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ニケの店

誤字報告とご指摘をありがとうございます、修正しております。

階段の上までたどり着き、扉を開く。


扉の外側では、ヴェントゥスがお座りの姿勢で私を待っていた。


いじらしいヴェントゥスを抱き上げて、その背中を撫でる。


「ずっと待たせちゃったのかしら、ごめんね。…あら」


「アリシア!!」


青い顔で、ルーク様にリュカード様、そしてザイオンがこちらに息を切らして走ってくる。


リュカード様は私を見ると、私の存在を確認するように、ヴェントゥスごと一瞬私を抱き締めた。

私は目を白黒させる。


「すみません、大分長いこと、お待たせしてしまったのでしょうか?」


「いや、」


ルーク様が、ほっとしたように口を開く。


「さっき君の姿がいきなり見えなくなって、慌ててリュカード様とザイオンを呼んで戻ってきたところだ。

…目の前で君の姿が見えなくなって、肝を冷やしたよ。怪我とかしてない、大丈夫?」


私は頷く。


「この地下に繋がる扉を開けたようで、扉の先にあった武器職人の工房に行っていました。

…そこで、魔具を作っていただいて」


3人とも、私を見て怪訝そうな顔をしている。


「…武器職人の工房?…そんなものは、騎士団の地下にはないよ…?」


ルーク様が首を傾げる。


「ほら、この扉から、工房に繋がっていたんですよ」


戻ってきたはずの場所を振り返ると、

…そこには扉の姿はなく、廊下の壁が続いているだけだった。


「えっ…」


目の前の壁を見つめて、呆然とする。

狐につままれたような、とは、このことだろう。

白昼夢でも、見ていたのだろうか。


確かに、エドガーさんが魔具を作っているのを待っていた時、少なくとも数時間は掛かっていたはずだ。

それならば、リュカード様たちが、私を探してすぐに戻って来たとしたら辻褄が合わない。


けれど。

…私の手の中には、間違いなく、エドガーさんが私に手渡してくれた、あの魔具があった。


「…?」


訳が分からないという顔で、持った魔具を見つめる私に、リュカード様が口を開く。


「この騎士団の建物の地下は、昔、隣の王宮から繋がっていた地下迷宮の一部を利用しているんだ」


「地下迷宮?」


私が聞き返すと、リュカード様は頷いた。


「ああ。


王宮が敵に襲われた時に逃げ出すための隠し通路が、地下迷宮と呼ばれて、王宮の周囲の地下に張り巡らされていた。

隠し通路といっても、そこは広く、部屋もあって、牢屋や、店なんかも昔はあったそうだ。今は、大半が使われていないがな。


地下迷宮の一部に、時空が歪んでいる箇所があると言い伝えられていたが、迷信だと思っていた。

…まさか、本当に存在していたとは」


私の手の中にある魔具をみて、呟いている。


(そういえば、エドガーさんは、隣国に襲われて奥さんが人質になったと言っていたけれど、そんな話、最近では聞いたことがない)


そして、彼の言葉を思い出し、3人に尋ねる。


「あの、『ニケの店』ってご存知ですか?」


3人は、驚いたように顔を見合わせていた。


***

エリザと一緒に、魔具の名工と呼ばれる人がいるという店に向かっている。


「ニケの店」とは、エリザと行く約束をしていた魔具の店の名前だったらしい。


けれど、その存在は限られた者しか知らず、店の名前を知るのも、ほんの一握りの者だけだという。


エリザが足を止めた。


「着いた、ここだよ」


そこは、いわゆる店ではなく、見た目は普通の家のようだ。

エリザが呼び鈴を押すと、扉の内側から鍵が開いた。

家の中に通される。


エリザが、店の主人に挨拶をした。


「こんにちは、オルガさん。今日伺ったのは…」


エリザが話し終えないうちに、オルガと呼ばれた主人は、じろりと私を見た。

厳格で気難しそうな、職人気質の角張った顔は、驚くほどにエドガーさんとそっくりだ。


「見掛けない顔だな。あんた、この国の者か?」


「いえ、隣国アストリア王国から参りました」


オルガさんは、不機嫌そうに顔を顰める。


「悪いが、帰ってくれ。ディーク王国以外の者に、うちの魔具を売る気はない。

…いくらエリザ様の頼みでもな」


取りつくしまのないオルガさんに背中を入口の方に押されながら、やっとの思いで声を掛ける。


「すみません、あの、今日は魔具を買いに来たのではなくて。

この魔具の『仕上げ』をお願いしたくて、来たのです」


オルガさんの動きがぴたりと止まる。


「…仕上げ、だと?」


「はい。この仕上げを、ニケの店でお願いするようにと聞いています」


私の手から銃のような形の魔具を受け取ると、オルガさんは驚愕の表情を浮かべた。


「…!!これは…!」


ひっくり返して魔具を眺めると、

「ちょっと待ってな」


と言い残し、店の奥へと引っ込んでいった。

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