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宝石店

リュカード様と並んで歩く。


2人で外を出歩くのは、考えてみたら初めてだ。

これほど美しく整った顔が間近にあるのはまだ慣れなくて、心臓がうるさいけれど、澄んだ菫色の目が私を見て、微笑んでくれるのはとても嬉しい。



リュカード様が連れて行ってくれたのは、歴史を感じる店構えの、こぢんまりした店だった。


扉を開くと、柔らかい光で照らされた店内から、上品な白髪の紳士が微笑んで出迎えてくれた。


「お待ちしておりました、リュカード様」


店内に足を踏み入れて、驚く。


(うわあ、綺麗…)


まったく予想をしていなかったけれど、そこは、ディーク王国でも老舗の宝石店だった。

色とりどりのジュエリーが、アンティークのガラスケースに、少しずつ距離を取って並べられている。

どの宝石も、年代物であろうシャンデリアの控えめな光に、幸せそうに輝いている。


昔聞いた、叔母の言葉を思い出す。


「…ねえ、アリシア。

宝石にも個性があるわ。そして、宝石も、持ち主を選ぶのよ」


母方の叔母のリディアは、アストリア王国で宝石商をしていた。

客に合う宝石を選び、魔術を込めて、指輪やネックレス、ブローチといったジュエリーに加工するのだ。

きらきらと輝く宝石に囲まれて、叔母の作業を見るのが大好きで、よく叔母の仕事場にお邪魔していたことを思い出す。


…けれども。


「あのう、リュカード様、ここは…?」


「ああ、古くからうちの家とも付き合いの深い宝石店だよ」


「いえ、それは、わかるのですが。

なぜ、私をここに連れて来てくださったのですか…?」


リュカード様は、私を少しいたずらっぽい視線で見つめる。


「もちろん、アリシアに宝石を選ぶためだ。

…俺が選ぼうかとも思ったが、せっかくならアリシアが気に入ったものを選んでほしいと思ってね。


この前のお礼も、お詫びも、何もできていなかったし」


結界のことを言っているのだろう。


「…!

それはたまたま私を役立てていただけただけで、リュカード様に宝石をいただけるほどのことは、何も…」


それに、値札が付いていないのでわからないけれど、どれも、一点ものの宝石の質といい、纏っている雰囲気といい、多分、相当いいお値段がするはずだ。


「…アリシアは、俺からの贈り物を身に着けるのは、嫌かい?」


全力で首を横に振る。

「いえ!そんなことはまったく…」


リュカード様はそんな私を見て、ふっと笑った。


「じゃあ、問題ないな」


微笑ましそうに私たちを見守っていた老紳士が、にこりとして声を掛けてくれる。


「では、よろしければ、奥の部屋で、お掛けになってお待ちください」


私は店内を見回し、おずおずとその老紳士に返事をした。


「あのう。差し支えなければ、このまま店内を見せていただいてもいいでしょうか?


…とても素敵なお店ですね」


きっと、店の奥は上顧客用のスペースなのだろう。

何か上質な宝石を見繕ってくれるのだろうとわかったけれど、店内は広過ぎず、居心地がいいくらいの程よい空間で、すぐに回れる奥行きだったので、できればこのまま見てみたかった。


老紳士が柔らかく微笑む。


「そう言っていただけると、わたくしも嬉しいです。どうぞ、ごゆっくりご覧ください」


リュカード様がその老紳士に目で頷くと、老紳士は一礼して少し下がり、私が見やすいように通路を開けてくれた。


リュカード様は、私の方を向いて、優しく目を細めている。


「アリシア、君には、たとえこの店の宝石を全部買ったとしても、返し切れない恩がある。

気に入ったものがあれば、どれでも構わないから選んでくれ」


私は慌てた。

「いえ、そんな、とんでもない…」


「…往生際が悪いな。

俺が、君が気に入ったものを身につけて欲しいんだ。俺の頼みを聞いてくれるか?」


リュカード様は楽しそうだ。


私はありがたく、お言葉に甘えることにした。


「はい。…リュカード様にいただけるなんて、嬉しいです。ありがとうございます」


店内の宝石は、大きなものから小さなものまで、また意匠を凝らしたデザインからシンプルなものまで様々だったけれど、どれも洗練されており、輝きも素晴らしくて、思わず溜息が漏れる。


(…ん?)


そのとき、1つの宝石が私の目に飛び込んで来た。

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