リュカードの回想 7
何かが、頬に触れたのがわかった。
そして、ふわりと温かい力が流れ込んでくる。アリシアの手に重ねていた自分の手にも、溢れるような力が満ちて来た。
…ああ、この感覚は。
まさかと思いつつ目を開けると、気恥ずかしげに微笑むアリシアと目が合った。
思わず、夢ではないことを確かめたくて抱き締めてしまった。
抱き締めて触れた全体から、アリシアの泉のような魔力が、また湧き出ているのを感じた。
ああ、戻ってきてくれた。そう思った。
明るい日差しに照らされる君は、とても美しかった。
…そして、どこかとんちんかんだった。
自分の身体よりも結界の心配をして。
そして、長くこの屋敷に留まったことを申し訳なさそうに、街で仕事を探したいと話す君。
俺が覚悟を決めて、君を利用したことを話しても、利用してくれて嬉しいなどと笑っている。
君は、君の力でどれほどのことをしたのか、わかっていない。
君以外の誰にもなし得ないことをして、代わりに、君自身を危険に晒したんだ。
アリシアの能力、魔術は使えなくても膨大な魔力があり、それを人に分け与えられること、それをアリシア自身には伏せてディーク王国の結界を張るために利用したこと、そして、そのせいで命の危険があったことを、打ち明ける。
君は、それを聞いてはらはらと涙をこぼした。
…ショックを受けて、当然だ。
けれど、君の口から出て来たのは、予想外の言葉だった。
「…よかった」
思わず、聞き間違いかと聞き返すと、君は言った。
「私でも、役に立てることがあったなんて…!
私はいったい何の役に立つことができるのだろうと、ちょうど考えていたんです。
この国の結界を張るために、力になれただなんて、本当に嬉しい…!
リュカード様、ありがとうございます」
涙の跡を残しつつ、満面の笑顔を浮かべる君は、とても愛おしくて。
もう、ひとかけらも君を疑う余地はないし、君という人がどれほど素直で、優しくて、そしてどれほど人を疑うことを知らないのかも、よくわかった。
…君は、君を利用していいと言っていたね。
それなら、俺は君を利用させてもらうよ?
これは、まだ言葉には出せないけれど。
…ずっと、俺の側にいてほしい。俺の側で、笑っていてほしい。
そして、素直過ぎて危なっかしい君を、俺に守らせてくれ。
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