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白い仔犬

「うう、寒いわ…」


私はぶるりと震えた。辺りを見回すと、まだ所々に残雪が残っている。


急な山の斜面を下り、谷底付近で馬車を下ろされたらしい。


これは、追放どころか、生きていちゃいけないってことかしら…?

さすがに乾いた笑いが漏れる。


でも。

アルスやハンナたちの気持ちをもらったのだ、私が簡単に生きることをあきらめてはいけない。


持って来た中で一番厚手のストールで身体を覆い、力の抜けかけた足に、もう一度力を込める。

じゃりじゃりと足場の悪い道を進んでいく。


「おや…?」


残雪の一部だと思っていた白い塊が、私の足音に反応したのかぴくりと動いた。

その塊の、金色に澄んだ瞳と、目が合った。


「怪我をしているの…?」


怖がらせないようにそっと近づいて、しゃがみ込んだ。どうやら仔犬のようだ。

母犬とはぐれてしまったのだろうか。


「あなたに危害を加えるつもりはないから、安心してね?」


そうっと、両前足の間に手を入れて、抱き上げる。

昔から、子供と動物にはなぜかやたらと懐かれるのだけれど、どうやら今回も大丈夫そうだ。仔犬は吠えもせず、大人しくしている。


「怪我はないみたいね」


どこにも血は出ていないし、骨が折れている様子もない。

もし怪我をしていたら回復薬を使おうと思ったけれど、違うみたいだ。


でも、触ったときに「空っぽ」なような感覚があった。


仔犬は、じっとつぶらな金色の瞳で私を見つめている。


その時、私のお腹は空腹を思い出したようにぐう、と鳴った。


「ふふ、やだ、お腹空いてたの忘れてたわ。もしかしたら、あなたも空腹なのかしら?

私、お弁当を持ってるの。よかったら、一緒に食べない?」


仔犬を膝の上に下ろすと、ハンナが手渡してくれたお弁当の包みを開けた。

お弁当の中には、私の好物がぎっしりと詰まっていた。

ハンナの好意に、胸がじんわりとなる。


仔犬も弁当箱の中をじっと見ている。


「好きなものを食べていいのよ?」


なおも慎重に弁当箱を見つめる仔犬に、犬が好みそうなものを手に乗せて差し出すと、今度はぱくりと食べてくれた。


…とっても可愛い…!


こんな場所でも、一緒にご飯を食べる仲間がいるというのは嬉しい。

仔犬の食欲につられて、私も美味しくお弁当をいただくことができた。


さて。

お腹もいっぱいになったところで、空の弁当箱を鞄にしまい、立ち上がってスカートの裾をはたく。


仔犬の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。


「これで元気になったかしら?ここで待っていたら、いつかお母さんに会えるかしら」


仔犬は首を振ったように見えた。そして、歩き出した私の後をちょこちょこと着いて来る。


「じゃあ、一緒に行きましょうか?」


笑いかけてしゃがむと、今度は尻尾を振って腕の中に飛び込んできた。えさをあげたせいか、すっかり懐かれてしまったらしい。可愛い。


仔犬を抱き上げると、私の胸も仔犬の熱でほんのり温かくなった。


目指すは、反対側の崖の上。

崖下は水溜りのようなものが点々とあるだけで川は流れておらず、反対側にはすぐに辿り着けた。

険しいけれど、一応道らしきものもあって安堵の溜息をつく。


***

仔犬を抱いたまま山道を登り始めて間もなく、崖の上の方で轟音が響いた。


目の前に、細かい砂から大きな岩まで容赦なく降ってくる。


そして、道に現れた大きな影に慌てて飛び退くと、激しい音を立てて、斜面を削るように、立派な一台の馬車が転がり落ちて来たのだった。

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