君の能力
アリシア視点に戻ります。
「私の能力、ですか…」
私が怪訝な顔をしているのに気付いたリュカード様は、言葉を選ぶように口を開いた。
「ああ。
アリシア、君は魔術は使えないと言っていたが、信じられないほど膨大な魔力を持っている。
そして、その魔力を人に分け与えることができる。それが君の能力だ。
…魔力量が多い者であっても、人に魔力を与える能力など、聞いたことがない。
俺の知る限り、魔力を人に分け与えることができるのは、君だけだよ。
君に初めて会った時、俺は死にかけていた。
…俺が助かったのは、君が飲ませてくれた回復薬のためではなくて、君が触れたところから流れ込んできた君の魔力のお陰だ。
あの場所にいたのが君以外の誰かだったなら、俺は今ここにいなかった。
君は間違いなく、俺の命の恩人だ。
…それなのに、俺は君を騙すようなことをした。
結界を張る際、連結環だなんて言ったが、あれは君に触れてもらい、君の魔力を利用するためだ。
…結果、君を命の危険に晒してしまった。
ディーク王国にとって、魔物を防ぐための結界を張ることは、この国の民を守り、すり減っていく国力を食い止めるための悲願だった。
そこで、俺は君の魔力を利用したんだ。
…ちょうど、魔物が街を襲い始めたとき、アストリア王国がディーク王国を狙っているとの情報が入っていた。
だから、アストリア王国から来たという君を、完全に信用する訳にもいかなかった。
…疑って、すまない。
そして、俺の命の恩人である君を利用し、その命を危険に晒してしまったこと、…謝っても許してもらえるとは思わないが、本当にすまなかった」
頭を下げるリュカード様の顔には、呵責の念が浮かんでいる。
…アストリア王国がディーク王国を狙っているなどという話は初めて聞いて驚いたけれど、そんな事情があれば、そしてあのような出会い方をすれば、私を疑って当然だ。
この国を守る立場にある筆頭魔術師のリュカード様なら、むしろ疑ってかかるべきだろう。
…それよりも。
思わず涙が溢れる。
「…よかった」
…心から、そう思った。
魔術が使えないとわかり実家を追い出され、辺境に放り出されたとき、お前は用無しだ、存在価値はない、生きていられては迷惑だ。
…そう、言われた気がした。
もちろん、アルスやハンナの言葉には支えられ、ディーク王国との国境に棄てられても諦めずにいられたけれど、自分の中で、大きく何かが崩れた気がした。
魔術が使えない私でも、役に立てることを見つけたい。そう思った矢先に、ディーク王国の結界などという貴重なものに関わり、こんな私を役立てることができたなんて。
むしろ、自分を必要としてくれたことが、すごく嬉しかった。
「…えっ?」
驚いたように私を見るリュカード様に、私の気持ちを伝えると、お人好しだな、と呆れたように呟かれた。
「…なら、俺は君を利用してもいいか?
君は、俺にとって必要な存在だ。
このまま、ここにいてくれないか」
私の、魔力を人に分けられる能力が、この国に役立てられるのかしら。
それなら、街で仕事を探さなくても、ここで甘えてもいいのかしら。
…自分の存在が迷惑にならないとわかって、ようやく安心する。
私は笑って、お願いしますと頷いた。
すると、リュカード様は、初めて会った時と同じ、輝くような笑顔になり、私は思わず呆けて、見惚れてしまったのだった。
***
「君と同じように、魔術は使えないが、魔力は非常に高いという人物が、ディーク王国に1人だけいる。
君と違って、魔力を人に分けることはできないが、魔術を使う代わりに、物に込めることに長けているんだ。
…君の能力を伝えるまでは話す訳にもいかなかったが、君にも参考になることがあるかもしれない。近いうちに紹介しよう」
リュカード様の言葉に驚く。
…自分と同じような境遇の人がいて、魔術が使えない代わりに、物に込められるなんて。
「ぜひ、紹介してください」
前のめりになる私に笑いかけるリュカード様との距離は、心なしか縮まった気がする。
同じような境遇の人に会えることが、とても楽しみだった。




