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ありのままの能力

ザイオンは心配そうに私を見つめている。


「気分でも悪くなった?…怪我人を見て、ショックだったかな」


私は首を振る。


「いえ、そういう訳ではないんです。


…私、昨日魔術試験を受けるまでは、高い魔術の能力があるだろうと期待されていたんです。

自分でも、能力の大きさは別にしても、自分が魔法を使えるということを、疑ってすらいませんでした。


…でも、結局、私にはこれっぽっちも魔術の能力はなかった。


こういう時に、魔物の攻撃を防いだり、傷付いた人々を助けたり。そうして人々の力になるための、自分の能力だと、それが自分の存在意義だと、信じていたのに。


…でも、私には、何もすることができない。

それが、悔しいんです」


昨日の魔術試験を、苦々しく思い出す。

一斉に、試験の会場で受験者の魔術の封印が解かれたとき。

少し念ずるだけでも現れるはずの、炎の影も、雨の滴も、風の小さな渦ですら。

祈るほどに必死に念じても、その片鱗さえ現れなかった。

意志の力を基礎に発動する魔法が、それでも現れないということは、何かやり方を間違えているとか、練習すれば成功の可能性があるとか、そういう問題ではなく、魔術の能力自体がまったくないことを意味していた。


ザイオンは目で部屋の隅を指し示し、ちょいちょいと手招きした。

周囲の人に話が聞こえないところに移動する。


ザイオンは静かに口を開いた。


「アリシア。生まれ持った自分の能力を、卑下しない方がいい。持っているものも、持っていないものも含めて、それが君なんだ。


魔術の能力を持つ者もいれば、持たない者もいる。でも、持たないからといって、持つ者に劣っているということにはならないよ。


ありのままの自分が持っている能力を活かせる道を、探すんだ。

諦めさえしなければ、きっと、道は開けるよ」


「ありのままの自分の、能力…」

そんなものが、私にあるのだろうか。


「まあ、今の言葉は、ほとんど受け売りなんだけどね。


僕は、見ての通り両目の色が違うだろう?この容姿のせいで、幼い頃は随分とひどい言われようをしたよ。気味が悪いとか、悪魔の子とかね。


でも、生まれ持ったものを卑下するな、ありのままの自分を受け入れて、活かせる方法を考えろって、ある人に言われてさ」


穏やかにザイオンが笑う。


「…実は、僕にはほとんど魔法が使えないんだ」


「えっ…」


筆頭魔術師のリュカード様の側近なのだ、優れた魔術師なのだろうと思い込んでいた。


「ただ、僕には人と少し違うものが見える。…見ようと思えば、ほんの少し先の未来が見えるんだ。数分、数十分程度が限度だし、先になるほど、ぼんやりとしか見えないけどね。


ただ、それは1つの決まった未来じゃない。

目の前には、選択肢が無数に存在するだろう?それぞれの選択肢を選んだとした場合の、その先の未来だ。


例えば、昨日、君たちに会う直前。氷の大蛇に襲われたリュカード様と僕の前には、いくつかの選択肢があった。

リュカード様が、その身を犠牲にして結界を張り続ける道、僕がリュカード様を庇う道、氷の大蛇と正面から戦う道に、2人で馬車を捨てて逃げる道。

…でも、そのどの道の先にも、僕だけじゃなく、リュカード様も助からない未来しか見えなかった。


唯一、光が見えたのが、君たちに会った道だ。

…魔物に襲われてバランスを崩した馬車に、浮遊魔法をかけて崖下を目指してくださいなんて、気が狂ったとしか思えないだろう?でも、リュカード様は何も言わずに信じてくださった。


でも、崖下にいたのが、華奢な女性と仔犬だということまでは、見えなかったけどね。さすがに、それがわかっていたら、その道は選ばなかっただろうね」


「それも、そうですね」


2人で顔を見合わせて笑う。

と、不意にザイオンが真剣な表情になった。


「昨日、リュカード様と僕が助かったのは、君たちがあの場所にいてくれたお陰だよ。それは間違いない。


君たちが、氷の大蛇を直接追い払った訳ではないとしても。何らかの偶然だとしても、君たちがあの時、あの場にいてくれたお陰だ。

僕らが助かる未来を作ってくれたのだから」


ザイオンの言葉に、少し胸のもやもやが晴れた気がした。

いろんな偶然の結果だとしても、私でも人の役に立つことができる、そう言ってもらった気がした。

自分にこれからできることも、考えてみよう。


ザイオンを見て微笑む。


「いえ、私こそ励ましてくれて、ありがとう。…それから、」


ザイオンの両の瞳を、じっと覗き込む。


「私は、ザイオンの目、とっても綺麗だと思います」


ザイオンは驚いたような顔をしてから、同い年の少年らしい顔で笑った。


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