騎士団
リュカード様とザイオンに、今日は王都にいる騎士団が、剣の練習をするところに案内してもらっている。
私の足元には、いつものようにヴェントゥスがいる。
…ヴェントゥスは、私が意識を失って眠っている間、ずっと私にくっついて、ベッドの中でうずくまっていたらしい。
私が目覚めて、リュカード様と話し終えた後、ベッドの中からのそのそとヴェントゥスが這い出して来て、愛らしい丸い目を輝かせると、私の顔をぺろりと舐めたのだった。
***
騎士団の練習場が見えて来た。
リュカード様によると、魔術は使えないが、大きな魔力持ちというその人は騎士で、剣に魔力を込めるのを得意としているらしい。
練習場の入口で、老練な騎士にリュカード様が話しかけている。今日は私を連れてきたことを伝えているようだ。
騎士はリュカード様に練習場の奥を指し示し、私を振り返ると、皺を深くしてにこりと笑った。
「初めまして、お嬢さん。エリザ様なら、この奥で練習していらっしゃいますよ」
エリザ様…?
魔力を剣に込められるという騎士は、女性なのだろうか。
横から、年若い騎士が私に話し掛けてきた。
「俺がエリザのところに案内するよ。
…へえ、リュカード様がエリザ以外の女性と会話をするのを、初めて見たな」
驚いたように私を見て、なぜか少し顔を赤らめる。
彼の言葉を聞いて、どうしてか心がつきりとした。
…リュカード様が氷の貴公子と呼ばれていて、女性に冷たいことは聞いていたけれど、エリザ様という方とは仲がよろしいのね。
「俺に案内させてよ」
明るい笑顔のその青年は、私の手を取り、さっさと歩き出している。
「ルーク!勝手なことをするな」
リュカード様の冷たい声が横から聞こえ、私とその青年の、繋いだ手が振り解かれる。
「うわ、怖っ。そんな顔をしないでくださいよ、リュカード様。
…挨拶が遅れたけど、僕はこの騎士団に所属するルーク。よろしくね」
人懐こい笑みを浮かべるルークに、頭を下げる。
「私はアリシアと申します。今日は、よろしくお願いします」
「よろしく、アリシアちゃん。あ、今日だけじゃなくて、騎士団を見に来たくなったら、いつでも来ていいからね?喜んで案内してあげるから…ふぐっ!?」
ザイオンが横からルークの口を塞いで、苦笑している。
「ルーク様、いくらこの国の筆頭騎士だからって、そういうのはちょっと遠慮してもらえます?」
「…!筆頭騎士様!」
改めてルークと呼ばれた彼を見る。
蜂蜜色の艶のある髪に鳶色の瞳の彼は、細身で引き締まった体躯をしていた。
筆頭騎士というと、もっとがっちりとした人かと思っていただけに、このような涼しげで綺麗な顔をした人が筆頭騎士とは、少し意外である。
そして、ザイオンの表情とこの対応を見るに、筆頭騎士とはいえ、随分仲がよいようだ。
リュカード様は顔を顰めているが、その雰囲気から、3人の付き合いの長さが見て取れた。
「まあ、そんな堅いこと言わずに。
…エリザは、ちょうど今、騎士に稽古を付けているところだ。案内くらいさせてよ」
練習場の奥に進んで行くと、華奢な赤髪の騎士の後ろ姿が見えた。稽古を付けているようだけれど、稽古を付けられている側の騎士たちの方が、ずっと大柄だ。
しかし、華奢な騎士は俊敏な動きで、大柄な騎士たちの方が、簡単に次々となぎ倒されていく。
…その騎士が振り上げた練習用の剣からは、内側からエネルギーを発するような光が輝いていた。




