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リュカードの回想 2

彼女は、俺が手を重ねたことに驚いたように身体を反らせたが、俺は、身体に満ちてくるこの温かな力を、まだ感じていたかった。


「しばらく、そのままで…」


彼女に触れたままそう言うと、こくりと頷いてくれた。


冷たく、重く動かなくなっていた身体に、巡るように力が戻っていく。


…ああ、これは、魔力だ。

空になっていた身体に、魔力が流れ込み、満たしていく。


意識がはっきりしてくると、目の前にいる存在が女神ではなく、美しい少女なのだと気づく。


はっと自分の右手を離す。

少女は少し恥ずかしそうにしていたが、俺が回復したのを見て、嬉しそうにしていた。

どうやら、回復薬が効いたと思ったようだ。



…今まで、女性は非常に苦手だった。


幼い頃から、こちらの都合も考えずに付き纏われるのが、鬱陶しくてならなかった。

冷たくあしらって傷付いた顔をされるのもやり切れないが、下手に対応すると、余計に事態が悪化する。


次第に、女性を避けるようになった。

近付かれるのも、触れられるのも嫌だった。

にこやかに、その実、何かを期待するような目をしてすり寄ってくる者たちを、見たくもなかった。


…だから、自分でも意外だった。

近くにいて、嫌ではないどころか、もっと触れていたいと思う少女がいるなんて。



しかし、あのような場所に、なぜこのような可憐な少女が、仔犬1匹だけを連れて歩いていたのか。

そして、なぜ、俺たちを襲った氷の大蛇が、急に姿を消したのか。


不自然なことが多過ぎる。


少女のことを問えば、今年16歳になった彼女は、その日に行われた魔術試験で魔術の能力がないとわかり、アストリア王国の実家を追い出されたのだという。


嘘を吐いているようにはまったく見えなかったが、俺は内心、苦々しく思った。


…街に魔物の襲撃が増えたのと時期を同じくして、アストリア王国で不穏な動きがある、という情報が入ってきていたからだ。



しかも、俺も初めて会ったが、死を覚悟した俺にこれだけの魔力を分け与えて、平然としている彼女が、ただ者だとは思えない。

彼女には、湧き出る魔力の泉があるようだ。


少なくとも、ディーク王国にはこれほどの魔力のある者はいないだろう。

…これほどの力のある者を、アストリア王国の貴族の家が追い出すようなことを、するのだろうか。

アストリア王国から、何かの目的で送り込まれた者なのだろうか。


そして、彼女が連れている仔犬。

纏う空気が、単なる動物のそれとは一線を画している。


もしかすると…。

頭に一つの可能性が浮かぶが、あまりに突飛に思えて、それを打ち消す。



いずれにしても、ディーク王国を守る重責にある立場上、彼女と、彼女が連れた仔犬を客として迎える一方で、その動きには注意することにする。


ディーク王国は、王国という名は付されているが、国王を始めとする王族は、精霊信仰が根強いこの国において、精霊が宿る自然を守りつつ人間との共生を掲げる象徴的な存在にすぎない。軍事や外交、政治といった実務面の実権は全て委譲されている。

然り、アストリア王国側で認められた不審な動きへの対応も、ディーク王国の攻守を司る魔術師団と騎士団に一任されていた。


彼女の言うことが真実であってほしいと、自分が自覚している以上に、祈るような気持ちで望んでいたことに、そして、それが何を意味しているかに気づくのは、もう少し先のことになる。


8/22に、いただいた感想を元に一部加筆しております。

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