す。家々の屋根が夕陽に輝き、一帯が夕陽の色に染まる様は、美しくて、どこか幻想的だった。
ふとリュカード様を見ると、なぜか夕陽や景色ではなく私の方を見ている。
思わず、恥ずかしくなって俯いた。
「…さっきのペンダント、アリシアの首に掛けさせてもらっても?」
こくりと頷くと、リュカード様は包みを解いてアイオライトのペンダントを取り出し、そっと私の首に掛けてくれた。
アイオライトがきらめいたように見えた。
私はそっとアイオライトを掌に包む。
「…嬉しい。いつも身につけていますね。
お守りにします」
リュカード様と顔を見合わせて微笑み合う。
この平和な時間が続くと、この時の私は信じて疑っていなかった。




