リュカードの回想 4
最後の質問は、ザイオンからアリシアにしてくれた。
アリシアの家…昨日の馬車では、カーグ家から既に除籍されたと聞いていたが、その家を継ぐ者について。
この質問は、家を追われたばかりの少女、しかも自分の命の恩人に聞くのは、あまりにも酷い質問だ。
ザイオンの言っていた通り、俺だけでは、きっと聞けないままで朝食を終えることになっただろう。
昨日、馬車で、自分には優秀な姉弟がいるから、私が除籍されても家は大丈夫だ、むしろ自分がいたら迷惑だ、という旨の話を、アリシアは言葉少なに語っていたが。
よく聞くと、飛び抜けて優秀な姉弟のようで、順当に評価されれば、伯爵家から侯爵家に格上げになるだろうという。
…他国のことではあるが、同じ伯爵位の中で重用されるというならともかく、侯爵位まで上がるほどというのは、その代が王国でも指折りの魔術の才能ということだろう。
ここで、新たな疑問が浮かぶ。
魔術の能力がなかったとしても、そして、魔術の封印が解かれる魔術試験の日までは、魔力が注目されること自体が、ほとんどないと考えられても。
…アリシアの魔力量は、異常なほどに多い。
魔術の能力は封印できても、魔力自体を封印することはできないはずだ。
いくら目に見える能力ではないといえ、それほどに魔術の才能に優れたアリシアの姉弟が、アリシアの魔力に気づかない、そんなことが、あり得るのだろうか。
断言できる。…絶対に、ない。
とすると、その手に触れるだけで膨大な魔力を人に与えられるほどのアリシアを、なぜ家から追い出したのか。
俺の知る限り、身体の傷は回復魔法や回復薬で治せても、魔力は自然に回復するのを待つほかない。
人の魔力を回復する能力を見たのは、アリシアが初めてだ。
それほどに稀少価値の高い存在を、追い出す理由として、考えられるのは…。
1つ目は、高い魔力が敬遠されて、あえて追い出された可能性。
…昨日、今日と接した限り、アリシアは素直で優しい娘だ。疎んじられる理由は思い浮かばないが、家の中では、他家には窺い知れない事情というのもあるのかもしれない。
2つ目は、逆に、アリシアが利用されないように、あえて家から逃した可能性。
…魔術が使えず、甚大な魔力のみを持っているというのは、無用の長物どころか、非常に危険ですらある。
もし悪用されでもすれば、自分を守ることができない上に、魔力は利用され放題だ。
アストリア王国の家の考え方からして、家のためならばいくらでもその魔力目的で利用される、という恐れも捨てきれない。
推測の域を出ないが、優秀というアリシアの姉弟は、今は彼女を守りきれないと考えて、彼女のため、あえて逃したのではないか。さすがに、まさか彼女が命の危険があるような場所に棄てられるとは思わなかったのだろう。
…そうだとすれば、いつか、彼女を探しに来るだろう。
そして、ヴェントゥスと名付けられた、あの白い仔犬。
涼しい顔で、潜んでいた火喰い鳥を見つけ、倒した。
これは、実際のところ、非常に助かった。この家の者がいつ襲われても、不思議ではなかった。ヴェントゥスも、もはや恩人だ。
…これは、とても、普通の仔犬にできる芸当ではない。
…もし、自分の推測が正しければ。
昨日、氷の大蛇が逃げ去ったのも理解できる。
しかし、それは孤高の、気位が高い生き物で、決して人間には馴れ合わず、まして、少女の膝で、撫でられて目を細めるなど…。
また混乱してきた。
俺も天才と認めている、シリウスに相談することにした。
8/15に、感想にて矛盾点をご指摘いただいて、少し加筆修正しております。ご指摘ありがとうございました!




