目覚め
(リュ、リュカード様…!)
こちらに顔を傾けて眠っているので、リュカード様の品のある美しい顔がよく見える。
濃い青色をした髪は、陽の光を受けて、サファイアのような澄んだ青色に輝いている。
白く滑らかな肌には、長い睫毛が影を落としている。
通った鼻筋に、形のよい薄い唇。
(…きれい)
一見、冷たい印象を受けるのは、あまりに顔の造形が恐ろしく整っているためか、またはいつも感情が顔に出ないせいなのか。
時々笑みを見せても、口の端が少し上がる程度のことが多い。
けれど、初めて会い、彼が目を覚まして、心からの笑顔を見せてくれたとき。
あの笑顔を見て、身体が何かに貫かれるような、胸の辺りが苦しいような、初めての感覚があった。
…私が婚約者になるかもしれないと言われていた、アストリア王国の第一皇子も、それは美しい人だったけれど、こういう感覚を感じたことはなかった。
リュカード様に重ねられた左手はそのままに、そっと右手を動かし、リュカード様の頬に触れる。
「…ん」
リュカード様の睫毛が震え、ゆっくりと目が開いた。
宝石のような瞳と、目が合う。
「アリシア…?」
自分の行動を自覚して、顔がじんわりと熱くなる。
「すみません、起こしてしまって…。
…!?」
急に、リュカード様に抱きしめられる。
息が、止まるかと思った。
「アリシア、すまなかった。
こんなことになったのは、俺のせいだ。
…もし君が目を覚まさなかったらと思うと、怖くてたまらなかった」
いったん私の身体を離し、リュカード様は私の目をじっと見つめる。
「…身体は、大丈夫か?」
「はい、大丈夫だと思います」
はっ、と、大切なことに気づく。
「そ、それよりも!結界…!
結界は、無事に張れたのでしょうか?」
リュカード様は穏やかな笑みを見せる。
「ああ。アリシア、君のお陰だ。
今、この国は結界で守られているよ。
よほどのことがない限り、魔物は入り込めないだろう」
記憶が途切れる直前までを思い返して、俯いた。
「もうすぐ結界が完成するという、大事な時に、気を失ってしまって。
…せっかく私に、リュカード様とシリウス様を繋ぐ役目を任せていただいたのに、ご迷惑をお掛けしてしまって、すみませんでした」
リュカード様は、そんなことはない、と否定するように首を振り、また私を抱きしめると、片手で私の髪を撫でた。
…心臓がものすごくうるさい音を立てている。
リュカード様の胸にうずまったままで、尋ねた。
「…あの。私、大分長く寝ていたのでしょうか」
目覚めた時に感じたのは、ああ、よく寝た、という、とても平凡で平和な感覚だったのだけれど。
「ああ、今日で丸5日だ」
「え、5日も、ですか」
がばりとリュカード様の胸から身体を起こす。
「そんなに長い間、お世話になってしまって…!
もう元気になりましたし、ずっとご迷惑をお掛けする訳にもいかないので、街で仕事でも探そうと思っています。
リュカード様、城下町があるとおっしゃっていましたよね?」
リュカード様は一瞬きょとんとした顔をしてから、苦笑した。
「君は、いつまででもここにいていいんだよ。…いや、ここにいて欲しい。
そう君に願う権利は、俺にはないかもしれないが。
俺は、君に何も知らせないまま、結果として君を利用してしまった」
苦しそうな顔を見せるリュカード様に、今度は私が首を傾げる。
「私が利用できるのなら、いくらでも、利用してくださって構いませんよ?
…むしろ、利用してもらえたら嬉しいくらいです。
魔術の能力がないとわかって、家を追われた時は、自分に失望…いえ、絶望していましたから。
少しでもお役に立てることがあるなら、何でも言ってください」
そう言って笑うと、なぜかリュカード様は泣きそうな表情を浮かべる。
「まずは、俺に謝らせてほしい。
謝ったところで、君がすべてを知った上で、許してくれるとも思えないが…。
そして、君が自覚していない、君の力についても、今俺にわかる範囲で君に話そう」




