リュカードの回想 5
神殿にいるシリウスの元を訪ねる。
俺がアストリア王国との境界沿いに結界を張りに行ったことを知る、数少ない1人であるシリウスは、俺の訪問を待っていたらしい。
結界を張るのに失敗したこと、氷の大蛇に襲われて命を落としかけたこと、アリシアとヴェントゥスに救われた経緯を、かいつまんで話す。
シリウスは、興味深そうに俺の話を聞いていた。特に、アリシアとヴェントゥスの話には目を輝かせている。
シリウスは思案顔でゆっくりと口を開いた。
「…リュカード様たちがお帰りになってから、ぴたりと魔物の襲撃が止んでいます。
今のお話を伺う前には、結界を張るのに成功したのかとも思いましたが、それらしき結界の存在を感じずに、不思議に思っていたところでした。
伺った限り、リュカード様の推理はかなり的を射ていると思います。
…ただ、今の状況では、推測でしかないのも、また事実。
アストリア王国の動きを考えると、安易に信頼するのも危険です。
…伺ったお話を前提にして、アリシア様たちが信頼に足るかを測る方法、1つ考えがございますが」
「ほう、それは何だ?」
シリウスの瞳が光る。
「…ディーク王国の利となり、アストリア王国には逆に不利となることに、アリシア様たちの協力を依頼するのです。
…そう、例えば、ディーク王国全体にわたる結界の形成です。
アリシア様の魔力がいかほどかによりますが、ディーク王国としては王国全体への結界は悲願ですから、これを可能にする魔力者は、喉から手が出る程に欲しい逸材です。
…今は、魔物への対応で、ディーク王国の国力を削るばかりですから。
そして、これが成功すれば、アストリア王国は、…入っている情報の通り、今まで中立を保っていた我が国を狙っているのならば、付け入る隙を失い、歯噛みして悔しがることでしょう。
失敗したとしても、失うものは、結界を張るために要する我々の魔力くらい。
アリシア様からいただいた魔力で賄える程度でしょうから、失うものはないはずです。
…アリシア様たちの素性がどうであれ。魔物が出なくなっている今の状況、そして、アリシア様たちの力を、ディーク王国に可能な限り活かしたいというのが本心です」
俺は顔を顰める。
「シリウスの考えはもっともだ。だが…。
シリウスも知ってのとおり、国全体への結界は、膨大な魔力を必要とする。お前や俺と同様の魔力を備えた者が、両手で数えるのでは足りないほどにな。
…アリシアの魔力が途中で尽きた場合、彼女に危険がある」
「彼女は、自分に魔力があることすら、知らないということでしたね。
…危険な兆候があれば、すぐに我々から離れるように、事前によく言い聞かせておけばよいのではないでしょうか」
俺はしばらく考え込んだ。
「シリウス、この後、救護所に向かうだろう?
アリシアを、後で、俺とザイオンが救護所に案内することにしている。
ああ、お前に紹介するためだ。
…そこで、お前もアリシアの魔力量を判断してくれ。
ザイオンも、アリシアに触れ、多少は魔力を感じたようだが、その大きさはわからなかったようだ。
魔力量の大きい者が、魔力を消耗した状態が、彼女の力を一番感じられると思う。
シリウスが、救護所で回復魔法を使った後なら、うってつけだろう。
俺は、彼女の力はまるで湧き出る泉のようだと感じた。
…この国全体に、結界を張ることを可能にするくらいに。
お前も、もし同じ意見なら、彼女に協力を依頼しよう」
シリウスをアリシアに紹介し、シリウスに意見を求めると、俺と同意見で、信じられないとひどく興奮していた。
魔力を人に分け与えられるだけでも稀少なのに、その魔力量の底が見えない。
そして、アリシアに結界を張ることへの協力を依頼すると、不思議そうにしつつも、快く了承してくれた。
…アリシアの膨大な魔力を利用して、結界を張る。
アリシアの了承は、その本当の目的を、本人に明かさないまま得られたものだったのだが。




